【ロングインタビュー】Linked Horizonが見てきた『進撃』の世界…新作『進撃の軌跡』10000字調査報告

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■人間ってそんな単純なものではないから、残酷なものに美しさや救いを見出すかもしれない

──M3「14文字の伝言」、タイトルが発表になった際にSHファンのみなさんが“ざわざわ”していましたが(笑)。

Revo:一部の人たちは動揺するよね(笑)。『進撃』ファンのみなさんは「何のことだろう?」という話ではあると思うけど。

──SHとの“リンク”という部分も今回は敢えて?

Revo:まあ、完全に確信犯ですからね。恐らく、SHのLINEスタンプでグラサンが何枚も割られたと思いますよ(一同笑)。「あのやろう、確信犯じゃねーか!」って。

──(笑)。とはいえ「自由への進撃」の際も、これまでのRevoさんご自身の創作活動におけるメッセージ性と『進撃』のメッセージ性は偶然にもリンクする部分がある、という主旨の発言をされていました。

Revo:やはり普遍的なものってあると思うんです。たとえば“母の愛”みたいなもの。さまざまな親子関係があるから、それだけが真実ではないかもしれないし、僕がすべてを語りきれるとは思っていないけど、「こうあってほしい」と願う“幻想”はあってもいいと思うんです。「母は子どもを愛してほしい」と願うことは普遍的なものだと思う。何かと向き合って戦うことや、そこに生と死が伴うこともそう。すべて普遍的なものなので、あらゆる物語とリンクはしていると思います。無理やり結びつけるのはどうかと思うけど、僕がSHでやってきたことと切り離すつもりはないので、自然と結びつくものは結びつきます。そのリンクを聴き手のみなさんが発見することも、楽しいと思いますから。今回アルバムを作りながら、やはり自分の作るものはすべて“自分”なんだと思いました。この『進撃の軌跡』も、何を切り取って収録するかはすべて僕が選択しているわけですからね。つまり僕が必要だと思うから、選んで入れているわけです。何かを伝えたり表現するためには自分の言葉ってすごく大切なのですが、原作者の諫山(創)さんが作った言葉であって僕の言葉ではなくても、引用しているのが僕であるなら、同じような意味を持つんだということを知りましたね。ただこの論法の怖いところは、このやり方があらゆるケースで許されると勘違いしてしまうことです。

──確かに。

Revo:実際はそんなに甘いものではないですから。「これは自分と同じ思いだ」と、誰かが書いた何かをなんでもかんでもそのまま引用していいなんて、そんな簡単な話ではなくて、これを許してもらえるのも、こういうアルバムが作れるのも、信頼関係のようなものですよね。今回のことに関していうと「原作ではこう言っているから、それを全部自分の言葉のように書き換えて、オリジナルのように見せよう」みたいな努力は、くだらないなと思いました。そんな必要はない、胸を張って堂々と『進撃』の言葉を引っ張ってくるし、僕の言葉で言い換えた方が良いと判断したものは言い換える。あと音楽にはメロディがあるので、ピッタリと言葉がハマるとも限らない。そういう制約もありますけどね。そういったプロセスを、時間をかけて一つ一つ経た上で作っていくわけですけど、結論としては、自分の作るものはすべて“自分”かもしれないということでした。『進撃』って、何もかもが綺麗な表現に彩られた物語ではないので、自分を投影していると言っても恥ずかしくないんです。綺麗なものばかりを集めて伝えようとしている自分を、さも綺麗な人間であるかのような見せ方にならずに済む(笑)。残酷な描写もあるし、それを表現することにも意味がある。人間ってそんな単純なものではないから、残酷なものに美しさや救いを見出すかもしれない。そういう意味でも、今回はいろいろな要素を『進撃』から引っ張ってきましたね。


▲『進撃の軌跡』初回限定盤

──その流れで言うと、『進撃』にはさまざまなエピソードがある中で、M5「最期の戦果」に該当する物語を切り出した理由は? 確かにとても印象的なお話ではありましたが。

Revo:なぜかこの物語を音楽にしたいと思ったんですよね。僕の中では『進撃』を象徴する物語のような気もしていて。このエピソードの主人公は、物語全体で言えばチョイ役でしかないんです。それでも1話丸ごと使って表現されていたエピソードで、それってほかのキャラクターと比べると破格の扱いでもある。果たしてその“手帳”はどれだけの役に立ったのか。それについては明確には断言できないことかもしれないけど……『進撃』はエレンを中心に描かれた調査兵団の物語ですが、彼らが登場する前にも、当然歴史はあるわけです。その歴史は多大な犠牲によって築かれたもので、そこにも長い年月がある。その象徴のようなエピソードなんですよね。彼女は偶然名前が残りましたが、名も知らぬ兵士たちの屍の上にエレンたちの物語がある。犠牲も含めて、あらゆるものを踏まえて矢は飛んでいくんです。この『進撃』という作品と向き合うなら、そういう部分に目を瞑ることはできないから。

──曲後半の声がかすれていく演出は、胸が締め付けられるようで。

Revo:この部分、もしかしたら演出とわからない人からクレームが入るかもしれませんけど、担当ディレクターが「いいじゃないですか。このままでいきましょう!」と言ってくれて(笑)。じゃあこのまま行っちゃいましょう!と。

──素晴らしいチームですね(笑)。次のM6「神の御業」はウォール教の讃美歌的な楽曲だと思うのですが、合唱のみのアカペラで、非常に美しいコーラスでメロディを奏でていて。圧倒されました。

Revo:アルバムの中でも異彩を放っていますよね。でもこういう曲を1曲入れたかったんです。きっと「紅蓮の弓矢」のイメージを持って聴く人が多いと思うので異質なものを感じると思うんですけど、こういった要素も『進撃』の一部ですから。「Revoが『進撃』でアルバムを作るならこういう部分も切り出す」ということを分かりやすくやらせて頂きました。壁教のミサのシーンみたいなのは原作では一瞬しかでてこないですけど、僕の頭の中では流れていましたから。


──聴いているだけで天に召されそうで……(笑)。

Revo:レコーディングのときに指揮をしてくださった合唱の指揮者の方も、「もっと陶酔感がほしい!」と言いながら指揮していましたね。「この曲は普通に歌ってはダメだ!」って。そういうのは伝わりますよね。

──何声くらい重ねて作られているんでしょうか?

Revo:20数人の合唱で何度かダビングを重ねているので、100人以上で歌っている計算になりますね。実際100人で歌うのとはまた少しサウンドが違うのですが、それぞれのブレンド感やマイクとの距離等を調整することにより、実際のこの世界にはない架空の教会で歌っているという臨場感はより作りやすいんですよ。

──それはすごい! そしてM8「双翼のヒカリ」ですが、この楽曲にRevoさんが込めた思いは?

Revo:誰の曲よりも、真っ先にこのエピソードを入れることを考えたかな。実際、すごく切ない終わり方をしてしまっていて。僕の解釈で書かせて頂いたのですが、兵士たちは過酷な戦いで死んでいくんですよね。死んでいく一人ひとりにも、名前があり、想いがあり、人生があり、家族がある。そういうものを次の兵士たちは託されてまた戦っていく……その繰り返しの上で歴史は作られていくということは、僕がこの作品を通じて表したいメッセージのひとつでした。原作だけではなく、このアルバムにおいてもこの構造は繰り返されますが、エレンをはじめ調査兵団たちはそういう歴史や経験があるからこそ強くなれるし、リヴァイ兵長も部下の死に対してクールに接していますが、何も思わないような冷たい人間ではないと思うんです。ただ表に出さないだけで。そういう作品の側面を、この作品を通じて聴いているみなさんと再確認したいと思ったんです。エレンや兵長は、何を背負って戦っているのかと。このエピソードの主人公は脇役と言えば脇役なんですけど、「この人の曲があってもいい筈だ」と思って観ていたので。メロディーは既にイメージできていました。


▲『進撃の軌跡』通常盤

──M10「彼女は冷たい棺の中で」ですが、曲を聴き歌詞カードのアートワークを見れば一目瞭然、やはり“彼女”の曲なんだなと。

Revo:僕自身ちゃんと掴みきれているかはわからないけど、「彼女の人生とはどういう人生だったのか」ということを、作品から情報を拾って自分なりに書いてみました。エレンと敵対はしていても、思いとして同じ部分もあっただろうし、違う部分もあったと思う。羨ましいと思った部分もあったでしょうね。そういう部分に『進撃』が持っている理不尽さ、ひいては奥深さがあるんだろうなと。彼女やライナーたちも一人の人間として葛藤はあったと思うんです。かといってエレンたちからしたら許される行いではないですけど……そういう単純な勧善懲悪の物語ではなく、多面的な作品であるということも描いておきたいなと思って。分かりやすいので彼女に代表させて、すべての要素を背負わせてしまっていますけど、そこにはライナーたちの思いも含まれているはずです。

──作中でも描かれていた、彼女と父親との関係についても楽曲では言及されています。

Revo:彼女の中では、きっと父親という存在が大切なんだろうなと。自分の生き方を作った存在でもありますからね。父親の影はちらついているんですけど、ただ父親だけのせいにはしてほしくないなって。そういうのを表にだすタイプでもないんだろうけど、「君の人生は、誰の人生なんだ?」と。当初やろうとしていたことは失敗してしまったけど、どこか胸は張っていてほしいなと思うんです。彼女なりに一生懸命に戦ったことについて、エレンたちは認めることはできないと思うけど、せめて僕は認めてあげたかったんですよ。「これは君の人生だ」って。

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