【チーム・フジロック座談会】世界に誇るフェスを支える鉄壁の仲間達

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今でこそフジロックの参加者は整った環境に迎え入れられるが、何もない自然の中に10以上ものステージを建てアーティストとオーディエンスを招き入れるためには、さまざまな関門が待ち受け、“他の現場ではしなくてもいいこと”をする必要があったという。例えば、場内を流れる川に架かる橋が、自然に配慮しながらフジロックのオーディエンス用に取り付けられていることを知る人は少ないだろう。そういった創意工夫をするための情熱、とにかく来場者に楽しんで欲しいと願う心持ち、並々ならぬ信頼関係が築くチームワーク……フジロックは、制作スタッフ陣が抱くエネルギーも、これまた実に巨大なようだ。

今回取材に協力してくださったのは、参加最少年数の方で14年、殆どが20年選手でフジロックを創ってきた“核の中の核の人”たちである。苦労話を尋ねても、「そー言えば、あんなことあったよな?笑」と珍事件について語ってくるようなユーモアに溢れた、そしてもちろん、プロフェッショナルな集団だった。伝説のステージや、今ある快適な苗場の環境を創ってきたフジロックのチームは、いまや日本音楽界の宝だと胸を張って言える。そして、そんな彼らがチームとして取材を受けるのは今回が初。貴重なインタビューをどうぞお楽しみいただきたい。

【座談会参加者】
総合舞台監督 「有限会社アストロノミカル・ユニット」岡田美和氏
グリーンステージ舞台監督 「株式会社シアターカンパニー」代表 菅隆司氏
ホワイトステージ他多数音響 「株式会社トライオーディオ」代表取締役 東雅明氏
グリーンステージ、ホワイトステージ照明 「LAMPY-J 株式会社」代表取締役 川名宏明氏
演出用電源 「三穂電機株式会社」代表取締役 吉川真二氏
施設設備 「オムニインターナショナル株式会社」取締役 宇野雅己氏
運営補助・ケータリング 「アポロ」岩月浩氏
株式会社ホットスタッフプロモーション 鯉沼源多郎氏
株式会社SMASH 小川大八氏
株式会社SMASH 石飛智紹氏

  ◆  ◆  ◆



■ 全体会議は1度きり

音響・東氏:今日は全体ミーティングだったんですけど、10万人以上が来場するあのステージ数の現場なのに、フジロックは全体会議がたったの1回きりなんですよ。

──1回ですか?

SMASH・小川氏:まあ、顔合わせをする場ですから。年に1回、みんなが集まるってマスターズみたいでいいじゃないですか(笑)。

音響・東氏:いや、これを何度もやる所もあるんですよ。音響の話が出ないのに呼ばれたり、定例ミーティングをやらないとできないとかね。

──現在のスタッフ総数は?

SMASH・小川氏:ワーキング・パスの数が3300くらい。

音響・東氏:渋公埋まるね。

一同:(笑)

総合舞台監督・岡田氏:パスをしているからお客さんから話しかけられることもあるけど、みんな自分の仕事以外もできる限り対応してるよね。

▲総合舞台監督/岡田美和氏

──スタッフTシャツを着ている人は何でも答えてくれると思いますし、どのセクションの人か分かりませんからね。

照明・川名氏:コントロールブースにいると「落とし物です」と届けてくれたり「怪我しちゃって」というのが多いですね。こちら側の担当セクション的には関係ないことですが、“フジロック”という枠の中ではお客さんと僕らが関係ないなんてことは絶対にないので。

舞台監督・菅氏:だって、「わかんない」は言えませんもん。

照明・川名氏:「わかんない」「聞いてない」はナシだよって、岡田さんが昔から厳しくしてくれたから。岡田イズムがちゃんとあるんです。各セクションのトップが皆同じ認識を持っているから、後から入ったスタッフも真似てくれています。

総合舞台監督・岡田氏:できることをやろうよって、ただそれだけだよ。

■ 日本一プロフェッショナルな現場で働く魅力

──ずばり、フジロックで働くモチベーションは何ですか?

舞台監督・菅氏:特にグリーンステージ中心に、世界のフェスでヘッドライナーを担うアーティストやそのクルーと仕事ができるのは嬉しいですね。年に1回、ガチンコで仕事ができる貴重な現場ですから。

▲グリーンステージ舞台監督/菅隆司氏

──グリーンステージはアジア最高峰のステージですし。

総合舞台監督・岡田氏:昔は、「そんな山奥で、日本人が何をどこまでできるの? 」と思われていたけど20年やってきた今は、フジロックがどういうスタンスで、そこのクルーはどのレベルで対応できるかがアーティスト側にも伝わっているようです。

──アーティスト側の認知と日本側の対応能力が上がったわけですね。

舞台監督・菅氏:3年連続で来たクルーもいたりして、彼らが自分のチームに「フジならこれくらいのことはやってくれるぜ」と話してくれてるみたい。

照明・川名氏:最初の頃は、外人から怒られてるんだか褒められてるんだかも分からず無我夢中でしたがね。

施設設備・宇野氏:一からずっと一緒にやってきたので、すごく愛情があります。フェスティバルブームもフジロックから始まりましたしね。

電源・吉川氏:私は組織の一部としてたまたま若い時から担当になって初年度から携わっていますが、信頼をけして裏切ってはいけない、信頼に応えるようにと21年やってきました(編集部注:そんな吉川氏も今や演出用電源会社の代表取締役)。

▲演出用電源担当/吉川真二氏

音響・東氏:物事ってバランスやと思うんですよ。誰かの主張が出過ぎてアンバランスな現場もあるけど、フジは自分たちで創っているというプライドを持つ人が集結してる。だから高いレベルでバランスがとれていて、そこにプロフェッショナルを感じるね。

照明・川名氏:僕の場合、苗場の端から端まで会場全体を観る機会に恵まれた時に、フジロックにはいろんな仕事があって、いろんな人がいて、照明なんてのは一構成パーツでしかないんだと理解してから向き合い方が変わりました。

総合舞台監督・岡田氏:何もないところから皆で作っていくのがフジロック。失敗があって続けてきたから今の進化があるんだよ。天気だけはコントロールできないから大変だけど、それも面白いよね。

照明・川名氏:今年、久しぶりに僕はグリーンの担当に戻ったので懐かしさもありますが、もちろんすごくシビアなことも要求される。けれど、どれもイヤじゃないし、大変だったという記憶もないんです。枠内に自分が置いてもらえていることがモチベーションというか……だから別に照明じゃなくてもいいし。なんだってやりますよ(笑)。

▲グリーンステージ、ホワイトステージ照明担当/川名宏明氏

一同:えっ!

総合舞台監督・岡田氏:照明辞めてゴンちゃん作る? 石に目玉書いてさ。

照明・川名氏:お客さんが喜ぶのならそれでもいいかな。

音響・東氏:フジロックのテーマは「お客さんが楽しんで帰ること」。それを皆で創ることの喜びを感じられる環境の中で、良いポジションに身を置けていることがものっすごく楽しい。でも死ぬまでに一度は客として行きたい!

◆インタビュー(2)へ
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