【インタビュー】TETSUYA (L'Arc-en-Ciel)、「こんな自分を好きになってくれる人が愛おしくて仕方ない」

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■トム コインと一緒につくった最後の作品
■そういう意味で大切な1曲でもある

──「愛されんだぁ I Surrender」のミュージック クリップについても話していただけますか。

TETSUYA:僕はもともと映像が好きで、映画とかをよく観るんです。昔はいつか自分で映画を撮りたいなと思っていたんですよ。それくらい映像が好きで、今でも映画とかCMとかを映像プランナー的な脳で観たりして、“このCMのアイディアは面白いな”と思ったり。ミュージック クリップを撮る時も、僕はまず、監督を誰にお願いするかというところから始めます。いろんな監督さんの作品集観て、“この人、センスいいな”と思う監督を探しているんですよ。今回は前作「Make a Wish」のミュージッククリップをお願いした大喜多正毅監督に撮ってもらうことにしました。「Make a Wish」のミュージック クリップはすごく良かったし、監督はとにかくフットワークが軽いんですよね、僕がアイディアを出したら、すぐにロケハンに行ってくれるような。今回も監督に僕のイメージを伝えて、「それを実現させるにはお台場のヴィーナスフォートがいいと思う」という話をしたら、すぐにロケハンに行ってくださって。

──ヴィーナスフォートという撮影場所もTETSUYAさん自身のアイディアだったんですね。

TETSUYA:誰もいない空間に、僕と猫だけがいる映像を撮りたいなというのがあって。街中だとどうしても人がいるから、閉店後のショッピングモールがいいんじゃないかな。だとすると、絵的にヴィーナスフォートが合うと思ったんです。借りれる、借りれないといったことは分からずに、アイディアとして投げたら、すぐにロケハンに行ってくださって、ヴィーナスフォートで撮ろうということになりました。ミュージック クリップを観た人がヴィーナスフォートだと分かっても構わないし、それを無理して、海外っぽく見せるのはダサいなと思っていたんですよ。だからヴィーナスフォートの雰囲気をそのまま活かした絵にしてもらいました。

──実際に撮影場所に行くことができるというのは、ファンの人にとって嬉しいことですよね。撮影はヴィーナスフォートが閉店した後の夜間に行なったのでしょうか?

TETSUYA:そうです。閉店後に撮影を始めて開店前まで。だから眠かったです(笑)。終わったのは昼頃でしたし。ミュージック クリップ撮影というのは、なかなかスケジュール通りに進まないもので、少しずつ時間が押していくんですよ、今回は“猫待ち”とかもあったから(笑)。

──撮影でも集中力を発揮されたんですね。ミュージック クリップでこういう動きをしようといったことは、あらかじめ考えていましたか?

TETSUYA:何も考えていなかったです。まだ歌詞も頭に入っていない状態だったので、待ち時間とか空き時間は歌詞を覚えることに集中して。自然体で歌ったり、動いたりするのを撮って絵的にOKかNGかの判断は監督に任せました。一晩で撮り切らないといけないから、毎回毎回、撮った絵をプレビューしている時間もなかったんですよ。だから「はい、次」「はい、次」という感じで撮影を進めましたね。

──淡い色調も特徴になっていますね。

TETSUYA:監督といろいろ話をする中で、モノトーンな感じにするのもいいんじゃないかという話が出たんですけど、それはちょっともったいないなと思って、色彩がある中で淡く。撮った映像を見ながら、“これくらいのほうがいいんじゃないか”というやり取りを何度か繰り返して、完成形に落とし込んでいきました。

──制作のすべての工程に関わるのはTETSUYAさんらしいです。

TETSUYA:あんなに短期間の中で、よく全部を形にできたなと思う。でも、これをまたやれと言われたらイヤですね(笑)。イヤだけどできちゃうんです、僕は。“前にできたんだから、またやれ”と言われるんじゃないかなと思って(笑)。

──ホントに(笑)。

TETSUYA:時間があれば良いものができるわけではないということは、分かっていますよ。時間がなかったり制約があったりすることで、思いもしないアイディアが生まれることもあるし。そういう状況に置かれたほうが、火事場の馬鹿力的なものが働いて、普段よりもすごいものができたりするから。そういう意味では面白いなと思うけど、もう一度やれと言われたらイヤです(笑)。僕、昔はワーカホリックで、仕事がたくさんあるほうが嬉しかったから、スケジュールが空いていると、その隙間にどんどん仕事を入れてもらっていたんです。過去にめちゃくちゃな忙しさを経験しているから、どんなことでも対応できる自信はあるけど、今はやりたくはない(笑)。

──とはいえ、今回できてしまったので、またお願いされる可能性はありますね(笑)。続いて、カップリングはTeddyLoidが手掛けた「Make a Wish」のリミックスです。

TETSUYA:リミックスに関してはいつも完全にお任せです。完成したトラックを聴いて、すごくカッコいいと思いました。僕のベースも使っているんですけど、リミックスで生のベースを使う人はあまりいないから、珍しいですよね。それに、オリジナルトラックをぶった切って違う構成に仕上がっていて、僕自身はそういうリミックスのほうが好きなんです。だから、すごくセンスがよくて、さすがにスタッフが薦めてくれた方だけのことはあるなと思いました。

──すごく楽しめます。「愛されんだぁ I Surrender」も表題曲に限らず、ミュージック クリップやカップリングも楽しめるという密度の濃いシングルになりましたね。

TETSUYA:ただ、悲しい出来事もあって。L'Arc-en-Cielから始まって、ソロは全作のマスタリングをお願いしていたトム コインが、今年4月に亡くなったんです。彼が関わった作品は6回もグラミーを受賞している伝説的なエンジニアなんですよ。もう20年近くマスタリングをしてくれていたので、話を聞いた時は本当にショックで。トムは僕の曲をすごく褒めてくれていたんですよ。「お前は日本のボン ジョヴィだろう?」って。僕とボン ジョヴィは音楽性が違うけど、そんな風に言ってくれたことがすごく嬉しかった。

──どんな方だっんたんですか?

TETSUYA:マスタリングエンジニアだから当然音楽好きなんですけど、パッと見はそう見えないんですよ。優しいオジサンという感じで。トム専用のマスタリングルームがあってね、その壁には子供たちの写真とかが貼ってあったり。マスタリングの技術はもちろん、人柄も最高だったんですよ。残念ながら、「愛されんだぁ I Surrender」が彼と一緒につくった最後の作品になってしまった。そういう意味でも、この曲は自分の中ですごく大切な1曲でもあるんです。

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