異端児SSWジェイムス・アーサー、波乱の人生 Vol.3/3

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『Xファクター』出身の異端児シンガーソングライター、ジェイムス・アーサーの波乱の人生パート3(最終章)。『Xファクター』優勝後、自身の軽率な言動からレーベルを解雇され、再び人生のどん底へ戻ってしまったジェイムス・アーサーが、人生を更正させてつかんだ「シングル・アルバム共に全英ナンバーワン」への奇跡をたどる。

(前回からの続き)

『Xファクター』のオーディションからちょうど2年、やっと手にしたチャンスを取り逃してしまった自分に幻滅したジェイムスは、落ち込むばかり。アルコールや鎮静薬、そしてドラッグにも依存するようになり、一時は自殺を考えたこともあったという。

「今までみたいにギターを手にとって曲を書きたいとは思えない時期があった。不安を引き起こしてしまうからね。そのせいで自分の存在意義を少し失ってしまったような気がしたし、あまりにも多くの悪魔と戦っていたんだ」と、彼は当時を回想する。


それでも、その悪魔を抑え込んで、或いは悪魔と正面から向き合うようにして、ソングライティングを再開。よりリアルな曲が生まれてきたという手応えを得て、まだ一定の人気を保っていたヨーロッパ本土を中心に、各地で地道にライヴ活動を続けた。そして、家族の支えのもとに自身の生活も徐々に立て直し、2015年秋になってドイツで新たに大手レーベルと契約。次のアルバムに着手し、2016年年9月、フォーキーなバラード仕立てのニュー・シングル「セイ・ユー・ウォント・レット・ゴー ~最愛の君へ」を発表して、新しいジェイムス・アーサーを世に問うことになる。


すると、この曲は英国でチャートイン3週目にして、それまで1カ月間1位の座にあったザ・チェインスモーカーズの世界的大ヒット曲「クローサー」をおさえてナンバーワンを獲得し、3週連続でトップに留まった。ジェイムスにとって4年ぶり2曲目の全英ナンバーワン・シングルだ。

「完全に想定外の展開だったから、とても謙虚な気持ちになったよ。ファースト・シングルにするべきか、もめた時期すらあったんだ。僕はもう少しパーソナルな曲にしたかったんだけど、レーベルもマネージャーもこの曲を選んで、それが正しかった。普遍的で親しんでもらいやすい内容だからね」

「セイ・ユー・ウォント~」の成功を受けて、彼は結局SYCOにも復帰。ずばり“崖っぷちからの帰還”を意味するタイトルを掲げたセカンド・アルバム『バック・フロム・ジ・エッジ』を海外でリリースしたのは、さる10月末のことだ。

プロデューサーや共同ソングライターについては、今回は有名過ぎる人たちを敢えて避けたのか、アレックス・ビーツキとブラッド・スペンスのコンビや、アダム・アーガイルといった英国の若手を起用。引き続きオーガニックで重厚なサウンドでまとめ、ストリングスやホーンを用いて、ソウルフルなポップをブルースやファンクで味付けしている。またジェイムスが「親しんでもらいやすい」と評した通り、「セイ・ユー・ウォント~」こそ恋愛絡みの比較的キャッチーな曲だったのだが、さすが今作での彼は多くの曲で自分の弱さをさらけ出し、ここ数年間に直面した試練と、再起への決意を歌詞に投影。表題曲然り、「トレイン・レック」然り、「プリズナー」然り。「一番オーセンティックで可能な限り自分に正直に響くものを目指した」と説明するヴォーカルも絶品で、言葉に込められた葛藤を生々しくあぶり出している。

「このアルバムを作ることには、大きなカタルシス効果があった。自己発見というか、自分自身について見極めることを必要としていたんだ。僕はアルバムを通じて、自分自身を思い切り非難の矢面に立たせた。そうすることで、みんな僕の立場を本当に理解してくれるんじゃないかと思ったのさ。ダークな時期と、新たに希望を見出し始めた時期のことをね」。

そして終盤の「リメンバー・フー・アイ・ワズ」では自分の体験を一種の訓話と捉えて、聴き手に「僕みたいになるな」と警告したりと、メッセージ性が強まっていることも今作の特徴だ。「人々が苦難に直面した時、自分自身を信じて立ち向かっていけるように励ますことができたらうれしいね」とジェイムス。そういった曲の重みは、「セイ・ユー・ウォント~」のようなラヴソングの明るさや優しさを際立たせ、光が影を、影が光を引き立てている。

本編ラストの「ファイナリー」ではもちろん光を見つめながら幕を下ろしているのだが、彼の願いは叶えられ、今作はシングルに続いて全英ナンバーワンを獲得。BRIT賞では「セイ・ユー・ウォント~」が最優秀ブリティッシュ・シングルと同ビデオ賞の2部門にノミネートされ、3月に控えたUKツアーはほぼ全公演ソールドアウト…と、再び上昇気流に乗った彼の勢いは止まる気配なし。

次なる目標は当然、アメリカだ。目下「セイ・ユー・ウォント~」はUSビルボード・チャートを着々と邁進中。1月3週目の時点で31位につけており、ほんの数カ月前に「究極の夢」と語っていたアメリカでのヒットが、現実のものとなった。つまり、音楽の力でカムバックしたのみならず、さらに上を目指しているジェイムスは、そんな快進撃を、昨年長い低迷期を脱したばかりの地元のサッカー・チームを引き合いにして総括する。



「カムバック以来の一連の出来事は、まるで僕のお気に入りのミドルズブラFCが、プレミアリーグに優勝したかのような感じだった。百万年に一度あるかないかの奇跡だってことだね(笑)。僕はいわゆる“負け犬”だけど、みんなが自分自身を信じて諦めないよう、インスピレーションになれたらと思っているんだ。僕も諦めてしまいそうになった時期があった。でも、そうしなかったおかげで今の自分がある。それが何よりもうれしいよ」──ジェイムス・アーサー


text: 新谷洋子


ジェイムス・アーサー『バック・フロム・ジ・エッジ』

1月25日発売
SICP-5165 期間限定スペシャル・プライス ¥18,00+税
日本独自ボーナス・トラック2曲を含む、計6曲追加収録
海外輸入盤(17曲収録) https://itunes.apple.com/jp/album/id1147252339?app=itunes&ls=1
国内盤(19曲収録)1月25日発売 https://itunes.apple.com/jp/album/id1194743143?app=itunes&ls=1

◆ジェイムス・アーサー・オフィシャルサイト
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