【インタビュー】ザ・ポップ・グループ、攻めの姿勢を崩さないポストパンク界の生ける伝説

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攻め続けるポストパンク界の伝説。デビュー作『Y(最後の警告)』以来、37年振りにデニス・ボーヴェルとタッグを組んだ新作『ハネムーン・オン・マーズ』をリリースした英国出身の伝説的ポストパンク・バンド、ザ・ポップ・グループ(THE POP GROUP)。初期ファンにとってはまさに事件とも言える朗報だ。さらに、PUBLIC ENEMYの初期3作品のプロデュースを務めたプロダクション・チーム、BOMB SQUAD(ボム・スクワッド)の一員であったハンク・ショックリーも3曲のプロデュースに関わっている。このアルバムについて、マーク・スチュワートに話を聞いた。

◆ザ・ポップ・グループ~画像~

■ハンク・ショックリーはいわばフィル・スペクターだ
■雑音だの電波音だのに新たなサウンドを探し求めている


──アルバム完成おめでとうございます。完成しての気分は?マーク・スチュワート(以下、マーク):どうもありがとう! 正直、前作より今作の方が満足感がある。色んなことがすごい勢いで過ぎていってしまって、実は完成した音をまだちゃんと聴いていなかったんだが、たまたまニューヨークからアーティスト仲間が遊びに来ていたんで、昨日そいつと一緒に初めて落ち着いて聴いたんだよ。まあ、そいつが最初に気に入ったのはアートワークの方だったが、聴いてるうちに音にもエキサイトしてきたって言ってくれたから…、まあ、俺は他人の意見なんてまともに聞きゃあしないんだが…。若い頃なんか、他人が「これはいい」と言えば「ってことはダメなんだな」と思い始めるようなヤツだったんで。いや、それはそうと、今度のアルバムは全体として本のような感触がある。最初から最後まで通して筋が通っている、というか。おかしなもんだよな、何しろ制作現場は今俺がいるこの部屋と同じでメモやらCDやらが山積みになったり箱詰めになったりして取り留めもなく散らかった状態だったのに、そこからいつの間にやらこう……星座のように連なりが見えてくるんだから。

──今回再度タッグを組んだデニス・ボーヴェルが1stアルバムのプロデュースを手がけたのは、もう37年前ですか。

マーク:あ~あ…、それは言いっこなしだよ。

──以後、ずっと連絡を取り合ってはいたんですか。

マーク:そうさ。結構ビックリだよな。バンドやってて一番いいことは何かといったら、人間関係だと俺は思うね。世界中を旅して、いろんな人と話をするわけだが、これが単独の旅だったら俺なんか、タイのバス停だろうが何だろうが、どこでも誰とでも話はするが、いちいち気に障ることを言って嫌われるのがオチだろう。そこいくとバンドは、これは船乗りとミュージシャンの共通点だと俺は思ってるんだが、仲間意識ってやつが働くんだよ。それがあるから、場合によっちゃ普通じゃかなわないような深い絆が生まれたりする。いつもってワケじゃないよ。でも、一度そういう絆が結ばれた相手とは、巡り巡ってまたいつかどこかで会ったときに、また一緒に笑える。うちのバンドはそもそも笑いが絶えない。俺とデニスの笑いのツボはモノマネ。デニスはニック・ケイヴなみにディープな低音で笑わせる。あとは、くすぐること。俺とデニスはしょっちゅうコチョコチョやって笑い転げてるんだが、そういやニック・ケイヴも…俺はニック・ケイヴに会うと必ずくすぐってやるんだぜ。みんな、アイツのことを深刻でとっつきにくい男だと思ってるようだが、そんなファザードの向こう…鏡の裏側では、ジョークやら笑いやらが飛び交っているんだよ。


──ハンク・ショックリーについても教えてもらえますか。彼と仕事するのはこれが初めてですか?

マーク:そうだ。俺は自分のソロではヒップホップ系のアーティストとも仕事をしたり、という経緯があって、ハンクがLLクールJとPUBLIC ENEMYと組んでやったやつを聴いた時、俺は思ったんだよ。「わぉ、そういうジャンルなら俺、もっといいの作れるぞ」って。ハンクは、いわばフィル・スペクターだ。フィル・スペクターがサウンドで壁を造り上げたところを、ハンクは雑音だの電波音だのに新たなサウンドを探し求めている。俺に言わせれば、最初のPUBLIC ENEMYの作品はパンクだった。パンク並みに興奮した。しかも世界中にインパクトを与えたんだから素晴らしい。政治性やら何やらも含めて、ね。だから俺はずっとハンクを尊敬してたんだ。そうこうしてたら、こっちのジャーナリストがVICEって雑誌に去年書いた記事に、俺がノイズホップってやつを発明したって出てたんだ。つまりはノイズ&ヒップホップってことだけど、そこにハンク・ショックリーの名前も出てきたし、他にもクールな連中の名前がたくさん連なっていた。つい先週出来上がったリミックスをやってくれたアメリカの Hanzっていう黒人の男とか、どこか日本人だったと思うけどGoth-Tradとか、そういう新種のノイズ、グライム・ノイズ、トラップ・ノイズ…そういう、ノイズをダンス・ミュージックに使ってる人たちの名前がね。あの記事で、ハンクの名前がまた浮上してたんだよ。ただ、2年前に俺たちがSXSWでプレイした時、俺の友達でGANG OF FOURでベースを弾いてるデイヴ・アレンが電話してきて「ギグに行っていいか」と言うから「いいよ」と答えたら、「一緒にハンク・ショックリーを連れてっていいかな」と。心臓マヒ直前だったよ。本当に好きで重要な人たちを前にしたら俺は、それがアーティストでもミュージシャンでも映画制作者でも、何て言うの? もうブライアン・フェリーを前にした14歳の子供みたいになっちまう。

──前作のプロデュースを手掛けたポール・エプワースの名前は出てこなかったんでしょうか?

マーク:前のアルバムは全面的にポールと組んだんでね。ポールとはまた一緒にやることもあるだろう。この前の夜も、アイツと会ったよ。アイツが今やってる仕事を手伝ってくれないか、みたいな話も出た。しかし、何事も理由があって特定の時期に起こるものなのさ。前作『シチズン・ゾンビ』の時はポールがちょうどものすごい立派なスタジオを造ったところだったから、そこの機材やら何やらを俺たちに使わせて洗礼式を行い、あの場所にエネルギーを注入したのさ。今回は、新しいダンスのリズムや、俺がロンドンやベルリンのストリートで耳にしてきたサウンドを大々的に導入するために…、俺はね、サブ・ベース・ノイズってやつが大好きなんだよ。メロディラインが鳴ってる時、かつてはベースドラムが鳴っていたポジション。リアーナみたいな音楽ですら、でっかいクラブの機材で聴けばブンブンいってる低音が聞こえるはずだ。うんと控え目だが、昔はメロディラインなんかなかったところに、今はメロディラインが存在している。それによって、プロダクション次第ではすごく三次元的な広がりを見せて引き込まれるような感覚になる。それが俺は好きでたまらない。音楽にとっちゃ、今は最高の時代だと思うよ。クレイジーなヒップホップからR&B、グリッチ、グライム、トラップ、実験的な日本のノイズもの、ディスコ、とジャンルを超えていいのがいっぱい出てきているから、新しいのをどんどん見つけて、そういう人たちと一緒にやれるのはラヴリーなことだよ。

──ではここで、アルバム・タイトルの『ハネムーン・オン・マーズ』についてお聞きします。どういうストーリーが隠れているんですか。

マーク:よし、まずは、このアルバムをひとつの作品と考えた場合、アイザック・アシモフの名著のような、サイバーパンクのような、どちらかというとアルバムよりも小説って感じを俺は受けるんだ。起承転結のある物語で、その中のひとつひとつの章にストーリーがあって、曲の登場人物の身に様々な出来事が起こる。あるいはそれは俺のことかもしれない。が、いずれにしてもすべての舞台は未来であり、すべては…、歌詞の中でカギになるのは「Hope is a power」だと誰かに指摘されたんだが、確かに希望が持つパワーとか、未来を創造するのは俺たちのパワーだ、というような。過去の出来事を嘆いていないで、古いイデオロギーや古い経済はもうみんな壊れて機能しなくなっているんだから、ここで必要なのは新しい見解であり、新しい技術を持ってすれば新たな発想を実現することも可能な素晴らしい時代を生きているんだから…、電子フロンティアなんていう理想も、実現可能かもしれないし、自分たち次第で新しく素晴らしい世界を生み出せるかもしれないところにいるのだぞ、と。

──居場所、ですね。

マーク:そういうこと。俺にとって音楽は常に居場所だった。デヴィッド・ボウイやルー・リードを聴けば、そこが母親の寝室であろうがチェルシー・ホテルあたりにいる気分になれた。ルー・リードを聴いてりゃ、俺の棲み処はチェルシー・ホテルさ。頭の中では、ね。ビタミンのような栄養剤でもある。

──デヴィッド・ボウイもルー・リードも、この世にはいなくなってしまいましたね。今年はなんだか、みんないなくなってしまう年でビックリです。

マーク:どうかしてるよな。プリンスが逝っちまうなんて誰が想像した? しかしまぁ、命には限りがあるんだから、今あるもので精いっぱい生きろってことを伝えてんじゃないの? ちょうど今、lucid livingに関する本を読んでるんだ。人生をlucid dream(明晰な夢)だと思って、テクニカラー(天然色の映像)だと思って生きていく、って話。先の展開はまったくわからないんだから。

──今を生きる、というのもまたパンクな姿勢ですね。

マーク:そう、そういうこと。

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