【ライヴレポート】高橋まこと率いるJET SET BOYS、福島凱旋「魂削る曲が並びすぎ」

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JET SET BOYSが6月11日、全国ツアー<JET SET BOYS LIVE TOUR 2016「JET SET BOYS」>の2本目となる福島Iwaki PIT公演を開催した。結論から言えば、初ライブとなった新宿LOFTの衝動的な熱量はそのままに、個々の優れたテクニックとセンスを備えながら同じ方向に一丸となったサウンドは、ますます強固にスクラムを組んで4人のアンサンブルが躍動的極まりない。

◆JET SET BOYS 画像

ツアー初日の新宿LOFTから約1週間後に迎えた2公演目が、ここ福島Iwaki PITだ。福島といえば高橋まことの出身地であり、東日本大震災以降、幾多の復興支援活動を継続的に行ってきた高橋が復興支援イベントで椎名慶治や友森昭一と交流を深めた土地でもある。加えて、Iwaki PITは“こころの復興”と“支援活動の継続性”を確保することが活動目的のひとつ。そういう意味ではJET SET BOYSの初ツアーには欠かすことができないライヴハウスだと言っていい。


「ここでライヴができるっていうのも、そういう流れがあったからこそかなって。海沿いに行けばまだ震災の爪痕もあるんだけど、被災地から避難してきている人もいわきには多いんだよ。それに俺が生まれてすぐの頃、1年くらいいわき市の湯本に住んでいたことがあって。もちろん当時の記憶はないんだけど、親父曰く「毎日温泉につかってた」らしい(笑)」と、楽屋でBARKS取材班を迎えてくれた高橋が教えてくれた。もちろんJET SET BOYSは偉大な足跡を持つ高橋が「残された人生でもう一度バンドを組んでみたい」と自身の音楽人生を掛けたものだ。同時に、ライフワークとなっている復興支援活動はその原動力のひとつでもある。


前述したように、この日はツアー2本目。先ごろ公開したレポートでも触れたとおり、JET SET BOYS初ライヴはこの先の大いなる可能性を感じさせるもので、ツアー初日ならではの荒々しさがステージをよりエネルギッシュにしていたという印象が強い。一方、音楽シーンにその名を刻み込んできた4人の凄味と佇まい、個々の高い演奏力、そしてなによりも“高橋を中心にバンドを楽しもうとする音楽的表現欲求と姿勢”が露わになったステージは、巨大なポテンシャルを抱えて走り出した彼らの素晴らしい第一歩となった。その舞台上で「俺、自分でも興奮してる」と語っていた椎名が新宿LOFTを振り返ってくれた。

「思っている以上に自分が緊張していたことにライヴが終わってから気づいたというか。まず、初日がLOFTというツアースケジュールを知らされて、話を聞いてみると「まことさんにとっての聖地である」と。はじめのうちは、そんなに重く受け止めていなかったんですけど、徐々に責任重大だなと感じまして。当日は、最初からギアをトップに入れっぱなしの若いライヴをやっちゃったなと。ペース配分とかおかまいなし……自分の18年のキャリアが全く活かせなかった(笑)。ただ、それは新鮮だったということでね。いつ結成したのかはっきりとは覚えてないけど、まことさんに声を掛けていただいてから2年くらい。この4人が人前で初めて音を出せたという事実が、まず嬉しくて楽しかった。最初がLOFTでよかったし、反省点はこの後のツアーに活かされていくはず」


その変化はIwaki PITの当日リハーサルからも見受けられた。ある曲ではテンポの確認を入念に行なったり、ある曲ではレズリースピーカーシミュレーター導入を試したりと、メンバー個々が音を研ぎ澄ます作業に余念がない。また、試行錯誤を繰り返しながらサウンド&プレイが磨き上げられていくリハーサルで改めて感じたことは、ステージ上の音が実にクリアであるということ。最小編成の4ピースとはいえ、通常のロックバンドは音が混沌としたものになりがちだ。しかし、JET SET BOYSのバンドサウンドは、楽器ひとつひとつの音が明確で分離がいい。各パートの音がマスキングされずに聞こえてくるから、アンサンブルの妙が一層際立って届けられるなど、意識の高いサウンドメイクは百戦錬磨の集合体の成せる業だと実感。サウンドチェックを含めて約2時間続いた充実のリハーサルは最後にオープニングを確認して終了した。メンバーは楽屋に戻って着替えや腹ごしらえをしつつ、ステージへ向けて徐々にテンションを高めていく。そして開演時刻が迫ってきた。



17時の開演を前に場内に流れるBGMはMOTT THE HOOPLEの「The Golden Age of Rock N' Roll」やSEX PISTOLSの「Anarchy in the U.K.」、LED ZEPPELINの「Rock and Roll」などなど。70年代や80年代のクラシックロックが客席を高揚させる場内に、“ガシャーン!”というスプリングリバーブ独特の衝撃音が鳴り響いた。メンバー登場SEはアルバム『JET SET BOYS』のオープニングを飾るインストナンバー「HI!VOIR」だ。高橋まことのスネアビートが、そのSEを引き裂くように割って入った瞬間からアッパーチューンで一気に畳みかけていく序盤。Tシャツに短パン姿のロックキッズ、綺麗に着飾ったOL風女性、ネクタイ姿のサラリーマンなど、そこに集まったロックファンのすべてが拳を上げて音に身体を任せる。1stアルバム『JET SET BOYS』を引っ提げて福島に現れたJET SET BOYSは、多種多様なオーディエンスをのっけから飲み込み、あっという間に自分達のビートに巻き込んでしまった。ちなみに、MCは随所に。楽曲の世界観を優先させつつも、椎名のトークはこの日も笑いが絶えない。

「福島とひと口に言えども広いんだね。いわきは、僕個人としては初ライヴです。郡山や福島市には何度も来ているんですけどね。福島と言えば我らがボス、高橋まことの出身地でもあります」と紹介された高橋が、「どうも、福島のみなさん。おばんです!」と東北弁を交えて第一声を。これに客席から黄色い大声援が。「おいおい!俺のMCと全然対応が違うじゃないか! 同じバンドのメンバーだよ?」と椎名。それを諭すように高橋が「ヴォーカルの人のお話はちゃんと聞くこと(笑)」と客席に優しく語りかけ、オーディエンスは「はーい!」と返事するという、椎名=イジられキャラの構図が出来上がっていた。それを悟った椎名も「はーい!じゃねえし(笑)。もうツカミはOKだね。アットホームな感じで楽しんでいこうよ! いい日にしましょう!」と客席と至近距離のやり取りで会場の一体感を加速させる。



圧巻だったのは中盤のミディアムチューンセクションだ。高橋まこと十八番の疾走8ビートはJET SET BOYSの醍醐味であるが、1音1音を重く響かせ、深淵なるスパイラルを描くサウンドは果てしないイメージの広がりを感情に訴えかける。6/8拍子によるスローな「STRAYED」は最たる例で、その圧倒的なバンドサウンドと存在感の前ではどんな形容も陳腐に色褪せてしまう。こういう曲にこそJET SET BOYSでみせる4人の新しさと高みが表れているようで、全身全霊の熱演が凄まじいものとなった。ミディアムチューンセクションを終えた直後のMCで椎名が「つらい(笑)。ライヴの序盤から中盤にかけて、魂を削る曲が並びすぎ。もうゴッソリ持って行かれるくらい歌い切りました」と語った言葉に客席が大きく頷いたほどだ。



ツアーは7月3日のEX THEATER ROPPONGIまで続くゆえ、新宿LOFTのレポート同様セットリストの詳細については触れないが、当然ながら演奏曲はアルバム『JET SET BOYS』を中心にしたものだった。そもそもこのアルバム自体が、サーフやパンク、ファンクやR&Bなど様々なテイストに彩られた楽曲のそろい踏みだから、ライヴは起伏に飛んでドラマティックな構成となる。加えて、タイプの異なる2つの新曲や、高橋まことがレコーディングに参加した椎名のソロ楽曲など、実にバリエーション豊かなサウンドが堪能できた。こう記すと、シーケンスや同期による煌びやかな音を想像するかもしれないが、そうではない。『JET SET BOYS』は、ドラム、ベース、ギター、ヴォーカルだけで完結させたアルバムであり、もちろんギターダビングはあるもののシンセの音色など必要としない生粋の4ピースサウンドだ。ステージ上では、その核をさらに突き詰めて原点がくっきりと露わになる。考えてみれば現代のように音楽の表現方法が多様化して、価値観が混沌としている時代に、4ピースにこだわったサウンドこそラジカルなものかもしれない。結果、JET SET BOYSはビートもリリックもサウンドも、その全てを“志”の一点に集中することによって普遍的なポップを表現してしまった。4人は今、十二分に足元を固め、視線は未来を見据えている。終盤のMCで椎名はJET SET BOYSのこれからについて触れた。

「まことのオヤジは「自分の生涯をかけた最後のバンドにしたい」って言ってるんだよ。JET SET BOYSはここから始まるからさ。また福島にも来たいし、ぜひ一緒に遊びましょう。新曲を2曲も作っちゃったから、出さないのももったいないしさ。だからレコーディングするし、この先も頑張ります。ここから先も自分の選んだ道をまっすぐ歩いていく。今の俺たちにピッタリの大好きな曲があるんで聴いてください」





披露されたナンバーは「STANDING THERE」だった。全身のパワーを集中してラウドに、しかしタイトに叩き出す高橋のビート。すべてを包み込むように伸びのあるベースフレーズを聴かせるtatsuは身体全体で大きなグルーヴを弾き出す。友森のギターのキレの良さは計算されたフレーズもテクニカルなプレイも持ち合わせながら、それらすべてを吹き飛ばしてしまうほどエモーショナルだ。そして椎名。レジェンド級のプレイヤーたちが奏でるサウンドの中で、身体の奥底から湧き出る言葉のひとつひとつを噛み締めるようにシャウトする椎名の歌声が、オーディエンスにどれだけのインパクトを与えたことか。バンドのヴォーカルはJET SET BOYSが初という椎名だが、その歌声は膨大な熱量を放射し続ける純度100%ロックヴォーカリストそのものだった。



アンコールは地元ということもあって、高橋まことのひとりトークから。「福島でライヴができるのは僕も嬉しいです。いわきと言えば常磐ハワイアンセンター、今はスパリゾートハワイアンズっていうんだよね。何回も来て、フラダンスのお姉ちゃんに目が釘付けになったことがあります(笑)。またいわきに戻ってきますから、温かく迎えてください」と地元話で盛り上がったところで、メンバーを招き入れて灼熱のアンコールが演奏される。



場内に吹き荒れるタオル回しの旋風は新バンドのスタートを祝福するかのように盛大なものとなった。「いわき!最高! タオル回しでハウスダストが凄い(笑)」と椎名は冗談交じりでオーディエンスを讃えた。さらには、「他人のカバーをやるよりも、新曲を作ってJET SET BOYS色に染めるっていうことをテーマに1stツアーを廻っています。また、遊びましょう、いわき!」とラストナンバーへ。

すべての演奏を終えた4人は、ステージ中央に集まって客席へ深々と一礼。ライヴは4人の強者が発するパワーにすっかり五感をやられたまま幕を閉じた。冒頭でも触れたとおり、ツアー初日から2公演目の間の成長ぶりには驚くばかり。とてつもない進化を遂げているバンドの今の姿をぜひ肌で感じ取ってもらいたい。

撮影・文◎梶原靖夫(BARKS)


■オリジナルアルバム『JET SET BOYS』

2016年6月1日(水)リリース
HHCL-0001 ¥3,000+税
01.HI!VOIR
02.ZIPPER DOWN-album mix-
03.LEVIATHAN
04.ROOM 504
05.STRAYED
06.PASTA
07.HI!CENTER-interlude-
08.PROMENADE
09.BAD COMPANY
10.GET SET
11.STANDING THERE
12.SAYONARA
13.THE THEME OF JET SET BOYS

■ツアー<JET SET BOYS LIVE TOUR 2016「JET SET BOYS」>

06月04日(土)東京・新宿LOFT
16:30 OPEN / 17:00 START
(問)DISK GARAGE 050-5533-0888
06月11日(土)福島・Iwaki PIT
16:30 OPEN / 17:00 START
(問)キョードー東北 022-217-7788
06月17日(金)大阪・梅田CLUB QUATTRO
18:00 OPEN / 19:00 START
(問)キョードーインフォメーション 0570-200-888
06月18日(土)愛知・名古屋アポロベース
16:30 OPEN / 17:00 START
(問)ジェイルハウス 052-936-6041
07月03日(日)東京・ EX THEATER ROPPONGI
16:00 OPEN / 17:00 START
(問)DISK GARAGE 050-5533-0888(平日12時~19時)
▼チケット代:¥6,000(tax in)
※D代別(6/11福島公演のみD代無し)
※3歳以上チケット必要
▼プレイガイド
・チケットぴあ http://t.pia.jp/
・ローソンチケット http://l-tike.com/
・イープラス http://eplus.jp/ [PC・携帯共通]



◆JET SET BOYS オフィシャルサイト
◆JET SET BOYS オフィシャルTwitter
◆JET SET BOYS オフィシャルFacebook
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