【ライブレポート】絢香、マイクもスピーカも使わない完全生音ライブ開催

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11月2日、絢香が東京・浜離宮朝日ホールにて、PAを一切使わない、ピアノと生歌だけによるライブを開催した。このスペシャルなライブには、4月にリリースされたアルバム『レインボーロード』に400枚限定でランダムで同梱されていたプラチナチケットを手にすることができた全国各地の幸運なファンおよびその同伴者の計600人が足を運んだ。

今回のアンプラグドライブのきっかけとなったのは、2014年10月に広島で行なわれる予定だったものの、台風の影響で中止されたコンサート。現地入りしていた絢香は、打ち合わせもあったため、大雨の中で中止が決まった会場へと入り、「また必ず戻ってくる」という想いを込めてステージに立ち、誰もいない客席に向けてPAなしで「みんな空の下」を歌唱した(その模様はYouTubeに公開された)。この日の経験から、絢香自身が“自分の声をそのままの形でファンに届ける”というライブを提案したという。


一方、会場となった浜離宮朝日ホールは、1996年にアメリカ物理学会が出版した『How They Sound ~Concert&Opera halls』掲載の世界22カ国の76ホールを対象とした格付けで、ニューヨーク・カーネギーホールと並ぶ“Excellent”評価を受けたクラシック専門のシューボックス型室内楽ホール。この日、世界有数のホールで、絢香の歌声が、電気信号として変換されることなく、ダイレクトに空気を震わせて観客の耳元へと届けられた。

ピアノが一台セッティングされているステージ上。PAなしということもあり、開演前のBGMもなし。ホールの雰囲気ともあいまって、いわゆるJ-POPのライブとはまったく違う厳粛な空気は、オーディエンスのほうが思わず背筋が伸びてしまうほど。客席も音ひとつ立てずにその瞬間を待っていた。

ステージ下手から絢香とピアノの塩谷哲が姿を見せると、大きな拍手と歓声が起こる。クラシックホールにマッチした、ワンピースとロングシャツとストールを重ねた白のレイヤードスタイルと、赤のロングブーツというスタイルで絢香は、「こんばんは、絢香です。プレミアムライブに、ようこそー!」と、嬉しそうに挨拶する。11月23日から全国9カ所12公演で行なうツアー<絢香 レインボーロード TOUR 2015-2016>を前にして久しぶりにファンと顔を合わせたということ、そして何より初の試みに、本人も心躍らせていたという。

「今回のライブは、自分の気持ちにフィットする曲を選んできました。」と、究極のハイレゾ公演は、絢香がトーク用のマイクを置いて1曲目がスタートする。塩谷が紡ぎだすピアノの音色を受けて、スポットライトに浮かび上がる絢香。始まったのは「The beginning」。絢香の歌声とピアノの音色がホールの木のぬくもりと混ざり合い、芳醇な響きを生み出す。言い換えれば、それは“音の粒”が放出されていく様子が可視化されたかのような感覚。スピーカーもないということでオーディエンス側の聴覚も研ぎ澄まされるのか、マイクを通していないにも関わらず、絢香の息づかいまでわかる。

「やー、気持ちいい……。なんか、学校の体育館とかを思い出す。全然、こっちも響きが違うんです。」と、学生時代に体育館のステージを独り占めしていたという絢香が笑う。本人も生音でのライブを楽しんでいる様子だ。

続く「幻想曲」では、絢香は時に体を左右に振って歌い上げる。そのたびに、(当然)音の指向性が変わるため、オーディエンスの耳元に届く歌声の響きも変わる。一音一音ベストな音、ベストテイクがエディットされて収録されるCD音源が「オリジナル音源」とするならば、この日のライブでの歌声は、オリジナル音源になる前の「原音」に近いのかもしれない。さらに「ツヨク想う」で、力強い歌声とピアノの音色がホールを包み込む。音を置いていくように歌う絢香のボーカルが空気を震わせてから減衰するまで、空間の中に溶けていくまでのわずかな時間。その最後のきらめきまでも聞き漏らさないように、観客は目と耳がステージ上で釘付けとなっている。

「ツアーの前にこのライブができてよかった。」と、この特別なライブを自ら堪能していることを語り、そしてトークは、2016年2月1日、絢香のデビュー10周年の話題へ。

「2月1日で、私、ちょうど丸デビュー10周年なんです。もう10年、ほんとに自分自身びっくりなんですけど、でも、ここまでやれたのは、私の歌を聴いてくれるみなさんがいたから。本当にどうもありがとう。」

そういって頭を下げる絢香に、大きな拍手が送られる。なお、10周年の記念日となる2016年2月1日は、国立代々木競技場第一体育館にてメモリアルライブ<絢香 レインボーロード TOUR 2015-2016 “一夜限りのMemorial Stage” 秘密の裏メニュー発動!! ~道は続くよ~>を開催。「あれから10年、あっという間だったけど、濃い10年だったなって思います。2月1日は、特別なライブにしたいなって。みんなにありがとうって伝えられるようなライブになったらいいなって思っています。そして10周年と言わず、15周年、20周年と言っていけるように、いい作品をどんどん、しっかり生んで、みなさんに届けていければいいなって“ツヨク想”います。」と、来るべき10周年に向けてのメッセージを伝えた。


体の前で手を組み、祈るように上を向いて歌い上げられる「beautiful」。音の向こう側に彩りが見えてくるような、そんなステージに誰もが拍手喝采。そしていよいよ約40分の公演の最後の曲へ。ラストはピアノの塩谷もステージを降りて、絢香ひとりアカペラでの「みんな空の下」。さっきまで塩谷によって流麗な旋律が奏でられていたピアノを一度鳴らし、音を確認して、絢香はステージの中央に立つ。客席のファンの顔を確認するように眺め、そして歌いだす。

その歌声はとても力強く、同時にとてもやさしい。ボーカリストが、まさに自分の体を楽器のように響かせて、そのすべてを使って、歌と対峙し、そしてホールを震わせる。そんな絢香の姿と歌声に、オーディエンスからは鳴り止むことない拍手がいつまでも惜しみなく送られ続けたのだった。

text by ytsuji a.k.a.編集部(つ)

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◆BARKSライブレポート
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