【音踊人 03】切なさを飛び超えて - 5/1 私立恵比寿中学@福岡サンパレス(月の人)

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5月1日、私立恵比寿中学のコンサートを観に福岡サンパレスに行ってきた。

4月にリリースされた3枚目のアルバム『穴空(アナーキー)』を提げた今回のツアー、彼女たちの持つ真っ直ぐなイノセンスと無邪気なアナーキーさがスパークする瞬間が何度も訪れ、その度に心ときめく素晴らしい公演だった。

3,000人規模の福岡サンパレス、ソールドアウトとはならなかったが客入りは上々。はちきれんばかりの期待感の中でステージ幕が開くと「穴空」だけに、巨大なドーナツを中央に据えた舞台装置が現れる。周りに巨大ポップコーンやらマカロンが飾りつけられ、とても賑やかだ。

ライブは、オープニング2曲はアルバム曲だったもののそれ以降はエビ中の歴史を振り返るように、古い曲から順番に披露され後半に新作の楽曲が来るという構成。


初めは前山田健一氏が手掛ける騒がしくもキュートな楽曲とメロディアスな名曲たちがごちゃ混ぜになったインディーズ&1stアルバム『中人』期の楽曲たち。そして現メンバーとなり一歩先に進むことでエビ中の強い記名性を手にした2ndアルバム『金八』期の楽曲たちは既にファンにもお馴染みの曲ばかりで至上の盛り上がりを見せた。

そして新作『穴空』コーナーは「全力☆ランナー」からスタート。クールな振り付けと王道な歌い回し、「夏だぜジョニー」と「ナチュメロらんでぶー」で一気に常夏気分へ持っていく表現力、新たなエビ中の魅力が満載だ。


フジファブリックが楽曲提供したロックバラード「お願いジーザス」では演劇的とも言えるダンスで、日々の苦悩や葛藤を吐露する歌詞を祈るように歌いあげる。

そもそも私立恵比寿中学とは「永遠に中学生」をコンセプトに掲げ、恒久のモラトリアムが魅力のアイドルで、ももいろクローバーZの妹分ではあるものの、抜本的な在り方が実は異なっている。

しかしメンバーチェンジや人気の拡大は自然と彼女たちに“成長”を付与していく。結果として、“不変と躍進”が同居する稀有なグループとなり、無邪気さの中に見え隠れするプロフェッショナルとしての意識が観るものを強く惹きつけているのだ。

「お願いジーザス」は、そんなコンセプトを持ちながらも、だんだん身も心も大人になっていくことに抗えない彼女たちの素直な想いを乗せた言葉が強く胸に刺さる一曲だった。

もちろん、エビ中の特性でもあるバカ騒ぎできるような曲も健在。KEYTALK・首藤義勝が手掛けた高速四つ打ちトランス「MISSION SURVIVOR」では無心に踊り狂うエビ中のとびきりの可愛さが炸裂していました。また、「参枚目のタフガキ」ではサカナクションを想起させるバキバキのダンストラックでフロアを揺らす。これ程までに楽曲に振れ幅のあるアイドルを僕は他に知らない。音楽的な豊かさもエビ中の強みだろう。

本編の最後の披露されたのは「ポップコーントーン」という本作でも屈指の名曲。冒頭に「時々涙を流してることも知ってる/それでもあなたは笑って来てくれたんだ」というフレーズがある。これはメンバーがメンバーに対して歌っているエビ中の友情ソングにも捉えられるが、エビ中がライブに来てくれたファンに向けて歌っているようにも聴こえ、いつも大号泣しそうになるのだが、生で聴くともう我慢出来なかった。

「頭からポップコーン弾けてしまう/夢みたいなことはそこから始まるのだろう」と、理想を想像すること、未来を思い描くことの大切さを歌った曲でもある。僕らが失ってしまった儚い青春性を永遠にループさせて、思春期の檻に閉じ込めてしまうのがエビ中の魔力だ。しかし、『穴空』はそのような守られた聖域から一歩飛び越えようとする楽曲も多い。開放感と共に「今しかない」切実さが両輪駆動の推進力となり、あまりにも美しい光景を生み出したのだった。

本編終了直前のMCで、メンバーの廣田あいかから語られたのは、「今日ライブするにあたり自分たちに何が出来るかということが語られた。

この日は5月1日。九州、特に熊本・大分に被害をもたらしら震災から二週間程しか経過してない頃だった。序盤に歌われた「手をつなごう」で、安本彩花が声を詰まらせ「みんな笑って!」と叫んでいたことも、この状況に対しての心からの思いがこもっているものだった。

「永遠に中学生」というコンセプトになぞらえ、この日の思いが静かに廣田から語られた。中学生という、悩みもあるけどきらきらしてる時期、そういうきらきらはどんどんなくなっていってしまう、ということ。それでも自分たちがずっと中学生でいて、みんなも中学生でいてくれること、この学芸会の間だけでもずっと中学生でいて欲しい、という切なる願いだった。

「私たちは何も出来ないけど、今ライブに来て自分たちで作った気持ちを思い出して頑張って欲しい。」ありったけのきらめきと多幸感を振りまき、僕らを十分に勇気づけたにも関わらず、彼女たちは謙虚だった。エビ中を観て僕らの中で生まれた感情こそが正しいものだと、僕たちに諭してくれるのだ。エンターテイナーとして、一つの完璧な美学を持ったグループだと感服する他なかった。


アンコールでは、常に前進し続けるエビ中を支える応援歌「頑張ってる途中」と、最新シングル「スーパーヒーロー」が並べて披露された。根本的な在り方は変わらないまま、いつだって彼女たちは一生懸命に目の前のことに打ち込み、そして僕らの前にきらきらとした存在として現れてくれる。彼女たちは変わらないまま成長し、そしていつどんな場所でも自分たちの輝きを僕らのために見せてくれる。そんな思いをエモーショナルな歌唱に乗せた感涙のアンコールだった。

この日はしっかりとメンバーの顔も堪能できる座席で、全体を見渡しながらよく観ることが出来た。推しメンである松野莉奈も、のびのびと晴れやかに歌っていた。こんなにも楽しい時間だと言うのに、終わりが近づくに連れて鮮烈な切なさが襲ってくる。この瞬間が最も切なく、最も愛おしい。やはりエビ中が作り出すプリズンからは抜け出せないなぁ、と思う5月の夜だった。

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