【音踊人26】流血ブリザードのカナダロックフェス<Envol et Macadam>出演レポート(梅村ミリ子)

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カナダ…世界第二位の国土を誇る北米の大国。でも、今まで私にとってカナダのイメージはメープルシロップとイケメン報道されたトルドー首相くらいのもので、バンドに関しても印象が薄かった。しかし2016年9月、私のバンド「流血ブリザード」がケベックのパンク/メロコアの大型フェス<Envol et Macadam2016>に出演することになり、それに合わせてモントリオールとオタワを巡るカナダ東部ツアーを行ったことで、この国の音楽シーンから色々と感銘を受けた。カナダのパンク/ハードコアのシーンには思いやりがあふれているし、皆楽しむことを忘れない。もちろん日本のライブハウスの方が何でも揃っているし便利なのだが、カナダ人のホスピタリティは日本人の「おもてなし」に勝るとも劣らなかった。


今年の5月、バンドコンテスト「PLANETROX2016」で優勝できたことがきっかけで、ケベック行きの切符を手に入れた私達。約20時間のフライトを経てケベックシティに到着。空港に着くと、<Envol et Macadam>のスタッフ、ヴァージニーが出迎えてくれた。車に乗り込むと、ドライバーが窓を流れる景色についてガイドをしてくれる。この街の美しさに大興奮していると、50代くらいのドライバーはこう言った。「この街はフランス語圏なんだ。ここではフランス語と英語の両方が話せないといい仕事に就けない。俺はギリシャ出身だから、両方とも勉強したよ。こうやって、毎年<Envol et Macadam>に出るバンドを送迎するこの仕事を愛しているよ。」

翌日、ヨーロッパ風の伝統的な街並みの一角にある大きなライブハウス Méduseで、PLANETROX優勝バンドのウェルカムパーティーに出席。地元カナダはもちろん、アメリカ、イギリス、フランス、チェコ、中国、インドネシア…日本も含めて計10ヶ国からインディーズバンドが集まっている。なんだかワクワク。グレープフルーツの味がするケータリングの「スシ」をパクつきながら、お互いにフライヤーやステッカーを交換し合った。


今年のヘッドライナーは、Epitaph Recordsの代表バンドBad Religion、NOFXのFat Mike率いるMe First And The Gimme Gimmes、そして地元カナダの重鎮バンドSNFU。流血ブリザードはこのフェスに二日間出演で、初日9月9日にこのMéduseでSNFUと対バンすることが決まっている。期待で胸が高鳴る。

私のもう一つの楽しみは、Bad Religionのライブを観ること。昔VHSで「American Jesus」のPVを観て以来、彼らのキャッチーなメロディーの虜になった。彼らのライブは自分のバンドの出番前だけど、これだけは観ないと日本に帰れない。

9月9日 21:00。暗闇の中、街の石畳を踏んでメイン会場に急ぐ。地面がやわらかい芝生に変わった頃、グレッグ・グラフィンの歌い声が聞こえてきた。背の高い群衆に潜り込んで前へ前へと進む。点くらいにしか見えなかった彼らが、はっきり動くのが見える。伸びのいいボーカルとクリアに抜けるギターサウンドが気持ちいい。レジェンドと呼ばれているバンドは時として過去の栄光に霞みがちだけど、Bad Religionには期待以上の「現役感」があった。思わず隣の人とニッコリし合う。みんな、あちらこちらで肩を組んで大合唱。すごくパワーをもらった。


その後、24:15から流血ブリザードがMéduseに出演。リハーサルがないのは想定内だったけれど、日本ならどのライブハウスにでもあるガムテープがないのはちょっと残念だった。(セットリストやギターシールドを固定するのに使いまくるので!) 日本ならPAさんに頼んで登場SEをかけてもらうところだけど、ここではSEを使うバンドが少ないのか、自分のパソコンから流してと言われた…。OK、じゃ細かい演出はナシで、超攻撃型セットリストでやろうぜ!つってハードコアパンク色の強い曲を7曲たたみ掛けるように演った。みんな、初めて観る日本のバンドはいかがなものか様子を見ているようだったけど、2曲めからモッシュピットが起こり始めた。曲を予習してくれてるのか、YouTubeにMVをアップしている曲をやると特にノリが激しくなった。「リピートアフターミー、おま○こしようぜ!」ボーカルのユダは一糸まとわぬ姿になったり、ジャパニーズユーモアも忘れない。

しかし本当に手ごたえを実感したのはライブ後だった。ライブが終わった途端、オーディエンスの大群が物販ブースに押し寄せてきたのだ。CDやTシャツは飛ぶように売れて、ユダが客席に投げた生理ナプキンや私が額に巻いてたバンダナをどこからか持ってきて「これにサインをくれ」と言う始末!(ちなみに翌日の会場Scannerでは、ありがたいことに中に入りきれないほどたくさんの人達が来てくれた!もしかして日本人が珍しいのかもしれない。)

物販を売っている間に、カナダのハードコアバンドSNFUのライブが始まった。ボーカルのケン・チンは豚の頭を模した帽子をかぶってスカートをはき、一見まるで変人。でもライブパフォーマンスは圧巻だった。

帰りにSNFUのカート・ロバートソンと話すことができた。彼は「俺は昔駆け出しの頃、このフェスに出たことがあって、こうやってまた出ることができた。あのときが懐かしい!」そう語る彼の後ろには、機材をたんまり乗せた立派な車、いやトラックが控えていた。彼らはカナダにスケーターパンクというジャンルで歴史を作った。カナダのDIYな姿勢、何事も楽しむ姿勢、そして日本ならではの便利なシステムをかけあわせたら、すごく夢のあるバンド活動ができる。そう感じたフェス出演経験だった。


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