【インタビュー】スティング「僕はみんなを驚かせたかった」

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11月11日に3年ぶりのニュー・アルバム『ニューヨーク9番街57丁目』をリリースするスティングに、インタビューを行った。

◆スティング画像

『ニューヨーク9番街57丁目』は、キャリアの原点に回帰したといえるダイレクトなロック・アルバムだ。ドミニク・ミラー(G)、ヴィニー・カリウタ(Ds)ら旧知のミュージシャンたちと共に、わずか数週間のセッションで衝動的に仕上げたという作品だが、先行配信された新曲「50,000」はプリンスが亡くなった週に書いた作品だという。この曲には、プリンス、デヴィッド・ボウイ、グレン・フライ、レミー・キルミスターら、仲間でありアイコン的存在だった彼らが亡くなったショック、それによって自分の運命について自問したというスティングの思いが綴られている。


──ソングライティングからレコーディングの期間は、いつごろでしたか?

スティング:このアルバムは全く準備をせずに始まっているんだ。準備はゼロだ。僕の仕事仲間であるギタリストのドミニク・ミラーとドラマーのヴィニー・カリウタに電話して、「スタジオに来てくれ」と言ったんだ。その時にはアイデアは何もなかった。ただプレイしてみようといったノリだった。短期間でアルバムを作るというアイデアだったんだ。準備なくして、長くても三ヶ月でと思っていた。それで実際にそうしてみたんだ。ただプレイした。ピンポンだ。音楽のピンポンだ。わかるかい? そこからアイデアが出てきて、それを曲に形作って、自宅に持ち帰って、三ヶ月で10曲入のアルバムが完成した。非常に短い曲で短いストーリーで、どれも独特で、各曲がそれぞれで完結していて、10もの違ったテーマ、10もの違ったキャラクターを取り上げている。自分でもとても満足しているし、解りやすい内容だしエネルギッシュだし、非常に意外に思えるような内容だ。

──それは昨年のことですか?

スティング:今年だよ。2016年春のことで、11月のリリースだから短期間で制作された作品だ。

──この10年間、『ラビリンス(SONGS FROM THE LABYRINTH)』、『ウィンターズ・ナイト(IF ON A WINTER' S NIGHT)』、『シンフォニシティ(SYMPHONICITIES)』、『ザ・ラスト・シップ(THE LAST SHIP)』と、とても意欲的な創作活動を続けてきましたが、この新作は、その流れの中でどのような意味を持つものでしょうか。

スティング:君が今挙げたアルバムは、僕もとても気に入っていて誇りに思っている風刺的な作品だ。自分の好奇心に従って作ったアルバムだ。おそらくみんなも次の作品もそういった種のものになるだろうと思っていただろう。好奇心をそそるようなテーマのね。しかし、僕はみんなを驚かせたかったんだ。それで、ストレートなロックンロール作品を作ったんだ。

──そのきっかけは何だったんでしょう。

スティング:ただみんなを驚かせたかっただけだよ。それだけのことなんだ。何が最も意外かを考えて作った。次のアルバムもそういった考えの基に作ろうと思っている。まだ具体的にはどのようなものにするかはわからないけどね。あと1~2年は考えなくてもいいことだが、驚きは、どの音楽にとっても最も重要な要素だから。

──「ペトロール・ヘッド」から「ヘディング・サウス・オン・ザ・グレート・ノース・ロード」まで、音楽性の幅がとても広いですね。歌詞もまた、難民問題、環境破壊、プリンスの死、自叙伝的なもの、美しいラヴ・ソングまで、さまざまなテーマに取り組んでいますが、これは意図してのことですか?


スティング:そういった内容は、曲を書いている時期に新聞を読んだりテレビを見たり、インターネットでニュースを読んだりして知った世の中で起こっていた事への反応だ。難民問題は現在進行中だし、環境危機もそうだし、僕の友人たちの訃報もショックだったし、こういった問題を曲にするのは自然なことだった。そうは言っても、僕がまず意図していることはみんなをエンターテインすることだ。だから、このアルバムをエンターテイメントとして聴いてもらってもいいし、もう少し掘り下げて聴いてもらってもっと深い意味、何を象徴しているのかを考えてもらってもいい。それは聴き手による。どんなレベルでも楽しんでもらえる作品になっているんだ。深く聴くこともできて、何度も繰り返し聴くことのできるアルバムになっているんだよ。

──これまで以上に、ドミニク・ミラーなど参加ミュージシャンとの共作クレジットが多いですね。

スティング:それは、スタジオに入った初日や翌日で、多くの曲を僕のミュージシャン仲間と一緒に曲を書いたからだ。即興で作った。曲作りというクリエイティブな作業を一緒に担いたかったんだ。

──それは、アルバムの方向性に影響していますか?

スティング:もちろんだよ。自発的な方法で作られていて、僕が細かく構成を考えながら作ったわけではないからね。僕のミュージシャン達は僕のことをよく知っていて、僕がどんな反応をするかをわかっているんだ。少しサッカーと似ている。ボールとチームが必要で、対戦相手も必要だ。即興的だ。

──プリンスに関して、共演や会話、衝撃を受けた作品など、印象に残っているエピソードはありますか?

スティング:プリンスとはそれほど仲が良かったわけではなくて、大抵はアカデミー賞とかグラミー賞授賞式といった大きなイベントだったが、そういった場所で何度か会ったことがあった。ロンドンでも一緒に仕事をしたことがあるし、ミネアポリスのスタジオで一緒に仕事もしたことがある。だから、彼のことは知っていたが、それほどよく知っていたわけではない。デヴィッド・ボウイの方がもっと良く知っていた。僕は二人のことをとても尊敬していたし、二人とも非常に重要な文化的アイコン/ミュージシャン/イノベーターで、アートの世界、音楽の世界において非常に大きな損失だと思う。僕もみんなと同じでファンだったから悲しく思っているし、ショックを受けているよ。そうではあるけれども、人は前に進んでいかないとね。

──あなた自身の年齢/老いを意識することはありますか? 何か心掛けていることや運動や食事など実際に気を付けていることはありますか?

スティング:特別なダイエットとかはしていない。もう65歳になるけどエクササイズはかなりやっているよ。僕は虚栄心の強い人間だ。人生を楽しんでいて、きちんとした食事を摂っている。かなりの量を食べているよ。

──朝はワークアウトするとのことですが、いつもやることですか?

スティング:朝はまず犬を散歩に連れていく。彼もやらなきゃならないことがあるからね。その後、僕はスピンクラスに行ったり水泳をしたり散歩したりするんだ。

──『9番街57丁目(57th×9th)』の交差点で目にしたこと、感じたことなどから、直接的なインスピレーションを受けた曲はありますか?

スティング:アルバムの曲の多くはニューヨークのことを歌っているわけではない。ニューヨークの雰囲気やエネルギーが今作の色、特質となっている。毎日自宅から仕事場まで歩いていたんだが、57thストリートと9thアヴェニューまで南へ15ブロック歩いて通っていて、その間にインスピレーションを得ていた。ニューヨークはとてもドラマチックな街で、建築も文化もそうだし、ノイズ、車の往来や人々が作り出す街の喧騒もそうだ。だから、ある意味、このアルバムに切迫感を与えたと思う。僕がそれをスタジオに持ち込んだんだ。収録曲でそういった要素を感じることができる。

──具体的な曲はありますか?

スティング:どの曲も同時期に影響を受けている。全曲がニューヨークのエネルギーを持っている。静かな曲でさえもね。

──プロデューサーはMartin Kierszenbaum(マーティン・キーゼンバウム)という人ですね。

スティング:実は、彼は僕のマネージャーなんだ。彼は面白い男で、音楽業界歴も長くて、レコード会社で働いていたこともある。彼はレコーディング・マネージャーには珍しく、音楽の学位も取得しているんだ。だから、彼は時としてとても有益な人物で、彼からは洗練されたアドバイスをもらったよ。「このコードを試してみたら?」とかね。ほとんどの場合、彼は正しかった。ありがたく思っているよ。

──どうして彼を起用しようと思ったのですか?

スティング:理由かい?それは彼が僕の新しいマネージャーだからだよ。

──マネージャーがアーティストをプロデュースするのは異例ですよね。

スティング:そうだけど、何でもこなせる人もいるからね。マーティンは同時に複数の役割を果たせる人なんだよ。

──彼のこれまでの仕事で、とくに注目していたものはありますか?

スティング:彼は他のアーティストでも成功していて、レディー・ガガも発掘したし、t.A.T.uもそうだし、ブラック・アイド・ピーズもだ。その実績は素晴らしいものだ。

──THE LAST BANDOLEROSとの出会いは? 彼らの音楽のどんな点に興味を持ったのですか?

スティング:彼らはメキシコとの国境に近い南テキサスのサンアントニオ出身で、テックスメックスという音楽をやっている。ロックンロールとラテンアメリカのサウンドが合体したような音楽だ。ギター、ドラム、それと、アコーディオン/コンサーティーナの一種のバンドネオンで構成されているバンドだ。僕は彼らが大好きで、ザ・ビートルズのサウンドに似ているんだ。何度か彼らと一緒にパフォーマンスしたこともある。それに、彼らは以前はザ・ポリスのカヴァー・バンドをやっていて、La Policiaという名前だったんだよ。だから、彼らは僕の曲を全曲知っているんだ。今作ではバックアップ・シンガーとして参加してもらっている。1曲ではギターも少し弾いてもらっているんだ。彼らも新作の構成要素のひとつとなってくれているよ。

──今作では、大規模なツアーをする予定ですか?

スティング:そう願っているよ。世界中でこのアルバムがどのように受け入られるかによるけれど、大勢の人達が気に入ってくれたら世界をまわろうと思う。2月にアメリカからツアーをスタートするけれど、その後だね。できれば日本にも行きたい。日本はいつも楽しみにしている国だから、そうなると嬉しい。

──バンドはどのような編成で?

スティング:アルバムを作った仲間と同じだよ(笑)。

──アルバムからの1stシングルは「アイ・キャント・ストップ・シンキング・アバウト・ユー」になりましたね。


スティング:一見ラヴ・ソングのような曲だ。タイトルからもスタンダードなラヴ・ソングに思うかもしれないが、実際は作曲過程のことを歌った曲なんだ。インスピレーションを得られないでいることを歌っている。がむしゃらにインスピレーションを探索し、歌にできるストーリーやテーマ、キャラクターを探しているんだ。ラヴというよりも執着心についての歌だ。ミュージック・ビデオはロサンゼルスで撮影したよ。アルバムを反映した内容で、とても自発的な感じでスタジオでパフォーマンスをしている。この曲にマッチしていてエネルギッシュな感じだね。

──最後に、日本のファンへメッセージをいただけますか?

スティング:スティングだ。僕の日本のファンのみんなへのメッセージだ。みんなと近いうちに会えることを楽しみにしている。僕のニュー・アルバム『ニューヨーク9番街57丁目』を気に入ってもらえると嬉しい。日本を訪れるのが待ちきれないよ。

文:大友博

『ニューヨーク9番街57丁目』

2016年11月11日発売
日本独自企画デラックス盤 SHM-CD+DVD: UICA-1068 / \3,672(税込)
通常盤 SHM-CD: UICA-1067 / \2,808(税込)
※ボーナス・トラック3曲収録/スティングによるセルフ・ライナーノーツ掲載
※DVD収録内容:インタビュー、楽曲解説、ライヴ映像
1.I Can't Stop Thinking About You / アイ・キャント・ストップ・シンキング・アバウト・ユー
2.50,000 / 50,000
3.Down, Down, Down / ダウン、ダウン、ダウン
4.One Fine Day / ワン・ファイン・デイ
5.Pretty Young Soldier / プリティ・ヤング・ソルジャー
6.Petrol Head / ペトロール・ヘッド
7.Heading South On The Great North Road / ヘディング・サウス・オン・ザ・グレート・ノース・ロード
8.If You Can't Love Me / イフ・ユー・キャント・ラヴ・ミー
9.Inshallah / インシャラ
10.The Empty Chair / ジ・エンプティ・チェア
11.I Can't Stop Thinking About You(LA Version)/ アイ・キャント・ストップ・シンキング・アバウト・ユー(LAヴァージョン)
12.Inshallah(Berlin Sessions Version)/ インシャラ(ベルリン・セッションズ・ヴァージョン)
13.Next To You(Live At Rockwood Music Hall)/ ネクスト・トゥ・ユー(ライヴ・アット・ロックウッド・ミュージック・ホール)

<プロモーション来日 本人出演イベント>

2016年11月11日発売『ニューヨーク9番街57丁目』日本盤CDを購入し応募された方から抽選で
A賞:スティング本人出演イベントにご招待(100名様)<2016年11月28日(月)都内某所>
B賞:スティング直筆サイン(30名様)
※応募詳細はCD貼付シール裏面をご覧ください。
※応募締切:2016年11月18日(金)当日消印有効

◆スティングにとって17年ぶりとなるロックアルバム『ニューヨーク9番街57丁目』のリリースを記念して、特製ウィンオープナーを2名様にプレゼント(応募期間2017年1月31日まで)
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