【座談会】FEST VAINQUEUR×岡野ハジメ、「不安はなくて、むしろ期待」

ツイート

■日本の音楽は“幕の内弁当”的にいろんなオカズがある
■これは洋楽と決定的に違うと思うんです

──今回の3曲ですが、具体的にはどういうプロデュースを行なったんですか?

岡野:もう曲があったので、それを土台に“こうしてみよう、ああしてみよう”というのと、彼らが持っていないアレンジのアイデア出しとか、上乗せとか。

──なるほど。

岡野:選曲から始めたからね。表題曲って最初から決まってたんだっけ?

KAZI:いえ、候補はあったんですけど、岡野さんに入ってもらってから決めようってなりました。

──「GLORIA」はどのように変わっていったんですか?

GAKU:選曲会の時は1コーラスだけ出来上がっている状態が多くて、イントロとAメロ、Bメロ、サビという本当にオーソドックスでシンプルな状態なんです。“こういうものにしたいんだ”という方向性を伝えるためのデモなんですけど、そこからレコーディングして、やりたい方向はかわらぬまま、さらに“こんなに良くなるか”っていうような完成形になりました。

──岡野さんからどんなアイデアが飛び出してくるか、そんな楽しみもありますね。

岡野:今回は時間も限られていましたし、それまでの付き合いもなかったので、彼らも不安だったと思うんですね。ドラムとギターを録ってからシンセを被せたんですけど、そのシンセの打ち合わせとかは全くしないで俺が勝手にやったんですよ(笑)。

──バンド側からどんな反応が来るかワクワクしながら?

岡野:そうそう。もし根本的にNGって言われたら頭を抱えたと思うんですけど、幸いにも喜んでいただけたので、良かったですね。そのへんは博打で、盛るだけ盛っとこうと。後から引くことはできるので、アイデア満載で全開でやってみたら喜んでいただけた。

KAZI:もうすごいな……の一言ですよ。楽曲が華やかになった。僕たち5人では音色的にまだ弱い部分があったりもするからアレンジも一緒にしていきたいし、バンドとして表現しきれない部分を、僕たちのデモを聴いてイメージを描いてくれたと思うんです。誰ひとりとして反対するメンバーはいなかったです。

岡野:それはホントにラッキーだった。ドキドキしてたのはむしろ俺の方だったと思う(笑)。

KAZI:いえいえいえ(笑)。“うわ、メジャー感が出たー”って感じでしたね、僕たちは。

岡野:「こんなのは俺たちじゃない」って言われるかと思った(笑)。

I'LL:いい意味で俺たちにないものを持ってきてくれたと思います。僕はデモの段階でシンセの打ち込みを入れたりすることもあるんですけど、“自分だったらこうするな”という枠を遥かに超えたものでした。

岡野:よかったー。

I'LL:シンセを入れたデータが岡野さんから届いたのが、東京から大阪に帰る途中だったんですけど、そのデータをみんなで何回も聴きながら帰ったのを覚えてますよ。

KAZI:デモの時点であんなに聴いたの、初めてだったよね。

岡野:俺のメール、弱気じゃなかった?「まだ仮のミックスでイマイチなんですけど」っていう(笑)。自分的には一応自信はあったんですけど……そのへんはセンスだからね。

──“華やか”“メジャー感”というワードが出ましたが、そこが狙ったポイントなんですか?

岡野:そこは無意識なんですけどね。

──メジャー感を創出する具体的な手法を教えて欲しいんですけど、口では説明できませんか?

岡野:いや、できますよ。例えば「スポーツカーで」ってオーダーを受けたときに、「じゃあ、とりあえずフェラーリで」ってふうに僕はやるわけです。「フェラーリだったら怒られないんじゃないの?」と。でも稀に「いや、フェラーリはチャラいかな」「じゃあ何がいいの?」「ルノーかな」っていうような、微妙な個人個人の美意識は違いますよね。王道のフェラーリとか、1億3000万するようなスポーツカーのようなものを「わぉ!」って言ってくれればすんなりと行くと思うんですけど、例えばシンセサイザーの音色にこだわっているメンバーがいて「ストリングスの音色なんですけど……」みたいなことになってくると、「じゃあ自分でやってもらうしかないね」ってところはありますね。自分は自分で好きなシンセサイザーの音があるので、その部分を今回は気に入ってもらったわけです。

──ちゃんとハマったんですね。

岡野:気に入ってもらえるはずだとは思ったので。物理的に可能な最高音色でやってます。逆の立場で言うと、僕自身が過去に誰かがシンセトラックを作ってくれたものを聴いて満足できた試しが一度もないんですよ。“このシンセはなしでしょ”ってね。

──うわ、めんどくせーな(笑)。

岡野:ホントめんどくさい。タチ悪いよね(笑)。今回はね、ゴージャスにするメジャー感というのが打ち合わせのときにあったので、「じゃあ、フェラーリで」という感じで。

──バンド側も、そういうセンスやテクニックをプロデューサから盗みたいですよね。血や肉として。

岡野:盗めると思いますよ、全然。例えば今回のサビの裏メロの作り方とか。シンセのアレンジやギターのダビングをするとき、僕が気遣うのはトップノートなんです。サビに突入するときに何が上で聴こえるか。

──ボイシングのトップの音ですか?

岡野:そう。リードボーカルがあって、どの音がトップノートにいるかっていうのを気にします。

──ちょっとメモします。

岡野:はは(笑)、そのへんが俺のサウンドのアレンジ面での秘密でもあります。秘密っていうか、僕が気にしていること。サビ後でイントロに行くときの開け方とか閉じ方とか。2A(2番Aメロ)は何が来るか、とか。自分でネタばらしすると、たいてい2Aには1Aとは違う、何かの要素を付けたくなるタチなんです。

──音色を変えるということですか?

岡野:いや、違う裏メロとか。ヴィジュアル系と言われている村の様式では、もともとバンドが2Aを変えてくる場合も少なくないので、そういう場合はそれを活かす形で考える。もちろん「それをやらないでほしい」とオーダーする場合もある。同じグルーヴでいきたいから。グルーヴはコロコロ変えないほうがいいんじゃないか、とか。そのような摺り合わせをバンドとしますね。

──なるほど。

岡野:“ギターで表現しよう”“ライヴ中心にお客さんを盛り上げましょう”みたいな場合は、僕がよく使う表現に“幕の内弁当”があります。日本の音楽は“幕の内弁当”的にいろんなオカズ……イントロがあってAがあってBがあってサビがあって2Aがあって……と、全部景色が違うんですね。小さいオカズがいろいろあってそれを楽しむ文化。それをゴージャスだと思う文化が日本人にはあるじゃないですか。これは洋楽と決定的に違うと思うんです。

──ほう。

岡野:洋楽は肉!魚!とひとつで勝負。あったとしてもコースのようなメインの肉に向かってのドラマですよね。肉でピークを迎えてエンディングはデザートで締めるみたいな。でも日本はどこもメインですよ。ただ、小さい。その辺が洋楽と決定的に違うんですよね。で、僕は、昔は幕の内弁当をすごく嫌っていたんです。幕の内弁当的な音楽の作り方は大嫌いだった。でも最近は幕の内弁当もひとつの文化だなと思ってね。海外も逆に幕の内弁当化してるような気がするんですよ。“これ、20年前の日本の音楽っぽいよね”って思うことがある。サビで転調するとかね、落としサビがあったりとか、この10年ぐらい海外でもそれが普通になってきてますよね。それで“日本人の方が先を行ってたんじゃん”って思うようになってきたんです。でもね、彼らにも言ったんですけど「幕の内弁当って、スキルが必要だよ」って。

──わかります。

岡野:それぞれのオカズが楽しめて、全体的に「あーおいしかった」ってなる。それを850円の幕の内弁当にしちゃうと、結局印象に残らないから何を食べたか覚えてない。つまりポップじゃなくなる。そうならないようにするにはスキルが必要です。だから現実的には、幕の内弁当を作るには予算も足りないし、みんなのスキルも少ないからこのパートはやめませんか?みたいな提案をすることはありますよ。

──面白いですね。

◆インタビュー(3)へ
◆インタビュー(1)へ戻る
この記事をツイート

この記事の関連情報