【対談】千秋 [DEZERT] × 逹瑯 [MUCC]、「ビビってるのも楽しいんですよ」

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■“千秋を形成するものはこれでした”
■というものになった時が、また面白そう──逹瑯

千秋:イベントとは関係ないことばかり話してしまいましたけど。最初は正直もっと考えていたんですよね。今のシーンのこととかまで考えていて。それを俺が考えるのか?と思ったんですけど、いやそんなこと思っちゃだめだ考えようって。でも、ここ最近になって、そういうのがどうでもよくなっちゃったんです(笑)。

逹瑯:シーンの全体がどうこうとかは、この間のYOSHIKIさんの<VISUAL JAPAN SUMMIT>みたいな風穴の開け方もあるけど、あの人は計り知れない力があるからできることで。うちらにできることは、自分たちがカッコいいでしょ?って自信を持ってやれることを貫いているバンドが1バンドでも増えれば、シーン全体がカッコよくなるかなという。全体を考える前に、自分たちのことを考えようっていう感じなんだよね、俺は。

千秋:そうなんですよね。その自分たちが考えられなかったんです、僕は。自分たちの前にオーディエンスになっちゃって。例えば千人お客さんが入ったら、全員に俺と同じことを思ってほしいというのがやっぱりあったんですよ。客が増えても、あの曲が好きとかあの曲はどうだとか、とらえ方が人ぞれぞれで違う。どうしようもないけど、どうにかならないかなっていう……。

逹瑯:それでいうとさ、うちの母ちゃんはアーティストでも何でもない、ただの美容師なんだけど。俺が東京に出てバンドを始めましたくらいのときにライブに来てくれて、「歌っちゅうのは、そこにいる全員を感動させようと思って歌っても、絶対伝わらん。その歌は誰のために書いたのか、どういう思いで書いたのか。そのひとりだけを感動させようと思って歌えば、自然と伝わるものだから」って俺に言ったんです。

▲MUCC

──いい言葉。

逹瑯:これって結構、的を射てるなと思って。本人が言った覚えがあるかどうかわからないけど、俺はその言葉をずっと覚えていて。全員にわかってほしい気持ちはあるけど、たったひとりを感動させられないで全員を感動させることなんかできない。それは結局、どういう思いで書いたのかっていう、自分の歌に向き合う作業になってくるわけで。だから、それは大事だなって。

千秋:僕は、“もう無理だしどうしよう”ってなったとき、焦点が自分だったんです。恵比寿LIQUIDROOMで10月にライブ(10月26日<SaZ BIRTHDAY LIVE 「LIVE?」>)をやったんですけど、俺的にはベストのライブだったんですよ。ZEPP TOKYOの時よりもライブをやった感があった。楽しい/楽しくないじゃなくて、自分に向けて何かを言えたというのがあった。それで、もっとライブがやりたいと思ったんですけど、そうなった時に<This Is The “FACT”>というタイトルの意味とか、もうどうでもよくなったんです。いいハコで、カッコいいことができればいいじゃんって。

逹瑯:前回対談した時よりも、千秋の中身がスッキリしてるよね。この先、5年、10年と続いていくようだったら、千秋がどんどん面白くなりそうだなと思っていたから。でね、俺も昔でいうと、“この曲には俺のつらい思いが詰まっているのに、曲のノリが軽快だからもあるけど、お客さんがすげえ楽しそうに乗ってる”っていうことにムカついちゃったことがあって、ライブで。

千秋:ははは(笑)。

逹瑯:「そういうマインドの曲じゃないんだけど、なにちょっと茶化すように遊んでんの?」ってことを、ぽろっとMCで言っちゃったんだよね。「不愉快です、そういうのやめてもらいたいです」って(笑)。そういう段階からさっき話したように、ひとりに想いを伝えれればいいんだっていう段階を経て、最近はさらにもう一段階変わってきてね。“この曲の本質にはこういう思いが詰まってるけれども、このライブという限定された空間では、俺のエゴや想いは一回、解除しよう”と。この曲はMUCCの曲だけど、ここにいる間は、全員の曲としてみんなで共有して楽しみましょうって感覚に、30歳を超えてから変わってきたんだよね。それが三段階目。フリーザでいえば第三形態(笑)。

──だからこそ、今、千秋さんが置かれている状況もすごくわかるという。

逹瑯:わかります。それも前回対談したときよりもすごく良くなってるのがわかるから。以前は、説得力だったり、自分のやりたいことをどんどんプラスオンで武装していた時期だと思うんです。自分の心を閉ざすような作業というか。わかってほしいから、わかってもらうために、あれもこれもチョイスしたい。これをチョイスしたらもっとわかってもらえるかなってプラスオンした結果、隠れてしまっていたのかもしれない。それが、両手にこんなに持っていたらわからないんだって、今は一個一個剥がしている作業というかね。その引き算のカッコよさってなかなか勇気がいるし、できないことでね。今、どんどん引き算をやってる最中だから、これから面白くなりそうだなとね。最終的に必要なものとして何が残ったか、“千秋を形成するものはこれでした”っていうものになった時が、また面白そうだなと。

──今、楽しさもあるし、また苦しさもあるとも思うけど、この先はもっと、いいものがあると。

逹瑯:面白くなると思う。どんなにカッコいいことをやってるバンドでも、その人間が面白くなかったらだめ。結局ステージに立って、生身の人間がポンと出てきたときに、その人の持つ人間力がステージからどれだけ客席にダダ漏れになってるかというのでしかないと思うんですよね。千秋は、求心力っていうお客さんの心を掴むものは持ってると思うから。もっと面白くなりそうだなっていうね。

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