【ライブレポート】クリープハイプ、素晴らしき堂々巡りのロックンロール

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冒頭から観念的な物言いになるが、「最低」な感情が「最高」の表現になってしまうという特別な現象がロックミュージックだとしたら、この夜のクリープハイプのライブは、そんなマジックの熱が巻き起こす興奮で全編が作り上げられていた。各媒体が諸手を挙げて絶賛する最新アルバム『世界観』を引っさげた全国ツアー<熱闘世界観>の“10回裏 東京”として11月10日にZeppTokyoでおこなわれたこの公演で、クリープハイプは存在証明を果たしていたと思う。

◆クリープハイプ ライブ画像

東京公演は11月9日&10日の2daysであり、9日は尾崎世界観(Vo&Gt)の誕生日。前日のライブはさぞ盛り上がっただろう、きっとハートウォーミングな瞬間もあったんだろうと予測して会場にやって来たが、尾崎は冒頭のMCで「(前日を)越える覚悟なんて簡単にできてます。みなさん、越えてきてください」と言い切った。オーディエンスの胸は一気に高鳴ったが、演奏のテンションもとても高かった。1曲目はアルバムと同じく「手」だ。“馬鹿はあたしだったんだな”というリリックに聴衆が大熱狂するという異様な光景が広がり、クリープハイプのライブが始まった感じがすごくした。そして、CDで何度も聴いたのに新鮮に聴こえる尾崎の歌声だ。新鮮というか、とにかく尖っていて叫びそのもののようで、やはり慣れられるような類のものではない。今日も彼は死に物狂いで歌っているのだろう、そう思った。

とにかくバンドの調子がよかった。実際に尾崎は、MCで「調子に乗っております」とはなから宣言していたが、バンド全体が無敵状態にあった。アルバム『世界観』と同様に、自分達らしくいることが何より素晴らしいし意味があるし、それしかないことを彼らは悟ったのだろうと勝手に確信してしまったほどである。そもそもアルバム『世界観』は、クリープハイプにしか作ることができない作品だ。つまり、イラついているしうだつもあがらない、恥ずかしくてまるで思い出したくもないようなことだって歌われている。だが、一般的なところのそういう“負”がありえない次元まで凝縮された結果、今日に至るまでにバンドのキャラクターは独立し、この夜のライブは、その輪の巨大な広がりを見せつけてくれた。



まず、肝心の演奏そのものがすばらしかった。これは「鬼」で特に感じたことだが、尾崎の歌、小川幸慈(Gt)の上モノ、長谷川カオナシ(Ba)の低音、小泉 拓(Dr)のビートはそれぞれが非常に存在感が強く、いくつものフックを纏いながらグルーヴという音楽的快感を生み出しており、オルタナバンドとしてのアンサンブルが冴え渡っていた。すべての音ははっきりとした輪郭を持ち、演奏は自信に満ちていた。そんなアグレッシヴかつ集中力の高いステージにお客さんが自然と湧き立つと、バンドは水を得た魚のようにさらに自由に得意げに存分にパフォーマンスしていた。加えて尾崎は、「テレビサイズ(TV Size 2’30)」では怒りが煮え立つように不機嫌そうなオーラを全面に放ち、逆に「5%」では本当に照れくさそうに所在なさげに頭をぽりぽりとかきながら歌う。感情移入せざるを得なかった。感情が揺さぶられて仕方なかったが、いかにも人間臭くていかにもクリープハイプな表現を目の当たりにした気がした。






ライブがこれほど盛り上がっているがゆえに、改めて不思議に思ったこともある。一体感を誘う歌詞でも正義や清潔感のある愛を叫ぶわけでもない歌なのに、どうしてこんなに沢山の人が集まるのか。それはもうクリープハイプの歌が、友達同士でも、勿論SNSでも語られることのない暴力的なほどの吐露と生々しさからできているからだろう。だからこそ、フラストレーションと愛憎にまみれまくった「誰かが吐いた唾が キラキラ輝いてる」や「けだものだもの」もハイライトになっていた。

そこで私がクリープハイプに惹かれるのは、歌が不幸自慢をしていないからだ。その音楽が誇り高いものだからである。角ばったまま、媚びずに自分のままでいるから日常で起こる悲惨な森羅万象に対して、最善を尽くそうとする歌だと捉えている。実際に放っているかどうかはわからないが、もしクリープハイプが何かメッセージを放っているとしたら、世の中に対するそういう態度のことだと思う。世の中のどんな表現にもいまいち居場所を見つけられなかったりリアリティーを感じられないという人がいたら、クリープハイプの音楽に触れてみて欲しいと切に願う理由はそこにある。もちろん、実際にノルか反るかの保証はまったくできないが。あるMCのなかで尾崎の口からも、「自分達の音楽はクリープハイプに特別興味があるわけでもないいわゆる“音楽ファン”に向けたものではない、クリープハイプに興味がある人に楽しんでもらいたいんだ」というはっきりとした価値観が述べられた。

だが、この日のライブの全二十数曲すべてが山場と思えるほどにいい曲だけを書いてきたクリープハイプに感服する気持ちになったのは私だけではないだろう。クリープハイプがこれだけ言いたいことを言ってきたにもかかわらず、その音楽が人の心に触れることができるのは、やはり他人を納得させる曲のよさがあるからだ。



そして尾崎は、「僕は君の答えになりたいな」への煽りの一環であったものの、「確信的なことは相変わらず言えないけれど、こうやってずっと一緒に考え続けていきたい」とも話した。この言葉は、彼らが今いかに前を向いているかという証だと思う。さらに、「クリープハイプにとっての当たり前は、こうしてステージに立つこと、バンドをやっていることです。今日も幸せだなと思いました。」と、聞いたことのない穏やかな口調で語りかけもした。<疑いは晴れずでも歌は枯れず 付かず離れずでこれからも>と歌いアウトロへ向かうバラード曲「バンド」も、そんな心情をダイレクトに物語っていた。さらに言えば、すべての演奏を終えてとても清々しく尾崎が言った「また会いましょう」の言葉がこれほど自然に身体に入ってきたクリープハイプのライブも初めてのことだ。



冒頭では、このライブの素晴らしさを“マジック”だと表したが、違った。メジャーデビューまでの下積み10年、そしてメジャーデビューやレーベル移籍を経て広く世に出た彼らが、このライブに辿り着くまでに、本当に一歩一歩を右往左往しながらも確実に進んできたことの結果以外の何ものでもないからだ。今のバンドのモードは、実力と成果が遂に現実的に実を結んだことによるものだと思う。

だがこんなふうに歩く彼らの道は、これからもきっと紆余曲折あるのだろう。そしてはたから見ればそんな彼らの音楽は、明快な答えや道標も相変わらず見当たらない堂々巡りの表現なのかもしれない。どうしようもなく鋭敏であるがゆえ、穴が開くほど自分達と向き合い、世間とだって音楽上で生臭い次元のコミュニケーションも交わすその表現は、言ってしまえば面倒くさくもあるのがクリープハイプだ。だからこそとびきり愛情深い曲を奏でるのがクリープハイプである。だからクリープハイプは人の心を動かす。

この日まで意志を貫いてきたバンドの勇気にも感動を覚えたライブだった。

取材・文=堺 涼子(BARKS)

  ◆  ◆  ◆

photo by 神藤 剛

(※ライブ写真は11月9日公演の模様)


<熱闘世界観>

9月10日(土)MAIRO(富山)/ー1回表 富山ー
9月11日(日)LOTS(新潟)/ー1回裏 新潟ー
9月16日(金)CRAZYMAMA KINGDOM(岡山)/ー2回表 岡山ー
9月17日(土)キャラバンサライ(高知)/ー2回裏 高知ー
9月22日(木)SHELTER(和歌山)/ー3回表 和歌山ー
9月24日(土)CAPARVO HALL(鹿児島)/ー3回裏 鹿児島ー
9月25日(日)B.9 V1(熊本)/ー4回表 熊本ー
9月29日(木)club FLEEZ(高崎)/ー4回裏 高崎ー
10月1日(土)club-G(岐阜)/ー5回表 岐阜ー
10月2日(日)窓枠(浜松)/ー5回裏 浜松ー
10月7日(金)AZTiC laughs(米子)/ー6回表 米子ー
10月8日(土)festhalle(高松)/ー6回裏 高松ー
10月10日(祝月)DRUM LOGOS(福岡)/ー7回表 福岡ー
10月15日(土)CLUB CHANGE WAVE(盛岡)/ー7回裏 盛岡ー
10月16日(日)HIPSHOT JAPAN(郡山)/ー8回表 郡山ー
10月23日(日)桜坂セントラル(那覇)/ー8回裏 那覇ー
11月4日(金)なんばHatch(大阪)/ー9回表 大阪ー
11月5日(土)なんばHatch(大阪)/ー9回裏 大阪ー
11月9日(水)Zepp Tokyo(東京)/ー10回表 東京ー
11月10日(木)Zepp Tokyo(東京)/ー10回裏 東京ー
11月13日(日)ファクトリーホール(札幌)/ー11回表 札幌ー
11月17日(木)Zepp Nagoya(名古屋)/ー11回裏 名古屋ー
11月19日(土)BLUE LIVE HIROSHIMA(広島)/ー12回表 広島ー
11月26日(土)PIT(仙台)/ー12回裏 仙台ー

New Album『世界観』

2016年9月7日(水)発売
■初回限定盤(CD+DVD)
UMCK-9860 ¥3,700(税抜)
※三方背トールケース仕様
[収録内容]
01.手
02.破花
03.アイニー
04.僕は君の答えになりたいな
05.鬼
06.TRUE LOVE
07.5%
08.けだものだもの
09.キャンバスライフ
10.テレビサイズ(TV Size 2’30)
11.誰かが吐いた唾が キラキラ輝いてる
12.愛の点滅
13.リバーシブルー
14.バンド

[初回限定盤DVD]
・短編映画「ゆーことぴあ」
・ミュージックビデオ「鬼」
・メイキング映像「ゆーことぴあ」「鬼」

■通常盤(CDのみ)
UMCK-1551 ¥2,750 (税抜)
[収録内容]
01.手
02.破花
03.アイニー
04.僕は君の答えになりたいな
05.鬼
06.TRUE LOVE
07.5%
08.けだものだもの
09.キャンバスライフ
10.テレビサイズ(TV Size 2’30)
11.誰かが吐いた唾が キラキラ輝いてる
12.愛の点滅
13.リバーシブルー
14.バンド

◆クリープハイプ オフィシャルサイト
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