YouTubeの超一般化とともにミュージックビデオの役割は高まる一方だが、映像作品としての完成度と話題性を常に誇るアーティストが水曜日のカンパネラ(以下、水カン)だ。これまでにも、桃太郎、マッチ売りの少女、千利休、ドラキュラ、マリー・アントワネット、クレオパトラ、ゴッホ、など実在する/しないを問わず、個性的なモチーフを楽曲のテーマにし、独自の解釈を提示してきた水カン。コムアイという稀代のパフォーマー兼クリエーターを全面に出し、オリジナリティのかたまりのような作品を次々と公開してきた。

その最新版として新たに公開されたのが、「チュパカブラ」だ。これは、Red Bull Energy Drink THE SPRING EDITIONの発売を記念し、“RED BULL×水曜日のカンパネラ”がコラボレーションして制作されたミュージックビデオだ。チュパカブラとは、主に南米で目撃される吸血UMA(未確認動物)のことで、映像ではコムアイがピンク色の血液を吸われ“チュパカブラ化”してしまうというストーリーが展開される。今回のこの企画の発表タイミングから、水曜日のカンパネラが謎のピンクコラボをスタートした……と話題を呼んでいた。



コムアイが、「自分の頭の中でストーリーが具体的に浮かんでいたミュージックビデオは初めて」と語る映像の物語はこうだ。夜のドライブインで怪しく光るデコトラ。携帯ゲームや携帯電話でおもいおもいに過ごす若者たちであるが、一人の女性(コムアイ)がデコトラ内に導かれていく。そこに広がるのは診察室……。コムアイは、ピンク色の血液を吸う人/吸われる人という2つの役柄を、彼女にしかできない変幻自在な身のこなしで演じ切っている。踊り狂う医者たちの中でコムアイがベッドに拘束されるなどヴィヴィットなシーンがあるかと思えば、スモークに包まれた森の中でコムアイが華麗に舞う幻想的なシーンもある。この舞いのシーンでは、変身した体内の細胞が未知なる解放感を覚えているようにも映るだろう。実際にコムアイもこのサクラフレーバーについて、「人を元気にしたりするもの、恋愛の媚薬のようなもの、ホルモンのバランスを変える薬のようなイメージ。人の気持ちを変えてしまうような役割があったら面白いと思った」と語り、映像には象徴的にピンク色がいたるところに配されている。そしてデコトラという享楽的で非現実的な世界観も、この趣旨にマッチしている。

また、楽曲そのものと映像の深いシンクロニシティも見どころだ。「歌とラップの差を画でも見せたい」と本人も語っているようだが、メロウネスたっぷりの歌のシーンではスローモーションがかった演出がほどこされ、片や、医療用語が連射されるラップのシーンは観ている側の心臓がドクドクしてくるような狂騒的なスピード感が強烈。

本当に隅から隅まで、めくるめく場面展開のそのすべてが意味深だ。ラストも、まるで湊かなえのミステリー小説のように鑑賞し終わったあとにハッとさせられるドラマチックな仕上がり。誰もが持っている変身願望を触発する起爆剤のようであり、水カンならではの芸術的な創造性がいかんなく発揮されているミュージックビデオである。実際に、「編集チェックで繰り返し見ていたら、体がカッカして脂汗が出てきました。血液の組成が変わってしまったような不気味な感覚。女の子には特に見て欲しいミュージックビデオです。」とコムアイは語る。

また、随所に見受けられるディテールにまで及ぶ彼女らしいこだわりにも注目して欲しい。今回のサウンドに90年代のディスコサウンドのテイストが感じられるためであろうか、映像の登場人物の服装は、コムアイが小さいころ自分の近くにいたカッコイイお姉さんのリバイバル的なイメージだという。さらに当時のカルチャーも折り込みたいという気持ちから、自前のゲームボーイやJ-phoneなどの懐かしいアイテムも持ち込まれて撮影された。「細かいところに着目してもらえる楽しい仕上がりになった」とコメントしているように、水カンのミュージックビデオならではのさすがの情報量だ。

ちなみに、2015年に行われたインタビューでコムアイは「サービスエリアで何かやりたい」「デコトラとか素敵!」という目標を掲げており、その夢が叶ったのが今回の作品でもある。溢れるアイデアを具現化し、いつもそれが我々にエンターテイメント性豊かな驚きを与える水曜日のカンパネラというアーティストの個性が爆発したミュージックビデオである。

text by RYOKO SAKAI