【インタビュー】キノコホテル「曝け出したり隠したり嘘をついたり、とらえ所のない女性像を表現したいと思っていることに気がついた」

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■キノコホテルは普通のバンドと逆なんですよね
■風変りなものがスタンダードで正統的なものが異端という(笑)


――そういうアプローチを採ることで、プロフェッショナルな人を交えたものとは異なる魅力が生まれると思います。14分弱に亘って、ゆったりとした南国の空気感を表現している「風景」も注目です。

マリアンヌ東雲:この曲のオリジナル・バージョンは、琉球っぽさがほんの少し漂っている程度だったんです。それに、途中からの展開はただ単にテンポが速くなるだけだったし。当時は新境地のつもりでそれなりに考えて録った記憶がありますが、やっぱり今聴くと一本調子で面白くないんですね。今回リ・アレンジするにあたって、琉球だけじゃなくて、もうちょっといろんな国にいけないかなと思って。そういう話をしている中で、ケメさんの知人の方がスティールギターを持っているという話を聞いたので、だったらそれを借りてスタジオに持ってきてくれないかと言って。それで、借りてきたのを彼女が弾いてみたら、上手かったんです。これは良いセンスを持っているなと思って、「これ録音で使いましょうよ」、と。結果、琉球ハワイアンになった訳ですが、どちらも南国だし、まあ良いわよね、ということで(笑)。そこから始まって前半部分を作って、後半はサイケデリック・ジャムっぽい感じでいくことにして。後半にいくまでの間はどうしようかとわりと考えたし、4人でいろいろ試したんですけど、結局なにもしないほうが良いんじゃないかということになって。それで、2分くらい、ひたすら海の音を入れるというところに落ち着きました。(レーベル担当者のほうを見ながら)私、この曲でMVを撮りたいんですよねぇ(笑)。


▲『プレイガール大魔境』初回限定盤


▲『プレイガール大魔境』通常盤

――えっ? この長尺ですと、それはちょっと難しいのでは……。

マリアンヌ東雲:えー、そうかしら? あと、ラジオとかでも毎回この曲をかけてもらいたい(笑)。途中で、交通情報なんかに切り替えられるのが目に見えてるけど(笑)。波の音の辺りで切られて、リスナーにしてみたらチンプンカンプンでしょうね。“今の曲はなんだったんだろう?”・・・と(笑)。

――そうなっちゃいますね(笑)。「風景」は癒されますし、アレンジの妙も味わえるので、ぜひじっくり聴いて欲しいです。未発表曲の「惑星マンドラゴラ」は華やかなサビ・パートを配した曲で、完全な新境地といえますね。

マリアンヌ東雲:「惑星マンドラゴラ」は、おふざけで作った曲というか。もしもアイドルに楽曲提供したらという、“もしもシリーズ”みたいな感じで作ったんです(笑)。

――えっ、そうなんですか?

マリアンヌ東雲:はい。自分で歌うつもりであれは書きませんよ(笑)。アイドルに曲を書きたい書きたいと、ここ1年~2年くらいよく言っているんですけど、なかなか実現しなくて。なので、“もしもマリアンヌ東雲がアイドルに楽曲提供したら?”ということを勝手に想定して作ったのが、「惑星マンドラゴラ」です。アイドルといっても今のアイドルというよりは、自分の中では“'82年組”くらいをイメージしましたね。

――遊び感覚だったようですが、この曲はキノコホテルだったり、レトロポップだったりといったことを超えて、純粋に良い曲です。

マリアンヌ東雲:ありがとうございます。私はこういう曲も作れる……というか、もしかしたら、むしろこれが私だったりして?エンジニアさんも一通り録り終わってから、「っていうか、これ普通に良い曲だよ」と感心して下さって。キングレコードの担当の方も、これでMVを作りたがっていたし。「誰が出るんじゃい?」って突っ込みましたけど(笑)。

――周りの皆さんが、そういう反応を見せたのはよく分かります。周りの高評価を受けて、今後はこういうテイストも入れてみようかなと思ったりしませんか?

マリアンヌ東雲:基本的には、ないですね。たまに不意打ちで、こういうものも出すくらいで良いんじゃないかなと思います。

――飛び道具的に使うのは、すごく良いと思います。普通のバンドと逆ですけど(笑)。

マリアンヌ東雲:そう、キノコホテルは普通のバンドと逆なんですよね。風変りなものがスタンダードで、正統的なものが異端という(笑)。たしかに、上手く使うといいスパイスになるかも知れませんし、今後味をしめる可能性はなきにしもあらず・・・。

――期待させていただきます。歌唱面についてもお聞きしたいのですが、今回幅広い曲調に合わせて、ボーカルもより表情豊かになっていますね。

マリアンヌ:歌に関しては、1stとか2nd辺りまでは自分で「マリアンヌ東雲の歌い方」を意識して、あまり逸脱しないようにしていたんです。でも、やはりバンドが成長して、音楽性の幅が広がっていくに連れて、それは非常に窮屈でナンセンスなことだなと思うようになって。そう思うようになるのと並行して、キノコホテルの実演会のステージが、どんどん激しくなっていった時期があったんです。それこそ、“キノコはいつからパンクバンドになったんだ”と言われるくらい攻撃的で、ガスを撒いたり、パイプにぶら下がったり、客を蹴ったりとかするようになって。

――あ、あのぉ、お客さんを蹴るのは、マズいのでは……。

マリアンヌ東雲:いいのいいの、サービスなんです。皆喜ぶんだから(笑)。そういう風に、良い意味でどんどん壊れていったわけなんですけど、そういう過程で曲中で絶叫したり、逆にすごくカマトトぶってかわいく歌ってみたり、その場の気分で変幻したい欲求が高まったわけなんです。決まり事を徹底して“これが、マリアンヌ東雲なの!”と提示するのも素晴らしいことだと思うけど、自分は何がしたいのか、人間として、キノコホテルのリーダーとして、どういう存在でありたいのかと自問自答した時に、やはり理性より本能だと。自身を露骨に曝け出す事もあれば、時にはわざとらしく隠したり、嘘をついたりして、とらえ所のない女性像を表現したいと思っていることに気がついた。ちょうどその頃は楽曲のレンジも広がっていたので、もう曲に合わせた歌い方で良いんだ、と自らに言い聞かせるようになりました。自作の曲ですから、それぞれの曲で表現したいことは明確に分かっている。それに合わせて、時には化けてみたり、歌詞で描いた人物像になり切ってみたりするようになったんです。なので、今となっては“これが私の歌唱スタイル”みたいなこだわりは、全くないです。

――ただ、この曲はこういう風に歌おうと思ったからといって、すぐに歌えるものではないですよね。シンガーとしてのスキルの高さを感じます。

マリアンヌ東雲:いやいやいや(笑)。自分的には、いろんな人になることを楽しんでいるだけです。女性というのは、そういう生き物だと思うんですよね。私はあまり相手によって自分を変えるタイプではないですけど、意識的にせよ、無意識にせよ、相手によっていくつかの顔を使い分ける女性は多いですよね。同じ女としてイラっとくるようなのもいるし(笑)、自分がそういう人物像を演じることで、女性としての部分を楽しんでいるというか。それに、歌の力を借りて、ちょっと媚びを売っている風だったりとか、ことさら凶暴だったりという風に、いろんな顔を見せているけど、それは全部自分だといえばそうなのかもしれないし。だから、それぞれの楽曲に合わせて歌い方を変えるのは、私の中では自然なことです。

――音楽や歌が好きなことに加えて、表現者でありたいという想いが強いことを感じます。さて、意欲的な姿勢が奏功して『プレイガール大魔境』はキノコホテルの懐の深さや新たな魅力が詰まった一作になりました。このアルバムをフォローする6月のツアーも楽しみです。

マリアンヌ東雲:今度のツアーは“10周年記念大実演会”と銘打った特別な公演です。キノコホテルを10年間追いかけてくれている方や、数年前から来てくれている方、今回の『プレイガール大魔境』で初めて知って下さった方という風に、いろんな方が来てくれると思いますけど、集まってくれた皆さん全員に楽しんでもらえる実演にしたいと思っています。あとは、音源の素晴らしさに加えて、やはり生のステージを観て、さらなる衝撃を受けて頂きたいという思いがあるので。キノコホテルを知っているけど、まだ生で観たことがないという方は、ぜひ今度のツアーで体感して欲しいですね。必ずや、忘れられないひとときをお過ごし頂けることを、お約束いたします。

取材・文●村上孝之


リリース情報

創業10周年記念作品『プレイガール大魔境』
2017年6月7日発売
初回限定盤(CD+DVD)
KICS-93494 \3,241+ 税
通常盤(CD Only)
KICS-3494 \2,685+ 税
1.ゴーゴー・キノコホテル
2.愛人共犯世界
3.球体関節
4.あたしのスナイパー
5.悪魔なファズ
6.荒野へ
7.還らざる海
8.愛と教育
9.おねだりストレンジ・ラヴ
10.風景
11.惑星マンドラゴラ
<CD>(初回限定盤・通常盤共通)
<DVD>(初回限定盤のみ同梱)
・「あたしのスナイパー」Music Video
・激写!キノコノウラスジ
・魔葫大酒店 in 台湾

ライブ・イベント情報

キノコホテル創業10周年記念大実演会
<サロン・ド・キノコ~飼い慣らされない女たち>
2017/6/10(土)愛知・名古屋CLUB QUATTRO
2017/6/17(土)大阪・梅田CLUB QUATTRO
2017/6/24(土)東京・赤坂BLITZ
2017/9/3(日)福岡・博多 the Voodoo Lounge
2017/9/9(土)宮城・仙台 enn 2nd
共演:The MANJI( ROLLY×佐藤研二×高橋ロジャー和久
2017/9/30(土)北海道・札幌 sound lab mole

<スナック東雲>(トークイベント)
2017/6/18(日)大阪・ロフトプラスワン・ウエスト
2017/7/7(金)新宿ネイキッドロフト

イベント<アーバンギャルド Presents 鬱フェス 2017>
2017/9/10(日) 東京・渋谷 TSUTAYA O-EAST
共演:アーバンギャルド、大槻ケンヂ(筋肉少女帯/特撮)、オーケンギャルド(大槻ケンヂ+アーバンギャルド)、ミオヤマザキ、BRATS 他


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