【インタビュー】コブクロ「音楽は最後、口元に残る」

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コブクロが歩んだ2年6ヶ月の音楽の道程は、『TIMELESS WORLD』という名を受けて9枚目のアルバムとなった。この間に彼らが歩んだ音楽の旅路は、タイアップという第三者の想いを汲み取り新たな解釈を提示する創造の一端だったり、偉大なる先輩との交流を具現化するものだったり…と、音楽に人生を重ねる二人の男の生き様が刻み込まれた作品として形作られた。

コブクロ 画像

それにしてもコブクロの作品は、甘さと切なさと強さというスパイスが聴く者の心に激しく揺さぶりをかけてくる。人の心を動かす力は、ひとえに作り手の熱量から生まれ引き出されるものだ。すべての作品にケタ違いのエネルギーが封じ込まれている『TIMELESS WORLD』という作品は、2016年に生きる多くの日本人に多大な影響を与えることになるだろう。

はちきれんばかりの熱量を生み出すふたり…コブクロというユニットは、何を思い、何を求め、どこに向かっているのか。『TIMELESS WORLD』の誕生の裏には、コブクロ人生のブレることのない純血の美学が輝いていた。

   ◆   ◆   ◆

■ 小渕からのパスをずっと待って
■ ゴール前で上がってきたら死ぬ気でゴールしないといけない(黒田)



──『TIMELESS WORLD』は、2年6ヶ月の音楽人生の集大成となりましたね。

小渕健太郎:そうですね。その時々に作ってきた楽曲ですけど、自分の「歌いたいな」という衝動みたいなものに特化した感覚があります。「こんなのも作れるんだ!」とか「ちょっと変わったのができた」みたいなものに着目していた時代もありますけど、今はそういうことではなく「いかに自分が大声で歌いたくなるか」ということ。歌うのが好きな自分をもっともっと前に出したいっていうのかな。そうしていくと、メロディの中にちょっとでもつまらない瞬間があったらそれをなくしていく作業を突き詰めるので、全曲そうやって作っていった曲が集まってアルバムになった、みたいな。だから自分たちでも、歌っちゃうような曲が多くて、ぼーっと聴いているっていうよりも、ふと一緒に歌いたくなるような作品になりました。

──素晴らしくピュアな精神状態で活動できていたようですね。

小渕:歌に対する初期衝動に還える…そういう意味合いは凄く強いですね。「自分が歌って気持ちいい」ことに特化しています。

──歌うことへの原点回帰?

小渕:引き算がやっとできるようになってきたのかもしれません。ここはもっとシンプルにしようとか、コードをもっと減らそうとか。例えば「STAGE」という曲なんかは、コードは4つしか使ってなくて。

──ほお。

小渕:今まで一番少ないので6つだったんですよ、コブクロでは6つも結構少ない方なんですけど。

──6つでも充分少ないと思います。

小渕:その曲を作る前の日に、ブライアン・セッツァーのライブを布袋(寅泰)さんと一緒に観にいったんですけど、3コード──AとDとEで、これだけの楽曲ができるんだっていうのにちょっと感動しちゃって。ギターのテクニックもそうですけど歌も素晴らしいし、3つのコードで表現できるそのジャンル/国柄/世界観ってうらやましいよね…みたいな話を、布袋さんと語り合ったんです。そんな時、自分の歌を振り返ると少なくとも20個は使っていると思って。GだけでもGsus4があってG7があって、これで3つだなって思うんですよね(笑)。

──トライアドに落ち着く前に、どうしてもsus4挟んじゃうとか。



小渕:あはは(笑)。そうなんですよ。この「STAGE」は、「G/Em/C/Dという4つの柱の上に“ステージ”が乗ってて、僕らはファンやスタッフ、家族に支えられている」っていう、そのメッセージのみを歌に込めたんです。そういう引き算って今までやったことなくて。

──おふたりは『TIMELESS WORLD』を“様々な出逢いから生まれた言葉にメロディーを付け、二人の今を歌声の足跡で記した様なアルバム”とコメントしていますよね。曲を作るのではなく、「あくまで詞がありそこにメロディがつけられる」というところに、コブクロにとっての言葉の重要性が表れていると思いました。

小渕:確かに、このアルバムはほとんど詞先ですね。先に詞からできています。

黒田俊介:この一年、作品の書き下ろしのスピードは凄かったですよ。横で見てて思うのは、なんて言うんですかね…心が“凪いでいる”んですよ。凪状態なんですけど、そこにタイアップという詞のテーマをもらうと、ぶわーっとそこにはまる曲が生まれてくる。多分ね、きっかけが欲しいだけなんですよ。作るとなった瞬間にぶわーってできますから。

──表現者として理想的な精神状態ですね。

小渕:そうかもしれないですよね。あんまり自分で特定の考え方を持たない状況ですね。

黒田:どんなテーマをもらおうが開けるタンスは一緒なんですよ。いろんな引き出しがあるんですけど、コブクロという器から引き出しているだけだから。でも、そのいろんな角度から引き出すのがどんどん上手くなっている感じがする。「このテーマでは書きにくいやろなあ」というオーダーでもね、ちょっと思いを巡らしただけで、「できる」って(笑)。

──凄い。

黒田:ちょっと神がかってるところ、ありましたよね。

──産みの苦しみとか、降りてくるのを待つとか、そういうのとは無縁ですか?

小渕:このアルバムではほとんどないですね。もちろん過去にはありますよ。

黒田:死ぬほど出来なかったとかもあるもんな。

小渕:もう、ぎりぎりできなくてっていうときもありましたからね。

──そういう話のほうがほっこりする(笑)。

小渕:あはは(笑)、僕ね、経験したんですよ。「好きなことやってるのに苦しむなんて、なんて馬鹿げているんだ」って思ってからは、先に準備しておこうって。

黒田:今、タイアップ40個くらい獲ってきたら、2~3ヶ月で作ると思いますよ。ほんとにすごいですからね。

──秋には次のアルバムが出るな(笑)。このコンディションの良さを自己分析すると、勝因は何だと思いますか?

小渕:「任せてくれている」し「任せている」ところがとっても大きいですね。僕らはコブクロを半分ずつやっているんですけど、僕は楽曲を書いた時点で、実はその楽曲に対して50%役割が終わるんです。

──50%?

小渕:100点の50点までを獲る。いい曲であればあるほど49…49.5…と50点に近づくんですね。で、残りの50点でライブをやっているんです。その歌を歌うという行為が50点に近ければ「今日のライブは100点だったな」っていうことになる。曲作りは僕の役割で、50点と50点を積み重ねて100点にすればいいんですけど、黒田はステージに立ったときにゼロから100点を目指しているんです。

──なるほど。

小渕:その日のライブがどうなるかは自分の歌にかかっているというプレッシャーを黒田はずーっとツアーで背負っていると思えば思うほど、僕は本当にいい曲を書かないといけない。だから僕の曲に対して黒田が「これはいい」って言ってくれたときが最大評価なんです。だって、それを持ってゼロからステージに立つ人の気持ちを思ったら生半可じゃいられないっていう緊張感が常にある。自分がいいと思うかはどっちでもいい。楽曲ができたとき、気になることがあったら黒田が一言二言言ってくれることで、40点を50点にもしてくれるから、そこにまた安心感がある。そのお互いのベクトルが非常に整っているんだと思います。歩調が合っているので、小さい歩幅と大きい歩幅で最小公倍数のように必ず合ってくるのが気持ちがいいですよね。



黒田:20年近くやってきて、お互い100点出しにいかないとコンビとして成立しないっていうのはわかっているんです。曲を書き出したら僕はただ待ってるだけですけど、サッカーで言えばミッドフィルダーで、僕はこいつからパスが出てくるのをずっと待って、いつでもゴール前で上がってきたら死ぬ気で絶対ゴール入れないといけない。パス出す人と決める人が逆になるときもあるけど、そのさじ加減がすごいわかってきた。

──やっぱりチームワークか。

黒田:お互いの出番…その緩急がお互いできてきたんだと思う。通常は凪になってきたって感じなんですよね。

小渕:ここ1年でよりいい方向に変わっていますよ。僕が曲に50点の完成度を求めた後、それをどのように見せていくかを今は完全に黒田に任せているんです。ジャケットとかPVとか、この曲をどうしていこうかふたりで一生懸命考えていたんですけど、そこから僕は完全に手を引いたんです。というか「生んだので、お願いします」って黒田に預けるんですよ。作った側なりに作品に対するこだわりはあるんですけど、そんなもんは詞とメロディに入れたわけだから、これ以上求めるものはないと割り切ったんですね。

──割り切れるようになった、ということかもしれませんね。

小渕:そうかもしれないです。割り切れるようになったんだと思います。僕が言うことよりも黒田が言うことで面白い方向に行くことがここ何年もいっぱいあったから、それに確信も感じているし。

黒田:こ…こんなプレッシャー、ないですよ。

小渕:あはは(笑)。

黒田:「ジャケットもPVも頼むな」って言われて、もう俺、気分的には代理店ですよ。スタッフみんなとアイディア出して考えて、「この感じで小渕にぶつけてみるかー」って。で、OKもらって安堵する。

小渕:僕ができた曲を初めて黒田に出すときと同じことをやっているんですよね。楽曲を作ることと、それをどうしていこうかというプレッシャーでお互いに50点ずつ獲れていると、今度はライブがいい意味でリラックスできるようにもなる。ふたりとも達成感を得ているというかね、そういうところが『TIMELESS WORLD』に活きてきたと思っています。

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