祝<サマソニ>ヘッドライナー、カルヴィン・ハリスとは何者なのか?

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■EDMと別れ、
■テイラー・スウィフトとも別れた2016年



そんなEDM絶頂期をパッケージした『モーション』後、昨年2016年にリリースされた2曲のシングルがこちら。再びリアーナとタッグを汲んだ「ディス・イズ・ホワット・ユー・ケイム・フォー」、カルヴィン・ハリス本人が歌い、恋人テイラー・スウィフトとの別れについて書かれたという見方もある「マイ・ウェイ」。どちらも一聴して分かるように、ダンストラックでありながら「EDM的」なド派手なシンセは鳴りを潜め、全体的にバレアリックでしなやかな印象になっている。これは明らかにポストEDMと呼ばれ台頭し始めていた、カイゴらを筆頭とする「トロピカルハウス」への目配せだろう。

それはまるでEDMの季節の終わり、そしてテイラー・スウィフトとの恋の終わりが重なったかのようだった。

■ポストEDMどころか脱EDM。
■音楽シーンを占う新作は、ある意味「原点回帰」か?

こうしたトロピカルハウス的なポストEDMへシフトすると思われたカルヴィン・ハリスだが、2017年そこにドロップした新曲は、先述したフランク・オーシャンを起用した「ぜんぜんEDMじゃないじゃん!」な「スライド」である。

来る6月30日にリリースされる5thアルバム『ファンク・ウェーヴ・バウンシズ Vol. 1』への参加がアナウンスされているアーティストは次の通り。

フランク・オーシャン/トラヴィス・スコット/ケラーニ/フューチャー/ファレル・ウィリアムス/ケイティ・ペリー/ビッグ・ショーン/ジョン・レジェンド/カリード/ミーゴス/スクールボーイ・Q/アリアナ・グランデ/ヤング・サグ/D.R.A.M./ニッキー・ミナージュ/リル・ヤッティ/ジェシー・レイエズ/パーティネクストドア/スヌープ・ドッグ

比較的イギリス系のアーティストを重用してきたこれまでの流れとは一転。現在のアメリカ、そして世界のポップミュージックの中心的アーティストを集めてきたことに気付くだろう。これは間違いなく、ラップ、R&B、新世代ジャズが隆盛を誇る近年の音楽シーンのモードの反映だ。


「ヒートストローク」
「スライド」に続いてリリースされたシングルが、ヤング・サグ、ファレル、アリアナ・グランデを迎えたこの「ヒートストローク」だ。クール・アンド・ザ・ギャングからモータウンまでを連想させられる、アーバンな雰囲気とポップなメロディー。豪華ゲストが流麗に歌い継ぐ楽曲構成もお見事だ。


「ローリン」
そして続く3枚目シングルでは、今年サプライズリリースされた2枚のアルバムと「マスク・オフ」が大ヒットしているフューチャー、そして19歳のR&Bシンガーであるカリードを起用。

これら3曲の先行シングルに通じるAOR感は、ダフト・パンク最新作『ランダム・アクセス・メモリーズ』を連想させる部分も。ザ・チェインスモーカーズやカシミア・キャットがEDMの手法を活かした歌モノのポップミュージックで新たな「ポストEDM」を示したのに対し、カルヴィン・ハリスはEDM感をほぼ感じさせない新曲群を発表。ともすればEDMブームの衰退とともに一気に過去の人となりかねないところを、カルヴィン・ハリスは「ポストEDM化」するどころか(2016年のシングル2曲はそうだったが)、一気に「脱EDM」に舵を取ってきたという印象だ。

しかし、この原稿で振り返ったように、そもそもカルヴィン・ハリス本人はディスコ、ファンク、ソウルの人。きっと昨今のポップミュージックを取り巻く、ブラックミュージック全般の盛り上がりに彼本来の趣味が目覚めた部分もあるのだろう。「黒さ」が足りないという声もあるが、カルヴィン・ハリスはこれまでもそうした音楽における「クセ」をちょうどよく薄め、それによって大衆からの支持を得てきたアーティストだった。インディーダンス出身でリアーナとともにダンスとR&Bのクロスオーバーを行い、その後EDMの象徴となったカルヴィン・ハリス。現在のブラックミュージックの潮流を彼のフィルターを通すことで、さらなるポップミュージックのジャンル横断が進むことが期待される。

そこで気になるのが、来る新作にはEDMトラックは収録されるのかということ。カルヴィン・ハリス本人もラスベガスでのレジデントDJを務めており、今年も数々のEDMフェスの開催が予定されているため、即EDMブームが終了するというとはないだろう。しかし、王者の動向は確実にシーンに影響を与えるはずだ。このアルバムにどんな曲が収録されているかによって、シーンの未来を揺るがすことは間違いない。

ポップミュージックの未来、そしてEDMブームの今後。『ファンク・ウェーヴ・バウンシズ Vol. 1』はその両方を占う重要作であり、さらなる収録曲の発表に世界中が固唾を呑んでいる現状だ。

◆テキスト(3)
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