【連載】フルカワユタカはこう語った 第6回『リズム』

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バンド時代、飛び道具的なギターソロを多く弾いていたせいで、僕には“ギターボーカルにしては速弾きが上手な人”という宴会芸人のようなレッテルがついて回る。僕が速弾きを楽曲に取り入れていたのは、あくまでも“周りにそういったバンドがいないから個性を出す為”であって、そもそも意味なく速いフレーズを弾くのが好きなわけではない。よくよく楽曲を聴いてもらえば分かるが、これ見よがしなギターソロなんてまず無いし、僕がそれっぽい(余興的な)ことを人前でやったのは解散ライブの時だけだ。

◆フルカワユタカ 画像

未だに「凄い速いの弾いてみて」とか頼まれるが、僕のソロは裏に流れるビートあってのものなので、ここでギターだけピロピロやってもなんとも‥…、というのが本音だ。とにかく僕は“ギターボーカルにしては速弾きが上手な人”ではなく、“ギターが凄く上手くてちょっと歌も歌える人”なのだ。

繰り返すが、僕の特徴は速弾きにあらず(もちろん速くも弾けるが)。僕のギターの最大のポイントはなんと言っても“リズム”。例えば以下の様な典型的なストロークフレーズがある(図1)。

▲図1

山口から上京してきて、大学の軽音部に入ったとき、初心者の女の子でも難なく弾けるこのようなフレーズを僕は上手く弾くことができなかった。どうしたって、二つ目のアップストロークが上手く弾けない。ついつい、全部ダウンで弾きたくなってしまう。メタルやハードロックのせいで右手をダウンピッキングに漬け込みすぎたからだと、狂ったようにこのプライマリーなストロークを練習し、もれなく手首を痛めた。

まさにギタリストとしては恥ずかしい黒歴史なのだが、これはそこを乗り越えた故にリズムが良くなっただとか、カッティングが上手くなったのだとかいう話ではない。事実はその逆。僕は元々リズムが良かった。僕のストロークに問題は全くなかった。僕が手首を痛めたのは、自分の中に存在しない不必要なアップストロークを機械的に放り込んだ結果に過ぎなかった。ドーパンのいつ頃まで“図1”のようなフレーズをオルタネイトのストロークで弾こうと頑張っていたかは忘れたが、結局僕は今このフレーズを全てダウンで弾いている。

僕のダウンピッキングは特殊だ。僕は手首を“ふり下ろしながら”4分音符を弾く。そして“戻しながら”4分裏=8分音符を弾く。後者は僕の感覚ではアップストロークとも言えるのだが、見た目は前者とともに完全なるダウンピッキングだ(僕のスカの裏打ちがダウンピッキングなのもコレ)。この2種類のダウンピッキングに加え、8分裏=16分音符を弾くアップピッキングにも“ふり上げながら”と“跳ね返りながら”の2つが存在する。

お分かりだろうか、普通の人はアップダウンの2種類しか無いピッキングが、僕にはアップダウンにそれぞれ2種類づつ、計4種類存在するのだ。理由は分からないが、とにかくそう弾いている。僕はギターを始めた頃からダウンピッキングが他人に比べて異常に速かった。一回のふり下ろしで二回音を出していたからだ。ある時その特徴に自分で気づき、意識的にコントロール出来るよう沢山トレーニングをした。そして今に至る。

僕の大好きなリズムフレーズがある(図2)。4、8、16分が一回づつ全部出てくるリズムフレーズだ。人によっては「2拍3連」と言ったり、単純に「跳ねてる」と言ったりするリズムだが、僕の楽曲にはとにかくこれが顔を出す。ちなみに、これをもっと僕なりに書き直すと、裏拍スタートで感覚的にはこうなる(図3)。

▲図2

▲図3

昔、ハヤトに「ユタカは英詞なら歌い出しは仮メロのまま4拍目裏からなのに、日本詞にすると1拍目からになってしまう」と指摘されたことがある。分析こそしてないが、それも何かこの辺の理由があってのことかもしれない。

と、相当玄人かつ、感覚的な話を書いてしまっているので、どれほどみんなに伝わっているのかは定かではないが、この難しい話題を今回敢えて取り上げたのにはもちろん理由がある。実は最近、この特殊なストロークが僕と同じなのではという人物に遭遇した。その人とは何を隠そう、現在サポートで一緒にツアーを回らせてもらっている、ベースボールベアーの小出君に他ならない。一緒に演奏していてリズムの相性がいいなと思っていたのだが、ここ数回のリハや本番で核心に触れた気がしたので、福岡のリハ前に楽屋で切り出してみた。

   ◆   ◆   ◆

フルカワ「小出君に一つだけいいことを教えてあげようか?」

小出「え。はい」

フルカワ「ダウンストロークでね、2回音を出すんだよ。ほら、こう、1回の振りで2回」

   ◆   ◆   ◆

僕の指摘を受けて小出君が弾き始めた。やっぱりそうだ、ちょっとぎこちないが基本的にはそう弾いてる。首をかしげながら、「よくわからないですけど、なんか昔からそう弾いてるかもすね」「そう思ったから言ってみたんだよ。やっぱりそう弾いてるっぽいね。それをコントロールして弾けるようになれば今より飛躍的に上手くなるよ」

今回のツアー、ご存知の通り、ファンにとってもバンドにとっても形容し難い特別なツアーであることは間違いない。だからこそ、このツアーに関してはせめて3人の発想やら想いやらのみでステージが作られるべきだと僕は信じている。セットリストなどもちろん一切口出ししてないが、その他細かい所まで(MCは性格上ペラペラと……申し訳ない)僕はノータッチ。紛れもなく、3人とベボベスタッフだけでつくっているステージだ。それは演出のみならず、音楽的なことも同様、アイツのギターではないというだけで相当な違和感や変化があるわけで、それ以上の影響は与えないよう細心の注意を払ってきた。大袈裟に言うと3人と“あまり仲良くならない”ようにさえしてきた。

その大義とは別に、そもそも僕は人にギターを教えるのが好きじゃない。エレキギターは教わって上手くなるものでもないし、どう教えていいかも分からない。僕自身、誰かに教わったわけではないから、教えるということに大いなる矛盾も感じる。アイツにも何度かギターを教えて欲しいと頼まれたが、一緒に腕立て伏せをしたり、発声練習をしたり、あとは教えない理由を教えたりした。小出君に切り出したこの話だって、「教えてあげようか?」は会話のきっかけに過ぎず、“え、君にもこのオバケ見えてんの?”を確認したかっただけというのがオチだ。彼に新しい何かを植え付けるつもりなど毛頭なかった。

小出君のダウンピッキングを見ながら密かに興奮を覚えていると、ふいに彼が質問を返してきた。「ちなみに、ピックってどう持ってます?」「あ、俺はちょっと変わっててね、中指と親指で握って、人差指は添える程度なんだよ、こうするとね手首が楽だから」。ヴァンヘイレンを真似して覚え、パットメセニーで確信した、ひとまず日本人では他に出会ったことの無い僕ご自慢の持ち方だ。

   ◆   ◆   ◆

小出「あ、ほんとだ、なんかブレーキが取れてバキッと弾ける」

フルカワ「あ、でも、ピックの持ち方はあまり急に変えない方がいいよ、本番はどうしても力んじゃうから怪我したりもするし、それよりダウンストローク1回で2個音を……」

小出「ナイル・ロジャースもなんかこんな感じで持ってますよね? ナッツをつまむような」

フルカワ「うん、でもね急に持ち方を変えるとね……」

小出「ずっと不思議だったんだよな」

フルカワ「まあ、ずっとこれで染み付いてるからね俺の場合は。小出君もね、慣れ親しんだら……」

小出「こ・れ・だ・な!」

   ◆   ◆   ◆

▲@Base_Ball_Bear_

3月19日付けの彼のツイート。

教えてないよ。僕は信条として他人にギターを教えたりはしない。今回の出来事を敢えて表現するなら、僕はピックの持ち方を”盗まれた”だけだ。同じストロークを共有したくて、遠慮していた音楽の話を敢えて切り出した結果、ピックの持ち方を盗まれたが黙認しただけだ。新しい玩具を手に入れた子供のように本番までギターを練習をしまくってる君を見てたら「それ!!俺の!!」とは言えなかっただけだ。

緊張は解かないようにと決めていたけど、リズムが合えば所詮僕らはミュージシャン。残り数本、少しは楽しんでもいいのかなと。

これはそんなお話。

■<Base Ball Bear Tour「LIVE BY THE C2」>

3/05(土) 仙台darwin
3/11(金) 岡山IMAGE
3/12(土) 高松MONSTER
3/19(土) 福岡DRUM LOGOS
4/02(土) 名古屋DIAMOND HALL
4/09(土) 新潟LOTS
4/15(金) なんばHatch
スタンディング/¥4,500-(税込/1D代別)
※3歳以上チケット必要

■<Base Ball Bear Tour「日比谷ノンフィクションⅤ~LIVE BY THE C2~」>

4/30(土) 日比谷野外大音楽堂
開場17:00/開演18:00
(問)ディスクガレージ/050-5533-0888(平日12:00~19:00)
指定席/¥4,700-(税込) / 後方立見¥4,200(税込)
※3歳以上チケット必要/雨天決行

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