【インタビュー】ポール・ギルバート「ニューアルバムに詰め込んだソウルとギターテクを全部話すよ」

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■10代の頃はみんなの注目を集めたくてトリッキーな弾き方をしたりドリルを使ったりしたけどね(笑)
■長くギターを弾いてくる中で、どんどんフィーリングを重視するようになっていった


――では続いて、ギター・プレイについて話しましょう。まずは、トリプル・ハーモニーの多用が今作の特徴になっています。

ポール:シン・リジーやデフ・レパードみたいに、ツインギターのハーモニーで素晴らしいアンサンブルを聴かせるバンドは沢山いるよね。ツイン・ハーモニーでも良いんだけど、3本のハーモニーはよりフレーズを際立たせるというのがあって。シンプルなブルース・フレーズとかも3本でハモらせることで、すごく厚みや洗練感が出る。トリプル・ギターのロックバンドというのはほとんどいないから、珍しい感じになって良いんじゃないかというのもあったし。ただ、クィーンのブライアン・メイや昨日プレイした、ももいろクローバーZのハードな曲みたいにスタジオでオーバーダビングするなら簡単だけど、今回のプロデューサーのケビンは基本的にオーバーダビングを嫌う人で、それを許さなかったんだ。一発録りで、トリプル・ハーモニーを決めろと。それを即興で決めるのはさすがに無理だから、フレディとトニーと僕の3人で事前に入念に練習した。だから、本番の録りはスムーズだったよ。


――3人の息が合っていて、すごく心地好いです。

ポール:なら良かった(笑)。あと、「One Woman Too Many」のギター・ソロはハーモニーになっているけど、元々はアドリブのソロを弾いたんだ。それを聴いたケビン・シャーリーが、これをハモったら一層良くなるんじゃないかなと言って。つまり、アドリブで弾いたソロをハーモニーにしたんだ。そういう曲もあったよ。

――アドリブで弾いたソロをハモったというのは、さすがです。それに、「Woman Stop」や「Blues Just Saving My Life」「ADVENTURE AND TROUBLE」などでは、ボトルネックの腕前も披露されていますね。

ポール:ボトルネック・デビューしたよ(笑)。実はMR.BIG時代のほとんど全部のアルバムで、ボトルネックに挑戦していたんだ。でも、スタジオで僕がボトルネックを使うと、毎回プロデューサーのケビン・ネルソンに「ボトルネックで弾くの? いつものアプローチのほうが良いんじゃないかな」と言われて却下されていた(笑)。彼は、ボトルネックの名手だからね。それで音源になることはなかったけど、今回の楽曲はボトルネックが合うから絶対にやりたいなと思って。ところが、スタジオでやろうとしたら、スライドバーがなくて。いろいろ探したら1本だけあったんだけど、サイズが大き過ぎて薬指にはめるとガバガバでさ。中指にはめると、ちょうど良いわけ。それで、ちょっと中指で弾いてみたら、すごくスライドがやりやすいことに気づいた。あれは、マジック・アクシデントだったね(笑)。ボトルネックは薬指にはめるものだと思い込んでいたけど、僕には中指のほうが合うんだ。それに気づいたことで、今まででよりも断然良いプレイができた。


――上質なボトルネックを味わえます。

ポール:僕自身も、ちょっとビックリしたよ(笑)。せっかくボトルネックをやるなら普段弾いているようなフレーズをボトルネックで弾いてもつまらないなと思って。“タリロリ・ラリラ”みたいなフレーズじゃなくて、“ファーン”みたいなさ(笑)。僕は一時期ジョニー・ウィンターを熱心に聴いていた時期があって、自分がボトルネックでどういうプレイをしたいのかは分かっていたんだ。だから、曲を聴いた時に頭の中で鳴った音を、そのままボトルネックで弾いた感じだった。

――ボトルネックも本当にエモーショナルです。シブいプレイに限らずテクニカルなリード・プレイもアルバムの随所で聴くことができますし、フル・ピッキングの速弾きの滑らかさも注目といえます。

ポール:速弾きがうまくできない人は、右手のピッキングのせいだと考えることが多いよね。それで、ひたすらピッキングの鍛錬をしたりとか。でも、実は解決策は左手にあるんだよ。速弾きができないのは、左手の動きと右手のピッキングがシンクロしていないことが原因だから。どれだけ右手の練習をしても左手が疎かになるとうまくいかないし、かといって左手だけ練習しても良い結果は得られない。つまり、両方を同時に鍛えないとダメなんだよね。それに、僕は常にフル・ピッキングで弾いているわけでもなくて、フレーズによって違うんだ。その辺は、柔軟に捉えてる。


――フィンガリングとピッキングが完璧にシンクロしていることと、フル・ピッキングにこだわらないことが滑らかさに繋がっているんですね。

ポール:そう。あと、ギターという楽器は弦が6本あって、弦によってトーンやフィーリングが違っているよね。つまり、一つの楽器で一つのネックだけど、それぞれの弦が違う楽器と捉えても良いんじゃないかと思う。だから、僕は弾く弦によってピックを弦に当てる角度や力加減とかを微妙に変えているんだ。そうやって、それぞれの弦に対して気を遣って弾くようにしているよ。

――その言葉は、すべてのギタリストにとって参考になると思います。『I CAN DESTROY』のギター・プレイはフレージングの妙とテクニック、フィーリングなどが相まって華やかさに溢れています。

ポール:ありがとう。僕は最近引っ越しをしたんだけど、荷造りをしていたら15歳だった頃の学校新聞が出てきてね。それに、僕のインタビュー記事が載っていたんだ。人生の初インタビューさ(笑)。それを読むと、「将来は、どうしたいですか?」という質問に、「僕は音楽をやっていきたい。それもBGMみたいなものじゃなくて、聴いた人が耳をそばだてずにいられないような音楽をやるミュージシャンになりたい」と応えていた。僕は、まさにそういう音楽をやってきたし、それは今でも変わらない。みんながご飯を食べながらなんとなく聴いているような音楽はやりたくないんだ。オーディンエスの目も、耳も、すべての集中力が自分に向くようなプレイを常に提示したいと思っている。

――高度なテクニックを見せつけるだけではなくて、エモーションを大事にすることで、まさにそういうプレイになっています。

ポール:19歳の頃はみんなの注目を集めたくてトリッキーな弾き方をしたり、ドリルを使ったりしたけどね(笑)。それは本当に10代の頃の話で、長くギターを弾いてくる中で、どんどんフィーリングを重視するようになっていった。楽曲が呼んでいれば速弾きとかもするけど、速く弾く時も感情が伝わるプレイをすることを心がけているよ。


――それは、「ADVENTURE AND TROUBLE」の後半のホットなソロなどを聴くと、よく分かります。そういうスタンスが功を奏して、『I CAN DESTROY』は昔からのリスナーはもちろん、より幅広い層にアピールする作品になりましたね。

ポール:僕自身も、こういうアルバムが作れて良かったなと思っている。今言ってもらえた通り、より多くの人に楽しんでもらえる音楽になっている自信があるから、ぜひいろいろな人に聴いて欲しいね。

――楽しめる人が多いと思います。ところで、『I CAN DESTROY』を引っ提げたツアーを日本で行う予定はないのでしょうか?

ポール:今年の秋に、また日本に帰って来れると良いなと思っている。今年は僕がギターを弾くようになってから40年、デビューから30年という2つのアニバーサリーが重なった特別な年だからね。まだ具体的なことはなにも決まっていないけど、必ず日本公演も実現させたいと思っているよ。

取材・文●村上孝之

リリース情報

『I Can Destroy/ブッこわせるぜ!』
発売中
【UHQCD+3DVD Super DX 盤】
IEZP-96 10,000円
01.Everybody Use Your Goddamn Turn Signal
02.I Can Destroy
03.Knocking On a Locked Door
04.One Woman Too Many
05.Woman Stop
06.Gonna Make You Love Me
07.I Am Not the One (Who Wants To Be With You)
08.Blues Just Saving My Life
09.Make It (If We Try)
10.Love We Had
11.I Will Be Remembered
12.Adventure and Trouble
13.My Sugar (Bonus Track)
DISC 2:
スタジオ・リハーサル
DISC 3:
レコーディング・セッション・アット・リボルヴァー・スタジオ
DISC 4:
リハーサル&レコーディング・セッション・アット・リボルヴァー・スタジオ
DISC 5:
ボーナスDVD/BONUS DVD
【UHQCD 通常盤】
IECP-10334 \2500+税
【UHQCD+DVD DX 盤】
IEZP-98 \4000+税
【UHQCD+DVD+ギター譜セット】
IEZP-97 \7500+税


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