【対談】沖ちづる × 藤枝憲 (Coa Graphics)、「ガケから突き落とされても歌い続けたい」

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二十歳を迎えた沖ちづるが2月24日、2ndシングル「旅立ち」をリリースする。初のバンドサウンドに挑んだ同作はタイトル通り、新たな歩みを予感させる歌となった。

◆沖ちづる × 藤枝憲 画像

1stシングル「光」から最新作「旅立ち」まで、全てのジャケットのアートディレクションとデザインを手掛けてきたのがSpangle call Lillie lineのメンバーであり、デザインオフィスCoa Graphicsの藤枝憲だ。両者の対談はアートワークを題材にこの1年間を振り返り、「旅立ち」に至った今の心境を吐露するように深く濃いものとなった。

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■陰と陽だったら、陽
■何の見えないくらい眩しい光をベールに──藤枝憲

──藤枝憲が初めて沖ちづるのライブを観たのは2014年11月7日。1stシングル「光」のジャケットデザインの相談を受け、ライブハウスshimokitazawa THREEに足を運んだ時のことだったという。この時、沖ちづるは18歳の秋を終えようとしていた──

藤枝:沖さんが弾き語りで登場して、自分のペースでしれっと歌って、しれっと帰っていったのが印象的でした(笑)。沖さんとは話をしたこともなくて、お互いに何者かもわからない時期だったけど、真剣さは伝わってきました。存在感があるし“自分の歌”を歌っている人なんだなって。その後、「光」のジャケットをどうするかって打ち合わせがあったんですけど、話をしてみて、しっかりしている人だなって感じました。

沖:私は美術の勉強をしてきたので、やっぱりアートにたずさわってきた藤枝さんの話は新鮮で面白いなって思いました。

藤枝:CDを作るのは初めてなのに、沖さんは「光」のデザインのコンセプトについて、いくつかアイディアを持っていて、それをちゃんと説明できていたんですよね。ベールに包まれている感じがいいとか。あとちょっとした不思議な感じやひっかかりが欲しいとか。「うーん……」と黙ってイメージを話せない若いアーティストもいるなかで、沖さんは違いました。

沖:私は美術系の学校に通っていたんですけど、公表会とかで自分の作品のコンセプトを先生に説明しないといけないんですよね。その経験があったから、藤枝さんにもイメージを伝えられたのかな。もちろん初めてのちゃんとしたCDだったから不安はありました。でも、意見をいったら、それをどう反映すればいいのか、それとも反映させない方がいいのか、そういった話を藤枝さんともじっくりできたのでよかったです。

藤枝:実は、沖さんと話すまでは、わりと暗くて重いビジュアルをイメージしてたんですよ。

沖:ああ。「光」はわりと暗い曲ですからね。テーマとしては。

藤枝:でも、暗いなかに光がさしている曲。それに、沖さんと会ってみたら若くて、可愛らしい女の娘だった。だから、暗い感じにはせずに、光のイメージをビジュアルにしたジャケットがいいよね、しかも説明し過ぎないものがいいよね、というところから話が始まって。でも、1stシングルだから、“はじめまして”というニュアンスも必要。そこからイメージを固めていきました。

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▲1stシングル「光」

──「光」がリリースされたのは2015年2月25日。ジャケット写真の撮影は19歳の誕生日を迎えて2週間ほどが過ぎた12月10日に、千葉県は房総半島、九十九里の海岸で行なわれた。ちなみに「光」にパッケージされているDVDには下北沢kate coffeeでの演奏シーンが収録されているが、それが撮影されたのは沖ちづる18歳、最後の日。つまり「光」は18歳から19歳に移りゆく時期の記録でもあったのだ──

藤枝:最初から「光」を1stシングルにしようって考えてた?

沖:「光」を含めて候補は3曲くらいありました。

藤枝:重いテーマの「光」を押し曲として、しかもシングルCDで出すんだって、びっくりしたんだよね。攻めてるなって。だから、ジャケットのビジュアルは「光」に絞って、光が差し込むイメージだけあればいい、ふわっとした光が撮れればいいんだって、思えたんですよね。陰と陽だったら、陽。何も見えないくらい眩しい光をベールにしてしまえばいいんだって。

沖:九十九里での撮影では、奇跡的に光が差し込みましたね。

藤枝:うん。「この光だ!」っていうのは一瞬だった。

沖:その瞬間、すごく覚えています。

藤枝:「初めての撮影だから、ヌケがいい海で撮影するのがいい、海が写ってなくても海岸の光がいい」って言ったのはカメラマンの笹原清明君だったんですが、きれいな光を撮ってくれました。このジャケットの写真は、後から加工をしてないんですよね。写真自体に力があって完成している。それもいいなって思います。

沖さん:あと私、この撮影の時に、藤枝さんに猫背を指摘されたのをすごく覚えてます。

藤枝:うん。初めての撮影だから不慣れなポーズをキメてもらうんじゃなくて、自然に動いてもらっている状態で撮ろうと、笹原君と話しをしていて。でも、ほっておくと沖さんは猫背になる。背筋を伸ばしたまま歩けない(笑)。

沖:ははは(笑)。でも、始めに考えていた、ベールに包まれている謎な感じが出た写真になってよかったです。“どんな歌を歌う人なんだろう”って思わせてくれるジャケットにも仕上げてもらえたし。

藤枝:で、聴いてみたらいきなりパンチのある「光」が聴こえてくる(笑)。

沖:それに強い感じがするのもすごくよかった。

藤枝:何だろう、このぶっきらぼうな感じは。何者にもこびないみたいな。

沖:目をそらした写真だし、可愛らしくはないですよね……。

藤枝:でも、写真そのものは可愛らしい。いい案配のデザインだと思います。僕は、沖さんの歌は長く聴かれて欲しいと思っていて。だとしたら、誰かが10年後に聴いた時に、時代性とは関係ないジャケットの方がいい。そういう意味でも満足いくジャケットになりました。

◆インタビュー(2)へ
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