【インタビュー】瀧田イサム、超絶のベーステクニックが恐ろしいほどに詰め込まれたソロ『RISING MOON』

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GRANRODEOのサポートを始めとして様々な活動を行ない、実力と個性を備えたベーシストとして高い評価を得ている瀧田イサム。2015年デビュー20周年を迎えた彼が、初のソロ・アルバム『RISING MOON』を完成させた。親しみやすい楽曲と6弦ベースのポテンシャルを最大限に活かしたプレイ、豪華なゲスト・プレイヤー、ロック・ベース専門レーベルPSYCHO DAZE BASSレーベルからリリースなど、同作は注目の一作といえる。『RISING MOON』について瀧田が大いに語ってくれたインタビューを、お届けしよう。

◆瀧田イサム~画像~

■第一弾がMASAKI君で次にIKUO君が作って第三弾が僕という話だったんです
■その流れというのはベーシストにとって結構プレッシャーだったですね(笑)


――『RISING MOON』の制作は、どんな風に始まったのでしょう?

瀧田イサム(以下、瀧田):今回の話は、ベーシストのMASAKI君から電話がかかってきたことが始まりです。PSYCHO DAZE BASSレーベルの第一弾としてMASAKI君がアルバムを作って、次にIKUO君が作って、第三弾を僕にやって欲しいという話だったんです。その流れというのはベーシストにとって結構プレッシャー(笑)。2人ともトップレベルのテクニカル・プレイヤーだから。でも、せっかく話を振ってもらったことだし、やってみようと思って。その後レーベルの人にもテクニック系のロック・アルバムで、お願いしますと言われて、さらにプレッシャーが高くなるんですけど(笑)。それを頭に入れたうえで、どういう内容にするかを考えました。

――この曲が出来たことでアルバムが見えた…というような曲はありましたか?

瀧田:今回のお話をいただく前に、「FAIRY TOUCH」と「THE RING OF PRAYER」は出来ていました。その2曲はGRANRODEOのライブのソロ・コーナー用に作ったんです。元々は僕が1人でバァーッと弾くという昔ながらの感じのソロをやっていたけど、<GRANRODEO LIVE AT BUDOKAN ~G5 ROCK★SHOW~>(2010年)の時かな。会場が大きい所なので、楽曲を使ったソロ・コーナーにしたほうが良いんじゃないかと思ったんです。Zeppくらいの会場ならベース1本でソロをやっても問題ないけど、武道館となると後ろのほうのお客さんとかは何をしているのか分からないんじゃないかなというのがあったから。それで、クラシックの曲をやったりするようになって。その後<G8 G5 ROCK★SHOW>(2013年 横浜アリーナ2デイズ)の時に、オリジナルを作ることにしたんです。ベースでメロディーを弾いて、ドラムの見せ場もある曲を、リズム隊のソロ・コーナーとしてやろうと。そう思って作ったのが「FAIRY TOUCH」です。“G8”と“G9”のライブで「FAIRY TOUCH」をやった後、GRANRODEOが『カルマとラビリンス』というアルバムを作って、ホール・ツアーをやることになったんですよ。そこでも同じように曲を使ってソロをやって欲しいと言われそうだったので、先に作ろうと思って。『カルマとラビリンス』は様式美ロックっぽいアルバムになりそうな気配だったので、その世界観を壊さないようなベース・ソロ曲として作ったのが「THE RING OF PRAYER」。だから、ネオ・クラシカル・メタルみたいな曲なんです。ただ、この曲をホール・ツアーのソロ・コーナーでやることはなかったんですよね。

――えっ、なぜでしょう?

瀧田:『カルマとラビリンス』に「wonder color」というファンキーな曲が入っていて、ベースがスラップをバンバンやっているんですね。その流れでリズム隊のソロ・コーナーをやってくれないかと言われて、「THE RING OF PRAYER」はお蔵入りになったんです。それで、今回のソロ・アルバムのお話をいただいた時に、「THE RING OF PRAYER」と「FAIRY TOUCH」の2曲があって。その2曲を軸にして、他の曲を揃えていくことにしました。この2曲は、ネオ・クラシカルな雰囲気があるじゃないですか。僕はArk Stormというメタルバンドをやっていて、それも僕の大事なキャリアなので、この2曲を軸に据えるのは良いんじゃないかというのもありましたね。ただ、完璧にネオ・クラシカルで構築するのは違うなというのがあって。僕はいろいろな音楽をやってきたので、いろんなジャンルの要素を採り入れることにして曲作りに入りました。


――メロディアスな楽曲が並んでいて、ベーシストではない人やインストに馴染みのないリスナーも聴きやすいアルバムになっていることが印象的です。

瀧田:そこは言っていただけると嬉しいポイントです。ベーシストが作るインスト・アルバムだけど、ベーシストしか楽しめないものにはしたくなかったから。だから、メロディアスな楽曲を揃えて聴きやすいものにすることは常に意識していました。とにかく、聴き触りの良さというところを、すごく意識しましたね。音作りもそうで、ヨーロピアン、もしくは日本的と捉えてもらっても良いけど、湿り気を加えたんです。今の流行りとは逆行して、ウェットな質感に仕上げました。それで、アルバムの始まりから、“マイケル・シェンカーか?”みたいな(笑)。マイケル・シェンカーの「Docter Docter」の“クィーン”というギターを聴いて、これを今やったら面白いんじゃないかなと思ったんです。あと、ツインリードでハモッたりとか。そういうことを考えながら作ったのが、1曲目に入っている「RISING MOON」です。

――自身のルーツを活かされたんですね。楽曲の良さに加えて、ベースで流麗なメロディーを奏でていることも注目です。

瀧田:僕は6弦ベースを使っているから、ベースでメロディーを弾けるんですよ。そこを最大限に活かして……いや、最大限を超えちゃったところもある(笑)。1弦24フレットの1音チョーキングとかを使っていますから(笑)。クラシックではチェロがメインの楽曲があります。そういう位置づけにベースという楽器がいても良いんじゃないかなと思って。それで、メロディーも弾くことにしたんですけど、これ以上高い音域にいくとベースらしさが無くなってしまうんですよ。ギターとの差別化が難しくなる。だから、ベースだということが分かる範囲でメロディーを弾くようにしました。

――さすがです。ベースがメロディーを弾く曲とギターが弾く曲がありますが、使い分けはどういう風に決めたのでしょう?

瀧田:そこに法則性はなくて、なんとなくという感じです。曲を作っている段階で、これはギターだなとか、ベースのほうが良いなということが分かったんですよ。「CROSS THE LINE」とかは、ベースはスラップをしているから、それをメインにすることにして。そこでメロディーもベースが弾くとくどいなと思って、ギターでいくことにしたりとか。そういう感じでした。

――「CROSS THE LINE」は、メタリックなギター・リフと高速スラップの組み合わせがすごくカッコ良いです。

瀧田:ありがとうございます。この曲は、ちょっとモダンな感じにしたいなと思って。それで、いろんなことをするんじゃなくて、ループさせた感じにしました。そこにフュージョンっぽさも入れたくて、ちょっとジャズに近いアプローチも入れたりしていて。「CROSS THE LINE」はいろんな要素をハイブリッドさせています。それに、この曲だけサウンドもわりとドライにしたんです。そういうことも含めて、今回の中ではちょっと特殊な曲かなという気がします。

――それぞれの曲に合わせて、ベストな形を採ったんですね。『RISING MOON』は豪華なゲストも注目で、ギタリストはGRANRODEOのe-ZUKAさんや足立“YOU”祐二さん、太田カツさんなど、錚々たる顔ぶれです。

瀧田:ギタリストに関しては、僕と縁のある人というか。僕はベーシストとして活動してくる中でバンドをやったり、サポートをしたり、いろんな人とセッションしたりしてきて。そうやって知り合った中で、特に僕が尊敬しているギタリストを集めた感じです。皆さん快く引き受けてくださって嬉しかったです。

――プレイは基本的に、お任せでしたか?

瀧田:かなりザックリした感じでした。デモを聴いてもらって、「激泣きで」と言ったりとか(笑)。それくらいで、細かくオーダーを出したりはしなかった。

――“激泣き”というのは、e-ZUKAさんがギターを弾かれているバラードの「CRYSTAL OF DREAMS」ですね。

瀧田:そう。e-ZUKAはテクニカル・プレイヤーとして高い評価を得ているけど、僕は彼のエモーショナルなプレイがすごく好きなんですよ。このアルバムでそこを出して欲しいと思って、「CRYSTAL OF DREAMS」は彼にお願いしました。e-ZUKAは「CROSS THE LINE」ではフュージョンっぽいギターを弾いていて、KISHOW(GRANRODEO)がボーカルを取っている「THE NEXT STAGE」では、みんながイメージしているe-ZUKAのプレイをしている。こうしてみると『RISING MOON』は、彼のいろんな面が見れるアルバムとも言えますね(笑)。

――たしかに(笑)。1曲だけボーカル曲を入れることにした経緯は?

瀧田:ボーカル曲を何曲か入れて、いろんなボーカリストに歌ってもらうということも一瞬考えたんです。僕は以前“西寺実”というEARTHSHAKERの西田昌史さんとSHOW-YAの寺田恵子さん、LOUDNESSの二井原実さんが組んでいたユニットのツアーに参加させてもらったことがあって、あの方達にお願いしたら楽しいんじゃないかなと。でも、ボーカル曲が多いと、ベース・アルバムとしてボヤケてしまうから。それで、そのプランはやめたけど、KISHOWとe-ZUKAはぜひ参加して欲しいと思っていたので、1曲だけ歌物を入れることにしました。

――歌物を1曲にすることで、双方の魅力がより際立っていることを感じました。e-ZUKAさん以外の皆さんも聴き応えのあるプレイを披露されていますが、特に印象が強かった方などはいましたか?

瀧田:皆さん本当に良いプレイをくれていて順列はつけられないけど、強いて言うと足立“YOU”祐二さんですね。彼は今ギター・インストもやっていて、僕はそれに参加することがあって。彼が他人が書いた曲でどんなアプローチをするのか聴いてみたかったんです。それで、ものすごくシンプルなコード進行で、わりと歌物っぽい「SOMETHING NEW」という曲を弾いてもらうことにしました。こういうプレイをして欲しいから彼というよりも、YOUちゃんがどういうプレイをするのかが楽しみだったんです。蓋を開けてみたら、予想をはるかに超えた素晴らしいギターを弾いてくれました。

――洗練感のある曲と足立さんのマッチングが絶妙です。「SOMETHING NEW」のアウトロでは、足立さんのギターと瀧田さんのベースの掛け合いも聴けますね。

瀧田:彼の曲をプレイする時に、バラード調の曲で結構そういうことをやったりするんですよ。イン・テンポの中ではなくて、フリーな感じでやっているんですけど。そういう遊びを楽曲の中でやりたいなと思ったんです。あのパートは僕がベースを入れたデータを送って、それに合わせてYOUちゃんが弾いてくれました。

――そうなんですか? 同じ空間でセッションしたのかと思いました。

瀧田:そういう仕上がりになっていますよね。彼とはここ5年くらいお付き合いさせていただいていて、いろいろやってきたことの賜物だと思います。

――お二人とも、さすがです。あと、「SOMETHING NEW」のメイン・リフは、ベースでタッピングしているのでしょうか?

瀧田:それ、気づきました? 嬉しいです(笑)。この曲はスティングとかの楽曲みたいにポップな感じに聴こえると良いなというのがあって。ベース・リフでそういう雰囲気を出せないかなと思ってベースを弾いていたら、あのリフが出てきました。

――タッピングはトリッキーなイメージがありますが、ゆったりしたタッピングで洗練感を醸し出していることが印象的です。

瀧田:そうなりましたね。あのリフは仮で録ったテイクがそのまま活かされていて。適当に機材をつないで、こんな感じで…と弾いたんですよ。だから、あまりタッピングっぽくない音なんですよね。でも、ちゃんと音作りをして録り直したら、ものすごくタッピングっぽい感じになってしまって。これは違うなと思って、仮のテイクを使うことにしました。今回は、そういうことが結構多かったです。

――仮で録った仮テイクがすごく良くて、それを超えられないということは多いみたいですね。ISAOさんが参加されている「SPIRAL GALAXY」は、8弦ギターと6弦ベースの競演でしょうか?

瀧田:いえ、この時はISAO君は7弦ギターを使いました。彼は曲やプレイに合わせて8弦と7弦を使い分けているみたいですね。「SPIRAL GALAXY」は、コンディミ(コンビネーション・オブ・ディミニッシュ・スケール)のユニゾンみたいなことをしたくて作った曲で、ギター・ソロの後にそういうパートを入れ込みました。コンディミは機械的過ぎて使いづらいところがあるけど、この曲では結構音楽的に使えたかなと思います。プログレっぽいというか。僕の中ではISAO君はプログレ・インストというイメージがあって、彼のセッションに呼ばれても、そういう曲ばかりなんですよ。それで、「SPIRAL GALAXY」の何百倍も難しいことをやらされるという(笑)。ISAO君が「SPIRAL GALAXY」を弾いて「いやぁ、難しかったわ」と言ったから、「いつもアナタは、僕にもっと酷いことをしているんだよ」と言いました(笑)。

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