【インタビュー】モーヴィッツ!、こんなに楽しいスウェーデンのヒップホップ

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スウェーデン発のスウィング・ヒップホップ・バンドMOVITS!(モーヴィッツ!)が、4枚目となる新録作『Dom försökte begrava oss, dom visste inte att vi var frön / They Tried to Bury Us, They Didn't Know We Were Seeds』(彼らは俺たちを葬ろうとしたけれど、俺たちが種だということは知らなかった)をひっさげて、渋谷のホールに帰ってきた。

◆モーヴィッツ!画像

ヴォーカル、DJ、サックスという最小限の編成ながらも、スウィング・ジャズ×ヒップホップをベースに、軽妙なスウェーデン語ラップをのせた独自のスタイルが話題を呼び、2009年には全米iTunesのヒップホップ・カテゴリーでエミネムやカニエ・ウェストを抑えて1位を獲得。瞬く間に世界中から注目を浴びる存在となったMOVITS!。

今作では彼らのトレードマークとなっていたビッグバンド要素はすっかり影をひそめ、これまで以上にアグレッシブかつスローな打ち込みビートが前面に押し出されている。11月末に4度目の来日をしたレンスフェルト兄弟(ヴォーカル/作詞・兄ヨハン、DJ/作曲・弟アンダッシュ)とサックス担当のヨアキム・ニルソンに、新作のコンセプトやその背景について、ざっくばらんに語ってもらった。


――MOVITS!のニューアルバムは、今まで以上に前のめりな攻めのダンス・ミュージックになっていますね。

ヨハン:今作はより「力強く」また「しなやか」になっていると思うよ。全体的にモダンになっていて、部分的にはダフト・パンクとかに影響を受けたところもある。前作に比べると曲のバリエーションも増えて、スローな曲にもチャレンジしているしね。

ヨアキム:前作のようなアップビートな曲を少し減らして、スムース&スローな打ち込みに挑戦してみたんだ。ライヴで盛り上がるようなね。

アンダッシュ:コンセプト的な何かがあったわけじゃないけど、1930~1940年代のスウィング・ジャズはファーストでやったし、エレクトロ・スウィングもやったので、その先に進みたかったという気持ちはあるね。

ヨハン:ファーストではスウィング、セカンドでは1950~1960年代のビッグバンド、サードはサイケデリックな1970~1990年代のロック&エレクトロ・スウィング。今作では、よりシリアスな、スウェーデンの社会問題やポリティックを意識した曲も入っている。今、ヨーロッパで起こっている難民問題にも関係しているんだけれど、自国で人種差別的な政党がどんどん力を持ってきていることに対するアンチテーゼだったり。その半面、個人的な体験、例えば、恋人との別れを歌った曲もあったりする。

――アルバムの中で、特に思い入れの強い曲はありますか。

ヨアキム:アメリカと日本で初めてプレイしたんだけど、「Dansa i Regnet/ The Dance in the Rain」かな。観客にダイレクトに伝わる曲だし、ライヴでの反応もすごくいいからね。

ヨハン:「Placebo」だね。MOVITS!の新境地ともいえる牧歌的でゆったりとしたサウンドが好きなんだ。

アンダッシュ:同感。といっても、その時の気分にもよるし、全曲に思い入れはあるかな。ライヴでいうと、ヨアキムがいうように「Dansa i Regnet/ The Dance in the Rain」が観客との一体感が味わえて楽しいね。


――兄弟2人のユニットとして活動を始めた当初はアコースティックなバンドだったそうですが、どのようにして今のスタイルが生まれたのでしょうか。

ヨハン:元々、僕のラップとアンダッシュのギターだけで、レゲエよりのアコースティック・ヒップホップをやっていたんだ。2004年にヨアキムが加入して今の編成になったんだけれど、その翌年、とあるアフターパーティーでベニー・グッドマンの「Sing Sing Sing」が流れてね。その瞬間、何でみんなこんな素晴らしい曲を使わないんだろう! って不思議に思ったのが、MOVITS!サウンドの始まりなんだ。

――サックスのヨアキムが加わって、どのように音楽は変化しましたか。

アンダッシュ:ヨッケ(※ヨアキムの愛称)とは、共通の友人を通して知り合ったんだけど、田舎の町でプレイしていた僕らが、初めて出会ったプロミュージシャンがヨッケだったんだ(※当時、ヨアキムはクラブDJとして活動していた)。試しにジャムってみたら、彼のサックスが僕らが求めていたスタイルにぴったりはまってね。じゃあ3人で続けようと。

ヨアキム:それから今の流れへ続いていくわけだけれど、この3人でやるからには常に新しいことをやりたいと思っている。インスピレーションはどこにでもあるし、それらを拾い集めて、新たなサウンドを作る作業は3人とも得意なんだ。

――2009年に全米iTunesのヒップホップ・カテゴリーで1位を獲得しましたが、正直なところ、その結果をストレートに受け取るのは、精神的にもきつかったんじゃないでしょうか。

一同:ヤー!(※スウェーデン語のイエス)

ヨハン:「ザ・コルバート・レポート」(※全米で人気のコメディー番組)に出演した直後で、その時、汚いビジネスホテルの地下部屋にいたんだ。あまりにも突然で、何かの間違いじゃないかと思った! でも、番組の前に「英語で歌えるかい?」って聞かれた際に「ノー!」と答えたおかげで、MOVITS!の音楽が広まって、全米ツアーができるようになったわけだし、確かにエクストリームな状況だったけれど、今では感謝しているよ。

――1年に100本以上のライヴを行っていますが、なかなかのハードスケジュールですよね。

ヨハン:留守にすることが多いので、僕らの彼女はみんな喜んでいるよ(笑)

一同:(笑)

ヨアキム:移動時間も多いし、ツアー自体は大変だけれど、それぞれの場所で僕らを待っている人たちのことを考えると、やはりそのくらいはやらないと。


――海外でのライヴと、スウェーデンでのライヴで異なる点は何だと思いますか。

ヨハン:誰も歌詞を理解してくれない!(笑) とはいえ、音楽はユニバーサルなものだから、問題はないよ。音楽はあらゆる壁を越えると信じているし、いい曲であれば、どの国でも受け入れてもらえるはずだから。あと日本のファンはステージ上でたくさんプレゼントをくれるとか、アメリカ人はライヴ中のおしゃべりがすごいとか、それぞれの傾向はあるけれど、それを観察するのは楽しいし、音楽で世界を周れるなんて素晴らしいことだよね。

――ヨハンとアンダッシュはスウェーデン最北端のノールボッテン地方の町・ルレオ、ヨアキムはその少し南の町・ピテオの出身ですが、その環境が音楽に与えた影響についてはどう感じていますか。

ヨハン:僕らの音楽のジャンルはコールド・ミュージックだね(笑)。

アンダッシュ:音楽スタイルに影響を与えたとまではいわないけれど、冬の間は本当に真っ暗でみんな家にこもりっぱなしだから、有意義な時間の使い方をしたかったというのはあるね。スウェーデン北部では、太陽のあたる時間は2、3時間しかないから。

ヨハン:うーん。環境も少しは関係しているんじゃないかな。ルレオは首都ストックホルムからだいぶ離れたところに位置しているので、一般的なモノの見方と比べると、やや斜めから見る癖みたいな。ミュージック・シーンも同じで、すべてがストックホルムを中心に動いているんだ。僕らがもし、ストックホルム出身だったら、今の音楽とは似ても似つかないものになっていたんじゃないかな。北部の町で育ってどこにも属さなかった分、他の人より自由で、みんながやらないようなことにもチャレンジできたんだ。

――すべてのアルバムに参加しているZacke(ザッケ)も同郷出身ですが、彼からインスピレーションを受けることも多かったのではないでしょうか。

ヨハン:Zackeと僕ら(レンスフェルト兄弟)でMOVITS!とは別のAlaska(アラスカ)というユニットを組んでいるんだ。AlaskaではMOVITS!より、もっとハードなアメリカン・ヒップホップをやっていて、去年はアルバムもリリースした。この2つの異なるバンドが存在しているからこそ、今のクリエイティブ・レベルを保っていられるんだ。

ヨアキム:ZackeのアルバムのすべてにMOVITS!も参加しているし、彼はまさにファミリーの一員だよ。

――過去には先輩のラッパーTimbaktu(ティンバクトゥ)とも共演していますよね。

ヨハン:Timbaktuは僕らの憧れのアーティストだったから、初めて彼のラップを目の前でみた時は鳥肌がたったよ! 彼のスタイルはアコースティック+ヒップホップで共通項も多いし、僕らのインスピレーションの1人でもある。スウェーデン語のラップをアイデンティティとしているのも同じだしね。

――日本のアーティストとコラボする予定はありますか?

ヨアキム:過去には<Na Na Nah!>でKEN THE 390と共演したし、今回のツアーで前座を務めたFAKE TYPE.とコラボした曲も近いうちにリリースされるんだ。日本語はまったく理解できなかったけれど、レコーディング自体はすごく楽しかったね。

ヨハン:ツアーでは色々なアーティストに会えたし、日本のヒップホップをもっと知りたい。だから、また日本のミュージシャンとコラボすることはあると思うよ。

――最後に日本のファンにメッセージをお願いします。

ヨハン:Be cool and stay in school!(笑) たくさんの人がライヴにきてくれて、本当にありがたく思っています。これからもスウェーデンのヒップホップを広めてくれたら、嬉しいです。また近いうちに来日するので、待っていてください。さ、僕らはこれからカラオケにいかなきゃ!(笑)

取材・文:落合真理(Photo by Mari Ochiai)
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