【ライブレポート】山崎まさよしなど5人が『音楽と人』イベントでアコギの調べ

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雑誌『音楽と人』主催のイベント<音楽と人 LIVE 2016“東京アコースティック百景”>が4月17日(日)、新木場STUDIO COASTにて行われた。

◆<音楽と人 LIVE 2016“東京アコースティック百景”> 画像

出演は山崎まさよし、大森元貴(Mrs. GREEN APPLE)、佐藤千亜妃(きのこ帝国)、山内総一郎(フジファブリック)といった4名に加え、オープニングアクトとしてシンガーソングライターの沖ちづる。バンドやソロの垣根を越え、それぞれの歌唄いたちが彩った一夜の模様をレポートする。


開場時間から20分ほど経った頃、まだ開演前のステージにオープニングアクトとして沖ちづるが姿を現した。赤一色のドレスに身を包んだ彼女は、物憂げながら柔らかな歌声で観客達をお出迎え。13歳の頃に、20歳になった自身に宛てて書いた手紙が元になっているという「二十歳のあなたへ」など3曲を披露した。

まさに現在20歳である彼女だが、“優しい大人になれていますか?”と唄う声はちゃんと優しく、観客の心に入り込んだ。早くから会場に集まった者だけが授かることのできた静謐なひとときとなった。


開演時刻に幕が開くと、ステージに立っていたのは山崎まさよし。誰もがトリだと思っていた彼の登場に少々ざわめいたものの、一曲目「Passage」が始まると会場全体が圧倒的な集中力で演奏に聴き入った。

「老兵はチャッチャとやって若い人たちをいろいろ聴きながら楽しみたいと思います」──山崎まさよし

と冗談めかしたコメントを述べた山崎だが、スティングの「Englishman in NY」のカヴァーではパンデイロ(ブラジル風のタンバリン)を用いてループを作り、力強い右手のタッチでギターと戯れる姿には、キャリアの重なりが光っていた。持ち時間が30分であることについて、「すごいやろ! 俺もこんなに短いの久しぶりや!」と笑い、「ワタクシのことを初めて観る人もこの歌くらいは分かると思います。野菜の歌です」との紹介を経て、ラストソング「セロリ」へ。まさかのトップバッターはしっかりと会場を盛り上げ、颯爽とステージを去った。


続いて登場したのは大森元貴(Mrs. GREEN APPLE)。深々とおじぎをし、ギターを手に取ると細やかなアルペジオを鳴らしてみせる。しかしその後、挨拶をしようとした開口一番で声がひっくり返ってしまい、会場中に笑顔が溢れた。

「楽屋で食べたトンカツが出てきそうなくらい、めちゃめちゃ緊張してます」──大森元貴

と恐々とした表情を見せたが、いざ「愛情と矛先」の演奏が始まれば初々しさと大胆さが同居した堂々たる歌唱で観客を引き付ける。「いつもはMrs. GREEN APPLEというバンドで、若さを振りかざしたような音楽をやっているんですけど(笑)」と自身のバンドについて話す大森。「HeLLo」に入る前に観客とシンガロングの練習をする際にも、「やり方が分からない……いつもは続いてやってみせてくれる人が隣にいるんですけど」とつぶやき、メンバー不在が気にかかる様子をみせた。しかし、ラストに披露した未発表曲「デアイウタ」のように人間同士の関わり合いをテーマにした楽曲の多い大森らしく、一人きりでも、最後まで観客と精一杯向き合ってみせる謙虚なステージとなった。


そして佐藤千亜妃(きのこ帝国)の出番だ。幕が開けるともう佐藤はそこに立っていて、ギターを大きくかき鳴らし「疾走」を唄い始める。押し寄せてくる彼女の存在感に会場中が息を飲んだ。この日の共演者である山崎まさよしについて「もともと私の兄が山崎さんのファンで、兄が唄ったりギターを弾いたりしているのを見て自分も音楽を始めたんです」と思いを述べ、こう続けた。

「今日を迎えるまで、何かあった時のためにこっそり山崎さんの曲を練習してまして。でもご本人のあとに演奏するのもおこがましいなと思ってたんですけど、ちょっと、やっても良いですか?」──佐藤千亜妃

唄ったのは、山崎が1996年に発表した楽曲「ふたりでPARISに行こう」だった。その後、自身の楽曲「東京」と新曲「クライベイビー」を披露。決して高ぶることはしない地に足のついた佐藤の声に、“10年後も、100年後も、ずっときみのそばに”と永遠を願う歌詞が乗ると、穏和な空気がふっくらと膨張して、会場中が幸福感に満たされた。


この日のトリを務めたのは山内総一郎(フジファブリック)。一曲目「ブルー」から熱唱で観客を圧倒。「自由に楽しんで帰ろうと思います」とはにかんでみせ、「桜の季節」ではさらなる熱唱で歌心を滾らせた。小気味よいリズムに自然と手拍子が起きた「LIFE」では、合間にスキャットを挟んだところで「ああ、疲れた!」と曲を途中で中断。一笑を買ったところですぐに再開するのだが、自由奔放にその場を楽しむ姿にこちらまで笑みが溢れる。

「今日主催してる『音楽と人』のことを“おんひと”って略す人と、“おとひと”って略す人がいると思うんですけど、どうですか? あ、そんな人いないですか?」──山内総一郎

といった他愛ない話から流れるようにさりげなく始まった「若者のすべて」。続く最後の曲「虹」では、ドライヴ感のあるギターの音色に再び手拍子が自然発生。それを見て山内は「それそれ、すごい嬉しい!」と笑顔でこぼしながら歌に入った。時間を目一杯味わうかのごとく、ギターソロもたっぷりと披露。アドリブで遊んでいるかのように自由な展開に沸いていると、聴き覚えのある別の楽曲、山崎の「セロリ」のコード進行に突入。そのまま気持ちよさそうに「セロリ」のサビを唄い上げた後、また「虹」に戻り、会場の盛況を存分に堪能して山内はステージを去った。

観客からのアンコールに応え、ステージの上にセットされた4本のスタンドマイク。その後、本日のメインアクト4名が登場し、束の間のトークを行なった。きのこ帝国の佐藤に対し「今日は帝国はお休みなんですか?」と問う山崎の姿に会場も大爆笑だ。最後は4人でザ・タイマーズの「デイ・ドリーム・ビリーバー」をセッション。山内から唄い出し、サビでは大森と佐藤がユニゾン。終始笑顔の山崎が微笑ましい。フィナーレに相応しく、各々の色が混じり合って生まれたボリューミーな多幸感。演奏が終わり、最後は山崎が「せーの」と音頭を取り、横一列に並んだ出演者が深々とおじぎ。弾き語りというミニマムな形だからこそ浮き彫りになったそれぞれの人間味が愛おしく、いつも以上に終演が惜しい一夜であった。

撮影◎高田 梓

■<音楽と人 LIVE 2016「東京アコースティック百景」>
2016.04.17(Sun) 新木場 STUDIO COASTセットリスト

OA【沖ちづる】
01. クラスメイト
02. 光
03.二十歳のあなたへ
【山崎まさよし】
01. Passage
02. 名前のない鳥
03. Englishman in NY
04. 花火
05. ツバメ
06. セロリ
【大森元貴(Mrs. GREEN APPLE)】
01. 愛情と矛先
02. 慶びの種
03. 我逢人
04. HeLLo
05. デアイウタ(未発表曲)
【佐藤千亜妃(きのこ帝国)】
01. 疾走
02. 夜が明けたら
03. 傘をなくして
04. ふらりでPARISへ行こう(山崎まさよしcover)
05. 東京
06. クライベイビー(新曲)
【山内総一郎(フジファブリック)】
01. ブルー
02. 桜の季節
03. LIFE
04. 若者のすべて
05. 虹
【ENCORE】
セッション:山崎まさよし/大森元貴/佐藤千亜妃/山内総一郎
01. デイ・ドリーム・ビリーバー

◆音楽と人 オフィシャルサイト
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