【ライブレポート】ARW、本物のイエス・ミュージックを堪能した

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3度目のエントリーでようやくロックン・ロールの殿堂入りを果たしたイエスは、4月7日にニューヨークで行われたセレモニーにおいて、代表曲「ラウンドアバウト」と「ロンリー・ハート」の2曲を演奏した。ステージに立ったのは、ジョン・アンダーソン、トレヴァー・ラビン、リック・ウェイクマンの3人(ARW)のほか、本家イエスで活動中のスティーヴ・ハウとアラン・ホワイト、そしてクリス・スクワイアの代役として“イエス大好き”を公言していたラッシュのゲディ・リーが友情出演していた。

◆ARW画像

6人によるパフォーマンスは素晴らしく、もう何年も一緒に演奏していなかったというのが嘘のように、息もぴったりと合っていた。ARWが正式にツアーを開始した昨年の秋以降、幾度となく「イエスとARWが合体するのではないか」とか「イエスというバンド名を巡って裁判になるのではないか」といった憶測が囁かれていたが、そうした“お家騒動”を払拭するかのごとく、黄金期を生きたイエスマンたちの雄姿には感動を余儀なくされた。

その祝典からわずか3日後、ARWは正式にバンド名を“イエス・フィーチャリング・アンダーソン・ラビン・ウェイクマン”に改名することを発表した。結局、ARWとイエスが合体してリユニオン・イエスに発展することはなかったが、その替わりに本家イエスと同等の扱いでARWもイエスと名乗ることができるようになり、イエスの長い歴史の中においても前代未聞となる、2つのイエスが存在することになった。

イエス・フィーチャリング・アンダーソン・ラビン・ウェイクマンとして初のコンサートがこの日本公演であり、さらにスケジュールの関係で同行できなかったベースのリー・ポメロイの替わりにイアン・ホーナルが初参戦したということで、いったいどんなコンサートになるのか、ワクワクしながら東京公演初日に足を運んだ。


大方の予想どおり、演奏された曲はすべてイエスのレパートリーであり、セット・リストは3月に行われた欧州ツアーとほぼ同じ。23年ぶりの来日となるトレヴァー・ラビンのワイルドなギターで始まる「シネマ」を筆頭に、リック・ウェイクマンのシンセ・ソロを挿入した新しいアレンジで聴かせる「ホールド・オン」、イントロのアカペラ部分を抜群の生ハーモニーで歌い出す「リズム・オブ・ラヴ」といったトレヴァー在籍時代のレパートリーから7曲、ジョン・アンダーソンが「あなたは美しい!」と叫んでから歌い出す「アイヴ・シーン・オール・グッド・ピープル」や、中間部を新アレンジで聴かせた「同志(And You And I)」、ジョンの声でなければ成立しない荘厳な大作「悟りの境地(Awaken)」ではキーボードの洪水が会場を包み込むなど、70年代の代表曲が6曲と新旧のバランスも良い。今年に入ってからはロンドン公演でしか演奏されていない「ザ・ミーティング」(ABWHの曲)は、ジョンとリックのデュオ名義でのCD『イン・コンサート』でも披露されていた美しいバラード。この曲の時だけ会場が静まりかえっていたのが印象的。さらにイエス最大のヒット曲「ロンリー・ハート」では、海外公演で話題となっていたトレヴァーとリックがステージから降りてきて会場を練り歩くパフォーマンスを披露してくれ、会場の興奮は最高潮に達したのだった。




ARWが始動した頃と比べ、ややスリムになり髪の毛も伸びたトレヴァー・ラビンは相変わらずのパワー・ギターでグイグイと迫るタイプのサウンドを奏で、リック・ウェイクマンはズラリとキーボードを並べたお得意の品評会的セッティングで、さらに70年代をほうふつさせるマントを羽織り、見た目にもゴージャスな出で立ち。そしてジョン・アンダーソンは、72歳とは思えないほど軽やかで俊敏な動きをし、イエスのトレードマークと言えるファルセット・ヴォイスも伸びやかで音圧たっぷり、やはり彼が歌ってこそのイエス・ソングだと実感させられた。忘れてはならない、ジョンによる「ぞうさん」と「どんぐりころころ」の2本立ても登場している。

主役の3人を支えるルイ・モリノIIIとイアン・ホーナルは、決して自己主張が強いミュージシャンではないものの、的確に、かつ確実にリズム・セクションを導き、安心して聴くことができた。2人ともコーラス・ワークには長けていて、ジョン、トレヴァーとともに四声で作られたコーラスは、本家イエス以上の厚みが感じられた。演奏曲数は少ないものの、凝ったアレンジを施した曲もあり、気が付けばたっぷり2時間に及ぶパフォーマンスで、満足度は120%を超えていた。


ネット社会と言われる今、YouTubeなどの動画配信サイトで簡単に海外公演を見ることができるので、それを見てつい分かった気になってしまいがちだが、ネット画面で見るのと実際にコンサート会場で大音響に身を包まれながら観るのとでは、全くの別物である。会場に居合わせた見知らぬ同志たちとともにバンドに向けて惜しみない拍手を送ること、この空気感を共有したものにしか理解できない至福の時を、ぜひ体験して欲しい。ジョン・アンダーソン、トレヴァー・ラビン、リック・ウェイクマンはまぎれもなくイエスの黄金期を飾ったミュージシャンであり、彼らが奏でる音こそが本物の“イエス・ミュージック”であると断言したい。

文◎片山 伸(Shin Katayama)
撮影◎土居政則(Masanori Doi)


<アンダーソン、ラビン&ウェイクマン来日公演2017年4月17日@オーチャードホール>

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