【音楽ギョーカイ片隅コラム】Vo.21「イヴといえば、Mick Ronson」

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我が家のイヴの夜の過ごし方は普段とまったく変わらず、息子(1歳)は通常通り20時頃には床につき、無宗教者である夫はクリスマスの浮かれた雰囲気が嫌いであると強く主張するイギリス人なので、結婚してからというもの、クリスマス・ツリーもケーキもチキンも、家にはなんにもありません。

元来、祭り好きな自分としては「何もない」というこの状態に寂しさを感じずにはいられないので今宵はコストコで買ったキャラメル・ポップコーンをむさぼることを自分に許しました。珈琲もドリップしてぐぐぃと飲み、胃も心もちょっとだけ暖かくなりましたので、久しぶりにクリスマスの約束と明石家サンタをじっくり楽しもうと目論んでいます。

さて。そんな淋しい聖しこの夜、過去最高のイヴを振り返ることにします。

大概ライブへ足を運ぶか仕事をしていたクリスマス・イヴ。しかし、10年前のこの日は、過去イヴの中で最もロマンティックで甘く、切ないものでした。なぜなら、愛してやまないギタリストに初めて、ようやく会えたからです。

ちょうどその年の秋にマンチェスターで暮らし始めた私のもとへ、高校で出会った無二の友が遊びに来てくれました。まだ英語がうまく話せない状態でしたが二人でレンタカーを借りてイングランド北部を一周する旅に出ました。


マンチェスターをスタート地点とし、リヴァプール、湖水地方、カーライル、グラスゴー、エディンバラ、ダラム、ヨーク、そして最終地点がハルの旅。


リヴァプールの大聖堂はイングランドで訪れた中では群を抜いて素晴らしく、ウインダミア湖畔でのサンセットはこれまで目にした自然美の最高峰。かつてのローマ帝国時代に築かれたハドリアヌスの長城では世界遺産でありながら見逃しそうだったほどの寂れた感に驚き、グラスゴーではリヴァプールに似た独特のダークなにおいがして、そこでロックが生まれる意味を垣間見つつ…などと書いていると一向に終わらないので、イギリス旅行記はまた別の機会に書くとして。


愛するミックが眠る街、ハルへ到着したのは24日の昼下がり。時期が時期なだけにだめもとでしたが真っ直ぐインフォメーションへ向かうと開いていました。「ミック・ロンソンに会いたいの。どこへ行けばいい?」と必死に訴える東洋人2名に対し、とても親身になって答え、調べてくれて、地図や資料、行き方まですべて教えてくれました。

ミックの名前の付いたメモリアル・ステージが近いと聞き、まずはそこへ。イエローモンキーはここで演奏したのかと思いながら、誰もいなかったのでお約束のエアギターをし、公園を後にしました。


次に目指すはEastern Cemetery、ミックの眠る場所です。

到着したのは日が陰り出した頃で、おびただしい数の墓石群を目にして圧倒され、途方にくれかけました。でも、旅一番の目的「ミックのお墓にお花を手向ける」ためにはやるしかないと気を引き締め、「よし、君はあっちから、私はこっちから探そう!」と、手分けして捜索を開始したのでした。

時はクリスマスでしたから、墓石の多くにはクリスマス・リースが飾られていて、そのほとんどの墓標はリースで隠されてしまっていて見えない状態。心の中で「ごめんなさい。失礼します。ミック、こちらにいらっしゃいませんか?」と唱えながら、ひとつひとつ、リースを少し動かせてもらい、英字を目でさらって行きました。

開始から10分ほどだったと思います。頭の中では「もう日も暮れ始めてしまったし、明日になるかな。というか、この数の墓石を一つずつ見ていくわけだから明朝から来ても見つけられなかったらどうしよう」と、半ば諦めがチラチラかすめ始めた頃です。

一列ずつ見ていかないとわからなくなると思って順番に見ていたものの、別の列の、少し先にある墓石がなんだかとっても気になりました。シックスセンスなどない私。まさか。でも? と思いながら近づくと、やはり美しい赤のリースがかけられていて墓標が全く見えません。心でご挨拶をし、リースをよけるとそこにはミックの本名が書かれていました。うわ! いた! ミックだ!! 全身鳥肌状態で、別の場所を捜索中の友の名を叫びました。


できることならステージでギターを弾くあなたが見たかった。それがボウイの隣だったなら、なお嬉しかった。けれどそれは叶わない。だから会いに来ました。素敵な音楽をありがとう。そして、呼んでくれてありがとう。

また来ますと告げた後は、ミックの亡き後に発売された「Heaven and Hull」の裏ジャケットに使われているHumber Bridgeを見渡せるポイントを探して写真に収め、しばらくそこで過ごしました。彼もきっと見ていたんだろうなあとか、やっぱり見たかったなあとか、たくさんの事を思いながら。


あれは絶対にミックが呼んでくれたんだと今でも思います。きっと優しい人だったんだろうなと想像することと、あの旅の思い出が毎年のイヴを必ず笑顔にしてくれます。

さ、今年ももうあとわずかで終わります。来年も、そのまた翌年も、自分記念日や思い出を大切に増やせる自分でありたいと思います。では、みなさん、良いお年を。

◆早乙女“ドラミ”ゆうこの【音楽ギョーカイ片隅コラム】
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