【BARKS×Rakuten Music(楽天ミュージック)特集】MONDO GROSSO、“全部ある”は“何も無い”に等しい

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■CDが売れないのは、音楽との付き合い方が変わっただけ
■音楽を好きな人を減らさないためにするべきことはある

──大沢さんはMONDO GROSSOをはじめ、birdさんのプロデュースをされていた1990年代~2000年代の音楽業界はミリオン・ヒットが連発し、CDバブルとも言われる好景気でした。その後、CDの売り上げの衰退の一途を辿り、現在ではインターネットを介した音楽の聴き放題サービス、サブスクリプション・サービスなども台頭し、音楽の聴き方は大きく変化します。大沢さんはサブスクに対してどんな印象を持っていますか?

大沢伸一:サブスクリプション・サービスにはとてもニュートラルな意見を持っています。というのもCDが売れないのは、音楽との付き合い方が変わっただけで、僕は音楽を好きな人の数は減っていないと信じています。そして、音楽を好きな人を減らさないためにするべきことはあると思っています。僕は若い世代の人が音楽に対して、どうやってリスペクトを持って価値を払うかということが、ちゃんと提示できていない気がするですよね。だからといってパッケージをもっと買ってほしいとも言えないし、だからといって全部タダというわけにもいかない。サブスクリプション・サービスはそんな合間から生まれてきたサービスなのかなって思いますね。

──確かに、インターネットの普及でお金を払わずとも音楽が聴けるようになった現在、改めて音楽に対して価値を付けるというのは、大切なことだと思います。

大沢伸一:僕が若い世代の方々に思うのは、音楽はもちろんアートでもファッションでも、そこに価値を見いだして所有することに喜びを感じているのなら、そこにもっとお金を払おうよって言ってあげることも大切だと思いますね。


──日本では著作権問題の事情もあり、海外と比較すると遅れてサブスクリプション・サービスが導入されてきた経緯もあります。そういった意味でもまだそれほど身近ではないというか、このサービス自体がまだそこまで浸透して使いこなしていないという印象もあります。

大沢伸一:これはとても難しい問題ですよね。例えばYouTubeのようにジャンルや年代を問わず“全部ある”っていう状態は、“何も無い”のに等しいと思っていて。ある程度音楽の歴史やジャンルを理解している人にとっては、自分が知らない音源にアクセスできたり、新しい発見があっても、最近音楽を聴き始めた人や、どんな音楽が好きかまだ分からないようなリスナーが、自分で聴きたいものをそこから見つけ出すのはほとんど不可能で、そうやって音楽への興味が無くなってしまうことが問題だと思っています。その点でも、サブスクリプション・サービスのようにある程度ジャンルが限定されていたり、自分が興味がある情報にアクセスしやすいという意味で可能性はありますよね。しかし、いずれにせよ、もっと音楽から音楽へと旅ができる仕組みというのを、考える必要はあると思いますね。

──ありすぎる=探せないのはその通りですよね。今大沢さんの話を聞いていて、アナログ世代の自分が、どうやって好きな音楽を知っていったのかを考えてみたら、音楽に詳しい先輩だったり、ショップの店員から情報を得たり、好きなレコード・ショップで試聴したり、買ったレコードのクレジットを見たりして調べたり……。

大沢伸一:そう、要はそういう仕組みがデジタル・ネイティブ世代が音楽を知るうえで必要だと思うんです。そうはいってもサブスクを始めとした今のストリーミング・サービスってあまり音楽を知らない人にとってはすでに丁寧すぎて、情報が多すぎるから、もっと限定しないとダメですね。これは少ないほど需要が起こるのと一緒で、より音楽を聴きたいと思わせたり、音楽への渇望を湧き起こすための仕掛けが大事かなと。


──確かに聴きたいと思ってもらうのは大事ですね。音楽に限って言えば、すでにコンテンツがあり過ぎて、それが原因となって音楽自体を自分から探求する気持ちが起きにくいのかなとも思います。

大沢伸一:MONDO GROSSOの新譜にも参加してもらったAMPSのボーカルの二神アンヌちゃんを例に挙げると、22歳の彼女と話していて感じたのは、望んでいる音楽に出会えていなくて、どうやって探していいのか分からないってことだったんです。で、僕がアンヌちゃんと同い歳の頃はニューウェイブにハマっていて、とにかく“人と違うことがアイデンティティだった”ということを説明したら、“それスゴイです、もっとそういう音楽を知りたい”って言われて、僕が薦めるアルバムが彼女を変えていったりもして。そうやって“良い音楽をもっと知りたい”って思っている人は今でもたくさんいるから、常に投げかけるというのもが大事ですね。僕も彼女と知り合う前は、半ば諦めていたというか。情報が溢れかえっている世代だから、何を投げかけたって刺さらないだろうって(笑)。でも、時代は常に変わっているんです。

──興味深いですね。大沢さんと二神さんがパーソナルな関係を通して、好きな音楽を見つけ出したというのは、先ほど大沢さんが言っていた音楽の旅とも共通するエピソードだと思います。もし“人と違う”アイデンティティを持った音楽を、インターネットに散らばった音楽のなかから自主的に見つけるのは、至難の業ですよね。

大沢伸一:それに僕はアンチテーゼが好きな人間なんで、最終的にはどこでも見られない、聴けないっていうものに価値があるんだろうとは思いますね。自分が一番大事にしているものってそんなに共有したくないじゃないですか? でも、それくらいパーソナルな感覚を持った、大事なものを伝えていく感覚が重要だなと思っていて。今のSNSとかを見ていると、この音楽やファッションを好きっていうこと自体がカッコイイかどうかみたいな、人からの評価に対する意識が前提にある感じがして。それって本質的には無意味じゃないですか? もちろんアーティストや芸能人、ファッションの活動をしている人にとっては、そういう情報が拡散して、その結果として大きなプロジェクトに結びついたりもするし、特に経済面では必要なのかもしれない。でも、大事なのって、パーソナルな体験をSNSじゃなくて、直接人に伝えることだなと。


──それを音楽の話に当てはめると、レコードの復権とサブスクリプション・サービスというアナログとデジタルの二極化が進む現状にも当てはまる気がします。

大沢伸一:そうやって間が無くなっているのが今の現実なんですよね。サブクスを使いながらも、本当に手に入れたい、所有したいと思う作品はレコードを買うという。例えば、僕の場合だと、人に伝えたいという一貫としてやっているのがMUSIC BARで、店にストックしているレコードはその場に来ないと聴けないし、その情報もその場所でしか得られないという体験を提供していたりもしています。

◆インタビュー(3)へ
提供: Rakuten Music
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