KIRINJI「夏の終わりに聴きたい10曲」/【連載】トベタ・バジュンのミュージック・コンシェルジュ

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この連載では、音楽家/プロデューサーのトベタ・バジュンが毎回素敵なコンシェルジュをお迎えし、オススメの10曲のプレイリストを紹介していく。コンシェルジュの「音・音楽へのこだわり」を紐解きながら、今の音楽シーンを見つめ、最新の音楽事情を探っていこうというコーナーだ。

KIRINJIは12作目となるオリジナルアルバム『ネオ』をリリースしたばかり。前作『11』より堀込高樹(vocal / guitar)に加えて、千ヶ崎学(bass / vocal)、コトリンゴ(piano / keyboard / vocal)、楠均(drums / percussion / vocal)、田村玄一(pedal steel / steel pan / vocal)、弓木英梨乃(guitar / violin / vocal)の5人を迎えた新体制での活動を経て、いい意味で各々が“慣れてきた”ことによる影響がアルバムにも表れている。本企画第3回目のコンシェルジュとして登場するのはそんなKIRINJIから堀込高樹、コトリンゴ、弓木英梨乃の3人が登場し、「夏の終わりに聴きたい10曲」をセレクトしてもらった。

●KIRINJI「夏の終わりに聴きたい10曲」

(1)Brad Mehldau「Where Do You Start?」:コトリンゴ
(2)Final Fantasy「The Pooka Sings」:コトリンゴ
(3)Emiliana Torrini「Birds」:コトリンゴ
(4)Caetano Veloso「Medley: Billie Jean/Eleanor Rigby」:堀込高樹
(5)Miles Davis「Concierto De Aranjuez」:堀込高樹
(6)The Beach Boys「Passing By」:堀込高樹
(7)The Carpenters「(They Long To Be)Close To You」:弓木英梨乃
(8)Sixpence None the Richer「Kiss Me」:弓木英梨乃
(9)The Eagles「Lyin' Eyes」:弓木英梨乃
(10)KIRINJI「日々是観光」:コトリンゴ

   ◆   ◆   ◆

(1)Brad Mehldau「Where Do You Start?」(コトリンゴ)

なんとなく寂しいテーマで夏が終わってしまうイメージです。ブラッド・メルドーはテクニックがすごいので、そっちばかりに意識が行きがちなんですけど、この人バラード演奏がすごくて。昔から大好きで、聴くたびにホロっときてしまいます。アルバム自体は結構熱いなかで最後にこの曲があるので。多分別れてしまう恋人たちを描いているので、夏の終わりにぴったりだなと思いました。(聴いていたのは)2年前くらいです。

(2)Final Fantasy「The Pooka Sings」(コトリンゴ)

(オーウェン・パレットのソロユニットのなかでも)かなり昔の曲です。これもちょっと切ない感じの曲です。

(3)Emiliana Torrini「Birds」(コトリンゴ)

これも結構前に買っていたアルバムです。雰囲気が全体にすごく良くて、声がとても好きです。この曲は特にことあるごとに聴きたくなります。

(4)Caetano Veloso「Billie Jean/Eleanor Rigby」(堀込)

アコギ一本で歌っていたような気がするのですけど、「Billie Jean」(マイケル・ジャクソン)から始まって「Eleanor Rigby」(ザ・ビートルズ)に自然と繋がっていきます。きっとリビングかどこかでお酒飲みながらぽろぽろ歌ってたのをそのままレコーディング録ろうかって感じのノリで録ったように僕には聴こえます。カエターノはちょっと憂いもあって夏の終わりの感じがします。特にこのアルバムはね。

(5)Miles Davis「Concierto De Aranjuez」(堀込)

ギル・エバンスと共演してるマイルスは、夏の終わりのイメージです。もしかしたら『Miles Ahead』のアルバムジャケットのイメージかもしれないですけど。

(6)The Beach Boys「Passing By」(堀込)

これは夏っぽくないビーチ・ボーイズです。(「KIRINJIのライブの直前に流れてもおかしくない」という問いかけに対し)そうかもしれないですね。どこの音楽なのかわからないようなタイプの類ですよね、夏というテーマなのでビーチ・ボーイズを入れておこうかなっていう、割と単純な理由なんですけど。でもこの曲に僕は夏の終わり感を感じます。

(7)The Carpenters「(They Long To Be)Close To You」(弓木)

私は純粋に好きな曲を選びました(笑)。私のiPodのプレイリストに「疲れた」っていうプレイリストがあって、疲れた時にそれを聴くっていう(一同爆笑)。やっぱりでも疲れた時に聴きたい曲って昔から好きな曲ばっかりなんです。ザ・ビートルズとか、「Stand by Me」(ベン・E・キング)も好きで、「疲れた」フォルダに入っています。その中で「夏の終わり」って言われたときにポンッて浮かんだ曲です。

(8)Sixpence None the Richer「Kiss Me」(弓木)

中学生の頃から疲れた時はいつもこの曲を聴いていました。元気になれます。

(9)The Eagles「Lyin' Eyes」(弓木)

イーグルスで一番好きな曲です。私の選んだ曲は全部爽やかだなって思うんですけど、どれも聴くと涙が出てきます。爽やかで「わぁっ」て高揚するんだけど、切ないなっていう曲が夏の終わりを感じます。

(10)KIRINJI「日々是観光」(コトリンゴ)

堀込さんと共通の知り合いのご夫婦が東京に来られた時に、堀込さんが観光案内をやることになって途中から私も参加したんですけど、堀込さん、マニアックな場所をそのご夫婦に案内していて(ご飯とか古着屋さんとか)でも、その時とても楽しかったんです。そんなこともあって「日々是観光」の歌詞を書いてもらう時に「観光案内の様子を歌詞にしたいです」ってリクエストしたんです。この曲を聴けば堀込さんが案内する東京観光が完了できちゃうような曲になればいいなって思ったんですけど、堀込さん的には具体的な名前が出てきちゃうと難しいってことで最終的に今の歌詞にになっていきました。

   ◆   ◆   ◆


──今回の最新アルバム『ネオ』は、リスナーにとってどんなアルバムに仕上がったと思いますか?

堀込高樹:前作の「11」は新しくメンバーが入りましたよっていう、ところと、“兄弟時代のキリンジ”でやってきた音楽を引き継いでいたものが共存した…つまり“兄弟時代のキリンジ”でやってもおかしくないような曲と新しい曲が共存してた感じだったかなぁと思うんです。だけど、「11」をリリース後にワンツアーやってフェスに出たりしてライブの本数も増え企画アルバム『EXTRA 11』も出したんですけど、だんだんそういうなかで6人でないとできない音楽というか、このメンバーならではの音楽が出来上がってきて今回はその部分が非常に大きく影響したアルバムという感じがしてます。つまり“兄弟時代のキリンジ”とは別の刷新されたKIRINJIの音楽っていうのができあがってるなという気がしますね。

──6人編成だとどうやって曲を作ってくのか興味深いんですが、コトリンゴ作曲の楽曲を(堀込)高樹さんも一緒に歌っていたり…今回のアルバムは、どんな工程で作られていったんですか?

堀込:今回は自分が全部曲を書くわけじゃなくて、メンバーにも書いてほしいと思って。「みんな書いてきてください!」ってお願いしました。

──バンド内コンペをやるみたいなことですか?

堀込:そうです。嫌な感じですよね、コンペって(笑)。それでみんな出すわけですよ。みんな仮歌も楽器も入れて。

コトリンゴ:みんな出さないんじゃないかなって最初思ってました。

弓木英梨乃:そうなんですけど、制作ディレクターに「絶対に出さなきゃだめだ」って。「出すことでまた新しいステージが待ってるから」みたいな感じだったので…。

堀込:そうだったんだ(笑)。

──人によって提出曲数は違うんですか?


堀込:いっぱいできた人は(出してきてます)ね。

コトリンゴ:多分1曲でよかったんだと思うんですけど、まず先陣切って2曲「ハーイッ!」て出した人がいました。

──メンバー内で提出したことはわかるんですか?

堀込:そこはメンバーで共有していました。

──それなんかちょっとドキドキしますね。


コトリンゴ:やっぱり恥ずかしいから「最後まで出さないでいこうかな」とか考えてました。

──でもなんか学生っぽい感じがしてちょっと楽しい。

堀込:だからまぁ書きたくない人にそんな無理して書いてもらうのも良くないじゃないですか。だから「書けたらでいいよ」くらいな気持ちだったんですよ。書けなかったら無理しなくていいから。でもディレクターからは「絶対出してよ」って言われたんだね(笑)。

弓木:なんか締め切りがちゃんとあって。

──曲のジャッジは高樹さんがするんですよね。

堀込:そうですね。一応ジャッジは任せてもらいました。

──メロディはいいけど詞は書き換えようとか、そういうダメ出しもするんですか?

堀込:その時点では詞はほとんどなくて、曲とメロだけでした。

──コトリンゴ作曲の楽曲が採用されていましたね。

コトリンゴ:しかもこれはないだろうなっていうのを選んでいただいて(笑)。ちょっとほのぼの過ぎてKIRINJIのアーバン感が…。

──「KIRINJI=アーバン感」なんですか?(笑)

一同:(笑)。

堀込:そんなことないんだけどね(笑)。

コトリンゴ:なんか「大人っぽさがないなぁ…」と思っていた曲を選んでもらったから。

堀込:でも、今回はどういうふうなアルバムにしようっていうのが、はじめは見えてなかったんですよ。とりあえず「いい曲がいっぱい集まったらいいアルバムになるに決まっている」ということで、単純に楽曲としてのクオリティの高いものを集めたいという気持ちだったんです。でも出揃ったものを聴いているうちに、「いい曲だから今出すべきというものでもないな」って感じ始めました。アルバムを出してライブもやってKIRINJIがどんどん変わっていっているわけだから、その先にあるものを提示しないとダメなんじゃないか、っていう気になってきたんです。

──それで『ネオ』なんですね。

堀込:そう。だからそれを基準で選んでいったんですよ。だから田村さんが書いた曲とかもすごく良かったんだけど、今このタイミングでは「違う」と思って、ペンディングにしたんです。

──リードトラック「The Great Journey feat. RHYMESTER」はRHYMESTERをフィーチュアしていますが、これはどういう出会いですか?

堀込:この曲の原形は元々去年のライブでやっていたんです。トラックはあって、そこに僕が適当な語りを入れたりしていた曲だったんですが、次第にまぁこれをなんとかしたいと。もうちょっとこのトラックの力強さに負けないくらいの声の要素が欲しいと思って。「だったらちょっとラップとか入れてみたらいいんじゃないか」って話になって。RHYMESTERの音楽はもちろん僕らも知ってるし、彼らもKIRINJIの音楽をよく知ってくれていたから、だったら彼らしかいないと思ってお願いしたんです。

──もともと皆さんも面識はあったんですか?

堀込:僕は宇多丸さんのラジオに呼んでもらったりとかして何度かお会いしてたんですけど、彼女たち(コトリンゴ、弓木英梨乃)は面識もなかったですね。レコーディングもベーシックはコトリさんと千ヶ崎(学)くんと楠さんでスタジオ入って録って、弓木さんのギターは僕の家のスタジオでダビングだし、結局ラップはRHYMESTERが別のスタジオで録るので。メンバーとRHYMESTERが全員同時に会うタイミングはなかったですね。

──曲を「せーの」で録ることはないんですか?

堀込:ピアノ、ベース、ドラムは「せーの」ですね。

コトリンゴ:たまに玄さんも。

堀込:でもやっぱり、ギターはダビングがいいよね。


弓木:はい。私は緊張しちゃいますし、高樹さんのスタジオで細々と…。

堀込:細々って言わないの。俺が悲しいから(笑)。

──そういえば、「Mr. BOOGIEMAN」は弓木さんが歌っていますよね?

堀込:曲ができた段階では誰が歌うって決まってないんですけど、こういう曲だったら僕が歌っても普通の80'sっぽい歌にしかならないから、弓木さんが歌ったほうが曲として広がりが出ると思って。

弓木:「Mr. BOOGIEMAN」は最初にデモが送られてきたときに少しだけ歌詞が入っていて「この曲は弓木さんかコトリさんに歌ってもらおうと思います」って書いてあったので、すぐに「私が歌いたいです!」って返信しました。最初聴いたときに「めっちゃかっこいいな」と思って、これはチャンスだと思って。結局、「これ歌って」って言われたから「やったー!」って感じです。

──「まぶしいっす」って歌詞がスゴイ新鮮で、あれって弓木さんが歌うからああいう言葉になったってことですよね。

堀込:そうですね。

──「Mr. BOOGIEMAN」ではコトリンゴさんがコーラスですよね。

堀込:コトリさんがリードボーカルをとっているのは、「恋の気配」とコトリさん自身の曲かな。

コトリンゴ:私の曲は皆が歌うような曲になっているんです。

堀込:確かにコトリさんの曲はメンバーが手分けして歌っているね。

──普段、皆さんが聴かれる音楽ってどういうものが多いんですか?

堀込:まぁ色々です。仕事柄そんなに興味のない音楽も聴いたりしますからね。最近買ったCDとかだと、レディオヘッドやポール・サイモンの新しいアルバムも面白かったですね。すごく不思議な音楽だったな。

コトリンゴ:私は結構CDも配信も買ってるんですけど、ちゃんと聴けてない。クラシックはCDで買って、ジャズとかはほとんどダウンロードです。

──それは区別があるんですか?

コトリンゴ:クラシックは1回じゃわからないからです。

堀込:配信で買う感じじゃないよね。

コトリンゴ:そうなんです。あと曲数が多くてわかんなくなっちゃうというか、買っている存在を忘れちゃうんですよ。だからずっと聴くだろうなって思うのはCDで買うんです。年月を経てわかるものもあるので。

──弓木さんは?

弓木:私はあまり音楽を聴かないです。いや…めっちゃ聴くんですけど、KIRINJIの活動がないときはアーティストのサポートでギターを弾いたりすることが多いので、そういう方たちの曲をずっと仕事で聴いています。でも、ギタリスト(の作品)が圧倒的に多いかな。新しいものが出たら聴くとかじゃなくて、"ギタリスト"を常に聴いているなっていうのはありますね。それも仕事に繋がるんですけど。

──普段音楽を聴く環境としては、20代である弓木さんはどういう環境で聴くことが多いんですか?

弓木:家ではスピーカーで聴くんですけど、外ではiPodとかでイヤフォンで聴きます。

コトリンゴ:私も同じです。

堀込:まぁ普通そうだよね。外でスピーカーで聴いてる人は珍しい(笑)。

──最近はアナログ熱も再燃していますが。

堀込:自宅にアナログプレーヤーもあるんですけど、全然聴かなくなっちゃいましたね。やっぱり普通のデータのほうが音がいいと思う。

──KIRINJIの場合、レコーディングとライブではサウンドの作り方や聴かせ方は変わっていますか?


堀込:レコーディングっていうのは、録ったものをどうするか。そのあとのプロセスがすごく重要なんです。演奏っていい演奏が録れたらそれはそれでもちろん最高なんだけど、意外とその後どうにでもなる…って言ったらあれだけど、今はそういう時代だから。その後をすごく気にすることになる。でもやっぱりライブっていうのは、本当にメンバーの持ち味っていうのが何もしなくても出ますよね。そこは当たり前ですけど、自然ですよね。

──楽曲もライブの回数を重ねていくたびにアレンジが変わることもありますか?

堀込:そういうときもあります。今のKIRINJIでは、先にライブで演奏してからスタジオに入ってレコーディングする方法をなるべくやりたいと思っているんです、今回のアルバムだと「The Great Journey feat. RHYMESTER」はすでにライブで演奏していたわけで、だからこそ後半の最後のバースの前のコトリさんの演奏とかは、本当にジャズっぽく結構自由な感じにいいのが録れました。新作にはそういうのが3曲くらいあるかなぁ。なかなかできないんだけど、そっちのほうがグループとしてやっている意義としては大きいかもしれないですね。レコーディングしたものがどんどん変わっていくって、当然のことですよね。

コトリンゴ:私は、普段の私ではできないような、みんなが歌うとかみんなが弾くとか、贅沢な曲をKIRINJIで作りたいなと思っているうですけど、でもいつも「サビが弱い」という(笑)。

堀込:サビが弱い(笑)。


コトリンゴ:昔から言われているんです。サビを繰り返したくないっていうのはホントはあるんですけど、そこは繰り返してみたり。でもやっぱり直せば直すほど聴きやすい感じになるんですよね。

──じゃあ直してよかったと思っているんですね。

コトリンゴ:もちろん。

堀込:よかった。注文出すほうも心苦しいんですよ。

──弓木さんはサビ作りはどうですか?

弓木:どうなんですかね…あまり何も考えてないです。

堀込:弓木さんの曲はね、今回のデモテープとかつて彼女が作った曲は、サビらしいサビが来てるとは思うけど。普通に歌って作ってるからでしょ? 歌って気持ちが昂るままにサビに行ってる感じがしますよ。

弓木:だそうです(笑)。

──ありがとうございます。

インタビュー:トベタ・バジュン

KIRINJI『ネオ』
2016年8月3日発売
UCCJ-9212 初回限定盤 SHM-CD+DVD 3,996円
UCCJ-2138 通常盤 SHM-CD 3,240円
※デジタル配信(ハイレゾ含む)も同時リリース

◆KIRINJIオフィシャルサイト
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