【インタビュー】真空ホロウ、豊かな音楽性が花開き多彩さと完成度の高さを兼ね備えた新作『いっそやみさえうけいれて』

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2015年にメンバー二人が脱退するという大きなアクシデントに直面した真空ホロウ。危機的状況に屈することなく、松本明人(vo,g)はソロ・プロジェクトとして真空ホロウを継続させ、質の高い音楽を創り続けることとなる。そんな真空ホロウのニュー・アルバム『いっそやみさえうけいれて』が完成した。サポートを務めていた高原未奈(b)を正式メンバーに迎えて制作された同作は、松本が内包していた豊かな音楽性が花開き、多彩さと完成度の高さを兼ね備えた一作に仕上がっている。“組み合わせの妙”を味わえる他アーティストとのコラボレーションなども含め、『いっそやみさえうけいれて』という意欲作を形にしたメンバー二人のインタビューをお届けしよう。

■特別な存在ではなくて誰にでもあてはまる主人公を置いて
■その人のことを片っ端から模造紙いっぱいになるくらい書いたんです


――新しいアルバムの話をする前に、まずは高原さんが正式メンバーとして加入することになった流れなどを話してください。

松本明人(以下、松本):僕のことを親友だと言ってくれる楽器屋さんから高原さんを紹介されたんです。初めて一緒にスタジオに入った時に、こんなに歌が歌いやすいベーシストは初めてかもしれないと思って、それが決め手になりました。

高原未奈(以下、高原):私は、初めて真空ホロウの曲を聴かせてもらった時から、すごく好きな音楽だなと思っていて。その後、スタジオに入って音を合わせたら、全く違和感がなかったんです。このまますぐにライブが出来るなというくらいスッと溶け込めたんですね。なので、ぜひベースを弾かせて欲しいなと思いました。

松本:最初に音を合わせたのが初ライブの20日前くらいだったんだよね?

高原:そう。しかもワンマンでした(笑)。

松本:それも、ほぼ新曲ばかりのワンマンだった(笑)。でも、彼女なら大丈夫だろうと思ったし、実際ライブも全く問題なかった。良い人と出会えて、本当に良かったです。

――紹介してくれた楽器屋さんに感謝ですね。では、新体制で完成させたアルバム『いっそやみさえうけいれて』について話しましょう。アルバムを作るにあたって、テーマやコンセプトなどは、ありましたか?

松本:ありました。これまでは僕が世の中に対して抱いている感情だったり、生きている中で日々思っていることを吐き出しているというイメージで歌詞や曲を書いていたんです。でも、今回はすごく的を絞ったというか。まず特別な存在ではなくて誰にでもあてはまる主人公を置いて、その人の気持ちだったり、僕がその人に対して僕が思うことだったり、応援したいと思う気持ちを歌詞にするという手法を採りました。そうすることで、聴いてくれる人に、より強く伝わるものになる気がしたから。なので、まず主人公が何才くらいの人で、どういう生活をしていて、どういうことを趣味にしていて、どういう恋愛をしていて、日々どんなことを感じているのかといったことを、もう片っ端から書き出していって。それこそ模造紙いっぱいになるくらい書いて、詩を書く時は、それを見ながら書くという作業でした。


――平凡な人物を主人公にしたことに、センスの鋭さを感じます。そういうところから入っていって、アルバムの鍵になった曲などはありましたか?

松本:どうだろう? どう思う?

高原:8曲目の「ラビットホール」じゃないかな。いろんなことを詰め込んだアルバムですけど、すべてがこの曲に集約されたような気がします。

松本:そうだね。抽象的な表現を一番使っている曲だけれども、僕らが言いたいことの核になっているものは、「ラビットホール」に最も込められています。「ラビットホール」は、僕がソロ・プロジェクトをやっていた時期に作った曲なんですよ。僕も人間なので、少しずつ成長していくというか、歳とともに人間らしい部分が出てくるというか(笑)。そうなった時に、普通に“人って大事だな”と思ったんです。そうしたら、この曲が、バッと出来ました。


▲松本明人

――「ラビットホール」は、ストリングスやピアノなどをあしらったドリーミーな曲ですが、アレンジのイメージなども最初からあってきたのでしょうか?

松本:明確なイメージがあって、アレンジもすぐに出来ました。アレンジに関しては、僕的には『キテレツ大百科』です(笑)。

高原:『キテレツ大百科』というのは後から出た話で、曲が出来た当初は『不思議の国のアリス』がキーワードになっていたんです。なので、最初はそういうイメージで作っていきました。今言われたように、ストリングスやピアノが入っていて、ストレートなバンド・サウンドではないんです。私はロックもすごく好きですけど、結構“Jポッパー”なので、そういう曲も好きなんです。だから、「ラビットホール」には違和感はないし、こういう曲をアルバムに入れることができて嬉しいです。

松本:僕は昔からロックの枠を超えたところにも行きたかったけど、行けなかったんです。バンドは一人でやるものではないし、そういうものをちゃんと形にするための知識やスキルが足りないというのもあって。高原さんは、僕と被っていない音楽に関する造詣も深いんですよ。それで、僕のロックからはみ出した部分を、“キュッ”としてくれるんです。上手く纏めてくれるので、僕が本当にやりたいことを詰め込むことが出来た。そういう意味で、『いっそやみさえうけいれて』は、すごく自分に正直なアルバムです。

高原:明人君は一本軸がありつつ、いろんな曲を作るんですよ。それが、私が加入したことによって良い方向に向かったというか。私はいろんな音楽が好きですし、“歌物ベース”みたいなものが得意なので、彼のロック以外の面をより広げられたんじゃないかなと思います。

――たしかに、今まで以上に曲調の幅が広くなっていて、新境地も多いですね。

松本:今回は本当にいろんな曲が入っているし、どの曲も思い入れが強い。そういえば、マスタリングが終わった帰り道に、『いっそやみさえうけいれて』のどこが一番良いと思うかという話を二人でしたら、お互いに自分のパートではないところをあげたんですよ。その時に、今の真空ホロウはすごく良いなと思いました。僕は、「レオン症候群」の2コーラス目のA'のベースとギターの絡みが一番気に入っています。ベースのスラップとギターのカッティングが一体になって、すごく気持ち良い瞬間を作れたなと思って。

高原:「レオン症候群」は、自分の中ではベースがやり過ぎかなという感覚があったけど、明人君は「もっとやって!」みたいな感じだったんです。

松本:ベースがカッコいいから、もっと欲しくなっちゃって(笑)。ミックスの時に、「もっとベースを突けませんか?」と聞いたんですよ。そうしたら、高原さんに「もう、やめて」と言われました(笑)。

高原:そう(笑)。「いえ、もう大丈夫です」みたいな(笑)。


▲高原未奈

――普通のベーシストと逆ですね(笑)。「レオン症候群」はスラップに加えて、Aメロのラップっぽい歌にも驚きました。

松本:ラップというか、言葉の羅列ですよね。この曲は、渋谷原宿近辺にはびこる人々のことを歌っていて。あの人達はあんなに群れているにも拘わらず、一人一人は絶対的に孤独だと思うんです。だからこそ集まるし、だからこそ似てくるというのがあって。そういう中で、実はそれぞれの心の中や頭の中には言いたいことが山ほど渦巻いているけど、口には出せないという。そういうことを表現したくて、言葉を詰め込んだんです。

――なるほど、“ラップありき”ではなくて、曲を作っていく中で、ああいう歌にならざるを得なかったんですね。

松本:そう。最初は、ああいう歌になるとは思っていなかった(笑)。アルバムの最初に出てくる歌入りの曲が歌いあげるものではないというところでも、新鮮さを感じてもらえるんじゃないかなと思います。

高原:「レオン症候群」みたいな真空ホロウも気に入ってもらえると嬉しいです。私の中で特に印象の強い曲をあげるとしたら、バラードの「#フィルター越しに見る世界(with コヤマヒデカズ from CIVILIAN)」ですね。「レオン症候群」のベースはやり過ぎたみたいな話をしましたけど、この曲もそれに近いものがあって。私は歌物が好きというところで、歌を押し上げるベースを弾くのが好きなんです。亀田誠治さんとかも、そういうアプローチを得意としていますよね。この曲はそういうイメージでベースを考えたんですけど、ドラムとベースを録った時に、ちょっとやり過ぎたかなと思ったんです。でも、明人君とコヤマさんの歌がそれを超える感じで乗っかってくれて、歌とベースのバランスが取れた。その時に、改めて明人君の歌唱力のすごさを感じたんです。そういうところで、この曲は印象が強いですね。

――歌もベースも上質で、すごく聴き応えがあります。それに、この曲はコヤマさんとのツイン・ボーカルに止まらず、歌詞も共作されています。

松本:この曲は、元々僕がある程度アレンジして、歌詞も書いたものがあって。そこから2コーラス目だけをガッと抜いてコヤマさんにお渡しして、それに対して歌詞を書いてもらいました。その後、高原さんも交えてスタジオに入って、ディスカッションしながら歌詞を書く数時間…みたいな。それを経て、最終的に歌詞のテーマを変えてしまったんです。僕はコヤマ君と一緒に“友達とは?”という概念の歌詞を書こうと思っていたんです。彼と僕は、そこがすごく似ている気がしたから。でも、コヤマ君が書いてきてくれた歌詞は、恋愛を歌っているようにも取れたんですよ。そんな風に明確ではないものというところから、よくインスタグラムとかに載っている携帯カメラや『写ルンです』で撮った、ちょっとフィルターが掛かっている写真のイメージが浮かんできて。そういうイメージの歌詞にしたくなって、最初に自分が書いていた歌詞を全部書き直して完成させました。

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