【超マニアック対談】大鷹俊一×髙嶋政宏がキング・クリムゾンを語りつくす

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■ライヴあってこそ、というのがロバート・フリップの中ですごく大きな基準なんだと思います(大鷹俊一)
■『エクスポージャー』がすごく好きなんです。上手くパンクやニューウェーブと一緒になっている(髙嶋政宏)


大鷹:髙嶋さんの中にはすごく優秀なキング・クリムゾン変換装置がついてるから、どんなプロジェクトで聴いても正しく変換できちゃうんでしょうね。とはいえ、クリムゾンファンとしての長い歴史の中で、くじけそうになったこともありますか?

髙嶋:『スリー・オブ・ア・パーフェクト・ペアー』ですかね(笑)。その流れで『ヴルーム』とか『スラックアタック』はちょっと遠ざかっていたんです。でもボックスが出ると、やっぱりファンだから買うんですよ。それで改めて聴くと、これはすごいなと。

大鷹:今回のもそうですが、ライヴあってこそ、というのがロバート・フリップの中ですごく大きな基準なんだと思います。『暗黒の世界』なんて、僕らは最初スタジオアルバムだと信じてずっと聴いていたのに、あるときライヴがベースになってるってわかって、この凄いのがライヴ?って本当に驚きました。フリップ自身も、ライヴでやっていない曲をスタジオでレコーディングするのは嫌いだって言っていますし。


▲『ラディカル・アクション~ライヴ・イン・ ジャパン+モア』

髙嶋:その『暗黒の世界』の1曲目、「偉大なる詐欺師」を最初に聴いたときはどんな印象でした?

大鷹:とにかくカッコいい。それだけでしたね。ここまで行っちゃうのかと。

髙嶋:僕は最初に出会ったのがジョン・ウェットン、ビル・ブルーフォードのクリムゾンだったんですけど、大鷹さんはグレッグ・レイク、マイケル・ジャイルズですよね。

大鷹:そうですね。70年代は嵐のようで、順番に聴いていくとその振幅の大きさについていけないんですよ。『リザード』があって次にこうなっちゃうの?とか。『アースバウンド』を輸入盤で手に入れて、なにこれ?って驚いてたら、その次が『太陽と戦慄』で。クリムゾンを自分の中でどう決着をつけるのか、どう落とし込むのかという、その繰り返しだったと思います。そうこうしているうちに解散しちゃうし(笑)。

髙嶋:ロバート・フリップ自身、計算はあるんですかね? これはこの辺で一度終わらせて次はこう、とか。

大鷹:それはないと思いますよ。グループ内の対人関係、まさにバンドとしての流れだったと思います。例えば『レッド』は、明らかに行きつくところまでいったという確証があったんじゃないですか。あの演奏と曲ですから。違うことをやりたいというのもあっただろうし、色々なアプローチをする人と出会ったりすると、自分の枠を変えていきたいという発想も出てくるんじゃないでしょうか。

髙嶋:僕は、ディシプリンと出会う前の『エクスポージャー』がすごく好きなんです。上手くパンクやニューウェーブと一緒になっている、という感じですよね。僕は小学校6年生のときに、ちょうどパンク、ニューウェーブに出会ったところだったので。

大鷹:それはまだ『レッド』とかに出会う前?

髙嶋:前です。それ以降ロバート・フリップという人の懐の深さ、引き出しの多さに魅了され続けているんです。その後色々なプログレファンと話をして、最高のギタリストはロバート・フリップだと言うと、そんなわけない、とか言われたり。それでそのほか色々聴いていくとアラン・ホールズワースとか、色々なギタリストに出会って、すごいなあと思ったりするんですけど、それはテクニックの話で。結局は、やはりロバート・フリップは最高の演出家だな、と思うんです。そのときそのメンバーで何をやれば一番いいのか、というところについては、ホントにすごい人だなと思いますね。


▲大鷹俊一

大鷹:それでいて、すべてを支配するとかそういう感じではないんですよね。独裁的みたいなイメージが強いけど、実際は民主的というか。決定権が彼にあるのは間違いないと思うけど、そこに至るまではもっとゆるやかなんじゃないかな。僕は今回デイヴィッド・シングルトンさんに聞いてみたんです。今までかたくなにやらなかった昔のナンバー、それこそ「暗黒の世界」なんて絶対やらなかったのに、どうして今回のプロジェクトでロバートはやるようになったのかと。そうしたらスティーヴ・ハケットが2013年に、ジェネシスの曲を再現する『Genesis Revisited II』のツアーをやったんですね。デイヴィッドさんもクラブチッタでそれを見て、これは楽しいじゃないかと思ったそうなんです。それでDGMのオフィスに帰ってからメルとかジャッコとかパットを呼んで、こういうのをやらないかと言った。これは面白そうだと進めていたら、ある日“僕もそれ参加したいんだけど”とロバートが電話してきたっていうんです。

髙嶋:へえー。すごいですね。でも“21世紀のスキッツォイド・バンド”のときはやらなかったんですよね。

大鷹:ええ、でもイギリスでやったときのアフターパーティとかには参加していて、すごくにこやかにしているんですよ。その写真を見たときに、これは次は何かあるな、と思いました。それから10数年経っちゃったけど。9月からヨーロッパツアーがありますけど、そこでは今までやらなかった昔の曲もさらにやるみたいですよ。

髙嶋:何をやるんでしょうね。今まで絶対「堕落天使」とかやっていないですけど、やらないかな。選曲の理由がどういうところにあるのか、知りたいですよね。誰が主導権を握って作った曲だ、とか関係あるんですかね?

大鷹:それこそロバートに訊いてみたいですよね。メルとかの意見とかもけっこうありそうな気もしますけど。

髙嶋:メル・コリンズといえば、サックスプレイヤーはみんなそうですけど、メルもありとあらゆる音楽をやりますよね。中近東っぽいメロディを入れたりとか。もちろんメルだけじゃなく、とにかくすごく優秀な人たちが集まってるバンドなんですよね。

大鷹:そうですね。今回も、実際にライブを体験するまで勝手に想像していた以上に、3人ドラマーはスリリングでしたね。

髙嶋:前のツインドラムのときは、うーん、と思っていたんですけど(笑)。

大鷹:うんうん、狙いがわかりにくかった。

髙嶋:今回はギャヴィン・ハリソンが来るっていうんで、これは見たいと思いました。

大鷹:めちゃくちゃ上手いですからね。

髙嶋:ホントに今回のドラムはすごいです。カリフォルニア・ギター・トリオの延長線上の数十人のギター、あれのドラム3人バージョンという感じで。しかもドラムに42チャンネルを使ってるんですから、もう異次元の音圧で迫ってくる。あと、ジャッコ・ジャクスジクはレベル42で来日したときに見たんですが、その彼がキングクリムゾンに入るというのがちょっとピンと来なかったんです。でも彼はカンタベリー系でやっていた人なんですよね。今回のこの楽曲、彼がライヴの音源を全部聴いて、どれがいいか選んだっていうんだから、すごいですよね。


▲髙嶋政宏

大鷹:その意味ではジャッコは殊勲者ですよね、今回の。

髙嶋:クリムゾンになくてはならない人になりましたね、「エピタフ」の歌いまわしを除いては(笑)。あの歌いまわし、なぜLAロックみたいにするのかと(笑)。

大鷹:コブシが回っちゃうんだよね(笑)。

髙嶋:ハイドパークでストーンズの前座に出た69年頃かな。『ライヴ・アット・ザ・マーキー』とかのあたりで、グレッグ・レイクが「風に語りて」をむちゃくちゃフェイクして歌ってるんです。あれはヴァン・モリソンのような、イギリスの伝統的な歌手の雰囲気なんですね。クリムゾンにおけるフェイクはこれだ、という感じ。でもジャッコはそうではなく、アメリカンな節回し。それをなぜやってしまうのか、そしてそれをロバートフリップはどう思っているのか、ぜひ訊いてみたい。

大鷹:そういえば今のクリムゾンってアメリカでもすごく人気なんですよ。だからアメリカの市場を意識したと言うと言い過ぎだけど、そういうセンスが自然とちょっと入ってきちゃうって部分もあるかもしれないですね。

髙嶋:「エピタフ」も「クリムゾン・キングの宮殿」も、日本人にとってはしっくりくるメロディの歌い方なんだけど、アメリカだと“ちょっとこれ重くね?”みたいなことかもしれない(笑)。とするとアメリカで人気があるというのも、ジャッコのあの歌い方がいいのかもしれない。まあ上手いのは間違いないですからね。

大鷹:ピュアな、グレッグ・レイクみたいな歌い方は、どうしても我々は頭から離れないですよね。それを知っていると違和感はあるかもしれないですね。

髙嶋:話は変わりますが、ロバート・フリップのことを、なぜロバート・フィリップという人がいるんでしょうね? 僕の周りでもそういう人がいて気になってるんです。

大鷹:以前、誤記されたことがあって、それがそのままになっちゃったということでしょうね。ビル・ブラッフォードも今はブルーフォードですし。

髙嶋:ブルーフォードもそうだし、ピーター・ガブリエルも、ゲイブリエルだと本人が言ったんで訂正されてますね。でもフィリップはないだろうと(笑)。


大鷹:話は変わりますが、髙嶋さんが『レッド』と1stの『クリムゾン・キングの宮殿』を聴いて好きになったときは、まだパンク少年だった?

髙嶋:そうです。まだ11歳くらいかな。

大鷹:それまで聴いてたパンクとの落差ってどう感じたんですか?

髙嶋:今まで聴いてたのは何だったのか、と思いましたね。暗黒でダークでハードで。それまでディープ・パープルとかレッド・ツェッペリンとかも聴いてましたけど、ハードなリフにすごくうまいボーカル、それに変拍子っていうのは衝撃でしたね。

大鷹:そのときはすでにベースを弾いてた?

髙嶋:はい、弾いてました。それにしても『レッド』はホントに衝撃でした。「再び赤い悪夢」でチャイナシンバルと出会って、なんなんだこれって(笑)。それで「神の導き」でちょっとわけがわからなくなって、その後「スターレス」が出てきて緊張から弛緩という。その後で『クリムゾン・キングの宮殿』を聴いたらまるっきり別もので。あの「21世紀のスキッツォイド・マン」でまた衝撃でしたね。もう全然違うバンドみたいだったから、その2枚の間のアルバムを聴くまでに時間がかかったんです(笑)。でも今は、もうまんべんなく聴いています。『スリー・オブ…』と『ビート』以外は、ですけど(笑)。そういえばこの2枚、40thアニバーサリー・シリーズで新たに出るんですよね?

大鷹:10月に出る予定です。

髙嶋:すごい音圧になるんでしょうね。楽しみですね。

大鷹:ホントに楽しみです。

photo by YUKI KUROYANAGI

リリース情報

キング・クリムゾン『ラディカル・アクション~ライヴ・イン・ ジャパン+モア』
2016.08.31発売
IEZP-107 3CD+2DVD(初回生産限定) ¥4,167+税
IEZP-108 3CD+Blu-ray ¥5,093+税
※日本盤のみCD部分はK2HD HQCD採用


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