【インタビュー】フルカワユタカ、『And I’m a Rock Star』に「ドーパンがライバルじゃなくなった3年間」

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■ドーパン時代から歌詞にちょっとだけ
■変態が入ってくるんですけど

──ギターという意味では「I don't wanna dance」のカッティングも聴きどころで。この曲と「プラスティックレィディ」はフルカワさんの十八番とも言えるダンスロックチューンです。

フルカワ:「I don't wanna dance」は同名のミニアルバム(※2015年11月リリース)のタイトルチューンでありつつ、あえて今回も収録したのは曲に自信があるからで。4つ打ちとかダンスロックっていうものは、今、世の中に溢れているけど、16ビートでアフロっていうかブラックな感じを含んだダンスロックっていうのは僕にしか書けないだろうなっていう自負があるんです。ミニアルバムは僕自身がエンジニアリングまで手掛けたもので、それをプロのエンジニアさんの手で作業してもらったらどうなるだろうなって単純な興味もあった。結果、すごく良くなりましたね。

──再収録するにあたって録り直しをしてますよね。

フルカワ:ライブのサポートをしてくれてるカディオのドラムは、この曲だけはホントにいいので(笑)。ネタばらしすると、これ、歌もコーラスも含めて全部1テイクなんですよ。アルバムはドラム以外、全部自分で弾いてるんですけど、僕は基本的にパンチインはしない派で、この曲は本当に何もしていない。僕のベースとカディオのドラムを“せーの”で録って、ギターのベーシック2本もソロも1テイク。だから、ドラムとベース、ギター2本とギターソロ、歌とコーラスの7つのパートを一発ずつ録って渡しただけ。3分50秒の曲だから、録り時間は30分くらいです。それをそのままミックスしたかったんですよね。

──ライブ感とか、一発取りに近い勢いを封じ込めたかったということですか?

フルカワ:今のレコーディングってみんなスクエアな音になるじゃないですか、あとで直しちゃうから。それもパンチインどころの話じゃなくて、仮に1テイクで録ったとしてもそれを部分的に弾き直したり、PC上で直したりしてるから、結果それは1テイクではない。昔のレコーディングを遡れば、スタジオにマイク1本だけで、ドラムがうるさかったらマイクから遠ざけて録って、そのままリリースするっていう時代があったでしょ。そういう当たり前のことをやる人が減っている中で、僕はそれができるから。この曲では絶対挑戦しようと思っていたんです。

──それって、この曲に限ってではないですよね?

フルカワ:ベースとギターのベーシックに関しては、ほぼ全曲その方法論ですね。ギターソロはさすがに何テイクか録って、その中から良いものを選びましたけど、つなげたりはしてない。一筆書きみたいなものです。

──一方の「プラスティックレィディ」は、りぶのアルバム『singing Rib』に提供した楽曲のセルフカバーですけど、個人的にこの曲、大好きです。

フルカワ:これはね、本当にありがたいんですけど、僕の周りのみんなが褒めるんですよ。この曲はまず、りぶ側から「歌い手とか、ニコ生とか気にせず、フルカワさんらしい曲を」って求められたんです。それに対して、“こういうことかな?”と思って書いて渡したら、「もう震えました」と言っていただいて(笑)。こういう曲はね、書けちゃうんですよ。インディーのときの「Transient happiness」然り、メジャーの「MIRACLE」然り。僕としてはドーパンのときからずっと、こういう曲を必ずアルバムに入れようとやってきてて。今回もちゃんと僕に求められる“フルカワユタカのダンスロック”が書けた。ただ、言葉は悪いんですが、作家としてはちょっと食傷気味なところもあってね(笑)。

──あら。

フルカワ:だけど、masasucks (the HIATUS / FULLSCRATCH /J) には「サバク」のミュージックビデオに出てもらう経緯もあったので音源を先に送ったんですけど、「なんでミュージックビデオが「プラスティックレィディ」じゃないんや。どう考えてもこっちやろ」って連絡があったくらいで。というところで、本当に嬉しいんで、この感じ、今後も頑張ります(笑)。

──食傷気味って、裏を返すと好物というか得意ってことですよね。ということは、フルカワさんにとってはラクな作業です?

フルカワ:いや、逆に一番しんどい作業です。以前、Charisma.comにも楽曲提供(※2016年11月リリース『unPOP』収録曲「もや燃やして」)したじゃないですか。彼女たちの楽曲には、芯が強いんだけどちょっとずらしたものが多くて、僕はそこに興味を持っていたので、まずエッジーな曲を書いていたんです。ところが何かの経緯で“「The Fire」(※DOPING PANDAミニアルバム『High Pressure』収録曲/2005年発表)みたいな曲を”という話が出て。僕としては“……ああ、一番大変なやつだ”と(笑)。僕はちょっと変えて出すっていうズルができない人なので、以前の曲と被らないように、手を変え品を変えやってきましたけど、それが本当にしんどい。ただ、楽曲提供だとそういうところを求められるし、それはありがたいことですよね。今回、提供楽曲とほぼ同じアレンジのこの曲をアルバムに入れたのは、ファンのためでもあるんです。

──この曲には新しい挑戦もありますよね?

フルカワ:サビが全部ファルセットっていうのはドーパン時代もなかったかな。提供用に書いた楽曲はキーがそもそも違うんですね。ファルセットは苦手じゃないものの思いっきりフィーチャリングしたことはなかったから、そこに関しては面白いですよね。

──今回は歌に関しても歌詞に関しても意欲的で。連載コラムの第5回目では自身の声について“今の自分の音楽や声が好きだ”と記されていますが、アルバムには“ドーパン時代にはなかった歌の世界観”というものがあります。それが、先ほど話に出た「真夜中のアイソレーション」と、Charisma.comのいつかさんががゲスト参加した「walk around」。

フルカワ:この2曲は歌詞ですね。今回は全曲、今までより踏み込んで歌詞を書いたんですけど、この2曲に関しては変態性がちゃんと入れられているというか。ドーパン時代から歌詞にちょっとだけ変態が入ってくるんですけど、“オレってこういうタイプの変態だよな”って自分でもわかりやすく………なにをさっきから変態変態と言ってるんだか、オレは(笑)。

──ただ、どちらも楽曲自体はミディアムテンポにキレイなメロディが乗ってるので、音だけ聴くと変態って感じでもないという。

フルカワ:たしかにどちらもメロディがキレイですよね。ところが「真夜中のアイソレーション」の歌詞は、一歩角度を変えて見るとヤバくないですか? それがCメロにつながっていくんですけど。物事って必ず二面があるでしょ。その片方が少しでも見えたとき、今までキレイだと思っていた話がガラッと変わっていくような。これまではわかりやすく変態な曲と、わかりやすくキレイな曲は書いてきたんですけど、今回はひとつの歌詞に二面性を持たせるという意味で、この2曲は上手く表現できたかな。

──「walk around」はさらに、Charisma.comのいつかさんによるラップパートが乗ってます。

フルカワ:いつかちゃんに本当に感謝ですね。こんなことは今までなかったんですけど、「walk around」は歌詞が書けたときの満足感があって、その先の楽曲アレンジをあまり詰めなかったんです(笑)。っていうのは、Bメロ抜けの転調後から最後にAメロに戻るまでの16小節、そこに歌詞を埋められる気がまったくしなかった。もう出来上がっちゃってると思ってたから。ただ、そこはギターソロじゃないし、かといってそのままでもない。シンセのビートを入れたまま、時がどんどん過ぎていって(笑)。そんな時に制作ミーティングがあって、Charisma.comに楽曲提供したことを改めて思い出して、“あ、ピースが埋まった”と。

──いつかさんとは歌詞についての話も?

フルカワ:いや全然。この曲の歌詞は「サバク」と違って、だいぶ説明を省いた抽象的なものなので、僕だけがわかればいいという書き方なんですね。で、その16小節も、いつかちゃんの解釈で書いてもらったほうがいいと思ったし、彼女も自分の意志で僕に歌詞の意味を聞いてくることもなく。レコーディング現場で初めて歌を入れてもらって、そこで初めて歌詞も知ったんです。もう十分でした。やっぱりすごくセンスのいい人だから、この楽曲にオチがつきましたね。

──女性の声が似合う楽曲でもあります。

フルカワ:特に低めで倍音を含んだ女性の声ってあまりないですから。この曲によってアルバム全体が引き締まった感じがしました。

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