ヴィンテージ楽器から最新技術まで、MIDIの歴史と未来に触れるイベント「Think MIDI ~MIDIがつなぐ時代と音楽~」レポート

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MIDIをテーマにしたイベント「Think MIDI ~MIDIがつなぐ時代と音楽~」が、12月12日(土)・13日(日)の2日間に渡って、東京・ラフォーレミュージアム六本木で開催された。1981年の誕生から30年以上たった今でも、異なるメーカーの楽器を接続して演奏できるのはもちろん、PCによる音楽制作の基盤となるなどさまざまな用途に使われているプロトコルであり規格である「MIDI」。今回のイベントは、MIDIにゆかりのある音楽家が集まりライブやトークセッションを繰り広げたほか、歴史的なシンセサイザーが展示されるなど、電子楽器を使っている人なら見逃せない内容となった。

会場にはMIDI登場以前のモデルを含むヴィンテージシンセ、MIDI機器が多数されたほか、冨田勲、服部克久、千住明、大島ミチルらによるトークセッション、浅倉大介、氏家克典、梯郁夫、篠田元一、白井良明、難波弘之、西脇辰弥、増田隆宣、向谷実らが出演したライブステージなどが行われた。イベントの主催は、MIDIを生み出したローランドの創業者の梯郁太郎氏が名誉顧問を務める公益財団法人 かけはし芸術文化振興財団。総監督は松武秀樹、音楽プロデューサーは篠田元一が務めた。本レポートでは展示を中心にお届けする。


▲イベントの総監督・松武さん(左)、音楽プロデューサー・篠田さん(右)の二人は、二日間のとも多くのライブで演奏、トークセッションでMCをこなすなど大忙し。

■シンセの歴史を一望できる展示エリア

展示エリアには伝説の名シンセサイザーを大量展示。「シンセサイザー創世記」「サンプリング時代の幕開け」「MIDI前夜」「MIDI HISTORY」と年代順にゾーンが分けられ、その進化を一望することができる。「MIDI前夜 Jupiter-6とProphet-600」と名付けられたゾーンでは、1981年のNAMM SHOWで実証実験が行われた、ローランドのJupiter-6、Sequential CircuitsのProphet-600によるMIDI接続を再現する展示も行われた。


▲エントランスで来場者を迎えるのは、ローランドの創業者である梯郁太郎氏とSequential CircuitsのDave Smith氏に贈られた「テクニカル・グラミー・アワード」の展示(左)。そして、展示エリアの最初は「ドンカマ」の愛称で知られるコルグのドンカマチック・シリーズのDE-20(中)。右はポスター。


▲Moog Minimoog、EMS Synthi AKS、KORG 770、YAMAHA CS10、Sequencial Circuits Prophet-5などアナログシンセがずらりと並ぶ「シンセサイザー創世記」ゾーン(上段左)。「サンプリング時代の幕開け」ゾーンにはRoland TR-808、MC-4、Jupiter-8などが(上段右)。下段はFairlight CMI、KORG Polysix、Roland TB-303、TR-606、そして巨大なシンセサイザー年表。


▲「MIDI前夜」の最後を飾る展示の説明には「世界初のMIDI接続を行ったJupiter-6とProphet-600。この2台のシンセサイザーからMIDI時代が始まった」と書かれていた。

「MIDI HISTORY」ゾーンでは、MIDI以降のシンセサイザーが円形に並べられ、1台のシンセで鳴らすことが可能。まさにMIDIの接続性を体感できるデモだ。出力先はパソコンで操作、鍵盤を弾くと楽器が鳴り、その楽器のそばのランプが点灯するという仕組み。システムは裏に隠されたMIDIインターフェイス、MIDIパッチベイを駆使して構築されているとのこと。切り替えを行うパソコン上では、ウェブブラウザChrome上で動作するプログラム(Web MIDI APIを使用)が動いている。これらを含む展示エリアのシンセは、本イベントの協力に名を連ねる一般社団法人 日本シンセサイザープログラマー協会(JSPA)の会員や楽器メーカーなどにより集められたもの。


▲Roland TR-909、JX-3P、KORG Poly-800、YAMAHA DX7などMIDI黎明期から時代を作ったシンセがずらり並んだMIDI HISTORYゾーン。キーボードのYAMAHA KX1、シーケンサーのMC-500、DTM音源Roland SC-55、YAMAHA、 MU80の姿も。

さらに、ホール内には1980年当時のYMOのライブで使われた楽器を完全再現した「YMO楽器展」も登場。昨年の楽器フェアや、今夏に横浜赤レンガ倉庫で行われたイベント「70'sバイブレーション」でも披露された機材だが、今回初めてプレイヤー側からの視点で展示。ステージ側から見るのとは一味違った体験ができるようになっていた。


▲YMOのライブ使用機材が勢揃いした「YMO楽器展」は、ライブやトークイベントが行われたメインステージの後方に。左上写真の松武秀樹の器材セットは、今回のイベントのライブでも本人が実際に操作、演奏を披露する場面も。会場を震わせるアナログシンセの低音にしびれたオーディエンスも多かった。

■MIDIの未来がかいま見える展示も

展示エリアには「FUTURE MIDI」と称したゾーンが設けられ、歴史を振り返るだけでなく、これからのMIDIが進む方向や新しい使い方を示す展示が行われていたのも本イベントのポイント。一般社団法人 音楽電子事業協会(AMEI)は、パソコンのブラウザを使って音を鳴らしたり、映像をコントロールするというデモを実施。メディアアートの分野などでもMIDIが活用されていることが実感できる内容となっていた。


▲小型のコンピュータRaspberry Pi(右下)を介して、楽器の演奏や映像のコントロールを行うメディアアート的なデモ。このシステムのハブとして機能する小型のコンピュータRaspberry Pi(写真右下)ではWebサーバーなどが動作。そのWebサーバーにiPhoneのウェブブラウザSafari(右下)でアクセス、Webページの画面を触るとWebsocketという仕組みでJSON形式のデータが送信される。そのデータをRaspberry Pi内のプログラムが、MIDIに変換してPCで動作しているDAWに送信して音を鳴らす、OSC(Open Sound Control)に変換して映像をコントロールする。ハブとなるRaspberry Piが3種類の言葉を相互に変換することで、Webプログラミングが得意な人、映像が得意な人、音楽が得意な人など、アーティストそれぞれが得意分野を担っていっしょに作品を作り上げることができるというわけだ。


▲こちらはGoogleのウェブブラウザChromeがサポートするWeb MIDI APIという仕組みを使ったデモ。左はローランドのギターシンセシステムを使用、ギターを弾いてMIDI信号を取り出し、それをPCに入力。ChromeがMIDI信号に合わせてさまざまな映像を出力する。JavaScriptによるプログラムでVJ的なシステムがカンタンに構築できるのだ。写真中・右は誰でもカンタンに電子工作が始められるキットlittleBits(リトルビッツ)を使ったデモ。アナログシンセが作れるSynth KitとUSB-MIDIモジュール、オーディオ信号の入出力ができるUSB I/Oモジュールを組み合わせて、PCとMIDI/オーディオ信号をやりとり。PCに接続されたnanoKEYを弾くとSynth Kitから音が鳴り、Web MIDI API、Web Audio APIを使ったChrome上で動作するウェブアプリに波形や音階が表示される。


▲「ブラウザは楽器です」と、AMEIはホール内のデモステージでもWeb MIDI API、Web Audio APIを使ったデモを展開。PCにつながれたMIDI鍵盤を弾くとまさにアナログシンセなサウンドがパソコンから鳴る。この音はすべてウェブブラウザのChrome上のソフトウェアシンセで生成されたもので、発音はWeb Audio API、MIDI信号のやりとりはWeb MIDI APIでリアルタイム処理されている。Chromeで動作するソフトウェアシンセのプログラミングはJavaScriptで行えるので、習得は比較的カンタン。市販のシンセと異なりソースを見られることもJavaScriptの利点として挙げられた。また、マイコンをブラウザからMIDIで制御する、鍵盤を使って目的のベロシティを出すゲームを作るといったさまざまなMIDIの活用方法も紹介。

また、コルグから来年発売となるミニキーボード「microKEY AIR」も展示。Bluetooth LE(Low Energy)によりワイヤレスでMIDI信号を送信できるもの。Bluetooth LEによるMIDI信号のやりとりはMac OS XとiOSがサポートしているが、コルグでは独自にWindows用のドライバ(Korg BLE-MIDI Driver)を開発、Windowsのソフトウェアシンセを鳴らすデモを行っていた。ハードウェアはBluetooth 4.0対応、OSはWindows 8.1以上が必要とのこと。規格の名称としては「MIDI over Bluetooth SMART」が用いられている。


▲microKEY AIRはiPhone、Windowsマシンとワイヤレス接続でデモ(左。ソフトはKORG Module、Legacy Collectionなどを使用)。microKEY AIRはワイヤレス接続だけでなくUSB接続も可能。Windowsのワイヤレス接続には専用のドライバが用意される。

さらに展示エリアではインターネット、ティアック、ZOOM、スリックがブースを設けたほか、出店者各社がデモステージで製品デモンストレーションを実施。最新の製品をアピールした。


▲インターネットはABILITY Pro、VOCALOID4 Megpoidなどを中心にブースを展開(左)。デモステージでは、メインステージのライブにも登場した西脇辰弥さんがABILITY Proを紹介。初お目見えのMegpoid仕様のVOCALOID KEYBOARDの演奏も披露された。これまで楽器フェアやヤマハのデザイン展に出展されたものとは異なるカラーで、声も初音ミクからMegpoid(GUMI)のものになっている。ABILITY Proのデモはドスパラの超小型PCを使って行われた(右)。このサイズでCore i7搭載。


▲ティアックのブースではTASCAM Professional SoftwareのDAWソフトSONARやソフトウェアシンセ、TASCAMのオーディオインターフェイス、レコーディングパックなどを展示(左)。2日目のデモステージでは発売されたばかりのソフトシンセを紹介。EDMに最適なサウンドでおなじみのZ3TA+を進化させ「音が見える」エディット画面で独創的なサウンドが作れるZ3TA+2(右)、ライブパフォーマンスにも威力を発揮するCakewalkシンセのフラッグシップシンセRapture Proの魅力が伝えられた。


▲スリックはMIDI搭載のオルゴール音源「カナデオン」を出展(左)。MIDIキーボードでオルゴールを演奏できるのはなかなか不思議な体験だ。来年には発売したいとのこと。ZOOMのブース(右)ではオーディオインターフェイスを展示、左からThunderbolt採用のTAC-8、TAC-2R、USB 3.0採用のUAC-2、UAC-8。


▲デモステージのトップバッターはMIDIオルゴール音源をデモしたスリック。MIDI接続のほかBluetooth採用のワイヤレスMIDIインターフェイスのキッコサウンドmi.1経由でiPadからワイヤレスで鳴らすデモも(左)。クリプトン・フューチャー・メディアは定番オーケストラ音源VIENNA SYMPHONIC LIBRARYやSPITFIREを使いクリスマスソングの打ち込みを実演(中)。銀座十字屋ディリゲント事業部はBitwig StudioをタブレットのSurface Pro 4でデモ(右)。タッチやスワイプ操作で音楽制作や演奏ができるBitwigのアドバンテージを示した。


▲ネイティブ・インストゥルメンツ・ジャパンのデモステージは、ライター藤本健さんと作曲家・多田彰文さんのニコ生番組「DTMステーションPlus!」の出張版として開催。SYMPHONY SERIES STRING ENSEMBLEによる弦楽器の打ち込みを紹介。ゲストにはスタジオワークの第一線で活躍するバイオリニストの山本理紗さんが登場。バイオリンの各種奏法の実演や、打ち込みによるバックトラックに合わせたライブ演奏も披露。MIDIの利点と生演奏の両方の良さが実感できる内容となった。山本さんは来年4月15日に渋谷JZ Bratでソロライブを開催する。

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