【インタビュー】エイミー・ワインハウスは、なぜ波乱の道を歩んでいくことになったのか

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映画『AMY エイミー』は、2011年7月23日に急逝したエイミー・ワインハウスの生涯を描いた傑作ドキュメンタリー映画だ。

◆エイミー・ワインハウス画像


1983年、イギリスのユダヤ系家庭に生まれたエイミーは、10代でレコード会社と契約を結び、20歳でデビュー・アルバム『Frank』で大きな評価を得た後、続くセカンド・アルバム『Back To Black』が全世界1200万枚のセールスを記録、シングル「Rehab」も大ヒットし2008年のグラミー賞で5部門受賞を成し遂げた若き天才アーティストである。

幼少期からジャズに親しみ、ダイナ・ワシントン、サラ・ヴォーン、トニー・ベネット、キャロル・キング、ジェイムス・テイラーらの音楽を聴いて育ったエイミーは、思春期にニューソウル、ヒップホップ、カリビアン・ミュージックとの衝撃的な出会いを経験し、50年代のジャズ、60年代のソウル・ミュージックをアップデートした独自のサウンドを生み出していくこととなる。映画では全編を通して彼女の楽曲が流れ、マーク・ロンソンやトニー・ベネット、ラッパーのヤシーン・ベイ(元モス・デフ)らも登場、エイミーの真の魅力が解き明かされていく。


27歳という若さで亡くなったエイミーのドラマチックな人生模様を描いたのは、『アイルトン・セナ~音速の彼方へ』で英国アカデミー賞最優秀ドキュメンタリー賞を受賞した新進気鋭の映像作家アシフ・カパディアだ。家族や友人、音楽関係者への長時間にわたるインタヴュー取材をおこなった監督は、ホテルや自室でリラックスしながらギターをつまびきノートに歌詞を書きつける様子や、幼なじみの友人たちとのパーティー、スタジオでのレコーディング風景、ライヴ直前のバックステージなど、関係者以外誰も知らなかったエイミーの貴重なプライベート映像や未発表曲を収録しており、彼女がノートに書き留めていた数々の歌詞を通じて、彼女の繊細な感情が見事に描き出されている。


複雑な家庭環境や激しい恋愛関係は全て音楽へと結びつき、人生をひたむきに駆け抜けたエイミー・ワインハウスの穢れなき姿は、ビリー・ホリデイ、ジャニス・ジョプリン、カレン・カーペンター、ホイットニー・ヒューストン等、ポピュラー・ミュージックの世界で一時代を築きながら悲劇的な最期を遂げた女性シンガーたちの光と影を想起させるものでもある。彼女がなぜ“孤高の歌姫”として波乱の道を歩んでいくことになったのか、この映画を見れば、その真実が胸を打つ。


──監督から見て、この映画のみどころはどういう点でしょうか。

アシフ・カパディア監督:この映画は『アイルトン・セナ~音速の彼方へ』の製作陣が作っています。エイミーが亡くなったとき散々マスコミやタブロイド紙に騒がれ、みなさんエイミーを知った気になっているつもりかもしれないですが、この作品に描かれているのは本当のエイミーの姿です。きっと多くのみなさんにとって予想外のストーリーだと感じるのではないでしょうか。それと共にきっと本作を観て笑うこともあるでしょうし、また泣くこともあるでしょう。いずれにしても感情を揺さぶるものになると思います。この映画を観てこれまでエイミーが作ってきた音楽の聞き方が変わってくるんじゃないかと思います。非常にパワフルな映画になったと思います。


──映画を彩る膨大な映像素材はどのように集めたのでしょうか。

アシフ・カパディア監督:『アイルトン・セナ~音速の彼方へ』では5年かけて制作したのですが、今回のエイミーは3年かけて制作しました。ちゃんとしたリサーチチームがありまして、できるだけ多くの人と連絡をとって話を聞き出しました。なぜならエイミーのドキュメンタリー映画ってこれまでいろんな形で出てきているけれど、これぞエイミーの究極の物語だっていうものを作らなければならなかったからです。彼女がどういうことに動機づけられて、どういった私生活を送っていたのかを含めて、とにかく徹底的に描きたかった、徹底的に探りたかったということでいろんな人と話をしました。こだわりポイントとしては1対1でカメラを使わずに話すということです。カメラがあると身構えて本当のことを聞き出せなかったりするんですけれど、今回の場合は本当のラジオ番組のように部屋の中で1対1で座り、音を録っているミキサーも別室にし、照明を落として喋らせました。すると取材対象者はほっとするから安心していろいろ話しだすんですね。最初は「嫌だ嫌だ」と言っていた人が1時間、2時間、そして4時間、5時間に話してくれてどんどん心を開いていったんです。取材対象者の彼らもエイミーに先立たれてしまっていろいろ心に抱えていたので、この映画が彼らにとって一種のセラピー的な効果があったんじゃないかなとも思います。そのせいかどんどんどんどん私たちを信頼していってくれるようになりました。そしたら「今度はこいつに話を聞いてみたらいいよ」って友達を紹介してくれるようになったんです。最初は「映像なんか持っていないとか言っていたけど本当はあるんだよね」って見せてくれたりして。つまり周りの人との1対1の対話を重ねていく中でその過程を経て映像にだどりつけた感じです。


──日本にもエイミーファンがたくさんいます。日本の観客へメッセージをいただけますか?

アシフ・カパディア監督:とにかくこの映画はリアルなエイミーを見せる映画です。わたしは彼女の周りの友達だとかマネージャーのニックとか彼女を愛していた人たちから君はいったいどんな映画を作るのか?ダブロイド紙とかスキャンダラスなエイミーを撮るのか、あるいはリアルな本当の彼女の姿を撮るのか、どっちのエイミーを見せるんですか?と試されていました。わたしはリアルなエイミーを撮るということを一つのミッションとして抱えて撮りました。この映画の中では非常に可笑しくってひょうきんで美しくって聡明な有名人になる前の素敵なエイミーがフューチャーされています。有名人になるということは本当に人に害を与えることになるんですよね。名声というのは身を滅ぼすもとです。この映画ではアイコン的存在になるよりも前の幸せで若いエイミーを見せます。非常に人間として素晴らしく特別な存在だったと思いますし、彼女は愛と保護を求めていたんだと思います。しかし残念ながらそれをいまいち得られなかった人だったということをみなさんに観ていただければと思います。



映画『AMY エイミー』

監督:アシフ・カパディア
製作:ジェームズ・ゲイ=リース
出演:エイミー・ワインハウス、ミチェル・ワインハウス、マーク・ロンソン、サラーム・レミ、トニー・ベネット 他
2015年/イギリス・アメリカ/英語/カラー&モノクロ/ヴィスタサイズ/デジタル5.1ch/128分/原題『AMY』
協力:ユニバーサル ミュージック合同会社 USMジャパン 後援:ブリティッシュ・カウンシル
翻訳:石田泰子 監修:ピーター・バラカン
配給:KADOKAWA TEL:03-3514-1556
7月16日(土)角川シネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷、角川シネマ新宿ほか全国ロードショー
(C)Rex Features
(C)Nick Shymansky Photo by Nick Shymansky
(C)Winehouse family
(C)2015 Universal Music Operations Limited.
http://amy-movie.jp
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