【ロングレポート】音楽フェスの力を証明した20回目のフジロック
さて、ライブアクトに話を戻したい。今年のフジロックのグリーンの各日のトリは、シガー・ロス、ベック、そしてレッチリという超ビッグネームであったが、ホワイトステージのトリのブッキングに対する評価も高かった。
まずは初日のディスクロージャーだ。あの宇宙ステーションのような半円型のセットが神々しいほど、ふたりは洗練され自信に満ち、そしてプロフェッショナルだった。しかも、「ニホン、ダイスキ!」とフランクに呼びかけたりと、あくまでもオープンマインド。歌い・弾き・叩くという生演奏の躍動に当たり前のように観客は沸き立ち、歌のフレーズの合唱が起こるほど私達を無邪気に踊らせ楽しませた。
ブレイクビーツというより、造っちゃ壊し造っちゃ壊しの繰り返しのようなスクエアプッシャーの創造的なプレイは、一般的なリスニングミュージックとはかけ離れたもので、こんなに各所から「変態だな〜!」という称賛の声が聞こえてくるライブは初めてだったほど。完全に、感化の連続だった。自らもプロジェクション・マッピングの一部と化すべく真っ白いスーツを着衣した彼のステージは、スーパーエレクトロとでも言いたくなるような総合的な電子芸術であった。
そして3日目のバトルス。ザックリ言うと、ひたすら中央でドラムを叩き続けるジョン、そして細かく音を構築していく2人という3人が作り上げていくライブだったと思うが、その微塵も落ちない集中力と体力にとにかくあっけにとられた。1時間半の演奏を完走した瞬間、なんだかホワイトにいる全員が達成感を覚えたような激走であった。
思わずこのホワイトにしばらく居続けたのが、初日のKOHH〜Suchmos〜THE INTERNETの流れだった。これほどブラックミュージックの最前線の空気を吸い込めるアクトが次々と登場する機会は稀有だと思ったからだ。地元である東京・王子の友達を大勢ステージに誘い入れたKOHHからは今の彼の勢いや異端児っぷりが感じられたと共に、Suchmos、THE INTERNETからは洗練と気品を備えた上で胸を揺さぶってくるエモーショナルなパフォーマンスに、時代性を観た。なんだか、人生の階段を一段階くらい引っ張りあげられたようなクールなこの数時間は、東京に戻ってきて日が経った現在もその感覚が残っている。
だがホワイトの注目度と言えば、やはり3日目のBABYMETALだろう。もちろん、ところ天国とホワイトを繋ぐ橋には大渋滞が起きた。ちょうど厚い雲に覆われ小雨がパラつくという、どこかしら「逆境」みたいなものをイメージさせるシチュエーションも加味したのだろう、3人は強い意志そのもののようなオーラを宿しステージに現れた。世界レベルという称号に最早疑いの余地がないのが今のBABYMETALだと思うが、フジロックにおいては異色のブッキングだ。だが、ステージ上の超人芸の如きバンド演奏からも、微塵の隙もなく動き続ける3人の劇場型のパフォーマンスからも、このプロジェクトが世界レベルであることを瞬間的に教える完璧な内容だった。また、お決まりのタイミングで生じた巨大サークルピットがビジョンに映ると、フジロックのお客さんにとっては新鮮なのだろう、「あ、あれがサークルかぁ」と素朴な感想が聞こえてきてなんだか微笑ましくもあったのを覚えている。普段、無意識的にでも意識的にでも自分に作られている音楽の趣味というボーダーラインも取っ払ってくれるのがフジロックであるが、自由な音楽の聴き方にある豊かさが特に感じられるのが今年のラインナップであったと思う。
それはもちろん、八代亜紀・仲井戸”CHABO”麗市・奥田民生・トータス松本を迎えた“ROUTE 17 Rock'n'Roll ORCHESTRA”も然り。話題を呼んだ「舟唄」はじめ、ブルースあり、RCあり、そして、デヴィッド・ボウイ、プリンス、モハメド・アリの追悼をおこなったステージは凄まじくカラフルで、音楽ジャンルや時空を超えた演奏は、まるでみんなにとっての人生讃歌のように感じられた。そして、“FRF 20th SPECIAL G&G Miller Orchestra”という総勢18名のスウィング・ジャズのオーケストラもまさにスペシャルだった。ゲストシンガーに加藤登紀子、曽我部恵一、EGO WRAPPIN’中納良恵を迎えた20回目ならではの舞台に向けて、ベックのライブの終了後というタイミングでも人がしっかりと残っていたのが印象的だ。
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