パティ・スミス、ノーベル賞授賞式でのパフォーマンスを振り返る

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パティ・スミスが、『New Yorker』誌にエッセイを掲載し、ノーベル賞授賞式でボブ・ディランの曲をパフォーマンス中、口ごもってしまった理由を説明した。

◆パティ・スミス画像

パティは9月、「そのときまだ誰かはわからなかったけれど、文学賞受賞者の栄誉を称えノーベル賞授賞式で歌わないかと打診された」そうで、「自分の曲の中からオーケストラとパフォーマンスするのに相応しいと考えた1曲を選んだ」という。

「けれど、ボブ・ディランが選ばれ、それを受け入れたと発表されたとき、自分の曲を歌うのはもはや適さないように思いました。予期せぬ状況に置かれ、私は相反する感情を抱きました。彼が欠席し、私はこの役目に適任なのか? 決してそんなことはしたくないと思ってきたのに、ボブ・ディランを不快にすることにはならないか? でも、決意を固め、全てを検討し、ティーンエイジャーのときから大好きで、私の亡くなった夫のお気に入りでもあった“A Hard Rain’s A-Gonna Fall”を歌うことにしました」

「そのときから、暇さえあれば練習し、全ての節を覚え歌うことができるよう尽力しました。自分も青い目の息子を持ち、喜びと決意を抱きながら、歌詞をオリジナルのキーで何度も何度も口ずさんでいました。作られたものそのままに歌おう、そして自分にはできるとだけ考えました。新しいシャツを買い、髪の毛を切り、準備万端だと思いました」

「ノーベル賞授賞式の朝、不安とともに目が覚めました。土砂降りで、雨は激しく振り続けました。着替える際、自信を持って曲を繰り返し歌っていました。ロビーへ行くと、フォーマルで伝統的な――刺繍のはいったクリーム色の着物と草履姿の素敵な日本人の女性がいました。彼女の髪は完璧にセットされていました。彼女は、生理学・医学賞を受賞した上司の栄誉を称えるために来たが、天気が嫌だと言ったので、私は、あなたはきれいよ、どれほどの風や雨もそれを変えることはできないと答えました。コンサート・ホールに着いたころには、雪になっていました。オーケストラとのリハーサルは完璧でした。自分の楽屋にピアノがあり、紅茶と温かいスープが持ち込まれました。みんながパフォーマンスを楽しみにしているのは承知していました。全てが私の前にありました」

「16歳のとき、私にとって初めてのディランのアルバムを買ってくれた母のことを想いました。彼女はそれをバーゲン・コーナーで見つけました。“彼はあなたが好きそうなタイプね”って言っていました。私はそのレコードを何度も何度もプレイし、“A Hard Rain’s A Gonna-Fall”はお気に入りになりました。それは当時、私はアルチュール・ランボーの時代には生きていないけれど、ボブ・ディランの時代にいると思わせたものです。それに、夫のことも考えました。彼と一緒にこの曲をパフォーマンスしたこと、彼の手がコードを奏でるところを思い出しました」

「そして突然、時間がきたのです。オーケストラは、王、皇族、受賞者たちが座る、ステージを見渡すバルコニーに配置されました。私は指揮者のとなりに着席しました。式は予定通り進行し、私はヘルマン・ヘッセ、トーマス・マン、アルベール・カミュら過去の受賞者が王のもとへ向かいメダルを受け取るところを想像していました。そして、ボブ・ディランの文学賞受賞がアナウンスされ、私は心臓が激しく鼓動するのを感じました。彼への感動的なスピーチが読み上げられた後、自分の名が呼ばれるのが聞こえ、立ち上がりました。まるでおとぎ話のように、私はスウェーデンの王や王女、世界の偉人たちを前に立ったのです。全ての言葉がそれを書いた詩人の経験や立ち直る力をエンコードした曲と共に」

「オープニングのコードが始まり、自分が歌っているのを耳にしました。最初の一節はまずまずで、ちょっと震えていましたが、このさき落ち着くだろうと確信していました。しかし、その代わりに、私はあまりにも多くの感情に襲われ、そのあまりの激しさに圧倒され、それらをコントロールすることができなくなったのです。目の端からテレビ・カメラの巨大なブーム・スタンドやステージの上の高位な人々を見ることができました。これほど圧倒されるような緊張には慣れておらず、続けることができませんでした。私は、自分の一部となった歌詞を忘れたわけではありません。ただ単に、それらを口に出すことができなかったのです」

パティは席に戻った際、失敗したと恥ずかしくて仕方なかったと同時に、その部分の歌詞が「I stumbled alongside of twelve misty mountains」に始まり「And I’ll know my song well before I start singing」で終わるところだったのに気づき、「本当にあの歌詞の世界に入り込んだという奇妙な実感を持った」という。

翌朝、朝食でノーベル賞受賞者たちに会ったとき「いいパフォーマンスだった」と言われ、「もっと上手くできたらよかった」と答えると、「いやいや、僕らには、君のパフォーマンスは僕ら自身の葛藤のメタファーに見えた」と優しい言葉をかけられたそうだ。

パティは70歳の誕生日(12月10日)に息子や娘とともに、彼女が誕生したNYでスペシャル・パフォーマンスを行なう。

Ako Suzuki
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