【インタビュー】フレッシュゴッド・アポカリプス「21世紀は、中世の暗黒時代と共通しているんだ」

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イタリアの誇るシンフォニック・デス・メタルの絶対君主、フレッシュゴッド・アポカリプスが4作目となるフル・アルバム『キング』を発表した。

◆フレッシュゴッド・アポカリプス画像

エクストリームなメタルと重厚なオーケストラが織り成す世界観は、本国のみならずヨーロッパやアメリカ、そして日本でも数多くの信奉者を生んできたが、このコンセプト・アルバムによって、彼らの王政はさらに強固なものになることが運命づけられている。バンドのフロントマンであるヴォーカリスト/ギタリスト、トマス・リカルディは、本作の“王”が誇りと尊厳の象徴だと語る。肉体(フレッシュ)と神(ゴッド)が交錯して生み出す黙示録(アポカリプス)について、彼に訊いてみよう。


──フレッシュゴッド・アポカリプスの軌跡において、『キング』はどのような位置を占める作品でしょうか?

トマス・リカルディ:『キング』はフレッシュゴッド・アポカリプスがやってきたことの集大成であるのと同時に、単なる過去の寄せ集めではなく、バンドの現在、そして未来を提示した作品だ。メタルとオーケストレーションがお互いを高め合って、作曲や演奏テクニックなど、あらゆる面においてベストだと思う。ずっとこんなアルバムを作りたかったんだ。顔面を直撃するファースト・インパクトがあって、それでいて何度聴いても新しい発見があるアルバムをね。

──アルバムの曲作りはどのように行ったのですか?

トマス・リカルディ:フレッシュゴッド・アポカリプスの“アーティスティック・ディレクター”はフランチェスコ・パオリ(ドラムス/ギター/ヴォーカル)なんだ。彼が曲の原型を書いて、それぞれのメンバー達のアイディアをまとめながら、フランチェスコ・フェリーニ(ピアノ/オーケストラ・アレンジ)とコミュニケーションを取り合って、曲を完成させていく。

──フレッシュゴッド・アポカリプスの音楽性はメタルと本格的なクラシック音楽を融合させたものですが、メンバー達にはクラシックの素養があるのでしょうか?

トマス・リカルディ:我々全員がクラシック音楽を愛好しているし、パオリは音楽院で数年コントラバスを演奏してきた。メタルをやるために中退したけどね(笑)。フェリーニもピアノを学んで、作曲やハーモニーを勉強してきた。他のみんなも正式な教育は受けていないけど、楽典を独学で学んだり本を読んだり、知識と情熱があるよ。

──『キング』では壮大なオーケストレーションがフィーチュアされていますが、本物のオーケストラを使ったのですか?それともサンプリング?

トマス・リカルディ:アルバムのオーケストラはサンプリングを使ったものだけど、フェリーニはもの凄いディテールまでこだわってフル・オーケストラのスコアを書いて、プログラミングしたんだ。もちろん本物のオーケストラを雇うと費用がかかり過ぎるという事情もあるけど、それよりも細かい部分の修正や変更をやりやすいというのが理由だった。フレッシュゴッド・アポカリプスとして作品を発表していくうちに、クラシックのミュージシャンの友達も増えてきたし、もしかしたら次のアルバムでは生のクラシック奏者とプログラミングを併用する形になるかも知れない。それと並行して、オーケストラと共演するスペシャル・コンサートをいつか実現させたいんだ。きっと凄いものになるよ。

──『キング』の初回限定盤CDにはアルバム全編(2曲を除く)のオーケストラ・ヴァージョンが収録したボーナス・ディスクが付けられていますが、オーケストラ・ヴァージョンはどのように制作したのですか?

トマス・リカルディ:オーケストラ・ヴァージョンは主にフェリーニが創り上げたものだ。アルバム本編のオーケストラのパートを抜き出して、元はロック楽器が演奏していた部分をクラシック楽器に置き換えたりして、アレンジを加えた。これまでのアルバムでもやりたいと考えていたけど、その機会がなかったんだ。同じ楽曲であっても、まったく異なる雰囲気に変化している。ただの“ボーナス・ディスク”ではなく、独立したひとつの作品として聴いて欲しい。


──『キング』のアルバム・コンセプトについて教えて下さい。

トマス・リカルディ:このアルバムは現代社会の揺らぎ、そして我々が守るべき尊厳をテーマにしているんだ。我々は危機の時代に生きている。それは経済的なものだけでなく、価値観の崩壊も含まれているんだ。テクノロジーの進歩は良い点もあるけど、インターネット中毒になってしまったり、物質主義に走って精神性がないがしろになったりする。21世紀という時代はある意味、中世の暗黒時代と共通しているんだ。そんな中で誇りと尊厳を持ち続ける崇高な存在を“キング=王”としているんだ。“王”は揺るがない意志を持っているけど、それと同時に、終わりのない戦いに疲弊もしている。そんな我々の心の中にある“王”を描いているんだ。イメージとしては18世紀後半から19世紀前半、ヨーロッパのどこかの国王だね。まだ威厳があった時代の“王”だ。ただ誤解しないで欲しいのは、決して政治的なメッセージは含んでいないということだ。ヨーロッパには王政を取っている国が幾つもあるけど、その賛否を問うものではない。その精神性を描いたコンセプト・アルバムなんだ。

──テスタメントやソドム、ヘイトブリード、SIGHなどのジャケットを手がけてきたエリラン・カントールによるアートワークは国王の肖像画を思わせるものですが、具体的なモデルなどはいたのですか?

トマス・リカルディ:あの“王”はエリランの頭の中でイメージしたもので、実在の人物を描いたものではないんだ。彼にはアルバムのコンセプトの詳細を説明して、世界観を表現してもらった。彼は威厳を持った佇まいで描かれているけど、あやつり人形のようにひもを付けられている。大勢の人が彼をあやつろうとしているんだ。それに王冠が地面に鎖で繋がれていたり、股のあいだを黒い蛇が這っているなど、深いシンボリズムがある。歌詞を読んでもらえば、コンセプトが見えてくるだろう。

──「パラムール(情熱は苦悩をもたらす)」はゲーテの詩「和解」に曲をつけたものですが、どんなところから着想を得たのですか?

トマス・リカルディ:ジャケット・アートもそうだけど、『キング』は18世紀後半から19世紀前半のロマン主義をモチーフにしているんだ。それで同じ時代を生きた詩人の作品を取り上げることにした。それでゲーテを選んだんだ。音楽的にも「パラムール(情熱は苦悩をもたらす)」はロマン主義音楽のフレッシュゴッド・アポカリプス的な解釈だといえる。ピアノとヴェロニカ・ボルダッチーニのオペラチックな女声ヴォーカルをフィーチュアしているんだ。そして、疾風怒濤の時代の雰囲気を出すには原語のドイツ語をそのまま使った方がいいと思った。

──ロマン主義の時代の作曲家でインスピレーションを得たのは誰ですか?

トマス・リカルディ:もちろんリストは最も重要な作曲家の一人だし、ベートーヴェンとモーツァルトからの影響を避けることは不可能だ。「イン・アエテルヌム」のイントロは21世紀メタルとロマン主義の融合なんだ。もちろんそれだけではなく、「ザ・フール」のリフのコード進行はロマン主義より前、バロック的でもある。時代考証よりも、アルバムをより良いものにするのが俺たちの仕事だからね。

──アルバムのオープニングを飾る「マルシュ・ロワイヤル」はストラヴィンスキーやジャン=バティスト・リュリによる同タイトルの曲が有名ですが、影響は受けましたか?

トマス・リカルディ:いや、タイトルを借りただけだよ(笑)。「マルシュ・ロワイヤル」は“王の行進曲”だし、ピッタリだと思った。アルバム全体の序曲として、最高の幕開けだと考えているよ。

──現代のメタル界において、フレッシュゴッド・アポカリプスと共通する音楽性のバンドはいるでしょうか?

トマス・リカルディ:メタルとシンフォニックなクラシック音楽を融合させていることで、最初に頭に浮かぶのはセプティックフレッシュかな。あと我々自身、ディム・ボガーからはインスピレーションを受けた。ただ、我々のメタル的要素は、アメリカのデス・メタルから受けた影響が大きいんだ。モービッド・エンジェルなどの影響とロマン主義のクラシック音楽をクロスオーヴァーさせるバンドは珍しいから、それが個性になっていると思う。

──『キング』の曲を日本のステージで見ることが出来るのを楽しみにしています。

トマス・リカルディ:2016年2月にアメリカからツアーを開始するんだ。夏にはヨーロッパのフェスティバルに出演することになるから、秋には日本でプレイしたいね。日本のオーディエンスはメタルを愛し、クラシックにも理解が深い。日本のファンのためにプレイするのは、いつだって最高の経験だよ。


取材・文:山崎智之

【メンバー】
クリスティアノ・トリオンフェラ(ヴォーカル/ギター)
トマソ・リカルディ(ヴォーカル/ギター)
パオロ・ロッシ(ヴォーカル/ベース)
フランチェスコ・パオリ(ドラムス/ギター&ヴォーカル)
フランチェスコ・フェリーニ(ピアノ)
ヴェロニカ・ボルダッチーニ(ヴォーカル)

フレッシュゴッド・アポカリプス『キング』

【通販限定/初回限定盤CD+ボーナスCD+Tシャツ】5,500円+税
【初回限定盤CD+ボーナスCD】3,000円+税
【通常盤CD】2,500円+税
1.マルシュ・ロワイヤル
2.イン・アエテルヌム
3.ヒーリング・スルー・ウォー
4.ザ・フール
5.コールド・アズ・パーフェクション
6.ミトラ
7.パラムール(情熱は苦悩をもたらす)
8.アンド・ザ・ヴァルチャー・ビホールズ
9.グラヴィティ
10.ア・ミリオン・デス
11.シフィリス
12.キング
【初回盤限定ボーナスCD収録曲】
~オーケストラ・ヴァージョン~
1.マルシュ・ロワイヤル
2.イン・アエテルヌム
3.ヒーリング・スルー・ウォー
4.ザ・フール
5.コールド・アズ・パーフェクション
6.ミトラ
7.アンド・ザ・ヴァルチャー・ビホールズ
8.グラヴィティ
9.ア・ミリオン・デス
10.シフィリス

◆フレッシュゴッド・アポカリプス『キング』オフィシャルページ
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