異色のシンガーソングライター木山裕策、固い決意と覚悟、歌に込めた熱い思い

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■20歳になった長男~『旅立ち』に込めた想い。子を送り出す親として


──「旅立ち~HOME2016」についてですが、最初これを作るにあたってどういう曲にしようという考えがあったのですか。

木山裕策(以下、木山):この曲が今の形になったのは比較的最近ですね。構想というか、サビの部分のメロディは、実は6年くらい前からずっとあって、僕はずっと大好きな曲だったんです。ただ、今の形とは全然違っていて、何度も形を変えて今の形になったんですけど。構想についてですが、「HOME」は子育てに対しての、子育てをしていて子供が愛おしいと思えるっていう、それを通して自分を生んでくれたお父さんとお母さんへの感謝の気持ちを感じる、という3代に渡る「親子愛」でした。子供はいつか家を出ていく。それは僕もそうであったように、彼らもうちの「HOME」から出て行って、自分の「HOME」を作る、と。そうなったときに、親って何ができるんだろう、っていうことをよく多胡さんと話していて。親って出来ることは少ないけど、「転んだ時に、いかに頑張って立ち上がらせるか」みたいなところを、(自分の)背中で見せてあげないと、と。子供たちって、やっぱり悩むだろうし…悩んでも全然いいと思うんですよ。悩むものは悩んで、ただ周りの人がちゃんとそこを助けてあげるという事と、やっぱり「立ち上がるときは一人でしか立ち上がれないんだよ」ということが示されていれば、僕は別に…「大きくなったら一人で頑張れよ」って見送れる。だからそういう意味で、「子供の旅立ち」というのをテーマに、次に僕はそういった曲を歌いたい。

──多胡さんと歌詞についていろいろ話し合って。

木山:はい、もちろん書かれたのは多胡さんなんですけど。多胡さんはいま群馬にお住まいなんですけど、こちら側にもう何度も足を運んでくれて…「HOME」をアレンジした米田君のうちが経堂にあるんですけど(笑)そこに集合して、今回もずーっと一緒にああやこうや、って。「どっちがいいと思う?」とか僕に聞いてくれて。

──本当に歌詞がリアルで。「ママより大きくなった君に可愛いなんて言えないね」と、このかんじがまた。

木山:このあたりが本当にそうなんです、多胡さんすごいなぁって毎回、思います。この辺も「実際親ってそうだよね」っていう話をしている中で書いていただきましたね。

──やっぱり長男の、成人式を迎えるお子さんのかんじがここに。

木山:今回の曲は(長男のストーリーの)遺伝子が大きいですね(笑)そうですね。もちろん、いろいろあって、反抗期も長男はけっこう派手で。大人しい子だったんですけどいろいろありましたね(笑)。男の子だしね。可愛かった子が、そんな大変な時期も経て、もう高校に入ってからはだいぶ落ち着いたんですけど。いまは映画に一緒に行ったりとかして、いろいろ話をしています。男親と男の子ってそんなにベタベタしないじゃないですか。もちろん僕も全然していないんですけど、ただ彼女をこないだ僕のライブに連れてきたんですよ。

──それは嬉しいですよね。

木山:なんかね。まあ、「そうやって大きくなっていくんだね」ってみたいな話を(多胡さんと)している中で出来たので。モチーフとして長男は大きいと思います。

──「雨じゃないのに長靴を履きたがった」…これがまたすごいイメージで。

木山:ここだけ過去に戻るんですよ。ここだけ「HOME」に戻るんです。曲調もここだけ変わって、全て音楽が止んで、思い出すようなノスタルジックなメロディに変わって。子供ってこういうもんなんですよね。本当に理由が無いんですけど、長靴ってすごく男の子にとっても女の子にとってもスペシャルなもので、雨の日しか履けないっていうルールが彼らにとっては理解できないんですよ(笑)男の子にとっては冒険に適している、何踏んでも痛くない(笑)。

──これは親じゃないとわからない感覚。

木山:これって「あるある」みたいなんですって、聞いたら。(長靴は)女の子はやっぱりファッションとして、おしゃれなイメージがあるみたいでね。理由もないこういう事って子供の頃に言っていたよねって…ここだけ世界観が「HOME」に戻って、最後また急にガーンって壮大なサビが来る、というそういう流れになっていて。「HOME」は最後の大サビが一番熱くなるんですけど。一番盛り上がって声を張っていくところなんですけど、今回は逆に1サビから声張って、ガーンっていくのでここだけ別の世界観になる、逆の作りになっています。

■歌のスタート地点であり、歌の永遠のテーマ…「家族」、そして「HOME」

──サブ・タイトルで「HOME2016」とついていますが、HOMEは木山さんが歌うに当たってのテーマですね。

木山:歌のスタート(地点)なので、そうですね。「何のために歌いたいか」を考えた時に僕には家族がいて、病気になったけど、ちゃんと家族に声を残したいというところから始まっていますので、それはずっと真ん中にありますね。

──今後も歌い続けていくに当たって家族はテーマだと。

木山:そうですね。子供がまた旅立った後も、また何かいろいろとあるのかもしれないですしね。あとは結婚するとか、いろいろな事がもちろんあると思うんで。「HOME2016」って続編っぽくなっていますけど、基本的には全く別の曲で。曲調は全然違うんですけど、この辺りのフレーズ、「手をつないで帰ろうか」がが一緒だったりね(笑)。

──木山さんはやっぱりHOME~家~家族というのは大きなテーマで、それは絶対変わらないですよね。いま47歳で、いよいよ50代目前じゃないですか。今後はどういう風に人生を歩んでいかれるヴィジョンがあるのでしょうか。歌も含めて。

木山:そうですね、僕は…そんなに壮大なヴィジョンはないんですけど、ただ僕はずっと信じているんですけど、歌って何か凄い力を持っているんじゃないか、と思うんですね。それは、歌っているときの僕自身の感情の変化と、あとは歌…音楽ですよね、音楽を聞いているときの皆さんの顔とか態度とかって、何かが一つになっている感じがするんです。だから僕は歌を通してこの何年かずっと、…児童養護施設っていうのがありますけど、そこに入っている子供たちを支援しようって、そこの施設に行って歌を歌おうと。お父さんばっかりでオヤジバンド組んで歌おうって言って、そこで何度も歌っているんです。僕は家族を核にした歌を歌う事で、子供たちが安心して住める社会のために役に立ちたい、というのが僕のテーマなんですね。難しいんですけど(笑)。なにかしたい…まだそこは僕は信じているんですよ、歌って。楽しむものでもあるんですけど、人の心を平和にするものではあるんですけど、または気づきを与えたりとか。もっと、自分も子供たちのためにちゃんと生きないといけない。子供たちの事を考えたら、戦争を起こそうとか普通思わないはずなんでしょうけど。本能としてあるにしてもね、人間って。今ってすごく怖いことが起こりがちなので、そういう意味では子供たちが住みやすい平和な世の中にしてあげたい。責任があると思うんですよね。そういう気持ちなんです、僕は。

──なるほど。元々パーソナルなものだった歌、音楽が、子供を通じて「HOME」になってさらに…。

木山:そうですね、「伝えたい」という思いが持てるようになったのが歳を取ってからですね。

■タイガーマスク基金。サラリーマンと歌手の両立

──その活動は2016年も継続的にやっていかれるのですか?

木山:「タイガーマスク基金」というのがあってですね、「ファザリング・ジャパン」というお父さんたちの集まりがあるんですよ。そこの代表の人と僕、仲が良くてそれがきっかけで。その方が始めたのが「タイガーマスク基金」。児童養護施設にはすっごい難しい子たちがたくさんいるんです、だってお父さんもお母さんもいないから。ただ、オヤジ達が歌うんですけど、ちゃんと聴いてくれるんですよね。良い事ばっかりじゃないんですけど、ただ、やっぱり続けていかないとダメだよねって。ちょっとこの半年くらい(活動参加に)時間が空いちゃっているんですけど、「続けていかないと」ってお父さんたちが入れ替わり立ち替わりでちゃんと行ってますね。

──その活動はとても興味深いです。さて、この言い方はあれですけど、「二足の草鞋」というか、木山さんの生活と言うのは、古くは小椋佳さんとか…。

木山:小椋佳さんですよね(笑)。小椋佳さんはもう、素晴らしいですけどね。あの方は(会社も音楽も)どちらもすごいところまで行かれましたよね。いやもう全然足元にも及ばないんですけど。凄いと思います。

──木山さんはやはり、サラリーマンとしての生活も続けていかれる。

木山:そうなんです、子供を育てるという事はもうマストなんですね。だから、やっぱり安定した生活を確保するためには僕はそこは…子供が27歳の時に生まれて、会社員になったときと気持ちは全く同じですね。ちゃんと子供のために働くと。そこは崩さない、と。

──「音楽なのか、サラリーマンなのか」って言われちゃうと困っちゃう、ってかんじですね。

木山:困っちゃう。音楽だけでもちろん行ければいいんですけど、僕も8年やっていますけど、なかなか難しいかな、と思います(笑)浮き沈みがありますから。どっちかに、というのがなかなか難しい。

──形として「どっちになる?」って言われちゃうとあれだけど、両立しているわけですものね。

木山:難しいんだけど、そこのバランスを取りながらやっていくのがたぶん僕のやり方なのかな、っていうのがこの8年間ですね。そりゃ歌を歌いたいし、歌を歌うだけで子供を育てられるならすごい素晴らしいんだろうと思うんですけど…ただ、ちゃんと子供たちを育てないといけないので、この形なのかな、と思ってますね。

──新譜のタイトルは『F』とありますが。

木山:『F』ですね。これはFAMILYのFとFATHERのFをかけています。

──このアルバムはどういう人にどう聴いてほしいとかありますか。

木山:そうですね…この「旅立ち」が入っているので、やはり子育てをしているお父さんお母さんたちにエールを送りたいというのは「HOME」と同じなんですけど。今回はそれに加えて、テーマがお父さんとか家族というもので選んだカヴァー曲がアルバムには10曲ほど入っているので、比較的僕普段歌わないような、ナオト・インティライミさんとかJUJUさんとか、若い方のカヴァーも入っていますので逆に若い方も…実は「HOME」は、学生さんとかも意外と聴いてくれていたりするんですね。なので、若い方の曲を聴いてもらったうえで「旅立ち」を若い方が聴いたらどんな風な反応なんだろう、って僕もすごい気になるので、たくさんの世代に聴いていただきたいですね。

Cover Album『F ~守りたい君へ~』

2016年3月2日(水)発売
UICZ-4342/3,240円(税込)
[収録曲] ()内はオリジナル歌唱者
1. 旅立ち ~home2016~
2. 思いがかさなるその前に (平井 堅)
3. ひまわりの約束 (秦 基博)
4. TOMORROW(岡本真夜)
5. 奏(かなで) (スキマスイッチ)
6. スタートライン(馬場俊英)
7. ただ、ありがとう(MONKEY MAJIK)
8. 今のキミを忘れない(ナオト・インティライミ)
9. 家族になろうよ(福山雅治)
10. 僕が一番欲しかったもの(槙原敬之)
11. 誕生(中島みゆき)
12. やさしさで溢れるように(JUJU)


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