【インタビュー】ベラコール、豪州が育んだ独自進化のアトモスフェリック・メタル

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オーストラリアのヘヴィ・ロック・バンド、ベラコールが、通算4作目となるアルバム『ヴェッセルズ』で日本盤デビューを飾った。エクストリームでプログレッシヴ、そしてメロディアスな音楽性は、欧米のメタルとは一線を画するもので、有袋類や巨大ワニなどと同様、オーストラリアならではの独自の進化を遂げた孤高のヘヴィ・サウンドを貫いている。

◆ベラコール画像

バンドのピアノ/キーボード奏者であるスティーヴ・メリーが、ベラコールの成り立ちと2016年6月22日に発売となった『ヴェッセルズ』を語ってくれた。世界のヘヴィ・ロック生態系を一変させるバンドの登場だ。



──ベラコールはいつ、どのようにして結成したのですか?

スティーヴ・メリー:ジョン(・リチャードソン/ベース)と俺が自宅で楽器を持って遊んでいたのが始まりだった。ジャムなんて大層なものではなくて、ペニーワイズやNOFX、オフスプリングなどの曲をコピーしていた。その頃、俺はドラムスを叩いていたよ。それにジョージ(・コスマス/ヴォーカル、ギター)が加わったことで、メタル色が強まっていった。だったらリード・ギターを弾けるメンバーが必要だろうということで、ジョージの近所の友達だったショーン(・サイクス/ギター)を連れてきたんだ。そうして2004年の終わりに、ベラコールとして曲を書き始めた。メロディック・デス・メタル路線に向かったのはジョージの影響が強いけど、単なるエクストリーム・メタルではなく、メロディのある音楽をやりたかったんだ。パンクをやっていたのは今になってみると何だったんだろうと思うけど(笑)、メロディへのこだわりは共通しているかもね。

──Be'lakor(ベラコール)というバンド名はボードゲーム『ウォーハンマー』の登場キャラから採ったそうですが、ゲームは音楽性に影響をおよぼしていますか?

スティーヴ・メリー:いや全然(笑)。単に響きが良かっただけだよ。10年以上前、ジョージとジョン、ショーンが学生時代に『ウォーハンマー』をやっていたんだ。俺も誘われたけど特に興味がなかった。俺たちの歌詞もゲームやファンタジーの世界観とは関係なく、自然や科学、神話などについて歌っている。でもベラコールというのはクールな名前だと思うし、誇りにしているよ。

──どんなバンドから影響を受けていますか?


スティーヴ・メリー:ファースト・アルバム『The Frail Tide』(2007)の頃はイェーテボリ・スタイルのメロディック・デス・メタルを志していたんだ。アット・ザ・ゲイツ、それからイン・フレイムスの『クレイマン』に影響されていた。さらにダーク・トランキュリティやオーペスからインスピレーションを得たことで徐々に大曲志向になって、曲の中にさまざまなリフのアイディアを込めるようになった。新作のダークでアトモスフェリックな雰囲気はおそらくポーキュパイン・ツリー、アガロクやデススペル・オメガからの影響があるんじゃないかな。

──アルバム『ヴェッセルズ』ではどんな音楽性を志しましたか?

スティーヴ・メリー:事前に「こんなアルバムにしよう」とは考えずに曲を書き始めるんだ。だから、ありのままの俺たちの姿がアルバムに刻み込まれたと思う。ヘヴィでダークでアトモスフェリック、そしてわざとらしくない音楽性になったよ。初期のメロディック・デス・メタルもあるし、よりアンビエントな部分もある。2015年のほとんどをソングライティングに費やしたんだ。「アン・アンバーズ・アーク」のリフは10年前に書いたもので、ずっとパソコンの中にあった。どう使えばいいかわからなかったんだ。でも今回のセッションでパッと光が差して、すべてがスムーズにでき上がった。ベラコールというバンドの音楽に初めて触れるリスナーにも向いているし、日本デビュー作になったのは幸運だと思うよ。

──イェーテボリ・スタイルのメロディック・デス・メタルはどのあたりで聴けますか?

スティーヴ・メリー:メロディック・デス・メタルはもう俺たちの音楽スタイルと切り離すことができないし、“どの箇所”といえるものではないけど、例えば「ウィザリング・ストランズ」の2分ぐらいのギター・ハーモニーなんか良い例かもね。あと「ウェルム」の最初の1分もそうだ。「ルーツ・トゥ・セヴァー」は全体的に、イェーテボリ・スタイルを今の俺たちなりに解釈した曲といえるかも知れない。

──曲は、誰がどのようにして書いているのですか?

スティーヴ・メリー:主にジョージと俺が書くけど、ショーンやジョンもいろんなアイディアを出す。そうして徐々に曲が長くなっていくんだ。曲を書き始めるときは、最終的にどれぐらいの長さになるかは判らない。長い曲をレコーディングするときはコンピュータを使っているし、それに楽譜がなくても頭で記憶しているから、楽譜を読めなくても困ったことはないよ。

──「ルーツ・トゥ・セヴァー」のイントロや「ウェルム」のバッキングなど、ヘヴィなサウンドとピアノの対比がバンドの大きな個性となっていますが、どんなスタイルを目指していますか?

スティーヴ・メリー:俺たちがやろうとしているのは、ピアノやキーボードを取り入れて、ヘヴィな音楽性に奥行きを加えることなんだ。『ヴェッセルズ』ではピアノが効果的に使われていると思う。どうしても曲にピアノを入れなければならないとは考えていないんだ。俺はパワー・ミュージックが好きだからね。それでもあえて使うのは、必然性があるからだ。

──影響を受けたロック・キーボード奏者はいますか?

スティーヴ・メリー:特にいない。正直、ロック・キーボーディストを意識したことはないんだ。楽譜も読めない。というか、バンドの誰も正式な音楽教育は受けていないんだ。ジョージとショーンは十代の頃、ギターを始めた頃に少しだけレッスンを受けたと思うけど、その程度だよ。それで問題があったことはない。たまにファンに「あの曲の楽譜はありますか?」とか言われると困ってしまうけどね(笑)。

──アルバム・タイトルを『ヴェッセルズ』としたのは何故ですか?


スティーヴ・メリー:vessels(ヴェッセルズ)とは“伝達するもの/運ぶもの”という意味なんだ。いわゆるコンセプト・アルバムではないけど、全編を通じて“生命の伝達”をテーマにしている。1曲目の「ルマ」は生命の根源である“光”を意味している。「ウィザリング・ストランズ」は植物の生命、「ルーツ・トゥ・セヴァー」は昆虫、「ウェルム」は動物を描いているんだ。さらに血管のことをblood vesselというのが気に入っている。

──ベラコールのライヴにはどんな観客が集まりますか?

スティーヴ・メリー:俺たちの音楽はエクストリームなメタルだから、ワイルドな気分になりたくてやってくるキッズが多いけど、あまり暴れるタイプではないみたいだね。ヘッドバンギングもするけど、真剣に耳を傾けてくれる。音楽を暴れるための口実にはしないタイプが多い。メルボルンのファンはいつも盛り上がってくれるし、パースも熱狂的だ。シドニーの観客を乗せるのはちょっと難しいんだ。何故だろうな。これまでヨーロッパには3回行って、ドイツやチェコ、ポルトガル、ルーマニアでプレイしたけど、ドイツのメタル・ファンは凄くクレイジーになるね。『ヴェッセルズ』は俺たちの4枚目のアルバムだけど、新しいスタートだと考えている。このアルバムに伴うツアーで、どうしても行きたい地域が3つあるんだ。まずメロディック・デス・メタルの本場の北欧、特にイェーテボリでプレイしたい。それからもちろんアメリカにも行きたいけど、やはり一番ライヴをやりたいのは日本なんだ。俺たちにとって日本は決して遠くないけど、謎に満ちた国なんだ。J-POPというジャンルは聞くけど、バンドはあまり知らない。BABYMETALはオーストラリアでも有名だけどね(笑)。『ヴェッセルズ』は、俺たちを日本に連れていく交通機関(vessel)になると信じているよ。

取材・文 山崎智之
Photo by Oli Sansom

【メンバー】
ジョージ・コスマス(ギター/ヴォーカル)
ショーン・サイクス(リード・ギター)
スティーヴ・メリー(ピアノ/キーボード)
エリオット・サンソム(ドラムス)

ベラコール『ヴェッセル』

2016年6月22日発売
日本語解説書封入/歌詞対訳付き CD \2,300+税
1.ルマ
2.アン・エンバーズ・アーク
3.ウィザリング・ストランズ
4.ルーツ・トゥ・セヴァー
5.ウェルム
6.ア・スレッド・ディソルヴス
7.グラスピング
8.ザ・スモーク・オブ・メニー・ファイヤーズ

◆ベラコール『ヴェッセル』オフィシャルページ
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