【インタビュー】長澤知之、34曲収録アンソロジー完成「怒りも悲しみも肯定的に持っていけるエネルギーに」

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■人格を褒められても疑っちゃう
■曲を褒められたら素直にありがとうとなる

──「享楽列車」のライヴヴァージョンや「風を待つカーテン」のデモヴァージョンといったいわゆるレアトラックも聴きどころですね。

長澤:ぶっちゃけた話、僕は(オリジナルヴァージョンを)普通に入れたかったんですけど、スタッフから“オリジナルだけじゃなくて違うヴァージョンでも、作品として素晴らしい別テイクがある楽曲を入れてみるのも良いんじゃないか?”というリクエストがあったんですよ。僕は結構反対したんですよ。だって、普通、企画段階のものを人に渡さないじゃないですか。ちゃんと仕上がったものを渡すでしょ? 企画段階のものを渡さなきゃいけないこっちの恥も考えてくれよっていうふうに思ってたんです……って、これは愚痴ってるわけではないですよ(笑)。でも、スタッフから“「風を待つカーテン」の弾き語りのデモにオリジナルとはまた違う魂を感じた、アンソロジーだからこそ収録できる”と説得されて、それが喜ばれるんだったら、それもいいですねってなりました。

──「風を待つカーテン」、すごく良かったですよ。

長澤:あ、本当ですか。それは良かったです。ありがとうございます。

──場合によっては、企画段階のものが持っている剥き出しの表現や拙さが魅力になることもあると思うんですけど、長澤さんはそういう考え方はあまりしない?

長澤:それはライヴで表現したいんですよ。音源にする時は、スタンダードな形はこういうものですってことをまず聴いてもらいたいんです。スタジオでレコーディングする時もちゃんと魂を入れているつもりですしね。

──いろいろな曲をやるからとっちらかってしまうと表現されてましたけど、今回、34曲聴かせてもらって、本当にいろいろな曲をやっていると思いました。もちろん、どの曲からも長澤さんらしい音楽観を持って、ルーツが見える音楽を作っていることが伝わってきたと同時に、長澤さんがリスナーとしても新旧いろいろな音楽を聴いていることが伝わってきて…。

長澤:ああ~。

──自分のルーツにある音楽だけをやっているわけではなくて、その都度その都度、新しいと感じた音楽もちゃんと自分の音楽に反映させているアーティストなんだということが改めてわかりました。

長澤:そうだといいですね。今でも音楽は大好きですし、音楽ファンなんで、自分に何でもできるわけではないことはわかっているんですけど、だからこそ、そのエッセンスを取り入れて遊ぶぐらいはしたいし、チャレンジしたいと思ってます。だからって、今、一番流行っていてクールなものはどれだって言えるわけではないんです。たとえば、2017年1月に東京キネマ倶楽部でやったライヴで開演前にBGMとして流していた’70年代のUKパンクとか、昨日はザ・ジャムの「カーネーション」を聴いていたんですけど、曲は美しいのに、“すっごい怖いな、この歌詞”と思いながら、どこか共感できるところがあって、新譜を聴くというよりは、今まで通ってなかった昔の音楽を聴くことが多いかもしれないです。最近だったら何だろ? ASKAの新譜とか、『シング・ストリート 未来へのうた』って映画のサントラで使われていたデュラン・デュランとか、ティアーズ・フォー・フィアーズとか、その時代の音楽とは全然、系統が違うすごくポップな「アップ」という曲も収録されているんですけど、それがすごく良かったですね。ザ・ラーズみたいにキラキラしたネオアコっぽいところがあるんですよ。

──長澤さんは、そういう新しい音楽とはどんなきっかけで出会うんですか?

長澤:主にふたつで、ひとつは音楽に詳しい方に教えてもらったりとか、友達と音楽の話をしているとき、“あれ聴いた?”“どれ?”って話題になったものを家に帰ってから聴いたりとか、もうひとつは、そうやって家で聴いているとき、YouTubeだったらオススメが出てくるんで、あ、こういうのがあるんだって、また感動して買いに行ったりとか。みんなと変わらないですよ。

──ところで、今回の34曲から改めて、この10年を振り返ってみて、どんなことを感じますか?

長澤:音楽的な成長は、自分ではわからないんですけど、人間的なところだけで10年振り返ると、ずっとひきこもりだった僕が人と話せるようになったのは音楽をやっていたからなんだって、まず思います。自分の人格を褒められても、疑っちゃうじゃないですか。でも、自分が作った曲を褒められたら、素直にありがとうとなる。それが僕にとってはすごく助かるみたいで、自分が人間不信であるゆえんは、自分が好きじゃない、自分を疑っている、自信がないところにあったんですけど、音楽に対しては、それがなかったんで、自信があるものを好きと言われたら素直に受け止められました。だから音楽のおかげで、人とつながれるようになったり、お話しできるようになったり、友人が増えたりっていう喜びが積み重なっていった10年ではありましたね。すごく救われた感じがします。

──音楽的な成長は、ご自分ではわからないとおっしゃいましたけど。

長澤:“声が太くなったね”というのはよく言われます。デビューした時は“気持ち悪い声”ってよく言われて、<Augusta Camp>っていう所属事務所のイベントにオープニングアクトとして、2005年に山崎まさよしさんの10周年の時に出してもらって、「マカロニグラタン」という曲を歌ったんですけど、来ていたお客さんから“マカロニグラタンって歌う声が気持ち悪い”とか“マカロニ君”とかって言われて、それがけっこうキツくて(笑)。でも、段々“声が気持ち悪い”と言われることが減ってきて、それは声が太くなったからかなと肯定的に考えていて、それが成長と言えるかと言ったらどうなのかな。他に何かあるかな。ギターが前よりも弾けるようになったことかな。うーん、わからないですね(笑)。

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