【インタビュー 後編】陰陽座、“得も言われぬ絶世の美声で歌う伝説の生き物”をモチーフにした作品『迦陵頻伽』

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陰陽座が2年2ヵ月ぶりのオリジナル・アルバム『迦陵頻伽』(かりょうびんが)を11月30日にリリース。2作同時発売の『風神界逅』)、『雷神創世』から2年2ヵ月ぶりの新作となる。“絶世の美声で歌う伝説の生き物”をモチーフにした今作について、瞬火、黒猫、招鬼、狩姦の4人が熱く語ってくれるインタビューの後編をお届けする。

◆陰陽座~画像&映像~

■「氷河忍法帖」は黒猫がこういうヴォーカリストだから
■こういう曲がカッコよくできるというのが僕の持論


――ファンが陰陽座に求めるヘヴィ・メタル像が序盤で連打される一方で、このバンドならではの幅というところではダンス・ビートの「轆轤首」(ろくろくび)などもあり。これは陰陽座流のラブソングになります?

瞬火:これは、『鳳翼麟瞳』(ほうよくりんどう/2003年)に「飛頭蛮」と書く“ろくろくび”という曲があるんですけど、そっちは奥さんが男を作って逃げてしまい、それを嘆いていたら自分の首が飛んで奥さんを追いかけていくっていう、ちょっと情けない旦那さんの話なんですね。で、「轆轤首」は、その逃げた奥さんの話なんです。

――ああ、そういう関係性ですか。

瞬火:男と逃げたんですけど、その男とあっさり破局し、しょうがないから前の夫が迎えに来てくれないかなと首を長くして待ってる……という話(笑)。だからこれは、アンサー・ソングであり、“ろくろくび”という繋がったストーリーでもあります。夫の首は飛び、嫁の首は伸びるという、結局は夫婦揃って“ろくろくび”と。ある意味、おしどり夫婦であり、お似合いの夫婦だねっていうオチでもあり。だから、もちろんラブのソングですよ…薄汚いラブですが。

一同:はははは!

――薄汚いって!(笑)

瞬火:不倫してるわけですから(笑)。薄汚い愛の歌ですよね。

――そう聞くと、“ろくろくび”のどこかユーモラスなイメージが吹き飛びますね(笑)。

瞬火:薄汚い不倫を働くような女というものが、その本人の中ではどんな感じに捉えてるかということを想像して書いたんです。だから、どこかの誰かの不倫をテーマに書いたということではなく、僕の中では全くのファンタジーです。男を作って逃げる女というのが、僕の中ではファンタジーであり想像上の生き物なので。世の中には存在しているとは思いますけども。


――今年を象徴するワードにもなってますからね。

瞬火:いや、今年それが世間を騒がせたということと、この曲のテーマとは微塵も関係ありません(笑)。着想は10年以上前のものですから。でも男を作って逃げる人は、「私、悪い奴だなぁ」って思ってないと思うんですよ。絶対に自分を正当化しているから、そんなことができる。そこまで自分の不貞を肯定できる心理とはどんなものか、というのを想像したのがこの歌で……だから、すごくときめいた歌になってると思うんです。薄汚ねぇときめきをキラキラと表現したという。


――ははは! やっぱり瞬火さんの視点は面白いですねぇ。そのキラキラ感が、往年のディスコ・テイスト的でもあるサウンドに表れてるわけですか。

瞬火:そうです。なんか不埒な感じがするでしょう? 不埒な女性の不埒な気持ちを想像して、不埒に歌ってるという。

――そうしたテーマだと、歌い手の表情の付け方もだいぶ変わりますよね?

黒猫:そうですね。最初に曲と歌詞を見た段階では、もっとお色気ムンムンな……死語ですけど(笑)、ちょっとアンニュイな色気垂れ流しみたいな感じなのかなと思って。そんな風に歌ったら、瞬火から「もうちょっと年齢を若くして、もっとあっけらかんと反省してない感じで元気に歌って」って言われて。「ああ、なるほど!」と思って歌い直したら、すごく曲調にも合ってるし、より自己中心的でワガママで何も反省してない感じが出て、目からウロコだったんです。テンポもいいし、歌い手として結構面白いというか、いろいろ挑みたくなるような箇所もいっぱいある曲なので、本当に楽しく歌えましたね。


――韻を踏んでいて、リズミックな要素もありますし。女性らしいしなやかな歌声が堪能できるというところでは、「御前の瞳に羞いの砂」(おまえのひとみにはじらいのすな)が顕著で。黒猫さんの声で歌われる、このBメロのセンスなんて最高だと思うんですよね。

瞬火:そう、そうなんですよ。そうでしょう? そう言ってもらえて良かった(笑)。

黒猫:ありがとうございます(笑)。これは砂かけ婆の曲なんですけど、砂かけ婆が砂をかけるのに、実はこんな乙女な理由があったというのを瞬火が創作して。実際、砂かけ婆は、なぜ砂をかけるのかよく分かっていないらしいんですけどね。見た目は年をとっておばあさんになってるけれども、こんなに乙女なんだよというのを歌で表現しているんです。これは表情豊かに歌って、ちょっとプンプンするところとかも、(身体を動かして)こんな風に振りも勝手に交えながら(笑)、すごく楽しく歌えましたね。

――超絶にメタリックなものから、こういったものまで自分のものとして歌いこなせるのは、改めてさすがだなと思いました。

黒猫:アルバム1枚の中だけでも楽曲の幅が広いので、ヴォーカリストにとってはレコーディング作業の一つひとつが楽しいですね。

――また、インタビュー前編でも話題に出た「氷河忍法帖」は、純度の高い疾走メタル・チューンで、こういう曲もまた陰陽座の必殺曲だなと。

瞬火:シンプルなメロディック・メタルであり、黒猫がこういうヴォーカリストだから、こういう曲がカッコよくできるというのが僕の持論で。こうした“テンポがあってハイトーンで”という曲は、とりあえずそうすればカッコよくなる、ひとつの記号みたいに扱われるんですけど、こういうものこそ地の声の力がないと成立しないと思うんです。ただ金切り声を張り上げたって、速いテンポのオケの中で声が浮いて、逆に弱い曲になるというか。それは僕の個人的な見解ですけど。だから、陰陽座のヴォーカルが黒猫じゃなかったら、こういう曲は作らないですね。黒猫がいるからこそ作れるわけだし、狩姦がいるからこういうソロができる。もちろん招鬼も僕も含めて、陰陽座の各メンバーの持ち味をいかんなく発揮するひとつの楽曲ではありますよね。

――確かに。類型的なヘヴィ・メタルになりがちなところを、他と差別化できてるのはそういったところですよね。

瞬火:そう、歌の力ですね。これは誰も歌えないと思います。

――また、歌詞とメロディ/サウンドのマッチングが見事で、例えば<悔悟の牙よ この身に宿れ>というフレーズなんて、思わずガッツポーズが出ちゃいますよ。

瞬火:ははは。なんか日本語はメタルに合わないと言われて久しいですけど……確かに、英語って意味が分からなくても、英語というだけでカッコいいと思える、という感覚は僕も分かりますけど、やっぱり日本語だからこその良さはありますからね。陰陽座の歌は日本語だけど、正確な意味までは分からない場合もありますが、やっぱり単語とかが飛び込んできた時に直感的に意味が伝わって、このメロディと、この歌と、この言葉でっていう……それらが同時に一気に押し寄せて来るのは、日本人にとっては日本語しかないので。このスタイルの曲では、やっぱりこういった言葉になりますよね。

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