【寺田正典 連載】ザ・ローリング・ストーンズ、『トータリー・ストリップド』世界に先駆け日本発売

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キューバでのロック・コンサート実現、ロンドンでのエキシビショニズム開催に続いて、10月にはポール・マッカートニー、ザ・フー、ボブ・ディラン、ニール・ヤング、ロジャー・ウォーターズらと共にカリフォルニア州インディオで行なわれる超ド級の音楽フェス<Desert Trip>に参加することを発表したザ・ローリング・ストーンズ。そんな彼らが1995年の『ヴードゥー・ラウンジ』ツアーに並行して進めていたアコースティックを大胆に取り入れた変則ライヴ・アルバム『ストリップド』(同年11月にリリース)のためのプロジェクトの全容を明らかにする映像作品『トータリー・ストリップド』が、いよいよ5月20日、世界に先駆けて日本先行発売される。

◆ザ・ローリング・ストーンズ画像

何度かBARKSでの連載ニュースでも採り上げてきたように、この『ストリップド』プロジェクトは、同年3月に東京の東芝EMIスタジオで(当時としては)極秘裏に行なわれたアコースティック中心のスタジオ・レコーディングに加え、5月と7月に行なわれたアムステルダム、パリ、ロンドンでの3つの特別なスモール・ギグ、そして7月のポルトガルはリスボンでのスタジオ・レコーディングの4つのパートからなっている。今回リリースされる『トータリー・ストリップド』には、そのうち補足的な位置づけだったと思われるリスボンでのレコーディングを除く三つのパートをカメラで追ったドキュメント作品がメイン・プロダクツ。それにプラスして、三カ所のスモール・ギグからのベスト編集CD(実は『ストリップド』との重複をできるだけ避けて収録されている分、かえってこの時期のストーンズの正統的なライヴ・アルバムに近いものに仕上がっているスグレもの!)、さらには何とゴージャスなことに、その3箇所でのスモール・ギグをそれぞれフルで収めた映像ディスクがまとめてパッケージされており、玄人筋から特に高い評価を受けた『ストリップド』プロジェクトの文字通り“トータル”な全容を体験し直すことができる驚きのリリースなのだ(ただし、パッケージによっては付属しないディスクもある)。

ストーンズのライヴ史上最もユニークでチャレンジングだったと言っていいこのプロジェクトだが、プレイヤーとしての原点でもある“アコースティック”感覚にこだわったスタジオ・レコーディングに始まり、3つのスモール・ギグを続ける中で、段々とラウドにエレクトリック・ギターを掻き鳴らすライヴへと「戻って」いくプロジェクトの進行を映像で追っていくことで、今もそうやって元気にライヴを続けているストーンズのサウンドのコアな部分、そのグルーヴの基礎となっている形をハッキリと確認できるファン必携の作品なのである。1990年以来ストーンズのオフィシャル・フォトグラファーであり続け、自身も無類のストーンズフリークである有賀幹夫は、この『トータリー・ストリップド』の感想をこのように語っている。

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ファンはもちろんメンバーからも静かに愛されている『ストリップド』(1995年発表)。前年の『ヴードゥー・ラウンジ』とこれに伴うスタジアム・ツアー中、東京のスタジオでのレコーディングや、ヨーロッパでのスモール・ギグからの音源で構成されたストーンズの過去曲を中心としたユニークなカバー・アルバムだが、この制作を追いかけたのが『トータリー・ストリップド』。ストーンズのスタッフとしてバンドと共に動いているような気持ちにさせてくれるロード・ムーヴィーといった印象だ。

また今回明らかになった3カ所のスモール・ギグの全貌も貴重だ。

アルバムに収録された曲以外、スタジアム公演では外れてしまうがストーンズ本来の力のある楽曲が多く演奏され、それらは1968年から1972年頃の音楽的充実期の作品が多いことが興味深かった。この時期のオリジナル音源に参加している今は亡きボビー・キーズの活躍も見ものだ。

ビル・ワイマン脱退の痛手をバネに攻めの姿勢で『ヴードゥー・ラウンジ』や、これまで以上にエンタテイメント性の強いスタジアム・ツアーを開始したバンドのさらなる展開への思想がこれらの映像群からよくわかった。当時僕はビル脱退をバネにむしろどんどんアルバムを発表してストーンズ史を上塗りしているんだな、と思ったけど、今回の映像群からはどんな曲でも直ぐに対応できる手堅いサポート・メンバーと共にツアーに出ているメンバーのポジティブなオーラが感じられた。映像ならではな発見が多いのが『トータリー・ストリップド』プロジェクトであり見所はつきない。

フォトグラファー 有賀幹夫

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さて連載の続きということで、三つのスモール・ギグ・フル映像の二つ目の概要も紹介しておきたい。これはパリのオランピア劇場で7月3日にスモール・ギグとして敢行されたライヴを収めたもの。実際に映像を観て、三つのスモール・ギグのうちもっともタイトな演奏が繰り広げられたのが、このオランピア劇場でのライヴだったのではないかという感想を持った。1970年代からのファンなら、パリで「ホンキー・トンク・ウィメン」がオープニング!のコンサート映像というだけで、NHK「ヤング・ミュージック・ショウ」で放送された1976年のパリ・コンサート(『ラヴ・ユー・'ライヴ』の主要部分もそこで収録)、心踊るものがあるんじゃないかと思うが、今回の会場はあの時よりもっと狭い、2,000人規模。それも、初のフランス進出となった1964年10月のコンサートに始まり、1960年代から1970年のヨーロッパ・ツアーまで、ストーンズがたびたび立ち寄って演奏してきた由緒ある会場でもあるのだ。

…といった具合に、ストーンズの歴史的要素がたっぷり詰まったヨーロッパの中心地での、しかもレコーディングを前提としたスペシャル・コンサートが悪いわけがない。実際に目にしてみると、冒頭から勢いに乗りすぎてエンディングではミスをやらかす「オール・ダウン・ザ・ライン」、そうした勢いを受け継ぐ「ビースト・オブ・バーデン」のビートの効いた演奏ぶり、いつも以上に感情が入った歌い回しにハッとさせられる「レット・イット・ブリード」から「ミス・ユー」での故ボビー・キーズの悲鳴のようなサックス・ソロのフレーズまで、スモール・ギグらしい「熱さ」を存分に感じさせてくれる演奏ぶりに驚かされるばかりだった。

文:寺田正典
Photo by Ilpo Musto

◆『トータリー・ストリップド』オフィシャルサイト
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