9月27日および28日の2日間、東京Bunkamuraオーチャードホールで、'70~'80年代音楽シーンに新しい風を吹き込んだアルファミュージック/アルファレコードの軌跡を振り返るライブ・イベント<ALFA MUSIC LIVE>が開催された。

◆<ALFA MUSIC LIVE> 画像


このライブは、アルファの創設者であり作曲家の村井邦彦が古希(70歳)を迎えたことで、昨年、松任谷正隆・由実夫妻、そして細野晴臣に記念コンサートの開催を相談。そこから発展的に、かつてのアルファ所属アーティストが一堂に会する一大イベントとなった。ライブ自体は、プレゼンターが出演アーティストを紹介するというスタイルで行われ、いかにも当時、日本のポピュラー音楽水準を国際レベルに引き上げるために奔走し、斬新かつラジカルな音楽を生み続けてきた村井氏らしいエンタテインメント・ショーとして構成されていた。そして、最初のプレゼンテーターは、アルファが最初に作家契約を結んだユーミンこと荒井由実。こうした登場順や、旧姓での出演など、とにかく細部に渡りニクい演出のオンパレードであった。

そのユーミンをはじめ、出演陣は、大野真澄(元GARO)、加橋かつみ、小坂忠、コシミハル、後藤悦治郎(赤い鳥&紙ふうせん)、サーカス、シーナ&ロケッツ、鈴木茂(ティン・パン・アレー)、高橋幸宏(YMO)、浜口茂外也、林立夫(ティン・パン・アレー)、日向大介 with encounter、平山泰代(赤い鳥&紙ふうせん)、ブレッド&バター、細野晴臣(YMO&ティン・パン・アレー)、松任谷正隆(ティン・パン・アレー)、村上"ポンタ"秀一(赤い鳥)、山本達彦(9/28のみ)、雪村いづみ、吉田美奈子と、まさにレジェンドと呼ぶにふさわしい錚々たるメンバー。

さらにプレゼンテーターとして、安藤和津(27日のみ)、桑原茂一(スネークマンショー)、坂本美雨、野宮真貴(ピチカート・ファイヴ)、服部克久、ミッキー・カーチス(28日のみ)、向谷実(カシオペア)が加わるという、超豪華なステージ。しかも、武部聡志、鳥山雄司ら日本を代表するトップ・プレイヤーたちが、完全に黒子に徹しながらハウス・バンドを務めていたことからも、このライブがいかに特別なものだったかが伺い知れるだろう。

当然ながら、各出演者の演奏は、実に素晴らしかった。中でも、ティン・パン・アレーをバックに「蘇州夜曲」と「東京ブギウギ」を歌った雪村いづみのステージは、まさに圧巻のひと言。また、今年のバレンタインデーに天国へ旅立ったシーナをスライドで映し出しながら、「ユー・メイ・ドリーム」と「LEMON TEA」を3ピースの爆音でロックンロールしたSHEENA&THE ROKKETSに、ひときわ大きな拍手と歓声が巻き起こった。

こうした演奏の合間を縫って、村井氏が当時、ユーミンなどに「僕と一緒に日本の音楽を変えていこう」とアルファとの契約を説得したり、赤い鳥のメンバーをパリまで追いかけて「プロにならない?」と口説いていたことや、桑原がスネークマンショー2ndアルバムのために作った、病院で死にゆく人をテレビカメラが無遠慮に追いかけインタビューするという風刺コメディに対し、村井氏が不謹慎だと激怒したこと(そこで桑原は、不謹慎ではない死は何かと考え、場面を戦場に変えてアルバム『死ぬのは嫌だ、恐い。戦争反対!』を誕生させる)など、すべてを列挙することができないほど、アルファ時代の村井氏に関するエピソードが数多く披露された。

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アルファミュージックは、村井氏と作詞家・山上路夫氏により、1969年に音楽出版社として設立された。流通は大手レコード会社(当時の東芝音楽工業や日本コロムビアなど)へ委託し、原盤制作のみを行うという、同時期に誕生したURCと並んで、インディペンデント・レーベルの草分け的存在だった。つまり、大手レコード会社の旧態依然とした方法論ではなく、少数精鋭のスタッフで、とにかく「新しい音楽を作る」という一点にのみ、存在意義を見出していたのだ。それだけ、感性を鋭く磨いた、尖がったレーベルであり、村井氏をはじめとする各担当者の音楽的趣味が前面に押し出された作品を、世に送り出していった。

1977年には、独立したレコード会社(アルファレコード)と形態を変えるが、ポリシーは揺らがない。こうしたアルファの最大の特長である"最先端"がもっとも顕著に表れていたのが、今は無き伝説の「スタジオA」だろう。1972年に作られたスタジオAは、国際水準以上/日本で一番のスタジオを目指し、ハリウッドの有名スタジオ「ウエストレイク・レコーディング・スタジオ」をモデルに、アメリカ人エンジニアにより設計されるなど、それまでの国内スタジオとは一線を画していた。

スタジオAでは、荒井由実『ひこうき雲』やカシオペアのアルバムなど、数多くの名作が録音され、MCI社製24トラック・マルチ・レコーダーや、3M社製デジタル32トラック・マルチ・レコーダー、オートメーション機能搭載API社製ミキシング・コンソールなど、国内にはほとんど存在しなかった各時代の最先端機材が、続々と投入されていった。こうしたスタジオAの最新機材をフル活用した実験的かつ革新的なサウンドで、音楽の歴史を大きく塗り変えたのが、ご存知YMOである。

さらにアルファは、アメリカA&Mレコードのライセンスを獲得するなど大躍進を果たすが、資金難によりアメリカ進出に失敗。その責任を取る形で、村井氏は80年代中盤にアルファを退くことになる。すると残念なことに社風は一変してしまい、旧所属アーティストのベスト盤を立て続けに発売したことなどでリスナーの信頼を失うと、遂には会社自体も消滅してしまった。このような不幸な結末を迎えてしまったことで、アルファが生み出した音楽に心をときめかせた世代ほど、"アルファ・ロゴ"に対するイメージを悪化させてしまったことも、またひとつの事実だ。

しかし今回のライブ・イベントでは、驚くことに、全盛期のハッピーな話題だけでなく、最後のプレゼンテーターとして登場した"松任谷"由実は、「このグループ(YMO)によって世界の扉を開いた80年代初頭が、アルファがもっとも輝いていた時代だったんじゃないでしょうか。(略)そして不幸なことに、このグループによって開かれた世界の扉が、アルファの幕を閉じる序曲になってしまうのです」と、アルファの終焉までをも網羅する形で、主役である村井氏をステージに呼び込んだ。

この時に、このライブ・イベントが単なる"お祭り"や"同窓会"なのではなく、アルファとは一体何だったのか、このレーベルが生み出した音楽を改めて見つめ直し、日本ポップス史におけるアルファの存在意義を総括しながら、一度バラバラになってしまったアーティスト、そしてファンの心を、再び音楽でつなげようという真のテーマが伝わってきた。この奇跡の夜を体験したことで、胸のつかえが払拭されたように感じたアルファ・ファンは、決して少なくはなかっただろう。

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トリを務める形でステージに現れ、ピアノの前に座った村井氏は、細野晴臣、高橋幸宏と共にYMO「RYDEEN」をラテン・ビート・アレンジで演奏すると、続いて、既に他界してしまった"仲間"たちをスライドで紹介しながら、一人一人に感謝のコメントを述べた。

すると村井氏は、「次の時代を担うジュニア・チームを紹介したいと思います」と、Asiah(小坂忠の娘)、林一樹(林立夫の息子)、大村真司(故・大村憲司の息子)を呼び込み、自身が作曲を手がけた「翼をください」を一緒に演奏。あくまでも、時代の先を見据える村井氏らしい構成でありながら、曲の後半からは、後藤悦治郎と平山泰代、さらに赤い鳥に参加していた村上"ポンタ"秀一が加わり、新旧セッションが行われるというドラマチックな展開で観客を湧かせた。

続いて、この日のために村井氏が作曲した(作詞は、闘病中の山上路夫)「音楽を信じる We believe in music」を、小坂忠とAsiahのボーカルで披露。美しくも力強いメロディと、曲中で何度も歌われる"音楽"という詞が印象的な新曲で本編を締め括ると、アンコールでは、名曲「美しい星」を村井氏がピアノで弾き語り、出演者全員がラインナップし、大団円を迎えた。

こうして幕を閉じた、決して二度とあり得ないだろう、特別な4時間。終演時の村井氏と出演者たちの満面の笑顔、そして、ユーミンが語った「どこか、街の灯りが見えるような、埃が舞っているのが見えるような、それがアルファだったかもしれないし、それがあの時代だったのかもしれません」という言葉が心に沁みた、素敵な夜であった。

取材・文◎布施雄一郎

■<ALFA MUSIC LIVE>
2015年9月28日@BunkamuraオーチャードホールSETLIST

【プレゼンター:荒井由実】
M01:愛は突然に/加橋かつみ
M02:花の世界/加橋かつみ
【プレゼンター:吉田美奈子】
M03:竹田の子守唄/紙ふうせん(赤い鳥)
【プレゼンター:安藤和津(27日)、ミッキー・カーチス(28日)】
M04:学生街の喫茶店/大野真澄(GARO)
【プレゼンター:服部克久】
M05:蘇州夜曲/雪村いづみ(演奏:ティン・パン・アレー)
M06:東京ブギウギ/雪村いづみ(演奏 ティン・パン・アレー)
【プレゼンター:野宮真貴】
M07:ひこうき雲/荒井由実(演奏 ティン・パン・アレー)
M08:中央フリーウェイ/荒井由実(演奏 ティン・パン・アレー)
【プレゼンター:細野晴臣】
M09:ほうろう/小坂忠(演奏 ティン・パン・アレー+高橋幸宏)
M10:機関車/小坂忠(演奏 ティン・パン・アレー+高橋幸宏)
【プレゼンター:向谷実】
M11:朝は君に/吉田美奈子
M12:夢で逢えたら/吉田美奈子
【プレゼンター:紙ふうせん】
M13:MR.サマータイム/サーカス
M14:アメリカン・フィーリング/サーカス
【プレゼンター:サーカス】
M15:ピアニスト/山本達彦
【プレゼンター:坂本美雨】
M16:あの頃のまま/ブレッド&バター
M17:Monday Morning/ブレッド&バター
【プレゼンター:ブレッド&バター】
M18:La Vie en rose/コシミハル
【プレゼンター:鮎川誠】
M19:ユー・メイ・ドリーム/シーナ&ロケッツ
M20:LEMON TEA/シーナ&ロケッツ
【プレゼンター:高橋幸宏】
M21:hot beach/日向大介 with encounter
【プレゼンター:荒井由実】
M22:ライディーン/YMO、村井邦彦
M23:翼をください/Asiah、大村真司、林一樹、村井邦彦、紙ふうせん、村上"ポンタ"秀一
M24:音楽を信じる/小坂忠、Asiah、大村真司、林一樹、村井邦彦、紙ふうせん、村上"ポンタ"秀一
【アンコール】
E1:美しい星/村井邦彦

◆<ALFA MUSIC LIVE> オフィシャルサイト