葉加瀬太郎「旅先のリゾートで聞きたくなる10曲」/【連載】トベタ・バジュンのミュージック・コンシェルジュ

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音楽家/プロデューサーのトベタ・バジュンが毎回素敵なコンシェルジュをお迎えし、オススメの10曲のプレイリストを紹介していく【連載】トベタ・バジュンのミュージック・コンシェルジュ。第4回目のコンシェルジュとしてお迎えしたのはソロデビュー20周年というアニバーサリーイヤーに3年ぶりのオリジナルアルバム『JOY OF LIFE』を発表した葉加瀬太郎だ。葉加瀬太郎の独自目線から、「旅先のリゾートで聞きたくなる10曲」をセレクトしてもらった。

●葉加瀬太郎「旅先のリゾートで聞きたくなる10曲」

(1)Antonio Carlos Jobim「Wave」
(2)ブラームス「交響曲2番」
(3)Prefab Sprout「Wild Horses」
(4)Charlie Haden&Pat Metheny「WALTZ FOR RUTH」
(5)Ennio Morricone「Malena」(アルバム)
(6)Elvis Costello with Burt Bacharach「Toledo」
(7)Eric Clapton「My Father's Eyes」
(8)Suzanne Vega「Birth-day(Love Made Real)」
(9)葉加瀬太郎「Lime Basil & Mandarin」
(10)Sergio Mendes「Mas Que Nada」

   ◆   ◆   ◆

(1)Antonio Carlos Jobim「Wave」

もうね、これはリゾート地にいなくても、朝起きて一番最初に聴く可能性が高い曲です。とにかくいつでも聴きたいアルバムの一枚だし、ここ10年くらいコンサートの1部と2部の間のBGMはずっとあのアルバムからかけている。それほど大好きですし、僕は「(好きな音楽家を)2人挙げろ」って言われたらブラームスとジョビンにする。その次に(エンニオ・)モリコーネが入ってきてその次は坂本龍一かなぁ…っていうくらい好きなミュージシャンです。この4人は全部好きです。

(2)ブラームス「交響曲2番」

リゾートって言われたときに、「グリーンな曲がいいな」と思って「交響曲2番」。ブラームスがメジャーのキーを選ぶときはかなり緑色を意識している時なんですね。特にこの時代、「(交響曲)1番」のシンフォニーを21年かけて何度も書き直して(ブラームスが世に)デビューしたのが41歳なんです。それがいきなり大成功したあと、力が抜けてサラッと書いてるシンフォニーがもう才能に溢れまくってて実によくできた作品。もちろん(交響曲)3番と4番もいいんですが、サラッと加減と、その緑の山の感じが「リゾートって言ったらこんな感じだなぁ」と。2月ごろにモンブランに行ったんですが、あの辺に行くと、でっかい山と澄んだ空気に「ブラームスってこういう感じあるなぁ」って思います。メジャーのキーのブラームスの曲がぴったんこでよく合うんですね。

(3)Prefab Sprout「Wild Horses」

これヨルダンのアルバム(『Jordan: The Comeback』)ね。このアルバムが異常に好きで。トーマス・ドルビーがプロデュースなんですが、この曲が特に好きでシンセの一音一音からすべてのサウンドが好きです。トーマス・ドルビーは好き。異常に好きな音楽プロデューサーでありミュージシャンです。

(4)Charlie Haden&Pat Metheny「WALTZ FOR RUTH」

これはミシシッピのアルバム(『Beyond The Missouri Sky(Short Stories)』)で、2人きりでやっている作品です。他にもモリコーネのシネマパラダイス(映画『ニュー・シネマ・パラダイス』のメインテーマ)なんかもカバーしていたり。地味なアルバムなんですが、ふるさとを思ってふたりで作ったので、そういう気持ちが旅先でよく聴きたくなるんです。この曲は夕日がきれいなときがいいですね。

(5)Ennio Morricone「『Malena』オリジナル・サウンドトラック」(アルバム)

モリコーネも何の曲入れようかなって思ったんですけど、(映画に主演した女優のモニカ・)ベルッチを思い出しちゃったんでこれ。イタリアのいい女っていうのを、形にしたらモニカになるわけで…100点! やばいよね。男なら観たほうがいい。だって男はいくつになってもあの心を持ち続けてるわけじゃん、結局さ。映画自身も美しいし、モリコーネ先生は何を書いても美しく書くけど、見事にハモってるし。モリコーネさんは言葉にしがたいくらい好きです。

(6)Elvis Costello with Burt Bacharach「Toledo」

このアルバム(『Painted from Memory』)が大好きで、これも一曲選ぶのが大変。

(7)Eric Clapton「My Father's Eyes」

アルバム『Pilgrim』も死ぬほど好きです。Babyface(のプロデュース作品)で綺麗なまんまだし、なにしろサウンドワーク含めてクラプトンのなかでもすごい好きな一枚です。彼の場合は色んな音を全部自分の中に抱擁できるけど、これも音数が少なくて、Babyfaceのプロデュースがすごいなと思います。

(8)Suzanne Vega「Birth-day(Love Made Real)」

スザンヌのアルバムも過去のものとか好きなんですけど、ここ近辺の2~3枚のサウンドワークがものすごい面白い。あの感じで力が入ってなくて、ロックもあって、でもポップで聴きやすくて、メッセージがいっぱいに詰まっている。このアルバム(『Nine Objects of Desire』)は、上質なポップミュージックとしてたまらなく好きなんです。世界中を旅している時、ニューヨークで買って、ロンドンでも買って、同じアルバムが家に10枚近く並んでいる(笑)。

(9)葉加瀬太郎「Lime Basil & Mandarin」

スタッフから「新曲から1曲入れろ」って言われたのでこれ(笑)。この曲は元々は『趣味どきっ!』(NHK E-テレ)っていう番組のテーマ音楽として作ったメロディだったんだけど、なんか気になってて。ボッサでまったりとやりたいなっていう思いで先月か先々月にさらっと録ったんですよ。それがなんかいたく気に入ってて、今。アルバムの中で、自分が好きでよく聴いてるんです。

(10)Sergio Mendes「Mas Que Nada」

セルメンは死ぬほど好きなんで、どの曲でもいいんですけど、昔のセルメンが好き。音楽の楽しさとか全部ある。あの頃のそういう面が大好きで、代表して「Mas Que Nada」にしました。どの曲もいいです。

   ◆   ◆   ◆


――2016年はソロデビュー20周年ですよね。オリジナルアルバム『JOY OF LIFE』が実は3年ぶりという。

葉加瀬太郎:うん、というか毎年出してたんだけどね。一昨年はそれまで作ったやつをアコースティックに、クラシカルにアレンジし直して(『Etupirka-Best Acoustic-』)。で、去年はデビューからの25周年にそれまでやってきた色んなデュエットを一挙に集めて(「25th Anniversary アルバム『DELUXE』~Best Duets~」)。

――新作のタイトルチューン「JOY OF LIFE」には、イギリスに行ってからの人生観が詰め込まれているんですか?

葉加瀬:そうね。あれは若い企業のために作らせていただいた曲で、タイアップって言っちゃあタイアップなんですけど、客観的に見て「葉加瀬っぽいな~」って曲。でしょ?(笑)

――イントロ部分のロマンチックな静の部分とアグレッシブになっていくところが混然一体となって、すごい葉加瀬さんっぽいと思います。

葉加瀬:メロディのおおらかさもそうですし、すごく好きな曲ができたなという実感がありました。最近ひとつの指針としているのが、生のバンドサウンドなんです。いわゆるフォーリズムを中心に骨格を作って、そこに豪華なストリングスを入れる自分のサウンドが楽しいんですね。前のイージーリスニング的なオーケストレーションから、リズム的にはもうちょっとポップでアグレッシブなものが僕のスタンダードになりつつある。それが全体を通してストリングスのサウンドはセクションを入れて、その中で僕のソロのヴァイオリンが際立つみたいなのが楽しいですね。

――2曲目「MORNING SHOW」は、ワイドショー(テレビ朝日系「羽鳥慎一モーニングショー」テーマ曲)のために書かれた作品ですが、こういう曲はパパっと閃くのか、ある程度何日かかけて作るのかどうなんですか?

葉加瀬:作曲はきっかけさえできれば、8小節のテーマはスルっとできると思います。ただ、できた後が、赤入れるってわけじゃないですけど、時間をかけます。まずコードとメロディだけの状態で、すごくシンプルなスコアを書いちゃうんですね。それをピアノの譜面台の上にしばらくおいて眺めるっていうのが何日かありますね。一番最初に思い浮かんだ時に付いていた、無駄なものを削ぐ作業です。

――アレンジに移ってからは?


葉加瀬:時間がかかります。セッションに入るまでに、ほぼプリプロの段階でデモテープを完成させたものを作っちゃいます。(打ち込みも)自分で全部やるときもありますし、アシスタントと一緒にやるときもあります。

――アレンジ後のミックスとかマスタリングもご自分でやるんですか?

葉加瀬:そうですね。作業としてはまずメロディを完成させないと。そして間奏までの1分半とか2分くらいのデモができるじゃない? ここまででだいたいのサウンド感を仕上げて、ここからはプロデューサーを立てる場合はひとりに丸投げすることもあるし、僕と共同でやる場合は肉付けしていく。打ち込みのドラムとギターを入れて「こんな風なセッションがやりたい」というスコアとかノベタン(デモ)ができたら、そこでスタジオに入るんです。

――『JOY OF LIFE』では、曲によってアレンジャーを起用したりしないんですか?

葉加瀬:いますよ。(1曲目の)「JOY OF LIFE」は僕がプロデュースしているけど、一緒にやってる大島(俊一)君にディテールをアレンジしてもらって。ストリングスを今野(均)君に書いてもらったりして、おおまかなものを具現化してもらいます。2曲目もそうやって作ってて、3曲目からは何曲かは羽毛田(丈史)さんにメロ譜だけ渡して「お願い」って。

――4曲目の「Someday Somehow feat.高嶋ちさ子」では、高嶋さんがフィーチャリングされていますね。

葉加瀬:あの曲はほとんど僕が作っています。それを生で演るときのプロデュースアレンジを羽毛田さんにやってもらってます。全てのパートは僕が作っていますけど。

――高嶋さんをフィーチュアすることになった経緯は?

葉加瀬:ちぃちゃん(高嶋)が、ハッツ(※葉加瀬と高嶋の所属レコード会社)に入ってきてくれて、<ライブ・イマージュ>とか古澤(巌)さんと2人で演奏することが増えたんです。今までは僕が書いてきた曲をデュエットにアレンジしたんだけど、その喜びを彼女と弾くためだけに書き下ろしたいっていう気持ち。

――コニカミノルタプラネタリウム作品「Feel the Earth~Music by 葉加瀬太郎」の曲「銀河のものがたり」には、どこか東洋的な旋律とか懐かしさみたいなものも感じました。

葉加瀬:自分のアジア、ジャパニーズな感じは無意識で出てくるほうが多いだろうね。「銀河のものがたり」はまさしく「プラネタリウムの曲を書いてくれ」って依頼されたんだけど、一番初めはもっとアンビエントでした。メロディがあったとしても、基本メジャーにしておいて、なんとなくフワっとさせるほうがプラネタリウムにとっては活きるでしょ?そこをなんとか逆手に取りたくて、マイナーキーで書いてやろうと思った(笑)。

――そして「Roots ~舞踏組曲『JAKMAK』より」では和なテイストがありつつもケチャ(バリ島の男声合唱)のテイストもすごく感じました。


葉加瀬:あれはもうケチャですよ。ケチャのリズムそのまま採譜して僕が歌った。

――あれ葉加瀬さんの声なんですか? 上手ですね!

葉加瀬:「チャ」を録って、打ち込む。これはもう、お能のための曲なの。お能とダンスのためのパフォーマンスで、2014年の春にやったのかな。梅若玄祥さん(能楽師の五十六世梅若六郎)と「とにかくいっぺんコラボやりたい」と。彼は国宝ですよ。コンサートに彼が来て、「舞ってもいいので(共演をしたい)」って言われて、僕は「彼のために曲を書き下ろしたい」って言ったの。組曲として全部で40分くらいの作品なんですけど、ずっと温めてきた企画だったんです。彼からは「寂蒔(じゃくまく)」という言葉をいただいて、「お能の曲というのもなかなかだなぁ」と思いました。

――お能の声も入っていますよね。

葉加瀬:1曲目の「JOY OF LIFE」は弦楽器とエレキギターだけで、2曲目「MORNING SHOW」はポップなメロディーを使って、でもミニマムな感じを残した。僕が体験したお能で一番印象に残っていたのが、外でやる薪能(たきぎのう)だったんです。あれを観た時に、20代の時にバリで見たガムランとかケチャと共通するものをすごく感じた。それで、下へ下へ大地を踏みしめるような音楽をしたいと思って、バリの要素を日本のお能のほうに引っ張ってきたらどうなるかなっていう試みです。西洋のダンスはどんどん天に向かってジャンプするでしょ?

――葉加瀬さんは、普段はどんな音楽を聴いているんですか?

葉加瀬:…っていうよりも、音楽はずっと聴いている。移動中もiPhoneとかで100%聴いてます。

――音源はダウンロードで?

葉加瀬:僕、圧縮された音が大好きなんですよ。MP3大好きです。自分のレコーディングでもMP3で聴くの大好き。

――聴きたくなる音楽ってどういうものなんですか?

葉加瀬:その時その時のポップスもたくさん聴きますけど、J-POPは少ないかな。J-POPJ-POPしたのは苦手ですね。でもナオト・インティライミとかは好きですよ。

――最近のフェイバリットミュージシャンは?


葉加瀬:新譜で言うとレッチリ(Red Hot Chili Peppers)が「すげーな」って思いましたけどね、「おい、こんなバンドだったっけ?」って。超楽しい。あとちょっと前に「ええぇ!」って思ったのは、Pet Shop Boysの(最新アルバム『Super』)、あれはちょっと嬉しかったなぁ。基本的に絶対に外さないで聴いてるのはビョーク、ケミカル(The Chemical Brothers)、Coldplay、あとアデル。時代を問わなければアート(・リンゼイ)もそうですし、アンビシャス・ラバーズとかもめちゃくちゃ好き。

――今の音楽マーケットはどう感じてらっしゃいますか?

葉加瀬:俺は進化だと思うし、そうならざるを得ないと思う。一時期我々は「YouTubeを肯定するコメントすら控えたほうがいい」時代もあったけど、今は僕らもYouTubeにチャンネルを持っているし、17歳の娘と10歳の息子は「音楽を聴く」=「YouTubeを開く」ことから始まる。これはもう「それがひとつの形になった」と言っていいと思う。うちの娘たちも好きな曲は必ず買うし、それを自分で持っていたいって思う気持ちもある。ただ「ジャケがあってケースに入ってCDの盤になっている」形はなくなると思う。それがどういう形になるかはわからないけど、僕はコンサートに来ていただいた方に(CDを)買ってもらってるので、お土産の感覚です。

――ディスクを作るのとライブ・パフォーマンスをすることは全然違う感覚ですか?

葉加瀬:ディスクもライブ・パフォーマンスもお互いに刺激し合えばいい。だからライブをやって録りたくなる曲が出てくりゃいいし、レコーディングスタジオに入って生まれた曲をライブでどうやってできるのか考える時もあるしね。

――今年ソロとして20周年ですが、今後10年どんなことをやっていきたいですか?

葉加瀬:たくさんあるけど、それは一個一個片づけていくっていう意識しか持っていません。こんなアルバム録らなきゃとか、こんなステージ作んなきゃとか、こういうユニットやらなきゃとかそういうのがいっぱいあります。だからまだ死ねないなと思っているだけで(笑)。

――例えば?

葉加瀬:今年はソロデビュー20周年、去年はデビュー25周年、来年はハッツレーベルが15周年なんです。そんなこと言っていると僕は再来年が生誕50周年なんです。新手の周年詐欺みたいになっているんですけど(笑)、そんななかで「面白い企画を立てながらやりたい」って言っています。来年はアコースティックな感じで作ってきた曲を焼き直してみたいなと思っていたりするので、ちょうどハッツを設立した頃に出していたアコースティックなサウンド感のものを、パワフルなアンサンブルでやってみたいかな。古澤巌さんと高嶋ちさ子さんとのアルバムは今年の春にオムニバスで出していますけど、ちゃんとした3人のアルバムをプロジェクトとして進めて行きたいですね。

――映画音楽制作とかも?


葉加瀬:依頼がくれば喜んでやりますよ。ただ、9月から年末までは全部ツアーだしコンサートだけでなんだかんだ忙しいの。遊んでるように見えるかもしれないけど(笑)。

――僕もいつか葉加瀬さんと共演したいです。

葉加瀬:頼んでください(笑)。頼んでいただければ!

インタビュー:トベタ・バジュン

葉加瀬太郎『JOY OF LIFE』

2016年8月3日発売
HUCD-10224 通常盤 CDのみ 3,240円
HUCD-10222~3 限定盤 2CD 3,672円
HUCD-10225~6/B ローソンHMV盤 2CD+特典DVD 3,996円

◆HATS(ハッツ)オフィシャルサイト
◆【連載】トベタ・バジュンのミュージック・コンシェルジュまとめ
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