チープ・トリック、新作と新展開…そして殿堂入り

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実に約7年ぶりとなるチープ・トリックの新作オリジナル・アルバム、『バン・ズーム・クレイジー・ハロー』が4月1日、待望のリリースを迎えた。通算17作目のスタジオ作品ということになる。バンドは今年、ディープ・パープルやスティーヴ・ミラー等と同時に、ついにロックンロールの殿堂入りを果たし、4月8日にはそのセレモニーも控えている。

◆チープ・トリック画像

3月中旬のある日、このバンドの創設者であるギタリストのリック・ニールセンに電話インタビューをする機会があった。「セレモニーでのスピーチについてはもう考えてあるんですか?」とこちらが質問すると、彼は「いきなりその話か。先方からは50年にも及ぶ俺のキャリアについて、たった1分で語れと言われているんだが、不可能だっつーの(笑)。だから“それについては日本人ジャーナリストの増田ってやつに聞いてくれ”と言うことにする。いひひ……」という回答。彼とはこれまで何度も取材の機会を重ねてきた筆者だが、そのたびにこうしてイジられるのがすでにお決まりのパターンになっていたりもする。そこで筆者がさらに「しかし正直なところ、もう何年か殿堂入りが早くても良かったように思うんですが」と突っ込むと、彼は次のように語っていた。

「いや、遅すぎるということはない。俺は喜んでいるし、結果的には完璧なタイミングだったんじゃないかとも思える。ちょうど好ましい変化が続いてきたところだからね。マネージャーが変わり、ドラマーが変わり、新しい会社から新しいアルバムが出て、ここからまだまだ新しい人生が続いていくんだから」

すなわちこの『バン・ズーム・クレイジー・ハロー』は、チープ・トリックの新章突入を象徴する作品でもあるということ。実際、今作は彼らにとっての新しいホームにあたるBig Machineからのリリースとなる(日本での発売元はユニバーサル・ミュージック)。テイラー・スウィフトや、エアロスミスのスティーヴン・タイラーも契約しているカントリー・ミュージック系の会社だ。もちろん彼らの音楽がカントリー側へと方向転換しているわけではないのだが、その事実について、「あなた方がカントリーに路線変更するんじゃないかとヒヤヒヤしていましたが、安心しましたよ」と告げると、リックは移籍の経緯なども含めて、以下のように説明してくれた。

「俺たちがカントリーに路線変更? それは最悪なアイデアだ(笑)。実はもうかれこれ4年ほど前の話になるんだが、この会社のCEOであるスコット・ボーチェッタという男と出会ってね。彼は“あなたたちの大ファンなんです。協力できることがあれば何でもやりますよ”と言ってくれてね。俺からすれば“よしよし、言ったな”という感じだった(笑)。というのも当時の俺たちはマネージャーやエージェントの件でも問題を抱えていたし、ドラマーの件では訴訟にまでなっていた。そこで俺たちは彼に協力を願ったわけだ。しかも彼は俺たちに、俺たちのままでいることを望んでくれた。なにしろ俺たちのファンなんだもんな(笑)。おかげさまで、この新しい拠点は心地好いよ。カントリーをやってくれとも言われなかったし(笑)」

実際、この『バン・ズーム・クレイジー・ハロー』にはチープ・トリックならではの、色鮮やかにポップで、敷居は低くて間口も広いのに奥の深い、シンプルでありながら噛み締めるほどに味わいの増してくるロックンロールが詰まっている。


確かにオリジナル・ドラマーであるバン・E・カルロスがこの場にいないのは寂しくもあるが、リックの息子であるダックス・ニールセンがこのバンドの新たなエンジンになってから、すでに6年が経過していたりもする。リックに「6年を経て、あなたとダックスとの間に何か変化はありましたか?」と尋ねると、「あいつ、俺のことをリックと呼ぶようになった」と言って笑っていた。バンド内においては“父親と息子”ではなく、名前で呼び合うメンバー同士ということなのだろう。

「そりゃそうだ。あいつがここにいる理由は俺との血縁関係なんかじゃない。バンドとしてベストな選択だと判断したからこそ、そうしたんだ。デイヴ・グロールやチャド・スミスも誘ったんだけどね」

リックはこう言い、ふたたび笑う。彼との話はもちろんこの程度で終わりはしなかったが、さすがに一度にはご紹介しきれないので、また改めて次なる記事をお届けするつもりだ。まずはとにかく、この最新充実作に触れてみて欲しい。チープ・トリックを愛し続けてきた人たちにも、彼らのことをまだよく知らない人たちにも。

増田勇一


チープ・トリック『バン・ズーム・クレイジー・ハロー』

2016年4月1日発売
SHM-CD POCS-24010 \2,600円+税日本盤ボーナス・トラック収録
1.ハート・オン・ザ・ライン / Heart On The Line
2.ノー・ダイレクション・ホーム / No Direction Home
3.ホエン・アイ・ウェイク・アップ・トゥモロウ / When I Wake Up Tomorrow
4.ドゥ・ユー・ビリーヴ・ミー? / Do You Believe Me?
5.ブラッド・レッド・リップス / Blood Red Lips
6.シング・マイ・ブルース・アウェイ / Sing My Blues Away
7.ロール・ミー / Roll Me
8.ジ・インクラウド / The In-Crowd
9.ロング・タイム・ノー・シー・ヤ / Long Time No See Ya
10.ザ・サン・ネヴァー・セッツ / The Sun Never Sets
11.オール・ストラング・アウト / All Strung Out
12.アラベスク / Arabesque ※
13.アイド・ギヴ・イット・アップ / I'd Give It Up ※
※日本盤ボーナス・トラック
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