【ライブレポート】藤田麻衣子、10年積み上げたファンとの素敵な関係性が見える温かい夜

11月23日にベストアルバム『10th Anniversary Best』をリリースする藤田麻衣子。CDデビューから10周年を記念して行われていた＜10th Anniversary 47都道府県 弾き語りツアー＞が11月6日に日本橋三井ホールにてファイナルを迎えた。

◆藤田麻衣子～画像～

藤田麻衣子がシングル「恋に落ちて」でCDデビューを果たしたのは2006年9月。今年は、そこから数えて10周年のメモリアルイヤーにあたる。この10年の感謝を伝えるため、彼女が選んだのは47都道府県を廻るツアーだった。これまでの間、自分の歌を聴いてくれるファンに対して音楽を通してしっかり向き合い、丁寧に歌を紡いできた彼女らしい。しかも、セットリストはファンからのリクエストを多く反映し、各会場で内容が異なるというかなりスペシャルな内容。ファイナルとなった11月6日の日本橋三井ホールのライヴは、4月から足掛け8ヶ月にも及んだツアーを振り返るように、全国各地での思い出が蘇るスライドムービーからスタートした。


今回のツアーは藤田と観客だけの濃密さがみどころでもある、キーボードだけを携えた弾き語りのライヴ。藤田がストーリーテラーとなって物語を聴かせるように、1曲目の「金魚すくい」を歌い始めると、金魚の視点から見る夏祭りの風景が場内に広がった。続いて、「弾き語りで披露するのは初めて」という「Flower & Butterfly」で、恋愛中の女心を蝶の視点で描く。この曲に続いてのMCでも「感情やいろんな景色にワープしていただきます」と、本人が語っていたがこの言葉の通りに、曲が変わるたびに物語にグッと引き込まれる。


続いてのセクションでは「二人の彼」と「守りたい人」の2曲で、異なった三角関係の恋愛を歌う。まるで自分のエピソードのように記憶にスルスルと入り込む。

また、MCから曲への繋ぎも実に巧みだ。だからこそ、ライヴ終了後も1曲、1曲が鮮明に記憶に残る。例えば、「一つ言葉にすれば　一つ何かが変わる」という、彼女のモットーが歌詞に織り込まれた「一つ言葉にすれば」の前のMC。2017年の4月1日にすみだトリフォニーホールで彼女の念願だったオーケストラとのコンサートが決定したという嬉しい報告。続いて、藤田はこれまで「やりたい！」と思ったことは口に出してきたという、楽曲の内容にも繋がる話をする。場内の大きな歌声と手拍子の力も加わり、楽曲の説得力は10倍増しだ。


この日、初お披露目となった新曲「君に恋したあの日から」は、スマホ向け恋愛ゲーム「イケメン幕末◆運命の恋」のリリース3周年記念のコラボとして楽曲提供をしたというエピソードを話す。YouTubeでも、ゲームに登場するイケメンたちの映像と共に、この楽曲が流れていると紹介された。本人いわく「明るいけど切なさのある曲」というこの曲は、11月23日にリリースのベストアルバム『10th Anniversary Best』にも収録される。

ライヴの中盤には森山直太朗のカバー「さくら（独唱）」や、客席からの質問に藤田が直接答えるコーナーも。6人からの質問に、「素敵な質問をありがとう」と、丁寧に答える藤田。中でも、オーケストラとのコンサートという大きな夢が叶ったあとの新たな夢を尋ねられ、真剣に悩み、「東京国際フォーラム ホールAでコンサートをやりたい」と宣言した姿が印象的だった。


ライヴの後半はこのツアーのために、「自分だけの記念日の歌じゃなく、みんなの記念日の歌にもなったらいいなと思って作った」という「anniversary」からスタート。ウエディングソングとしてもジワジワと浸透している「手紙～愛するあなたへ～」では、毎回、場内からすすり泣くような声が聞こえるが、この日も例外なく、涙する人が。「運命の人」、デビュー曲「恋に落ちて」と物語を目まぐるしく展開するようにライヴは進み、本編のラストは「君よ進め」。成長する我が子へ贈る曲だが、この曲でも場内から嗚咽が漏れた。


アンコールでは、チュール素材のふんわりしたスカートとツアーTシャツ姿で現れ、「環状8号線」と、「一番リクエストが多かった」という「あなたは幸せになる」の二曲を披露。最後は、ステージの前まで出てきて、マイクを使わず、アカペラで「あなたは幸せになる」の最後の1コーラスを歌い上げた。「よくがんばったね　おつかれさま」で始まるこの曲だが、まさに8ヶ月、48公演を駆け抜けた藤田にもかけたい言葉。歌い終わったあとは、客席に降りてハイタッチをしながら会場をグルっと一周し、「ありがとうございました！」と生声で感謝を伝える藤田。10年の間に積み上げてきたファンとの素敵な関係性までもが垣間見えるような温かい夜だった。


年明け1月12日からはバンドスタイルでの4公演のツアー、4月1日にはすみだトリフォニーホールでのオーケストラコンサートも行われる。2017年も音楽のストーリーテラーとして藤田麻衣子がどんなライヴを見せてくれるのか、期待値は高まるばかりだ。

取材・文●大橋美貴子
撮影●宮家和也