■ 銅像や勲章を欲しがる奴もいるけど、惨めだよね。何も学んでない
■ 俺は、「なんもするな」って遺言残す

──妄想話ですが、亡くなった人も含めたら、どんなラインナップでフジロックやります? 例えばジミヘンをヘッドライナーにするとか。

日高:1個なんて絶対選べないよ。そりゃジミヘンからプレスリーまで行くだろうね。それは俺の夢だよ。ジョン(・レノン)から、ボブから、そりゃいっぱいいるさ。そういう意味では特に今年ショックだったのは、まぁモハメド・アリのことはある程度覚悟してたけど、プリンスは参ったよね。(デヴィッド・)ボウイは体調が悪いって聞いていたけど、プリンスは「えー?」ってなって、その後のノックアウトパンチがモハメドだった。だからなんらかの形でデディケーション(追悼)はやろうかなって思っている。曲をやるとかっていうよりは、なにかできればってね。

──<FUJI ROCK FESTIVAL '16>で?

日高:写真1枚だけでも、なんらかの形でね。「ありがとう」だよ。ボウイにも「ありがとう」、プリンスに対しても「ありがとう」だよ。

──仕方ないことですけど、今後も毎年のように訃報は届くんでしょうね。

日高:いやいや、俺が先に死ぬよ。四捨五入すると100歳ですから(笑)。だって俺、フジロックを残そうなんて考えてないんだよ。

──でも、残っていくでしょう。

日高:そんな後のこと、俺は知ったこっちゃないよ。俺がいなくなった後は、誰かがなんらかの形でフジロックは残していけばいいと思うけど、でもそいつがやりたくないってなったら、それでいいじゃない。世の中ってそんなものだと思っているもん。そうじゃない人間が、亡き後をなんとか務めようとすると、ろくな事にならないんだよね(笑)。もしくはテメェの銅像を残すかだよね。偶像崇拝なんて冗談じゃないからさ、俺だったらおしっこ引っかけて夜中にロープかけて車で引きずりだしちゃうけど(笑)。

──日高さんが亡くなったら、日高さんの銅像が建つと思いますけど…まっぴらごめんですか?

日高:冗談じゃない(笑)。機関銃持って来い!だよ。バババババババーってさ。

──グリーン・ステージの横とかに建ちそうですけど(笑)。

日高:いやぁ、そんなこと考えたくもない。「なんもするな」って遺言残す。

──そうか、銅像は却下か。

日高:銅像や勲章を欲しがる奴もいるけどな。俺に言わせりゃ惨めだよね。国会議員に金配って、なんとか文化賞みたいなの貰って、田舎に帰ってパーティーやって勲章付けてさ。バッカじゃないの? 何も学んでないなコイツは…と思うね。

──フジロックって、地位も名誉も富も関係ない場ですよね。人間としての強さだけが存在していて、強い人間は弱い人間を助けてあげようという関係性しかないでしょう?誰ひとりとして「VIP扱い」される人がいないし、アーティストですらVIP扱いを受けていない(笑)。

日高:アーティストとお客さんっていうのはイコールなんだよ。俺らがやらなくちゃいけないのは「アーティストを安全に気持ちよく送り出していい演奏をしてもらう」ことね。もうひとつは「お客さんが楽しんでもらえるような環境を作る」こと。それってつまり、「いい演奏をしているアーティストにお客さんが反応してもらえるような環境を作る」ことなの。それだけだよ。凄い演奏をするとね、お客さんはワーッと熱狂してエネルギーがステージに返ってくるんだよ。それを受けたミュージシャンは倍くらいにして返すんだよ。それは形じゃない。目に見えないよ、感じるんだよ。アーティストから「こんなフェスティバル初めてだ! お客さんからエネルギーもらっちゃったよ」「なんであんなふうになったのか、自分がわけわかんない。俺、今日跳んじゃったよ!」って言われる。お客さんがニコニコ笑って観てくれているっていうのは、一番嬉しいことだよね。やってよかったって思う。

──であればこそ、アーティストをVIP扱いしそうなものだけど、フジロックはアーティストもお客さんも自然の中での人間力が試されてる気がする。

日高:うん。どっちかが上になるっていうのはおかしいよ。

──フジロックは今後も歴史を重ねていくと思いますが、まだやり残したことってありますか?

日高:そりゃいっぱいあるよ、言えないけど。

──それは、来年の目標ですか?

日高:いや、わかんない。できるかどうかわかんないし。まぁ、その質問の答としては「要は、満足したら進化はもうない」っていうことだな。自己に関して言えば、自分のアラ探しをしなきゃなんないし、もうひとつは、もっと夢を持つこと。その夢を実現できるかどうかはわかんない。でもそういうものを持ったほうが楽しいよ。俺が酒呑んで音楽聴きながらファ〜ってなっている時なんか、みんなわかってるもん。「また日高が変なこと考えてるよ」って(笑)。

──これからも楽しみは続きそうです。

日高:「日高さん、ロックとはなんですか?」ってバカなことをよく訊かれるけど、俺はいつも「いや、ギター1本で歌う人も三味線1本で歌う人でも、歌謡曲であろうがなんであろうが、ミュージシャンにハートがあればロックだよ」って答える。バカなガキが髪の毛長くして、手袋して、ドラム、ギター、ベースでドンパカドンパカ下手な演奏してギャーッて叫んでるのがロックだとは絶対思わないし、そんなバンドには出てもらったことないと思うよ。

──そういう意味では、まだまだ出て欲しい人/出るべきアーティストってたくさんいそうですね。

日高:そりゃ、世界中交えると星の数ほどいるんじゃない?

──それで、ケミストリーが起こる。

日高:うん、英語で言うケミストリーだよな。あれは計算してできることじゃなくて、自然にできることなんだよ。化学方程式なんてないんだよ(笑)。

──そういうたくさんの体験が、フジロックを形作っているんでしょうね。もともと無類の音楽好きだったということですか?

日高:音楽も大事だけど、10代くらいの時にやっぱりもっと本を読むことだよね。いい小説、いい書物、あとはいい写真やいい美術。それといい人に恵まれること。自分とはまた違うものを持っている人達に出会うための環境だよね。音楽だけを素養にしてる凄いミュージシャンもいっぱいいるけど、世界のいろんな人と話をしていると、やっぱり色んなモノに対して興味を持ってるんだよ。俺はね、小学校で、図書館で過ごした時間が一番長いっていう記録を持ってるんだよ。英語喋れるようになったのも、映画と音楽から。あとマンガも好き。

──それは歳を取ってからでも間に合いますよね。

日高:もちろんそうだよ。人間は、自分が興味を持ったものに惹かれるっていうことに歳は関係ないよ。恋愛だってそうでしょ。年齢による制限は何もないっていうことだよ。

──面白い話だらけでした。人生訓がいっぱいで。

日高:ふふふふ。失敗の連続の人生訓(笑)。訓話(笑)。

取材・文:BARKS編集長 烏丸哲也

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フジロックを始めた動機を、「面白いと思ったからやっただけ」「誰もやってないことだったから」とあっけらかんと言い放った日高氏であるが、実際はこのフェスティバルに氏の強固な哲学が息づいていることをおわかりいただけたはずだ。その哲学とは“本当の自由”の追求と獲得だろう。もちろん、組織からも誰からも「飼いならされたくない」と人は思って生きているが、やはり現実的には、システムに取り込まれ、右に習っているのかもしれない。それは悲しくも無自覚のうちに行われてしまう。だからこそ、フジロックの会場にやっと辿り着き、山道を自分の足で踏みしめ、歩む道を選択し、未知の音楽と出会ったときに感じる紛れもない圧倒的な自由に、現代人は多かれ少なかれある程度ショックを受ける。話には聞いている「自由」というものがフジロックには確かにあるからだ。あるいは、本来あるべき姿に「戻ってきた」と直観する人もいるだろう。人として根源的なそういった感動や気付きがあるからこそ、音楽ファンも音楽に馴染みのない人も、芸能人も、日本のミュージシャンも海外のミュージシャンも、この時代に生きるあらゆる人にとっての理想郷となり得るのがフジロックである。

これまでお届けした今回の特集では、フジロックが20年間愛され続けてきた理由を紐解いてきたが、裏テーマは、それでも「敷居が高い」というイメージを持たれているのはなぜか?を検証することにある。ハードルとして挙げられるのが、金銭面、時間の確保、大自然という環境に対する不慣れさなどであるが、自分は果たして自然や自由を謳歌できるのか?という現代人ならではの心理的な問いも、障壁のひとつなのかもしれない。天候の移り変わりを当たり前のものとして受け止めること、あるいは、管理してもらえて安全なブロック制ではなく、フリースタンディングという観客の節度に委ねられた自由なライブ空間をいかに楽しむことができるのかは、すべて参加者自身にかかっているのだ。

「知らなかったものに触れて欲しい」と願う氏の心意気は、仲間を引き連れて未開の地へ導くガキ大将そのものであり、フジロックはその巨大な秘密基地だ。これまでその基地は丹念に作り込まれてゆき、メインステージ以外にも、ダンス・ミュージックをはじめとした高揚感あふれる音楽をまるで洞穴で体験しているかのようなレッド・マーキーや、僻地ほどの奥地に位置しまさに天国のような多幸感を全身で浴びることができるフィールド・オブ・ヘブンなど、フジロックのステージ演出は多様だ。そして、サーカスや映画やアートオブジェなど、音楽と関係ないものもわんさか体験できる。これらから成るフジロックを味わうことは、音楽の多様性を知ること以上に、“この世界の広さと深さ”を説く大将(注:日高氏のことをフジロッカーは親しみを込めて“大将”と呼ぶ))からの提示が具現化されたように映る。

そして今回の取材において──日高氏本人からは、「当たり前じゃん」と笑われてしまいそうだが、今もなお、自分のアラ探しをし夢を持つことを続けるという、人としての進歩的な在り方には、おおげさではなく、人生の可能性を教わったような気持ちを持つ人も少なくないだろう。念願だったというスウィンギング・ジャズのフルオーケストラ(FRF 20th SPECIAL G&G Miller Orchestra)を20回目のフジロックでやっと実現できることを、本当に喜々として話してくれた場面があったのだが、今もなおそんな純粋な夢を語り実現できることは、人生の醍醐味以外のなにものでもない。

そしていよいよ、20回目のフジロックがもうすぐ始まる。今回の記事を胸に、フジロックという生き方を、存分に楽しんで欲しい。

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<FUJI ROCK FESTIVAL'16>

2016年7月22日(金)23日(土)24日(日)
@新潟県 湯沢町 苗場スキー場
※各券種、受付などの詳細はオフィシャルサイトへ http://www.fujirockfestival.co