■にしのさんは恐れを知らない冒険家(ロザリーナ)

──ロザリーナさんから見た、にしのさんの絵の魅力はどこにあると思います?

ロザリーナ:すごく細かいですよね。1枚描くのに、3か月ぐらいかかるんですよね?

にしの:かかる(笑)。

ロザリーナ:個人的には、にしのさんの描いた白黒の絵が一番好き。こだわっているペンの細さも好き。私も絵を描くのですが、高校生のときも授業中にいつも細いペンでノートに描いてたんですよ。だから鉛筆やクレヨンで描くのより、そういう細い線の絵が好きなんです。あと、絵に可愛いものも混ざっていて。プペルは日本っぽいところがあるのもすごいなって思いました。

──にしのさんが絵を描くようになったきっかけは?

にしの:僕は25歳のときに、テレビの仕事をこのままやっていてもな……みたいな時期があって。今もテレビはムッチャ好きですけどね。そのときは用意されたレールから、ちょっと片足抜いてみようと思って。そのタイミングですね、“何かしようか”と思い悩んでいたときに、タモリさんに「おまえ、絵を描け」って言われたんです。

──子供のころから絵を描くのが好きだったのですか?

にしの:いやいや全然(笑)。趣味で描いていたわけでもなくて、美術を専攻していたわけでもなくて、本当にお酒を飲んでるノリで描いちゃおうみたいな、そっちです。

──でもオリジナルなスタイルができていますよね? それは自然に生まれたのですか?

にしの:最初はもうちょっと打算的でした。まず絵本を描くと決めた。で、タモリさんに言われたときも酔っ払っていて陽気になって、“やっちゃいましょうか”と。それで翌日から“俺、今日から絵本描こう”と決めて、やるからには“このクオリティに達しないと(表に)出さない”というラインを一応決めておこうって思ったんですね。

プロの絵本作家に絶対に勝つには、画力は負けているし、出版のノウハウもツテもない……つまり負けているところだらけだなって思ったんですけど、1つだけ“時間なら勝てる”と思った。プロの方、それを生業とされている方はご家族を養わないといけなかったり、短いスパンで作品をポンポンと定期的に出していかないといけない。

僕の場合、絵本は副業なので無限に時間かけられる。だったらとにかく時間がかかるような作り方にしようと思って、文房具屋さんで一番細いペンを買って、物語を長くした。つまりどう頑張っても時間がかかるような作り方をデザインした。その段階では、特にセンスとか才能とかそういうことではなくて、物理的にプロにはできないこと。最初はそういうところからですね。

ロザリーナ:恐れを知らない冒険家(笑)。

にしの:1回そこまで行っちゃうんだよね。

ロザリーナ:ビビらないのがすごいなって思う。私はビビリなので。にしのさんはこの間も言っていましたけど、もう全然ダメだから仕方がないって思って、次のことへ行くじゃないですか。後悔とかしている暇がないじゃないですか。

にしの:うん。ない。

ロザリーナ:それがすごいなって思う。で、器用すぎますよね。

にしの:いや全然器用じゃないんだよ。でも1回そばに行っちゃって、そこでいろいろ思い知って“ああ、これ全然あかんやん”とか“これ意外といけるな”っていう方が、家で考えるより早いなって思って、そっちへ行っちゃう。だから、絵本を出す、絵本作家になるって言っちゃって、そこから考えるみたいな。

──普通そこまで大胆にできないですよね。しかも、絵本を無料で見られるようにネット上で公開されています。そこで、“ページの関係でカットしました”とことで、お父さんがルビッチに言っている強い言葉の部分だけ抜き出していますが、これも計算しているのかなって思いました。

にしの:『えんとつ町のプペル』の話をすると、本当はもっともっと長い話で、これはまだオープニングなんです。4年半前に、お話はすべて書き終えて、4年ぐらい前に実は舞台もやったんだけど、舞台のときはこの部分、今回は絵本だったからこの部分って抜き取って出しているだけで、まだもっともっと長い話なんです。絵本では収まらないくらい。

ロザリーナ:前書きってことですか?

にしの:そうそう。

ロザリーナ:ヤバっ(笑)。豪華な前書き!

──5年前に完成したストーリーは、その間ずっと変わらないままだったんですか?

にしの:実は変えていて、スタッフにも本当に迷惑をかけたんです。『えんとつ町のプペル』というお話を書き上げて、「チームで絵本を作ろう、分業制でいくぞ!」ってみんなでバーッと動き出したんですけど、作り出して2〜3年経ったあたりで、ジャパニーズハロウィンがすごく盛り上がってきたんですよ。で、日本のハロウィンのアイコンって何なんだろうって考えたときに、もはや元の意味の収穫祭ではなくて、コスプレ大会になっていたので、これは「ゴミ」だと思って……ハロウィンの翌日にすごいゴミが出るのが社会問題になって、“ハロウィンとゴミ人間、来た!”って思って。あとは渋谷だなと……スタッフも急遽全員集めて、出来上がっていたのに、“ちょっと渋谷っぽくしよう、日本の感じをもうちょっと入れよう”みたいに変更して。元々ストーリーはここまで日本じゃなかったんですけど、完全に舵切ったんですよね。

ロザリーナ:へぇ〜。

にしの:このアルバムにだって、何年か前に作った曲があるでしょ?

ロザリーナ:あります。

にしの:そのときと今とで、ちょっと考え方が変わってたりしないの?

ロザリーナ:全然あります。でも、曲によりますね。この曲はこれじゃないといけないみたいなのがあって、「ここ、歌詞変えてほしい」と言われたら、「じゃあ、もうこれはボツにしましょう、最初から作ります」みたいに、頑固なくらい“この曲はこの形じゃないとダメ”みたいなのもあれば、サビまでしかできてなくて、“このサビを着地点にして、曲のテーマを何にするか”みたいな場合は、寝かしているうちにどんどん変わっていくことはあります。

──にしのさんはこんなにチャレンジャーで、“その場に先に行ってしまえばいい”というわりには、忍耐力というか、結構完成まで待ちますよね?

にしの:まぁ、僕はやっている仕事がこれだけじゃないから。たぶんこれ1本にしていたら我慢できなくなるかもしれないけど、“(これをやるのは)今じゃないな”と思えば、他の仕事をバーッとやっちゃうんで。

ロザリーナ:すごいですね。私はいつも自分の中で新曲が一番好きなんですけど、(CDにするまでに)時間が経ってしまって、新しくできた曲の方をもっと好きになっているころに、その好きだった曲がリリースされる(笑)。

にしの:それ、あるよね。自分の中でホットなヤツは、そりゃ新曲だもんね。わかる。自分もそれやっちゃうねん。絵本の取材のときとか、もう次回作に気持ちがあるんだよね。飽きてんねん、俺も(笑)。

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