【インタビュー】ASH DA HERO、『A』からはじまる新たな物語

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■インスピレーションをテレパスさせる
■1年前と比べると体重が10kg近く増えているんです

──『A』は「A New Journey」から幕を開けます。宇宙船のATC音声も入って、宇宙規模の旅が始まるような。今回の物語におけるASH DA HEROの出発点はどこで、どこを目指そうとする旅なんですか?

ASH:まさしく宇宙をイメージしてます。僕のイメージは、地球から月に向かっているんですよ。最終的な目標は、月じゃなくてもいいんですけど、恐らく月が軌道上で一番設置しやすい。で、宇宙ステーションはわりと近い将来、僕が爺さんになるころにはできると思っているんですけど、そこでロック・フェスをやりたいんですよね。世界中から今をときめくようなアーティストやロック・レジェンドを集めて、「見てみろ、あれが地球だぜ。あんなちっこいところにいるんだから、人種は違うけど、僕達は兄弟みたいなもんだな、ハッハッハー!」って。それで心臓発作で死ぬ、みたいな人生が夢なんですよ(笑)。だから『A』は、地球から出て、次の目的地を探す新しい旅が始まるみたいな世界観をイメージして、まず「A New Journey」を作りましたね。

──そこから続くのが「WE'RE GONNA MAKE IT」。1曲目のストーリーからつながりもあるんですか?

ASH:そうです。「A New Journey」で宇宙空間に出て、ATC音声の後に女性の歌声が美しく響くじゃないですか。「そもそも僕がロックンロールを始めたのは、ロックンロールの女神にウィンクされたから」ということをいろんなところで言ってるんですけど、それがロックンロールの女神の歌声なんですよ。「コイツに惑わされて、僕はロックンロールの道のりを歩んでいるんだよな」って、大気圏を抜け出しながらこれまでの闘いを振り返って。そして辿り着いたのが、どこか分からない惑星の荒野。そこに宇宙船からASH DA HEROが降り立つという物語ですよね。

──その第一声が、「WE'RE GONNA MAKE IT」。

ASH:ここが次の新しい旅のスタート地点か、やってやるぜって。“WE'RE GONNA MAKE IT! Oh Yeah!!”って感じでね。そして大地を踏みしめながら街が見えたという感じでストーリーが続いていくんですね。

──セルフライナー・ノーツにも記されているとおり、決意表明的なナンバーですよね。

ASH:そう。そして3曲目の「ANSWER」で最初の敵と出会って、戦闘シーンを繰り広げる。その敵を倒したら、新しく見えてきた未来都市の人々を目にして、“THIS IS 三部作”のときに見た“からっぽの街”とたいして変わらないって、「BRAND NEW WORLD」を高らかに歌い始めるんです。“オマエら自身が自分の手で創りださなきゃ、新しい世界なんて生まれないんだぜ”って。……そういうストーリーが展開していくわけなんです。

──いや、ほんとに映画のような。

ASH:今、お話したようなことを、いつもアレンジで関わってくれる宮田(“レフティ”リョウ)クンに説明したり。今回はグランドファンクの茂木(英興/音楽プロデューサー)さんもアレンジで参加してくれているんですけど、「1曲目は、宇宙船か何かに乗って旅するでしょ。で、2曲目で宇宙船が降りてきた感じがするでしょ」って。エンジニアさんにも同じような話をするんですけど、最初はポカーンという感じ(笑)。でも説明していくと理解してくれて。そうやって毎回、アルバムを作るんですよ。

──関わるみんながイメージやストーリーを共有するのは大事なことだから。

ASH:そうなんですよ。自分の頭の中にある青写真みたいなものを話しながら、インスピレーションをテレパスさせるというか。アレンジャーの頭の中で具体的に、「僕はそのときこういう服を着ていると思うんだよ」とか「このときはこんな音が流れていると思うんだよ」とか見えるものもあるんです。それをやり取りしながら、エンジニアさんが「ここはこうだと思うんだよね」と言えば、「それもいいじゃん」と。その“いいじゃん”を連鎖させつつ、みんなでワクワクしながら作るみたいな感じなんです。

──そのイメージがサウンドメイクに大きく影響するわけですよね。

ASH:例えば「Waiting For」は、「街の人達を救って、その夜にバーへ行く。そこでASH DA HEROが、ヒーローの悲哀を歌い始めるわけだよ。窓の外の星空を見上げてさ」とか、話が膨らむじゃないですか。だったらイントロはアコギ1本のほうがいいねっていうアイデアも出てくる。イメージやストーリーを共有しながらやっていくと、サウンドもどんどんできて、それぞれが頭の中に描く映像に近づく。そうすると、さらに“いいじゃん”となっていくんです。



──そのやりとりの結果、最初の青写真に具体的な色彩が乗って、最終的には歌で匂いまで付けるわけですか?

ASH:そうなんです。この曲ではこういう歌い方だろうなとか、ここはこういうASHクンだろうなとか、声色もどんどん変わっていく。たとえば、映画のオープニングって、主人公のカッコいいカットから始まることが多いじゃないですか。僕はそれを声とか音楽で表現している。そこからストーリー展開と共に声色も場面ごとに変わっていくし、音楽のジャンルも多岐に渡っていく。それに、映画作品にはSEも含めていろんな音楽が流れているでしょ。特にディズニー映画なんかはいろんなジャンルが詰め込まれていて、僕はそういうものが好きだから、細かいところへの音や声のこだわりも深いですよ。

──そうやって細かいところまで煮詰めるのはいわば知性的な作り方ですよね。でも、アルバムにあるのは野性味あるシンガー、ASH DA HEROですよ。そういう力強さはこれまでの音源以上だし、逆に引きの優しさや男の色気も歌からすごく感じました。音源を作るときにはシンガーとしての欲望もいろいろありました?

ASH:歌える声色の幅をさらに広げていこうという気持ちはけっこうありましたね。それをレコーディング当日、試行錯誤するというより、レコーディングまでに決めちゃうんですよ。この曲は、このマイクの距離かなとか、声を響かせる方法として鼻腔共鳴がいいのか、口腔内でしっかり共鳴させたほうがいいのか、チェスト(胸)なのかヘッド(頭)に共鳴させるのか、そこは分析しますね。

──知性と野性を共存させてますね。

ASH:野性的な自分の声をさらに活かすために、ものすごく科学的に捉えることをやってます。この声色のときはチェストに負荷が掛かっているんだな、じゃあ、そこを鍛えましょうって。だから実は、1年前と比べると体重が10kg近く増えているんです。体脂肪は変わってないので、胸筋がメッチャ大きくなっているんですね(笑)。それも自分の頭の中で鳴っている『A』を忠実に再現するため。歌い方を研究して、それを実現するために鍛えた結果だったりするんです。

──フィジカルも駆使しているという。

ASH:例えば12曲目の「Rain」は、正直一番得意な曲調なんですよ。得意だからこそ、より難しかった。自分の粗(あら)を見つけやすいから、こっちの歌い方のほうがいいのかなとか、けっこう探りましたね。あと、「Waiting For」はKeyの限界値を広げるチャレンジを試みました。この曲、女性ぐらいの高さがあるKeyなんですよ。作った後、「すっげー高いな、失敗したかな」と思ったほど(笑)。でも、この曲を歌えるようになったら、また歌がうまくなるだろうと、そのままのKeyでチャレンジしたんです。そうやって、歌うまでに科学的な検証をしつつも、実際のレコーディングやライブは、野生の勘のみでバーンと歌うんですよ。

──「JAPANESE ROCK STAR」なんて曲名もありますが、シンガーとしてジャパニーズの香りがあまりしないと思うんです。すごくソウルフルで、ただ勢いでやってるわけでもないという。

ASH:ソウル・ミュージックやソウル・シンガーが好きなんで、その影響は如実かもしれないですね。ダニー・ハサウェイとかオーティス・レディングが好きだし、フェイバリット・シンガーはリトル・リチャードやスティーヴン・タイラーだから。自分としては日本人らしいシンガーだと思ってるんですけど、嬉しいですね、日本人ぽくないと言われるのは。

──英詞の発音やそのリズム感もまた、日本人ぽくないところですよ。カッコいい歌が詰め込まれてますね。ストーリーに基づいた曲作りをしていく中で、シンガーとして新しい扉を開かれる感覚も常にあります?

ASH:自分の伸び代がひとつ埋まって、また新しく伸び代が増えるなって感覚は、曲を作るたびにあります。アウトプットしながらインプットしている感じだし、インプットしながらアウトプットしている感じが、曲を作っているときも歌っているときもありますよ。だから曲を作るたびに成長できますよね、シンガーとしても、ミュージシャンとしても。

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