レトロ感覚と“尖り”、艶っぽさなどがない交ぜになった独自の世界観と音楽性を備えたバンドとして、シーンの中で独自の地位を築いているキノコホテル。今年結成10周年を迎えることを記念して、彼女達の選りすぐりのナンバーを集めたアルバム『プレイガール大魔境』が6月7日にリリースされる。同作は単なるベストアルバムではなく、大胆にリ・アレンジされた新録トラックと、未発表曲という内容になっていることがポイント。キノコホテルが内包している音楽性やアイディアの豊かさに触れて、新鮮な驚きを感じるリスナーは大いに違いない。キノコホテル支配人のマリアンヌ東雲をキャッチして、意欲作についてじっくりと話を聞いた。

◆キノコホテル~画像&映像~

■1stアルバムとかは非常に稚拙で聴いていられないような作品なんです
■あのアルバムが一番好きとか言っているファンを見ると本当に絞殺したくなる(笑)


――6月7日にキノコホテルの10周年を記念したアルバム『プレイガール大魔境』がリリースされます。

マリアンヌ東雲:『プレイガール大魔境』はベストアルバムだと思っている人が多いみたいですけど、ベストアルバムではありません。私は、ベスト盤は嫌いなんです。過去にベスト盤を作りませんかというお話をいただいたことがあるんですけど、それは単純に今まで作ってきたアルバムの中から抽出したトラックを並べたもの……いわゆる皆さんがイメージするベスト盤のプランだったので、お断りしたんです。キノコホテルは時期によって従業員(メンバー)が違うし、アルバムごとにエンジニアも音作りも違っているから、それを並べただけの作品には全く価値を感じなかったのです。ただ、今年は10周年ということですし、キノコホテルはいわゆるメンバーチェンジ……私達は“人事異動”とか“退社”と言っているんですけど(笑)、それが結構あって、今の4人になってからちょうど5年になります。それに10年も続けてアルバムも5枚、6枚と枚数を重ねて行くと、完全に忘れてステージでもやらなくなった曲とか、今の自分のセンスにはハマらないから、この曲は捨てたわ…みたいな曲も結構あるんですね。そういう中で、10周年を記念して何かしようとなった時に、過去いろんなレーベルにまたがって、人員も違う中で録ったものを、うまいこと纏めたいなと思ったんです。総括したいというか。それで、すっかりお蔵にして忘れかけていたような楽曲を聴いてみたんですけど、そうするとやはり1stアルバムとかは非常に稚拙で、作った本人からすると聴いていられないような作品なんです(笑)。あのアルバムこそがキノコホテルだ!とか豪語しているファンを見るとね、本当に絞殺したくなる(笑)。1stに限らず昔の曲を聴くと、“今なら、こうできたのに”とか“なんて酷い演奏なの!”とか、いろいろ思うわけですよ。それで、過去の曲を今のセンスでリ・アレンジして、今の4人で新たに録るという形を採らせてもらったのが今回の『プレイガール大魔境』です。

――全曲新録というのは、大きなプレゼントといえますね。収録曲は、どんな風に決めたのでしょう?

マリアンヌ東雲:聴き返した時に、自分の中で全く新しいアプローチがパッと閃いたものを優先的にピックアップしました。わりと私の一方的な選曲ですけど、ファンに人気がある曲もそれなりに押さえたつもりで、程良きバランスで作れたなと思っています。


▲『プレイガール大魔境』初回限定盤


▲『プレイガール大魔境』通常盤

――キノコホテルがどういうバンドかが分かると同時に、最新のキノコホテルも味わえるという贅沢な一作になっています。『プレイガール大魔境』の話をする前に、10周年ということで、キノコホテルを結成した経緯などを、改めて話していただけますか。

マリアンヌ東雲:当時の私は適当に仲間を集めて、本当に趣味でスタジオに入って遊んだりしていたんです。そんなことをしていたら曲が出来たので、じゃあ皆に観てもらいましょう…くらいの軽い感覚で始まりました。当時の私はグループを作って何かを作る事に興味があって、それはバンドじゃなくても良かったんですよね。私は学生時代から軽音部に入っていたとか、バンドを組んでいたという経験もなかったので、当時の私がダンスに興味があればダンスのグループを組んだかもしれないし、演劇に興味があったら劇団を立ち上げていたかもしれない。そういう中で、趣味的にバンドをやろうということになった時に、周りにあまりいなさそうなバンドをやりたいと思って。楽曲もバンドを始動していく中でなんとなく書いていったんですけど、それまで作曲も作詞もしたことがなかったので、自分の音楽的な方向性について明確なイメージがあるわけではなかった。当時の自分がグループサウンズなどを好んで聴いている時期だったので、たまたまタイミング的に影響を受けたんですよね。今も変わらないのかもしれませんが、当時は特に衣装を着る訳でもなく普段着っぽいラフな感じでやっているバンドが多かったので、それとは真逆でキメキメで行きましょう、と。キノコホテルは、そういうところから始まったんです。

――始まりは“なんとなく”という雰囲気だったようですが、キノコホテルの楽曲を聴いたり、MVを見たりすると、マリアンヌさんは’60年代から'70年代初期の音楽に止まらず、当時の時代性に強く惹かれていることを感じます。

マリアンヌ東雲:それは、ありますね。“あの時代の音楽が”というよりは、映画だったりとか、ファッションだったりとか、当時の日本の国民のムードだったりといった、すべてのものが好きなんです。後追いの人間としては、'60年代末から'70年代初頭は、日本列島がまるごとテーマパークみたいに思えるんですよね。それを自分の親に話すと、“そんな良いものでもなかったわよ”と言われて終わってしまうんですけど(笑)。でも、非常に憧れを持っていたというのはありますね。

――あの頃の日本は、すごく熱かった気がするんですよ。なおかつプリミティブな熱さに洗練感が加わってきた頃で、独自の魅力を放っています。

マリアンヌ東雲:そう。敗戦後ガムシャラに国を再建していって、がんばってきて、それでちょっと余裕が出てきて、今度は国民が余暇とかレジャーをガムシャラに楽しみ始めた時代ですよね。今はみんな二言目には死にたいだのなんだの言うけど、当時はみんな生きたいという想いが強くて、人生を楽しみたいというムードが溢れ返っていたように思うんです。エネルギーが、迸っているというか。ああいう熱さは今は完全に失われてしまいましたし、この先ああいう日本に戻ることは二度とないと思う。失われたものへのロマンみたいなところから私は若い頃に昭和の文化に触れて、一番魅力的だなと思ったのは当時の熱さでしたね。

――音楽だけでなく、時代そのものに対する憧憬がキノコホテルの説得力や深さに繋がっています。とはいえ、『プレイガール大魔境』を聴くと、レトロ・テイストを軸としつつ、驚くほど幅広い音楽性を持ったバンドだということが分かります。

マリアンヌ東雲:これは早い時期から自覚していたことですけど、私は決して昭和とかレトロとかに固執していたわけではなくて。そもそも私は親の命令でバイオリンを習わされたことで音楽と出会って、子供の頃はクラシック一筋だったし、その後いろんな音楽を聴くようになったから、レトロ・ミュージックだけに入れ込んでいたわけではないんです。だから、キノコホテルが成長・進化するに従って欲深くなって、一つのジャンルや年代感に縛られずあれもこれもやってみたいと思うようになって。今回の『プレイガール大魔境』は、そういう今の心境で昔の曲をやってみるとどうなるのかということに挑戦しました。

――いろんな曲があって、すごく楽しめます。たとえば、「球体関節」はテクノのテイストが活かされていますね。

マリアンヌ東雲:そうですね、実は嫌いじゃないんです、テクノ(笑)「球体関節」のオリジナル・トラックを聴いた時に、これをリ・アレンジするならテクノしかないなと思ったんです。しかも結構古ぼけたテクノね。オリジナルは3枚目に入っていて悪くはないけど、今の自分の観点すると、ちょっと中途半端なんですよね。打ち込みのフレーズが入っていて、ちょっとキラキラしていたりはするけど、煮え切らないというか。中途半端なんです。それを、もっと誇張したのが今回のバージョンです。なぜオリジナルが中途半端だったかというと、新たな路線の導入でキノコホテルらしさが損なわれてしまうのでは?という危惧があって。私達はアルバムをリリースしながら、普段は“実演会”と銘打っていろいろなところでライブ活動をするわけですけど、そこでストレスなく楽曲を再現するための音作りを重視していた部分もありまして、そこがブレてしまっているように見られるのが当時は嫌だったんです。特に3枚目の頃はまだ、キノコホテルといえばGS・ガレージと周りから決めつけられていましたから。それに反発したい自分がいつつ、でもいきなりテクノにぶっ飛ぶ潔さを持てなかったのかも。“マリアンヌご乱心”みたいなね(笑)。どう思われても構わないけど、本当に成熟しているリスナーの方じゃないと分かってもらえないだろうという気持ちがあったんです。

――その感覚は、よく分かります。

マリアンヌ東雲:嫌だったんですよね。今でこそ人から何を言われても気にしないけど、当時は葛藤もありました。今はみんながSNSに無責任なことをどんどん書ける時代で、私はそんなことは言っていないのに、マリアンヌさんはこう思っているはずだとか妄想で誤った情報を書かれたりするのが嫌でしょうがない時期だったんです。そういうのを私が無視していても、「こんなこと言ってるヤツがいるよ」と周りが見せて来るし、このイライラから逃れられない事にイライラしていたの。だから、ストレスフルな状態でそれをスコーン!と突き破りたい自分と“でも、テクノはねぇ…(苦笑)”と逡巡してしまう自分がいて、結果的に間を取ったんでしょうね、当時は。今回はそういう寒い妥協や譲歩みたいなことは一切しない、と自分の中で決めて臨みましたので、イメージした通りのところまで持っていけたと思っています。

◆インタビュー(2)へ