【インタビュー】長澤知之、『GIFT』完成「世界の見え方が変わる音楽にしたかった」

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デビュー10周年という節目となる2016年は、長澤知之にとって充実した1年になったようだ。小山田壮平らメンバーと始めたバンド“AL”は4月に1stアルバム『心の中の色紙』をリリースして全国ツアーも行なったほか、その後の7月からは<Nagasawa Tomoyuki Acoustic Live 2016>と題して、11月3日のファイナルライブまでアコースティックセットのツアーを開催した。そしてこの度、前作『長澤知之 III』から2年ぶりとなる6thミニアルバム『GIFT』が完成した。

◆「無題」ミュージックビデオ 動画

バンド活動の反動からアコースティックな作品をつくりたかったという音源がミニアルバム『GIFT』だ。しかし、そのアイディアは共同サウンドプロデューサーに迎えた益子樹(ROVO)とともに全6曲を作り上げる中で発展を遂げ、単にアコースティックの一言に収まりきらない世界観の広がりが感じられるものになった。アコースティックギターの爪弾きからのフォークロック調のダイナミックな演奏とエモーショナルな歌唱が、あまりにも鮮烈な1曲目の「時雨」、4つ打ちビートがダンサブルな「舌」、つばきの一色徳保が低音のハモリを加えたロックンロール調の「アーティスト」など、音数を絞りながら趣向凝らしたアレンジを聴かせる。その一方で、「君だけだ Acoustic Ver.」「ボトラー」といった弾き語りで濃密な世界を作り出す曲もある。

さらには、ふんだんに加えたコーラスは長澤の真骨頂だ。サイケデリックな音像も聴きどころであることを考えると、実験的という言葉がふさわしい作品にも思える。実験的と言えば、日本情緒あふれる「風鈴の音色」は長澤ではなく新進シンガーソングライターの村上紗由里がリードヴォーカルを務めているという意味で、全7曲中、最も実験的と言えるかもしれない。アコースティックな作品でありながら、アコースティックと聞いて、多くの人が思い浮かべるものをはるかに超越した『GIFT』のバックグラウンドを長澤に訊いたロングインタビューをお届けしたい。

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■「うぉー、ファック!」みたいなね(笑)
■そういう作品は作る気にはなれなかったかな

──2016年、デビュー10周年だそうですね。何周年だみたいなことを気にするアーティストはそんなにいらっしゃらないようですが、長澤さんはいかがですか?

長澤:僕もそんなには。(10周年だと)気づいていなかったぐらいですから(笑)。でも、周りの人達が「10周年を祝いたい」と言ってくれるんですよ。それはありがたいと思いました。「ああ、この人達に支えられながら10年一緒にやって来たんだな」って、ホント、感謝ですよ。

──その気持ちは今回、『GIFT』を作るにあたって何らかの形で反映されていますか?

長澤:うん、なくもないですね。これまで僕の歌を聴いてきてくれた人達のことももちろん考えましたからね。だから何て言うか、「うぉー、ファック!」みたいなね(笑)、そういう作品は作る気にはなれなかったかな。どちらかと言うと優しい作品になったらいいと思ったし、そういう作品になったから良かったです。

▲Mini Album『GIFT』

──アコースティックギターの弾き語りからスタートして、その後、長澤さんは曲ごとに、作品ごとにいろいろなサウンドにアプローチしてきたと思うのですが、今回の作品が全体の印象としてはアコースティックで、しかもフォークをはじめ、ルーツミュージックの要素もあるものになったのは、それも関係していますか?

長澤:いえ。単純にそういうことをやりたかったんです。『GIFT』を作る前にバンド“AL”の活動があって、そこで散々エレキギターをガーッと弾いたから、今度はアコースティックなことをやりたいと思ったんです。それで今回、アコースティックな作品はもうやっちゃったから、今はまたウワーッて行きたい感じなですよ。

──アコースティックサウンドってこれまでもやってきたし、元々持っていたものだと思うんですけど、今回それが特にフォーキーだったり、ルーツィーだったりするサウンドになったのは、なぜだったのですか?

長澤:フォーキーなものは昔から好きですし、自分がギターを持ったきっかけの一つがサイモンとガーファンクルで。まぁ、ビートルズもあったけど、最初に手にした楽器がガットギターで、そのガットギターでクラシカルなものを弾くのも好きだったし。自分が素になって、“作品を作るぞ!”って感じではなくて、リラックスできる環境で楽しめるってなると、パッと最初に出てくるのはアコースティックなもので。最初、アコースティックギターの弾き語りという一番ミニマムな形でやろうと思ったんですけど、エレキギターの音がほしい時に“何もテーマに縛られて、可能性を狭める必要はない”と考えて、入れたい時は入れたんです。ただ、入れるにしても、できるだけ音の情報量を減らして、シンプルなものにしようと思いました。情報量を減らせば減らすほど一つ一つの音の粒立ちがはっきりするから、サウンドにもちゃんとこだわりたいと思って、サウンドプロデュースを益子樹さんにお願いしたんです。

──益子さんとは以前、「幸せへの片思い」や「あとの祭り」でコラボレーションしていますね?

長澤:その延長線上のような形でやりたいと思いました。とても実直で誠実な方なんです。それに話しながら、「益子さん、これ僕はちょっとわからない」ってことも言いやすいんです。益子さんも同じように僕に対しては、「長澤君、これちょっと違うんじゃないの?」って言いやすいと思う。否定を伝えやすい人とはコミュニケーションしやすいんですよ。だから、「これがいい!」っていうのも嘘じゃないし、「こっちがいいです」っていう僕の気持ちも本当だし。僕が抽象的なことを言っても……そうだな、たとえば「スペーシーで、そこに羊がいるような感じの音の作りなんです」ってことを話しても、その都度その都度、汲み取ってくれるその理解力と、それを音像化する才能が素晴らしい。だから作業がとても速い。スムーズで素敵なんです。

──今回、実際の作業はどんなふうに進めていったんですか?

長澤:僕は作詞、作曲、歌、アコースティックギターの4つに集中して、できる限りエレキギターを触らずに。エレキギターを入れるとしたら益子さんにお願いするというふうにして、「こういう曲なんです」「これに必要なものはありますか?」ってところから始めて。必要なものがあったら伝えて、「じゃあ、それを入れてみようか」「ちょっと多すぎじゃない? 削ろうか」ってやりながら、できるだけミニマムにミニマムにっていうふうに作っていきました。

──最初、曲は長澤さんが弾き語りして聴いてもらうんですか?

長澤:はい、あとはデータで。リズムがほしい時はちょっと入れて渡したりして、「どういうふうに作っていこうか?」って作業はスタジオで話しながら。

──須藤俊明さん(ベース)と吉本ヒロさん(パーカッション/ドラム)の参加はどんな経緯で?

長澤:須藤さんはデビュー当時、僕のバンド編成の時にメンバーになっていただいた方なんです。昔から知っているから話が早いし、人柄も好きだからお願いしました。ヒロ君は僕の友達のバックでドラム/パーカッションをやっていて、その友達のライヴを見たあと打ち上げで話をしたら、すげえいい子で、長崎出身で同い年で、おもしろいし真面目だし、音楽に誠実な人だからお願いしました。今回、お願いした人はみんな真面目で音楽に実直な人達ばかりなんですよ。

──益子さんと長澤さんである程度、アレンジを固めてから2人を呼んだんですか? 場合によっては4人でセッションしながらアレンジすることもあったんですか?

長澤:この曲にはドラムが必要だ、ベースが必要だって時は、もちろん僕がそのイメージを伝えるんですけど、ディテールはそれぞれが作っていきました。作り方としては、バンド活動で得たものもあって。自分1人で想像するっていうのは自分の窓から見た風景なんですよ。それではわかりきったものしかできない。だからちょっとハプニングがほしいんです。「あっちの窓から見たら、こういうふうな風景が見えるよ。そういうおもしろさもあるんだ」っていうものもほしかったから、積極的に意見を言ってもらって、「あ、それいいね」「じゃあ、こういうふうにしてください」って話しながら作っていきました。

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