【コラム】ceroのグランドキリンCMコラボに見る、彼ららしさと現在地

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■ceroならではのCM曲

このCMにおいて、2種類のアレンジを施した新曲「陸のうえの晩餐」がceroらしさをなによりも物語っている。<空き瓶のなかに 閉じこめた夢>など商品を想起させるリリックが散りばめられているが、ceroファンも「街の報せ」以来のceroの新曲としてきっと楽しめて、それこそバンドのこだわりとオリジナリティーを受け取ることができる作品だ。いつもの楽曲制作と比べて違った点は「商品のことをある程度歌詞に絡めなければならなかった点」、違わなかった点は「アレンジをサポートメンバー含めみんなで考えて作った点」であるという今作は、ループ感があり、メロディやバンドのアンサンブルがとにかく心地いい。だが時より熱を帯びグッと胸に来る高城のソウルフルなヴォーカルや、<持ち寄った苦味でまた楽しくなる>という名リリックなど、ceroならではのフックやポップネスに溢れている。曲を通じて「商品を広める」という役割と、「自分達を表現する」という音楽家としての本来の感覚を両立させる作業は、どのような体験だったのかを率直に尋ねた。

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「いつも楽曲ごとになにかしらテーマを設けるのですが、今回はそれが『ビールのある風景に寄り添えるような楽曲』だったというだけで、それほど難しい作業ではありませんでした。ただceroという名前が出て、演奏シーンもありきの企画だったので、商品CMとはいえ、バンドのディスコグラフィーのひとつとしても恥ずかしくないものにしなければならんな〜、ということは考えました」

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なお、前述したように2種類のアレンジはJPLとIPAがそれぞれイメージされている。筆者は、JPL=ポップな印象、IPA=スモーキーな印象だと受け取ったが、「試飲させてもらったイメージだったり、楽曲の持つ二面性だったりを形にしたらこうなりました」と高城本人はコメント。ガラッと替わる感触を、実際にその耳で楽しんでいただきたいところだ。

■ライブシーン撮影に見た“らしさ”

映像の後半でceroのメンバー自らが出演するシークレット・ライブシーンも、2つのバージョンが撮影された。都内某所の撮影現場に広がっていたのは、ミラーボールがゆっくりと回る親密な雰囲気の空間。高城、荒内佑、橋本翼のceroの3人以外にも、ドラム/コーラスの光永渉、ベースの厚海義朗、トランペット/コーラスの古川麦、キーボード/コーラスの小田朋美、パーカッション/コーラスの角銅真実もサポートとして参加しているため、実際のライブ感溢れる映像となっている。







スタッフの映像チェック中に、メンバーが仲良く音楽でコミュニケーションを取っている姿が非常に印象深い。本番シーンの担当から自由に楽器を持ち変えて楽しげにセッションしている様子は、まるでceroのスタジオ風景を垣間見ているようで贅沢な気持ちを覚えた。音楽家なら、楽器が目の前にあれば自然と演奏するのが常だろうと思うかもしれないが、その実に楽しそうな空気感や、演奏の本気度の高さがいかにもceroらしかったのだ。また、撮影の序盤で、高城が「聴いてるだけじゃなくて、気にせずに隣の人と喋ったりしてくださいね」とエキストラに語りかけリラックスさせるという場面も。実際のライブのお客さんとの関係性のようにオーディエンスとの距離感を縮めてゆき、40人ほどいたオーディエンス役のエキストラの体も自然に動いていくように見え、みんなで空間を作り上げるその感じがceroらしい物作りの現場となっていた。











はじめに「JPL編」が撮影されたのだが、グルーヴ感が強いアレンジに「これを野外フェスで聴けたら最高!」と、思わずこちらも盛り上がってしまったことも付け加えたい。聴けたら本当に最高だ。続く「IPA編」はメロウバージョンとでも言おうか、会場の照明の明るさも調整されだいぶ落ち着いたトーンとなり、トランペットに変わって鉄筋やトライアングルが登場。落ち着いた世界観のアレンジだが、余計に胸に染み入るように歌詞が深く届き、アレンジの妙をダイレクトに実感することができた。





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ミュージシャンでもタレントでも俳優でも、何らかのCMに出演する条件には、「表現者としてのアイデンティティを確立していること」「明確なキャラクターを持っていること」がある。だからこそ、CMの演出がその世界観に寄り添うにしても裏切るにしても、商材を印象づけることが可能になるのだ。今回のCMは、現在のceroがその条件を満たしていることの証であるとともに、企業側とアーティスト側のクリエイティビティが交差する映像の中で、ceroは“音楽家”としての彼らのそのままの姿と音をさらに周知させるきっかけになっただろう。

取材・文◎堺 涼子(BARKS)

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